休職中の社員から訴訟が届いたらどうすればいい?

休職中の社員から訴訟が届いたらどうすればいい? メンタルヘルス対応
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ある朝、会社宛に裁判所から封筒が届いた。開けると「訴状」の文字。休職中の社員から損害賠償を請求されている——。こうした場面に直面した経営者・人事担当者の多くが、頭が真っ白になると口をそろえます。「何から手をつければいいのか」「うちは終わりかもしれない」。その焦りの中で初動を誤ると、後の訴訟対応が著しく不利になることがあります。この記事では、メンタル不調社員から損害賠償訴訟を受けた会社が取るべき初期対応を、時間軸に沿って実務的に解説します。

訴状を受け取ったら最初の72時間が勝負

訴状受け取り直後の72時間は、訴訟の行方を左右する最も重要な時間帯です。この時間帯にすべきことと、絶対にしてはいけないことを把握しておくことが、会社を守る第一歩になります。

受取当日にやること

訴状が届いたら、まず原本と同封書類一式をすべてコピーし、原本は鍵のかかる場所に保管してください。次に訴状を落ち着いて読み、「誰が」「何を根拠に」「いくら」を請求しているかを確認します。メンタルヘルス関連の訴訟では、「安全配慮義務違反(労働契約法第5条)」「ハラスメント」「不当な休職命令」など複数の請求原因が重なるケースがあります。何を根拠に訴えられているかを把握しないまま動き出すと、反論の方向性が定まりません。

24〜48時間以内にやること

受け取った翌日中を目安に、労働案件に対応できる弁護士への相談予約を入れてください。同時に、社内の関係者(直属上司・人事担当者・産業医など)に対して、休職中のやり取りに関するメール・LINE・業務日誌などの記録を削除・上書き禁止とする指示を出します。この「証拠保全の指示」が遅れると、担当者が善意で記録を整理・削除してしまい、訴訟で不利になる可能性があります。

72時間以内に判断すること

社員への直接連絡は、弁護士と方針を確認するまで原則として一時停止してください。「休職中なのに連絡しないのは不誠実では」と感じるかもしれませんが、訴訟係属後の不用意な連絡が新たな不利証拠になるリスクがあります。対応窓口を一本化し、弁護士の指示のもとで連絡方法・内容を決めることが重要です。

時間軸対応アクション
受取当日訴状の原本コピー・安全保管/請求原因の把握
24時間以内労働案件対応弁護士への相談予約
48時間以内社内記録の保全指示(削除・上書き禁止)/関係者への事実確認開始
72時間以内社員への直接連絡を一時停止/対応窓口を一本化/弁護士と初期方針を確認

顧問弁護士が労働案件に対応できない場合の対処法

顧問弁護士がいても、労働訴訟に対応できるとは限りません。中小企業の顧問弁護士は不動産・契約・債権回収などの一般民事を専門とするケースが多く、メンタルヘルスが絡む労働事件への対応経験が乏しい場合があります。

顧問弁護士に労働訴訟経験があるか確認する

まず顧問弁護士に率直に聞いてみてください。「労働審判や労働訴訟の対応経験はありますか?メンタルヘルス・安全配慮義務違反の案件も扱ったことがありますか?」と。経験豊富な弁護士であれば自信を持って答えられますし、専門外であれば「他の先生に相談した方がいい」と正直に言ってくれるはずです。顧問契約を結んでいることへの遠慮から確認できないでいると、初期対応が遅れます。

労働訴訟に強い弁護士を選ぶ基準

新たに弁護士を探す場合、以下の観点で選定することをお勧めします。労働案件(特に使用者側)の取り扱い実績があること、安全配慮義務違反・メンタルヘルス関連の事件経験があること、初回相談で「請求原因の分析」と「答弁書の方針」について具体的な見解を示してくれること、が判断基準になります。「弁護士会の法律相談」や「経営者向け顧問サービスを提供する法律事務所のウェブサイト」で実績を確認するのが現実的な方法です。

なお、答弁書の提出期限は第1回口頭弁論期日の1週間前が目安で、期日は訴状受け取りから1〜2ヶ月後に設定されることが多いですが、弁護士選定と証拠収集は早期に着手する必要があります。

