訴える」と言い残した社員が休職、どう対応すればいい?

訴える」と言い残した社員が休職、どう対応すればいい? メンタルヘルス対応
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「会社を訴える」——その言葉を残したまま、社員が翌日から休職に入った。あなたは今、「本気なのか」「何をすべきか」「連絡していいのか」の三つの問いの前で立ち止まっているかもしれません。専任の人事部門がない会社にとって、このような事態は前例もなく、どこから手をつければいいかわからないのが正直なところでしょう。この記事では、実務的な初期対応から法的リスクの整理、休職中の連絡方法まで、今日から動けるように整理して解説します。

「訴える」発言はどこまで本気で受け止めるべきか

結論からいえば、「本気かどうか」の判断よりも、「発言があった事実を受け止めて会社が適切に動いたかどうか」の方がはるかに重要です。発言の真偽を見極めようとして時間を使うより、記録と対応を先に進めることが会社を守ります。

感情的な発言でも法的リスクはゼロではない

「どうせ感情的になって言っているだけだろう」と判断して何もしないのは、非常に危険な思い込みです。メンタル不調で追い詰められた状態の社員がとっさに口にした言葉であっても、その後の会社の対応が不誠実と判断されれば、それ自体が紛争の引き金になります。重要なのは、発言後に会社が誠実に動いた記録を残せるかどうかです。

発言の背景にある社員側の認識を想定する

「訴える」という言葉が出た場合、社員の側には「業務負荷が過剰だった」「ハラスメントを受けた」「会社に適切に対応してもらえなかった」という認識がある可能性が高いです。この認識が正しいかどうかとは別に、会社としては「メンタル不調を認識した後に適切な措置をとったか」という点で問われます。労働契約法第5条は使用者の安全配慮義務を明文化しており、民法第415条(債務不履行)や民法第709条(不法行為)もその根拠となり得ます。

発言直後の言動・文書がすべて証拠になる

休職直前の混乱した時期は、会社側の言動・メール・口頭でのやり取りのすべてが後の証拠になり得ます。この時期に口頭のみで話を進めることは避け、やり取りは書面またはメールで残す習慣をすぐに始めてください。

法的手段の種類と会社へのダメージを把握する

「訴える」という言葉は一つでも、実際に使える法的手段はいくつかあります。それぞれのダメージ感を理解しておくことで、過度な萎縮も楽観的な放置も避けられます。

社員が選べる法的手段の全体像

手段 概要 会社へのダメージ感
労働基準監督署への申告 賃金未払い・長時間労働・休業拒否などの法令違反を申告する 是正勧告・調査が入る可能性がある
労働局のあっせん(個別労働紛争解決制度) 話し合いによる解決を促す制度。強制力はない 対応コストはかかるが判決ではない
労働審判 裁判所が関与する簡易手続き。原則3回以内で調停・命令が出る 短期間で決着するが金銭解決になることが多い
民事訴訟 本格的な裁判。時間・費用・精神的負担が大きい 双方にとって最もコストが高い

最初に問われるのは安全配慮義務

どの手段をとられるにせよ、会社が最初に問われるのは「安全配慮義務を果たしていたか」という点です。労働安全衛生法および労働契約法第5条は、会社に対して社員の心身の健康を守るための措置を義務付けています。メンタル不調のサインを把握していたにもかかわらず対応していなかった、あるいは過重な業務を続けさせていたという事実があれば、それ自体が法的根拠になります。

「申告=裁判」ではないと理解しておく

多くの経営者が「訴える」という言葉を民事訴訟と直結してイメージしますが、実際には労基署への申告やあっせん申請の方が社員にとって敷居が低く、利用されやすい手段です。いずれにせよ、早期に専門家に相談しておくことで、会社としての対応方針を整理できます。

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休職に入った今、すぐに動くべきこと

社員が休職に入った時点で、会社がまず着手すべきは「記録の整理」と「就業規則の確認」です。後手に回るほど対応の誤りが積み重なるため、今日から始められる行動を優先します。

