海外赴任中のメンタル不調、帰国させるべき?

海外赴任中のメンタル不調、帰国させるべき? メンタルヘルス対応
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現地の上司から「最近、あの人の様子がおかしい」と連絡が入った。本人に確認すると「大丈夫です」と返ってくる。でも、どこか信じきれない——海外赴任中の社員がメンタル不調になったとき、多くの経営者・人事担当者がこの状況から始まります。国内なら「まず産業医に相談」「診断書をもらって休職へ」という流れが頭にあっても、海外が舞台になった途端、何から手をつければいいのか分からなくなる。この記事では、海外赴任中のメンタル不調から帰国判断の基準、帰国後の休職手続きまで、実務の流れを順番に整理します。

「様子を見る」が最大のリスクになる理由

本人が「大丈夫」と言っていても、それをそのまま受け取ることが会社にとって最も危険な判断です。メンタル不調の特性上、自己評価の信頼性が低下しやすく、会社として認知できる情報があった時点で対応義務が生じます。

本人申告を信頼しすぎてはいけない理由

うつ状態が中等度以上になると、「病識(自分が病気だという認識)」が低下することがあります。本人が「仕事はできています」「心配かけてすみません」と返信してくる場合でも、それ自体が症状の一部である可能性があります。現地の上司や同僚から「言動が変わった」「表情が暗い」「ミスが増えた」といった情報が入っているなら、本人申告よりそちらを優先して判断材料にしてください。

海外赴任中でも安全配慮義務は継続する

労働契約法第5条は、会社が労働者の「生命・身体・健康を損なわないよう配慮する義務」を定めています。この義務は勤務地が海外であっても、日本の会社との雇用契約が継続している限り適用されます。「現地にいるから把握できなかった」「本人が大丈夫と言っていた」は、安全配慮義務違反の免責理由にはなりません。会社が認知できる情報があった段階で、合理的な対応を取ることが求められます。

対応が遅れたときの会社リスク

海外赴任中のメンタル不調への対応が遅れて症状が重篤化した場合、本人・家族から安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。また、現地での救急入院・緊急帰国となった場合は、通常の帰国対応と比較してコストも手続きも格段に複雑になります。「プロジェクトの途中だから」「代替要員がいないから」という事業上の理由で判断を先送りにするほど、最終的なリスクは大きくなるのです。

帰国判断の具体的な基準を決める

帰国判断に迷う根本原因は、判断基準が言語化されていないことです。以下の状態のいずれかに該当する場合は、原則として帰国を検討するタイミングと理解してください。

帰国を強く検討すべき状態

  • 現地の医療機関から帰国・帰任を勧告されている
  • 業務遂行が困難な状態(出社できない、判断ができない)が継続している
  • 自傷・自殺念慮に関する言動が確認された、または疑われる
  • 睡眠・食事が著しく乱れ、身体症状(体重減少・体調不良の繰り返し)が出ている
  • 本人と連絡が取れない時間帯が増えている、または行動が把握できない
  • 現地の上司・同僚から「明らかに様子がおかしい」と複数報告が来ている

現地での経過観察が選択肢になるケース

軽度のストレス反応や適応上の困難(赴任直後の環境変化によるもの等)で、本人が医療機関を受診しており、現地主治医が経過観察で問題ないと判断している場合は、帰国を急がず現地での回復を支援する選択肢もあります。ただしこの場合も、週1回以上の定期連絡・状態確認を継続し、悪化サインが出たらすぐに帰国判断に切り替えられる体制を持っておくことが前提です。

産業医がいない会社の判断方法

産業医が選任されていない規模(従業員50人未満)の会社では、医療的判断を自社で下すことに限界があります。この場合、現地の医療機関から情報を得ること、または外部の産業保健・メンタルヘルス専門家に判断を相談することが現実的な対応になります。「専門家がいないから判断できない」ではなく、「専門家につなぐ」ことが会社の役割なのです。

