「10年勤続の社員に、感謝の気持ちとして現金3万円を渡した」——その対応、税務上は問題になる可能性があります。永年勤続表彰は、やり方を間違えると社員への給与として課税され、源泉徴収漏れや社会保険料への影響が生じるケースがあります。専任の人事担当者がいない中小企業ほど、慣習的に現金や商品券を渡し続けてしまいがちです。この記事では、課税・非課税の判断基準から規程整備の実務まで、順を追ってわかりやすく解説します。
現金・商品券・記念品、課税の扱いはどう違う?
永年勤続表彰で渡すものが「現金か、商品券か、記念品(現物)か」によって、所得税の扱いはまったく異なります。結論から言えば、現金と商品券は原則として課税、記念品(現物)は一定の要件を満たせば非課税となります。
現金は「給与所得」として課税される
会社が社員に現金を渡す場合、たとえ「表彰金」「お祝い金」という名目であっても、所得税法上は原則として「給与所得」として扱われます。給与所得になると、源泉徴収の対象となり、年末調整や社会保険料の算定にも影響が出ます。「表彰だから給与じゃない」という認識は税務上通用しません。
商品券・ギフト券も現金と同等の扱い
「現物なら非課税になる」という話を聞いて、商品券やギフト券、電子マネーチャージで代替しようと考える経営者・担当者は少なくありません。しかし、商品券・ギフト券・電子マネーは換金性が高く、国税庁の通達上も「現金と同等のもの」として課税対象になります。「モノを渡しているから大丈夫」という判断は誤りです。
記念品(現物)は要件を満たせば非課税
時計・置き物・旅行(旅行行為そのもの)・カタログギフト(換金できないもの)といった換金性のない現物の記念品であれば、後述する要件をすべて満たした場合に限り、非課税として扱うことができます。この「換金できないこと」が非課税の大前提です。
| 支給の形態 | 所得税上の扱い | 非課税の可能性 |
|---|---|---|
| 現金 | 給与所得として課税 | ほぼなし |
| 商品券・ギフト券・電子マネー | 現金同等物として課税 | ほぼなし |
| 記念品(換金性のない現物) | 要件充足で非課税 | あり(要件すべて満たすこと) |
記念品が非課税になるための4つの要件
記念品を非課税にするには、国税庁の所得税基本通達36-21「永年勤続者の記念品等」に定められた要件を、すべて同時に満たす必要があります。一つでも欠けると課税リスクが生じます。
勤続年数と表彰の間隔
まず、表彰の対象者はおおむね10年以上の勤続年数を有していることが必要です。入社3年や5年の節目表彰は、この通達による非課税の対象外となります。また、同一人物を繰り返し表彰する場合は、概ね5年以上の間隔を空けることが求められます。たとえば10年・15年・20年と5年刻みで毎回表彰するケースは、間隔が短すぎるとして否認されるリスクがあります。10年・20年・30年のように10年以上の間隔を確保する設計が無難です。
「社会通念上相当」な金額であること
記念品の価額が「社会通念上相当と認められる範囲」でなければなりません。法律に明確な上限額の規定はありませんが、実務上は旅行・観劇等の招待や記念品の場合、おおむね10万円以下が一つの目安として挙げられることが多いです。ただし、勤続年数・役職・会社規模との比例関係も考慮されるため、画一的に「10万円以下ならOK」とは言い切れません。会社の規程で合理的な金額基準を明示し、その基準に沿って運用していることが重要です。
現金との選択制にしない
「記念品か現金のどちらかを選べます」という選択制にすると、記念品を選んだ社員も含めて課税リスクが生じます。現物の記念品のみを支給する形式に統一し、規程上も「現金との選択は行わない」と明記することが求められます。「気を利かせて選択肢を設けた」つもりが、非課税要件を壊してしまうことになりかねません。
「旅行券」は非課税になるのか?よくある誤解を整理する
旅行関連の記念品は「換金できない現物」として非課税と考えられがちですが、旅行券の種類によって扱いが異なるため注意が必要です。
旅行行為そのものへの招待は認められやすい
会社が旅行を手配し、社員が旅行という体験そのものを受け取る形式——たとえば「会社が直接ホテルと航空券を手配し、社員が旅行に行く」という仕組みであれば、換金性のない現物として記念品に該当する余地があります。旅行という体験自体は現金に変えることができないためです。