発言と休職前後の経緯を文書化する

まず最初に取り組むべきは、「訴える」という発言の記録化です。いつ・誰が・誰に対して・どのような状況で発言したかを文書にまとめ、その場に同席していた関係者からも個別に話を聞いて記録に加えます。次に、休職前後の対応経緯——上司や人事からのコミュニケーション、業務指示の内容、面談記録、メールのやり取り——を時系列で整理します。「記録がない」という状態こそが、会社を最も不利な立場に追い込みます。

就業規則の休職規定を必ず確認する

休職期間・復職要件・休職中の連絡方法・休職満了時の取り扱いが就業規則に明記されているかを確認してください。就業規則がない、または休職に関する規定が曖昧な場合は、この機会に整備することも視野に入れてください。従業員数10人以上の事業所は就業規則の作成・届出が労働基準法で義務付けられています。10人未満の場合も、休職ルールを文書化して社員に共有しておくことが紛争予防になります。

専門家への早期共有で対応の誤りを防ぐ

「訴える」という発言があった時点で、社労士または弁護士に事案の概要を共有しておくことを強くおすすめします。「こういうケースは弁護士?社労士?」と迷う方が多いですが、初期相談は社労士でも受け付けており、法的リスクが高いと判断された場合に弁護士と連携するという流れが実務的です。相談せずに時間だけが過ぎていくことが、最も避けるべき状況です。

休職対応の初期段階で判断を誤ると、後々のトラブルが大きくなります。判断に迷ったら、単一の相談ではなく、複数の専門家視点を得ることが有効です。

休職中の社員との連絡、どうすればいいか

「連絡したらハラスメントと言われそう」「かといって放置するのもよくないと聞く」——この板挟み感は多くの担当者が感じることですが、答えはシンプルです。連絡を完全に絶つことは安全配慮義務上の問題になり得るため、頻度・手段・内容をルール化した上で記録を残しながら継続します。

月1回程度の事務連絡が基本ライン

休職中の連絡は「月1回程度、書面またはメール、事務連絡のみ」が実務上の標準的なスタンスです。傷病手当金の手続き案内、休職期間の確認、復職に向けた主治医への診断書依頼など、業務上必要な事項に限定した内容で行います。感情的な発言についての言及や、会社側の立場を説明するような内容は含めないでください。

連絡の記録を必ず保存する

どのような内容で、いつ、どの手段で連絡したかをすべて記録しておきます。電話の場合は通話日時とその内容のメモを残し、可能であれば書面やメールに切り替えることで記録が自動的に残ります。連絡の頻度・内容・記録方法をあらかじめ社内でルール化しておくことで、担当者が判断に迷う場面を減らせます。

「連絡しない=誠実」という誤解を解く

「刺激したくない」「弁護士に言われそう」という理由で一切連絡を絶つケースがありますが、これは逆効果です。完全な放置は「会社が誠実に対応しなかった」という印象を与え、後の紛争で会社に不利な材料になることがあります。ルールに基づいた定期的な連絡と記録の保存が、会社の誠実さを証明する実績になります。

産業医・就業規則の有無によって変わる対応の優先順位

会社の規模や体制によって、今すぐ着手できることと準備が必要なことが異なります。自社の状況を確認しながら、対応の優先順位を判断してください。

産業医が選任されている場合

従業員数50人以上の事業所は産業医の選任が義務付けられています。産業医がいる場合は、休職の経緯・社員の状態・復職の見通しについて情報を共有し、医学的な観点から会社が適切な措置をとっていたかを確認してもらうことができます。産業医の記録・意見書は後の対応において重要な根拠資料にもなります。

産業医が選任されていない場合(50人未満の事業所)

