組織拡大でルールが崩壊する前に!3分類で進める見直し術

組織拡大でルールが崩壊する前に!3分類で進める見直し術 組織運営
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「社員が10人を超えたあたりから、なんとなく決めてきたルールが通じなくなってきた」——そう感じる経営者・人事担当者は少なくありません。創業期は経営者が個別に対応できていた取り決めも、組織が大きくなるにつれて「人によって扱いが違う」「古いルールがそのまま残っている」「何が正式なルールかわからない」という状態に陥ります。しかし、すべてを一度に見直す時間はない。この記事では、限られたリソースで確実に前進できる「3分類×優先順位」のアプローチをお伝えします。

なぜ組織拡大でルールが機能しなくなるのか

組織が拡大するとルールが崩壊する根本原因は、「人が変わっても同じ運用ができる仕組みになっていないこと」にあります。創業期に有効だった属人的な対応が、人数が増えた途端に矛盾や不公平感を生みます。

口約束と慣習がルールとして残ってしまう問題

創業期の経営者はほぼすべてのことを自分で判断します。「残業代は月30時間分を固定で払う」「有休は入社半年後から」といった取り決めも、少人数なら口約束で回せます。ところが社員が増えると、その約束を知らない社員と知っている社員が混在し、「なぜあの人だけ特別扱いなのか」という不満が生まれます。書面に残っていなければ経緯を確認することもできません。

就業規則が実態と乖離していることに気づかない

労働基準法第89条は、常時10名以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています。しかし10名未満のうちに就業規則を作らなかった会社が、その後人数が増えても未整備のままというケースは珍しくありません。あるいは、インターネットで入手した雛形をそのまま提出したものの、実際の運用とまったく内容が異なるという状態も多く見られます。就業規則と実態の乖離は、労使トラブルが起きたときに会社側の主張を弱める大きなリスクになります。

「重要だが緊急ではない」として後回しにされ続ける

専任人事がいない中小企業では、採用・評価・給与計算・トラブル対応といった目先の業務が常に優先されます。ルール整備は「いつかやらなければ」と思いながら、具体的なきっかけがないと動き出せません。組織拡大のタイミングこそ、見直しの最適なトリガーです。

ルールを「改訂・廃止・新設」の3つに分類する

見直し作業を効率よく進めるには、まず既存のルールを「改訂すべきもの」「廃止すべきもの」「新設すべきもの」の3種類に仕分けることが出発点です。この分類があると、着手すべき順序が自然と見えてきます。

改訂:実態と乖離しているルールを現実に合わせる

就業規則や各種規程の内容が、実際の運用と食い違っているケースが「改訂」の対象です。たとえば就業規則には「9時〜18時勤務」と書かれているのに、実態はフレックスタイム制を運用しているといった場合がこれに当たります。改訂の際に注意すべきは、変更の内容が既存社員にとって「不利益変更」にあたるかどうかです。労働契約法第9条は、就業規則の変更によって労働者に不利益な変更を行う場合、原則として個々の労働者の同意を必要としています。手当の廃止・勤務時間の延長・休暇日数の削減などは不利益変更に該当しうるため、慎重な対応が必要です。

廃止:形骸化したルールをきちんと「なくす」手続きをとる

「もう誰も使っていない手当」「以前の組織体制を前提にした役職規程」など、実質的に機能していないルールは廃止の候補です。ただし注意点があります。就業規則に記載されているルールを廃止する場合も、就業規則の変更・届出・周知という手続きが必要です。「使っていないから黙って消す」は手続き上の不備になります。また、就業規則に明記されていなくても、長年の慣行として運用されてきたルール(誕生日休暇や特別手当など)は「労使慣行」として法的効力を持つ可能性があります。「書いていないから変えていい」と一方的に廃止すると、労使トラブルの原因になりかねません。

新設:現状の業務に対応したルールを整備する

テレワーク規程・副業兼業規程・ハラスメント防止規程など、新しい働き方や法改正への対応として新たに規程を作る必要があるケースが「新設」です。規程を新設するということは、就業規則本体またはその付属規程を追加するということであり、作成・意見聴取・届出・周知という一連の実務フローが発生します。また2024年4月の労働基準法施行規則改正により、就業場所や業務内容の変更範囲、無期転換ルールなどの明示が義務化されました。新設規程と雇用契約書・労働条件通知書との整合性確認も必須です。