市販の旅行券・旅行ギフト券は課税リスクがある
一方、金券ショップで売買できるような汎用の旅行券や旅行ギフト券は、商品券類似のものとして課税リスクがあります。「旅行関連だから記念品として大丈夫」と安易に判断せず、個別に税理士や所轄の税務署に確認することを強くお勧めします。換金性の有無が判断の分かれ目です。
社内規程に何をどう書けばよいのか
永年勤続表彰を非課税で運用するには、「規程があること」と「規程通りに運用されていること」の両方が必要です。規程を整備するだけでは不十分で、実態との一致が税務上の信頼性を生みます。
独立した「永年勤続表彰規程」を作成する
就業規則の一条項として簡単に触れるだけでなく、「永年勤続表彰規程」として独立した文書を整備することが望ましいです。規程には少なくとも以下の項目を盛り込みます。
- 表彰の対象となる勤続年数の基準(例:満10年・満20年・満30年)
- 表彰の種類と内容(記念品の種類・選定方法・上限額)
- 表彰の頻度と重複禁止期間(5年以上または10年以上の間隔)
- 現金・商品券との選択制を設けない旨の明記
- 規程の適用対象(正社員・契約社員など)と運用担当部署
規程・実態・帳票の三点セットで管理する
規程を作成しても、実際の運用が規程から外れていれば、税務調査で「制度的な支給ではなく、個別の恩恵的支給」と判断されるリスクがあります。たとえば「Aさんには規程通り記念品、Bさんには規程外で現金を追加した」という運用は、非課税の根拠を崩します。支給台帳(誰に・いつ・何を・いくらの価額で渡したか)を整備し、規程・実態・帳票が一致している状態を維持することが不可欠です。
20〜50名規模の企業が陥りがちな運用のズレ
専任人事がいない規模の企業では、規程を作っても担当者が変わるたびに運用がブレやすくなります。また、「節目に何かあげなければ」という感覚で動くため、規程の存在自体を忘れてしまうケースも珍しくありません。年度初めに表彰予定者をリスト化し、経理・総務と連携して支給前に規程との整合性を確認するフローを社内ルールとして定めると、属人的な対応を防ぎやすくなります。
給与課税になった場合、年末調整・社会保険にどう影響するか
現金や商品券で表彰した場合、それが給与所得として扱われると、源泉徴収・年末調整・社会保険料の算定に波及します。後から発覚した場合の修正対応は、思いのほか手間がかかります。
源泉徴収漏れと追加納税のリスク
現金表彰を給与として処理していなかった場合、本来行うべき源泉徴収が漏れていることになります。税務調査でこれが指摘されると、不足税額に加えて不納付加算税・延滞税が課されるケースがあります。金額が小さくても、複数年にわたって繰り返されていると累積額が無視できない水準になることがあります。
社会保険料の算定基礎への算入
給与として扱われる支給は、社会保険の標準報酬月額の算定基礎にも影響します。表彰金が賞与として処理された場合は賞与支払届の対象にもなります。経理担当者や社労士と事前に「この支給をどう処理するか」を確認・合意しておくことが、後続の事務処理の混乱を防ぎます。
永年勤続表彰の税務対応に不安がある場合、人事・労務の専門家に相談しておくことで、後々のトラブルを未然に防げます。
まとめ
永年勤続表彰の課税・非課税は、「何を渡すか」と「どう運用しているか」の両方で決まります。現金・商品券は原則として給与課税の対象となり、非課税になるのは換金性のない現物の記念品を、勤続10年以上・5年以上の間隔・社会通念上相当な金額・現金との選択制なし、という4要件をすべて満たして支給した場合に限られます。さらに、要件を満たすだけでなく、社内規程に基づく一律・制度的な運用と帳票管理が三点セットで揃っていることが税務上の信頼性につながります。
「うちの会社の表彰のやり方、このままで大丈夫だろうか」と感じたときや、既存の運用を見直したい場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事・労務の専任担当者がいない中小企業の実情を踏まえて、規程整備から運用フローの設計まで、実務に即したサポートをご提供しています。
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