現地医療機関との連携で押さえるべきポイント

現地医療機関との連携において最初に取り組むべきことは、本人から情報共有の同意を得ることです。同意なしに医療情報を会社が取得することには法的・倫理的な限界があり、この一手が連携の鍵になります。

情報共有の同意を取得する適切なタイミング

本人がまだ意思疎通できる段階(症状が軽〜中程度のうち)に、「現地の医療機関と会社が連携して支援できるよう、診断内容や治療方針を共有してもよいか」を確認しておくことが重要です。口頭確認だけでなく、メールや書面で同意の記録を残してください。重症化してから同意を求めようとしても、本人の判断能力が低下していたり、意思疎通が困難になっていたりするケースがあるためです。

現地から届く情報の信頼性を判断する方法

現地から届く情報は断片的になりがちです。「医師に相談した」という本人の報告と、「本人が受診を拒否している」という現地上司の報告が食い違うことも珍しくありません。渡航保険(海外旅行保険・海外赴任者向け保険)に付帯している医療アシスタントサービスを活用すると、現地の医療機関・医療通訳との調整を代行してもらえる場合があります。自社で加入している保険の内容を今一度確認してみてください。

海外医療診断書の読み解き方

海外の医療機関から診断書・報告書を取り寄せた場合、言語だけでなく医療制度・診断基準の違いがあるため、国内の産業医や精神科医に「これはどう読むべきか」を相談することをお勧めします。現地の「うつ病」診断が日本の基準と完全に一致するわけではなく、帰国後の主治医が改めて評価することが通常の流れです。

海外赴任中の労災と安全配慮義務の範囲を整理する

「海外出張者」と「海外派遣者(駐在員)」では、労災保険の適用が異なります。この区別を会社が正確に把握しているかどうかが、いざというときの対応を左右します。

出張と派遣で異なる労災保険の扱い

区分 労災保険の扱い 注意点
海外出張者 国内の労災保険がそのまま適用される 特別な手続き不要。ただし業務起因性の証明が必要
海外派遣者(現地法人・現地採用含む) 原則として国内労災の適用外 「海外派遣者の特別加入」手続きをしていない場合、補償対象外になる

駐在員の場合、特別加入の手続きをしていないケースが中小企業では少なくありません。まずは現状の加入状況を確認してください。未加入の場合は、社会保険労務士に相談して速やかに手続きを取ることをお勧めします。

就業規則に「海外勤務中の発症」の記載があるか確認する

多くの中小企業の就業規則は国内勤務を前提に書かれており、「海外赴任中に発症したメンタル不調」の場合、休職開始日や賃金処理、社会保険料の取り扱いについて解釈が揺れることがあります。特に長期赴任者の場合、帰任手続きと休職手続きが重なることで、給与・社会保険処理が宙に浮くリスクがあります。就業規則に該当規定がない場合は、帰国後の手続き開始前に社会保険労務士または弁護士に確認することを強く推奨します。

帰国から休職開始までの実務の流れ

帰国後の対応で迷う最大の理由は「何をどの順番でやるか」が整理されていないことです。基本的な流れを把握しておくだけで、現場の混乱は大幅に減らせます。

帰国手配の段階で確認すべきこと

症状が重い場合、本人が単独で帰国できないケースがあります。その際は、家族や会社の同行者の手配、航空会社の医療サポートサービスの利用、渡航保険の医療アシスタントサービスへの連絡などを検討してください。航空会社によっては、精神科的な状態にある乗客について事前申告や同伴者を求める場合があります。帰国便を手配する前に確認しておくと安心です。

帰国後から休職開始までのステップ

帰国したら、まず本人を国内の医療機関(精神科・心療内科)に受診させることを最優先にしてください。現地での診断があっても、国内主治医による独自の評価が必要です。受診後、主治医から診断書(「〇〇のため、〇ヶ月間の休養を要する」といった内容)を取得してもらいます。この診断書をもとに、就業規則の休職規定に基づいて休職を開始します。従業員50人以上で産業医が選任されている会社は、産業医への情報提供と意見聴取も行います。選任がない場合も、外部の産業保健スタッフや専門家への相談を検討してください。