優先順位の判断軸:何を先に手をつけるか

すべてを同時に見直す必要はありません。「法的リスクの大きさ」「実態との乖離度」「変更の緊急性」の三軸で優先順位を決めると、限られた時間で最大の効果を得られます。

最優先で対処すべき「法的リスクが高い」ルール

まず最初に手をつけるべきは、放置すると法令違反や労使トラブルに直結するものです。代表的なのは以下のケースです。常時10名以上になったにもかかわらず就業規則を未作成・未届出の状態は、労働基準法第89条違反です。また、三六協定(労働基準法第36条)を締結せずに時間外労働をさせていたり、協定の内容と就業規則の規定が食い違っていたりする場合も早急な対処が必要です。法定の手続きを踏まずに不利益変更を実施してしまっている場合も、後からでも是正が必要です。

次に対処すべき「運用実態と書面の乖離が大きい」ルール

法令違反ではないものの、就業規則や規程の記載内容と実際の運用が大きくかけ離れているケースは、トラブルが起きたときに会社の主張を支えられなくなります。給与規程・勤務時間・休暇制度あたりは実態との乖離が起きやすい領域です。書面を実態に合わせて改訂するか、逆に実態を書面に沿って是正するかを判断します。

余力があれば着手する「将来リスクに備えた整備」

テレワーク規程・副業規程・育児介護休業規程の整備などは、現時点では問題が表面化していなくても、組織が成長するにつれて必要性が高まります。従業員数が増えるほど対応コストも上がるため、早めに手を打つほど効率的です。

優先度 具体例 主な対応
高(法的リスク) 就業規則未作成・三六協定未締結・不利益変更の手続き不備 即時対応・社労士等への相談推奨
中(実態乖離) 就業規則と実際の勤務・給与制度の不一致 書面か運用のどちらかを是正
低(将来備え) テレワーク規程・副業規程・育介規程の整備 人数・働き方の変化に合わせて順次整備

「慣習の明文化」で見落としがちな落とし穴

ルール整備の対象は「書面に存在するルール」だけではありません。長年の慣行として運用されてきた取り決めを見落とすと、廃止・変更しようとした瞬間に労使トラブルに発展するリスクがあります。

労使慣行が持つ法的効力を知っておく

就業規則に明記されていなくても、長期間にわたって継続的に行われてきた取り扱いは「労使慣行」として法的効力を持つ場合があります。たとえば「毎年必ず支払われてきた賞与」や「慣行として与えられてきた特別休暇」などが該当しうる典型例です。これらを「書いていないから」という理由で一方的に廃止・縮小すると、労働条件の不利益変更として争いになる可能性があります。棚卸しの際は必ず「口頭・慣行で運用されているルールはないか」を洗い出すことが必要です。

意見聴取と同意を混同しない

就業規則を作成・変更する際には、過半数労働者代表(または労働組合)の「意見聴取」が労働基準法第90条で義務づけられています。ここで注意が必要なのは、これは「同意」ではなく「意見を聞く」手続きだという点です。反対意見が出ても手続き上は進められますが、だからといって労働者側との丁寧な合意形成を省略していいわけではありません。特に不利益変更を伴う場合は、変更の合理性(不利益の程度・変更の必要性・代償措置の有無・労使交渉の経緯など)が裁判所等で問われます。手続きと実質的な合意形成は別物として捉えてください。

周知が完了して初めて就業規則は効力を持つ

就業規則は作成・届出をするだけでは足りません。労働基準法第106条は、労働者への周知を就業規則の効力要件としています。周知の方法としては、常時事業場内に掲示・備え付ける、書面で交付する、電子媒体で閲覧可能にするといった方法が認められています。「作って届け出たのに有事のとき効力がなかった」というケースを防ぐために、周知の方法と記録を必ず残しておきましょう。

従業員数別・自社に当てはめるための判断フロー

自社の状況によって、いま対応すべき優先事項は異なります。従業員数と就業規則の有無を起点に、自分のケースに当てはめて判断してください。

従業員数が10名未満の段階

就業規則の作成・届出義務は発生しませんが、10名に近づいているのであれば準備を始めることを強くお勧めします。この段階で整備しておくべきは、雇用契約書の内容を個別に丁寧に作ること、口約束になっている取り決めを書面化しておくことです。慣行が積み重なる前に書面で整理しておくことが、後の見直しコストを大幅に削減します。