顧問弁護士と新しい弁護士の役割分担

既存の顧問弁護士を完全に外す必要はありません。「今回の労働訴訟は労働専門の弁護士に委任し、顧問弁護士には会社の状況の共有と一般的な法的確認をお願いする」という役割分担は実務的によく行われます。ただし、主担当は労働専門弁護士に一本化し、窓口が複数になることで情報が錯綜しないよう注意してください。

休職中の連絡記録を証拠として整理する方法

休職中に社員と交わしたやり取りの記録は、会社が安全配慮義務を果たしていたかどうかを示す重要な証拠になります。「記録が残っているかどうかわからない」という状態であっても、今から整理することは十分に意味があります。

どんな記録が証拠になるか

メール・チャットツール(Slack、Teamsなど)・LINEのやり取り、電話の通話記録(発着信履歴)、産業医との面談記録・意見書、主治医の診断書(会社が受領した分)、休職命令書・復職判断に関する書類、人事担当者や上司が残した業務日誌・メモ、傷病手当金申請に関する書類の控えなどが該当します。小規模企業では「担当者のスマホのLINEしかない」というケースも珍しくありませんが、それでも証拠になり得ます。スクリーンショットで保存し、日時・送受信者が確認できる形で保全してください。

記録が断片的・属人的な場合の整理手順

まず関係者(上司・人事・経営者)それぞれに「いつ・誰が・どんな方法で・何を伝えたか」を時系列でメモに書き出してもらいます。次に、各記録媒体(メール・LINE・手帳・ファイルなど)を横断して時系列の一覧表を作成します。この作業は弁護士と一緒に行うことが理想的ですが、事前に情報を整理しておくことで弁護士相談の時間を有効活用できます。記録の存在・内容・作成者を明確にしておくことが重要で、「誰が確認したかわからない」状態の記録は証明力が下がります。

記録がない・不十分な場合にすべきこと

「記録がほとんどない」という状況も、正直に弁護士に伝えてください。記録がないこと自体は確かに不利な要素ですが、それを隠そうとして後から発覚した方が信頼性が大きく損なわれます。また、「記録はないが、このような対応をしていた」という事実を関係者の証言(陳述書)で補うことも訴訟では行われます。今後のためにも、この機会に休職中の連絡ルールと記録管理の仕組みを整備することを強くお勧めします。

メンタルヘルス訴訟で会社が用意すべき証拠資料

安全配慮義務違反が争点となるメンタルヘルス訴訟では、「会社が何をしていたか」を示す証拠が会社側の防御の核心になります。何を用意すべきかを事前に理解しておくことで、弁護士との連携がスムーズになります。

会社の対応・配慮を示す書類

産業医の選任状況と面談記録は、安全配慮義務の履行を示す最も有力な証拠の一つです。産業医が在籍し、定期的に面談・意見書の作成を行っていた事実は会社側にとって有利に働きます。産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課せられていますが(労働安全衛生法第13条)、50人未満の会社であっても産業医との連携実績があれば証拠として有効です。また、就業規則における休職・復職規定、休職命令書、復職判断に関する記録(復職可能の診断書請求・復職面談の記録など)も重要です。

業務上の状況を示す書類

労働時間の記録(タイムカード・勤怠システムの出力)、業務量・業務内容に関する記録、ハラスメント相談窓口の設置状況と対応記録(ハラスメントが主張されている場合)なども用意します。「過重労働が原因でメンタル不調になった」と主張されているケースでは、実際の労働時間や業務量の記録が反論の根拠になります。

訴訟中に社員へ連絡する場合の注意点

訴訟係属中も傷病手当金の申請書類への押印依頼など、事務的な連絡が発生することがあります。この場合は、弁護士と内容を確認した上で書面(郵送・メール)で行い、口頭(電話・面談)での連絡は避けることが原則です。「早く戻ってほしい」「会社が大変だ」といった感情的な発言が「復職プレッシャー」として安全配慮義務違反の新たな証拠になるリスクがあるため、連絡の内容は事実の確認と手続きに限定し、記録を必ず手元に残してください。

訴訟中も休職管理は続く——二重対応を乗り越えるために

訴訟対応と並行して、休職中の社員への給付管理・状態確認・復職判断という通常業務も止めることはできません。この二重の負担こそが、専任人事のいない中小企業が最も消耗するポイントです。