帰任・休職手続きが重なる場合の注意点

長期赴任の社員が帰国して休職に入る場合、「帰任発令」と「休職発令」のタイミングをどう扱うかで、給与計算・社会保険の手続きが複雑になります。一般的には帰任発令を先に行い、その後休職に切り替える流れが多いですが、就業規則の規定・社会保険の手続き期限・給与締め日との兼ね合いも考慮が必要です。このあたりは個別事情によって異なるため、社会保険労務士と事前に確認しながら進めてください。

まとめ

海外赴任中のメンタル不調への対応は、「本人が大丈夫と言っている」「帰国のタイミングが難しい」という理由で判断を先送りにすることが最大のリスクです。安全配慮義務は海外でも継続し、会社が認知できる情報があった段階で対応義務が生じます。帰国判断の基準・現地医療機関との連携方法・帰国後の休職手続きの流れを、事前に「型」として持っておくことが、いざというときの対応の質を決めるのです。

特に専任人事のいない中小企業では、一つひとつの判断を自社だけで抱えることに限界があります。「これは帰国させるべきか」「現地の医師からこんな連絡が来たがどう動けばいいか」といった個別の状況について、ウェルセンス株式会社では中小企業の実態に即した相談対応を行っています。まずは現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 本人が「帰国したくない、仕事を続けたい」と主張している場合、会社は帰国を指示できますか?

A. 業務上の必要性があり、かつ安全配慮の観点から合理的な理由があれば、会社は帰国を指示することができます。ただし、本人の意向を無視した一方的な強制には慎重さが求められます。現地医師の意見書や状態の客観的な記録を残した上で、「業務上の安全管理として」帰国を求める旨を文書で伝えることが実務上のポイントです。判断に迷う場合は、労働法に詳しい社会保険労務士や弁護士に相談してください。

Q. 渡航保険に加入していない場合、現地での医療費はどう処理されますか?

A. 海外出張者の場合、国内の健康保険で「海外療養費」として一部が払い戻される制度があります(療養費の支給申請が必要)。ただし、払い戻し上限や申請手続きの煩雑さを考えると、海外出張・赴任者向けの渡航保険への加入が強く推奨されます。未加入の場合は今後のためにも加入を検討し、まずは現時点での費用について社会保険労務士や健康保険組合に確認してください。

Q. 帰国後、本人が「休職はしたくない、すぐ復帰したい」と言っている場合はどうすればいいですか?

A. 主治医が休養を必要と判断している場合、本人の希望だけで就労を継続させることは安全配慮義務の観点からリスクがあります。まず国内の医療機関での受診・診断書の取得を優先し、主治医の判断を確認してください。本人が受診を拒否している場合は、「業務再開前に受診を確認することが会社のルール」として案内することが一つの方法です。産業医がいる会社は産業医面談を設定し、意見書をもとに判断することが望ましい対応です。

Q. 海外派遣者の「特別加入」手続きをしていないまま、メンタル不調で帰国になりました。今からでも何かできますか?

A. 特別加入は原則として派遣前に手続きするものであり、事後の遡及適用は難しいのが現実です。ただし、個別の状況(雇用形態・業務内容・国内での業務との連続性など)によっては、海外出張扱いと解釈できる余地がある場合もあります。まずは社会保険労務士に現状を相談し、利用できる補償の選択肢を確認することをお勧めします。今後の赴任者については、早急に特別加入の手続きを整備してください。

Q. 帰国後の休職期間中、海外赴任手当や住宅手当はどうなりますか?

A. 帰国・帰任が完了した時点で、海外赴任に関連する各種手当(赴任手当・住宅手当・現地生活補助等)は原則として支給終了となります。休職期間中の基本給・各種手当の扱いは就業規則の休職規定に従います。就業規則に明記がない場合は解釈が揺れるため、社会保険労務士と確認した上で本人に書面で案内することが重要です。曖昧なまま進めると、後から認識の相違によるトラブルになりやすい部分です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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