産業医の選任義務がない規模の会社では、主治医からの診断書が唯一の医学的根拠になります。復職判断の際に会社が確認すべき内容(就業可能かどうか・業務上の配慮事項など)を主治医に書面で照会するフローを作っておくと、後のトラブルを防げます。また、産業医の代わりにEAP(従業員支援プログラム)や外部のメンタルヘルス相談窓口を活用する方法もあります。

就業規則がない・休職規定が不明確な場合

就業規則に休職規定がない状態で休職対応を進めると、休職期間の上限・復職条件・休職満了時の取り扱いがすべて曖昧になります。この状態で紛争が起きると、会社に非常に不利です。まず就業規則の現状を確認し、休職規定の整備を社労士に依頼することを今すぐ優先してください。

対応が後手に回ると、人事担当者の精神的負担も増していきます。外部サポートを活用して、社内判断の責任を一人で抱え込まないことも重要です。

まとめ

「訴える」という発言が出た場合、その真偽を見極めることよりも、発言後に会社が誠実かつ記録に残る形で動いたかどうかが問われます。まず発言と休職前後の経緯を文書化し、就業規則の休職規定を確認した上で、専門家に早期に相談することが会社を守る最短ルートです。休職中の連絡は「月1回・書面・事務連絡のみ」を基本ラインとして継続し、一切連絡を絶つという対応は避けてください。安全配慮義務(労働契約法第5条)を軸に、自社の状況(産業医の有無・就業規則の整備状況・従業員数)を確認しながら対応の優先順位を組み立てることが重要です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者を対象に、メンタルヘルス対応や休職・復職トラブルへの初期段階からのご支援をしています。「何をすべきかわからない」という状況での判断をサポートし、会社と社員の双方にとって適切な対応につなげるお手伝いが可能です。お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 「訴える」と言った社員への対応は、社労士と弁護士のどちらに相談すべきですか?

A. まずは社労士への相談で問題ありません。休職対応・就業規則の確認・連絡ルールの整備など、初期対応の多くは社労士の領域です。実際に労働審判や訴訟に発展しそうな状況になった場合は、社労士から弁護士への連携を提案されることが多いです。両者に早めに情報共有しておくことが、対応の誤りを防ぐ最善策です。

Q. 休職中の社員に連絡すると「ハラスメントだ」と言われませんか?

A. 連絡の頻度・内容・手段がルール化されていれば、ハラスメントとみなされるリスクは低くなります。「月1回・書面またはメール・傷病手当金の手続きや休職期間の確認などの事務連絡のみ」という基準で行えば、会社の誠実な姿勢を示す行動として記録に残せます。感情的な内容や会社の立場を説明する内容は含めないことが重要です。

Q. 発言の記録がまったくない場合、今から何ができますか?

A. 記録がなくても、今から整理・再現できる情報はあります。発言した場面の状況を覚えている関係者から話を聞き、日付・発言内容・状況を可能な範囲で文書化してください。またメール・チャット・業務日報などに残っている断片的な記録も重要な証拠になります。「ない」と判断する前に、デジタル上に残っている記録を洗い出すことから始めてください。

Q. 労働基準監督署への申告と民事訴訟では、会社へのダメージはどう違いますか?

A. 労基署への申告は法令違反(賃金未払い・長時間労働など)の調査が入る可能性があり、是正勧告が出た場合は対応が必要になります。民事訴訟は時間・費用・精神的負担が双方にとって最も大きい手段です。実際には、社員が最初に選ぶのは労基署への申告や労働局のあっせん申請であることが多く、裁判まで進む事例は相対的に少ないです。いずれも早期対応と記録の整備がリスク軽減につながります。

Q. 就業規則に休職規定がないまま対応を進めてしまいました。今からでも整備できますか?

A. 整備は今からでも可能です。ただし、すでに休職中の社員に対して新たに整備した規定を遡って適用することには制限があるため、現在進行中の対応と今後の整備は切り分けて考えることが重要です。まず社労士に現状の就業規則と今の対応経緯を共有し、何が適用できて何ができないかを整理してもらうことから始めてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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