従業員数が10名以上・就業規則が未整備または雛形のまま

就業規則の作成・届出・周知は法的義務です。まず最初に、雛形と実態の差分を洗い出すことから始めてください。特に労働時間・賃金・休暇に関する条項は実務と一致しているかの確認が最優先です。三六協定の締結状況も同時にチェックしてください。この段階では社会保険労務士への相談が最も費用対効果の高い投資になります。

従業員数が20〜50名規模・就業規則はあるが付属規程が未整備

就業規則本体はあっても、給与規程・育児介護休業規程・ハラスメント防止規程・テレワーク規程などの付属規程が整備されていないケースが多い段階です。育児介護休業については法改正が続いており、最新の法令に対応した規程になっているか確認が必要です。また、この規模になると人事評価制度や等級制度の整備とルール整備が連動してきますので、中長期の組織設計と合わせて考えることをお勧めします。

まとめ

組織拡大に伴うルールの崩壊は、「口約束の蓄積」「就業規則と実態の乖離」「慣行の見落とし」という三つの構造的な問題から起きています。見直しを効率よく進めるには、まずルールを「改訂・廃止・新設」の3種類に分類し、「法的リスクの高さ」「実態との乖離度」「緊急性」を軸に優先順位をつけることが鍵です。すべてを一度に整備する必要はありません。自社の従業員数と就業規則の整備状況を起点に、今対処すべきことを一つひとつ確認していきましょう。

「どこから手をつければいいかわからない」「自社のルールが法的に問題ないか確認したい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。専任人事がいない中小企業の実情を踏まえた上で、現実的な整備の進め方をご提案します。

よくある質問

Q. 就業規則はいつ作ればよいですか?従業員が何人になったら必要ですか?

A. 労働基準法第89条により、常時10名以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務になります。ただし、10名未満でも雇用契約書や労働条件通知書の整備は必要です。10名に近づいてきたタイミングで、就業規則の準備を始めることをお勧めします。10名を超えてから慌てて作ると、既存の慣行と矛盾が生じやすくなります。

Q. 手当を廃止したいのですが、社員の同意なしに変更できますか?

A. 手当の廃止は労働条件の不利益変更にあたります。労働契約法第9条は、就業規則の変更による不利益変更には原則として個々の労働者の同意を必要としています。例外として、変更に「合理性」があり「周知」された場合は拘束力を持ちうますが、合理性の判断は不利益の程度・変更の必要性・代償措置の有無などを総合的に勘案するため、一方的に廃止するのはリスクがあります。社会保険労務士や弁護士に相談した上で進めることをお勧めします。

Q. 就業規則に書かれていない慣行(誕生日休暇など)は、会社の都合でやめられますか?

A. 必ずしも自由にやめられるわけではありません。長期間にわたって継続されてきた取り扱いは「労使慣行」として法的効力を持つ場合があります。「就業規則に書いていないから関係ない」と廃止した場合、労働条件の不利益変更として争いになる可能性があります。まず棚卸しの際に慣行として存在するルールをリストアップし、廃止・変更の影響を確認してから判断することが重要です。

Q. テレワーク規程は必ず作らなければなりませんか?

A. テレワーク規程の作成は法律上の義務ではありませんが、テレワークを実施する場合は就業場所・労働時間管理・費用負担・情報セキュリティなどについて取り決めをしておく必要があります。規程がない状態でのテレワーク実施は、後々「何が認められていて何が認められていないか」が不明確になり、トラブルの原因になります。厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を公開していますので、参考にしながら整備することをお勧めします。

Q. 就業規則の見直しは自社でできますか?社労士に頼む必要がありますか?

A. 棚卸しや現状把握の段階は自社で進めることができます。ただし、不利益変更の判断・三六協定との整合性確認・届出手続きなど法的判断が必要な部分は、社会保険労務士のサポートを受けることで大幅にリスクを下げられます。特に専任人事がいない企業では、社労士への相談を「外部の人事機能」として活用することが現実的かつコスト効率の高い選択肢です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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