プレイングマネージャーの労働時間管理に迷ったら

プレイングマネージャーの労働時間管理に迷ったら コンプライアンス
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「部下の残業申請、ちゃんと確認できていますか?」——自分の担当案件を抱えながら、この問いに自信を持って「はい」と答えられるプレイングマネージャーは、決して多くないはずです。プレイングマネージャーとは、管理職としての業務と現場のプレイヤー業務を並行して担う立場を指しますが、プレーヤーとしての業務に追われるなかで、部下の労働時間まで目を配るのは容易ではありません。しかし「忙しかったから」は、法的には免責の理由になりません。この記事では、プレイングマネージャーが負う労働時間管理の義務の範囲と、承認フローを実際に機能させるための実務的な整備方法を、具体的にお伝えします。

プレイングマネージャーにも部下の労働時間管理義務はある

結論から言えば、プレイングマネージャーであっても、部下の労働時間を把握・管理する義務は会社に帰属し、その遂行をマネージャーが担います。「自分の仕事で手いっぱい」は、法律上の免責理由になりません。

使用者の把握義務とは何か

2019年に施行された改正労働安全衛生法(第66条の8の3)により、使用者はすべての労働者の労働時間の状況を、タイムカード・PCログ・勤怠システムなどの客観的な方法で把握する義務を負います。この義務は「管理監督者を含む全労働者」が対象であり、プレイングマネージャーが担当する部下も例外ではありません。把握の主体は会社ですが、現場でそれを実行するのはマネージャーです。「勤怠システムに入力させているから大丈夫」ではなく、その記録が実態を反映しているかどうかを確認する行為まで含まれます。

安全配慮義務との関係

労働契約法第5条は、使用者に対して「労働者の生命・身体の安全に配慮する義務(安全配慮義務)」を課しています。長時間労働を放置してメンタルヘルス不調や健康障害が生じた場合、この義務違反として損害賠償請求の対象になります。プレイングマネージャーが部下の残業の実態を把握しないまま放置した結果、部下が体調を崩すようなケースは、「使用者が実態を知り得る状況にあった」と判断されれば、会社の責任が問われます。

36協定の上限規制との接点

労働基準法第36条に基づく36協定(時間外・休日労働に関する協定)で定めた上限を超える時間外労働は違法です。承認フローが機能しておらず、実態として上限超過が生じていた場合、「承認していないから知らなかった」という言い訳は通用しません。会社が管理できていなかったという事実そのものが、法令違反の根拠になります。

承認フローが形骸化する理由と構造的な問題

多くの中小企業では「残業する前に上長に申請・承認を得ること」というルールは存在します。しかし形骸化が起きるのは、ルールではなく「運用の仕組み」が整備されていないからです。

なぜ「後から記録」「口頭で済ませ」が横行するのか

プレイングマネージャーが現場作業の最中にいると、部下からの申請を受けてその場で確認・承認するのは現実的に難しい場面があります。結果として「後でまとめて承認」「口頭で『いいよ』と言った」が常態化します。問題はこの実態が記録に残らないことです。後日、残業の事実を確認しようとしても、客観的な記録との突合ができず、未払い賃金トラブルに発展するリスクが生まれます。

部下が「申請しない」を選ぶ心理

マネージャーが忙しそうにしていると、部下は「申請を頼みにくい」と感じます。申請しても承認が遅れる、あるいは承認されないことへの不安が重なると、「申請しない方がラク」という判断が生まれます。これがいわゆる「サービス残業」や「黙認残業」の温床です。労働基準監督署の調査や従業員からの申告があった際に、この実態が露わになると、未払い賃金の一括請求を受けるリスクが高まります。

承認代替ルートが設計されていない問題

マネージャーが外出中・会議中・急病などで対応不可な場合に、誰が承認権限を持つのかが決まっていないと、「承認が取れなかったので申請できなかった」が残業の既成事実化につながります。フローが止まった結果として無申告残業が発生する構造は、制度設計の問題であり、現場のせいにはできません。

残業承認フローを実際に機能させるための三つの要素

承認フローを機能させるには、申請・承認・記録の三つの要素を、明確なルールとして設計し直すことが必要です。ルールの「存在」ではなく「運用の実態」が問われます。

申請ルールを具体化する

「残業する前に申請」というルールは、以下のような具体的な要件に落とし込むことで初めて機能します。

項目 設計のポイント
申請タイミング 原則として残業開始の○時間前まで(例:終業1時間前)
申請内容 残業時間の見込み・業務内容・理由を記載
申請手段 勤怠システム・チャットツールなど記録が残る媒体に限定
緊急時の扱い 事後申請を認める場合でも翌営業日中に記録を義務化