訴訟対応と休職管理の窓口を分ける

訴訟対応は弁護士を中心に、経営者または総務担当が窓口となる体制を作ります。一方、社員への通常の連絡(傷病手当金の手続き、定期的な状況確認)は人事担当または上司が担当するという形で役割を分けることで、混乱を防げます。ただし、社員への連絡内容はすべて弁護士に共有・確認する仕組みを設けることが重要です。

傷病手当金などの手続きは継続する

訴訟中であっても、傷病手当金の申請書類への対応(事業主記載欄への記入・押印)は会社の義務として継続する必要があります。これを拒否したり遅延させたりすると、「嫌がらせ」として新たな問題に発展する可能性があります。手続きはこれまで通り粛々と行い、やり取りの記録を残してください。

復職判断のタイミングと訴訟の関係

訴訟中に社員から復職の申し出があった場合は、特に慎重な対応が必要です。復職を認める・認めないどちらの判断も、訴訟の争点に影響する可能性があります。主治医の診断書の内容確認、産業医との連携、就業規則に基づく手続きを踏んだ上で、弁護士とも相談しながら判断してください。「訴訟中だから復職させない」という対応は、不利な事情として扱われるリスクがあります。

まとめ

メンタル不調社員から損害賠償訴訟を受けた場合、訴状受け取り後72時間の初動が訴訟の行方を左右します。原本の保管と証拠保全、労働案件に精通した弁護士への早期相談、社員への直接連絡の一時停止という三つの行動を優先してください。顧問弁護士が労働事件に不慣れな場合は、労働専門弁護士への依頼を検討することが重要です。また、休職中のやり取りの記録は断片的であっても証拠として機能し得るため、削除せず整理した上で弁護士に提供してください。訴訟対応と休職管理の二重対応は、専任人事のいない中小企業にとって大きな負担です。

ウェルセンス株式会社では、こうした休職・復職管理の実務的なサポートや、訴訟に発展する前の段階からのメンタルヘルス対応体制の整備について、経営者・兼務人事担当者からのご相談をお受けしています。「うちの状況を話してみたい」という段階でも、お気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 訴状が届いたのですが、まず誰に連絡すればいいですか?

A. 最初に連絡すべきは弁護士です。顧問弁護士がいる場合はまずそちらに連絡し、労働訴訟の対応経験があるか確認してください。経験が乏しい場合は、労働案件専門の弁護士への相談を速やかに検討してください。社員本人への連絡は、弁護士と方針を確認するまで一時停止することをお勧めします。

Q. 休職中にLINEでやり取りした記録は証拠として使えますか?

A. 使えます。ただし、内容によっては会社側に不利に働くこともあります。「早く戻ってほしい」「復帰できそう?」といった発言が「復職プレッシャー」として安全配慮義務違反の証拠に使われるケースがあるためです。LINEの記録はスクリーンショットで保全し、削除せずに弁護士に見せた上で判断を仰いでください。

Q. 訴訟中でも傷病手当金の手続きには協力しなければなりませんか?

A. はい、傷病手当金の申請書類への対応は、訴訟中であっても継続する必要があります。これを拒否したり不当に遅延させたりすると、新たなトラブルの原因になります。手続きはこれまで通り対応し、やり取りの内容と日時を記録に残しておいてください。

Q. 産業医を選任していない50人未満の会社でも、安全配慮義務を果たしていたと主張できますか?

A. 主張できます。産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課されるもの(労働安全衛生法第13条)ですが、50人未満の会社であっても、主治医の診断書を踏まえた休職命令、定期的な状況確認、復職に向けた段階的な対応など、会社として配慮した事実を具体的に示すことが安全配慮義務の履行の証明につながります。記録がどの程度残っているかを弁護士と一緒に確認してください。

Q. 訴訟になる前に、メンタルヘルス対応の体制を整えるにはどうすればいいですか?

A. 訴訟リスクを減らすためには、休職・復職のルールを就業規則に明記すること、休職中の連絡方法と記録の残し方をルール化すること、産業医や外部の支援機関と連携できる体制を作ること、が基本的な対策になります。「まだ問題は起きていないが、いざというときに備えたい」という段階でのご相談も、ウェルセンス株式会社ではお受けしています。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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