口頭申請・LINE・口頭承認のみで完結させる運用は、記録が残らないため避けるべきです。

承認権限の委譲先を事前に決める

マネージャーが対応できない状況を想定し、代替承認者(上位職・人事兼務者など)をあらかじめ就業規則や業務分掌に明記しておきます。「マネージャーに聞けなかったので残業した」が生じないよう、フローが止まる状況をあらかじめ設計で排除することが重要です。代替承認者への権限委譲は、形式的な記録(辞令・業務分掌への記載)に残しておくことで、後日の説明責任にも備えられます。

こうした仕組みを整えるには、経営・人事・現場それぞれの視点が必要です。自社の規模や体制を踏まえ「今の状態で何から始めるべきか」を整理する段階であれば、専門家に相談することで効率的に進められます。

記録を客観的な手段と突合する

承認記録と、タイムカード・勤怠システム・PCログなどの客観的な記録を月次で突合する仕組みを設けます。差異があった場合(申請なしで残業が記録されている等)は、翌月初めに確認・是正するプロセスを明文化します。この月次チェックを、マネージャーだけでなく人事兼務担当者がダブルチェックする体制にすることで、特定の管理者への依存を避けられます。

管理職の定義が曖昧なまま運用するリスク

プレイングマネージャーに時間外手当を支払っていない場合、その運用が法的に正しいかどうかを確認する必要があります。「管理職だから時間外手当は不要」という思い込みが、未払い賃金リスクの根本原因になっているケースが中小企業では少なくありません。

管理監督者の三要件を確認する

労働基準法第41条第2号が定める「管理監督者」として時間外手当の適用除外とするには、以下の三要件をすべて満たす必要があります。

  • 経営に関与する実質的な権限がある(採用・解雇・賃金決定への関与など)
  • 自らの労働時間について自由裁量がある(出退勤時間を実質的に自分で決められる)
  • 地位・権限に相応しい処遇(賃金・手当)がある

この三要件を満たさないまま「管理職だから」として時間外手当を支払っていない場合、いわゆる「名ばかり管理職」として未払い賃金請求を受けるリスクがあります。中小企業では特に、実際には現場作業がほとんどで経営への関与がほぼないにもかかわらず、役職名だけで管理監督者扱いされているケースが散見されます。

従業員規模・就業規則の有無による対応の違い

就業規則の作成義務は常時10人以上の労働者を使用する事業場に生じます(労働基準法第89条)。10人未満の事業場では就業規則がなくても直ちに違法ではありませんが、承認フローや管理監督者の定義を文書化していない場合、トラブル発生時に「ルールがなかった」ことが不利に働きます。20名以上の規模では、就業規則への明記と運用実績の記録が労務リスク管理の基本となります。

メンタルヘルス不調との連鎖を防ぐ早期把握の仕組み

部下の長時間労働をリアルタイムで把握できていないと、過重労働によるメンタルヘルス不調の初期サインを見逃します。「急に休んだ」「突然退職した」という形で表面化したとき、すでに対応は後手に回っています。

月80時間ラインをモニタリングする

時間外労働が月80時間を超えると、過労死ラインに近づくとされています(厚生労働省の過労死等防止対策の指針に基づく考え方)。勤怠システム上で月80時間超の労働者が自動フラグされる設定にするか、月次集計時に人事兼務担当者がリストを確認する仕組みを作ります。このチェックをマネージャー一人に任せると、マネージャー自身が多忙で機能しなくなるため、ダブルチェック体制が有効です。

不調の初期サインに気づくためのコミュニケーション設計

プレイングマネージャーが現場業務に追われていると、部下との対話の機会が自然に減ります。週次の短い1on1(15〜30分)を業務スケジュールに組み込んでおくことで、業務量の偏りや体調変化を早期に察知しやすくなります。「業務の話をする場」として設定することで、部下も話しやすくなります。メンタルヘルス不調の早期発見は、長期休職を防ぐための最も費用対効果の高い対策です。

就業規則と現場運用のギャップを埋める実務的なアプローチ

就業規則に承認フローが記載されていても、現場で機能していなければ意味がありません。制度の整備と運用の定着を同時に進めることが、労務リスクを下げる実践的なアプローチです。

就業規則の記載と業務分掌への落とし込み

就業規則には残業承認フローの原則を記載し、業務分掌(誰がどの権限を持つか)には承認権者と代替承認者を明記します。この二つが連動していないと、「規則では決まっているが現場では誰もわからない」という状況が生まれます。就業規則の改訂は労働基準監督署への届出と、労働者代表への説明・意見聴取が必要ですので、変更の際は手続きを確認してください。

マネージャーへの役割周知と定期的な確認

承認フローを整備しても、マネージャーが「自分が何をすべきか」を正確に理解していなければ機能しません。入社時・昇格時の説明に加え、年に一度は管理職向けに労働時間管理の役割と手順を確認する機会を設けることが有効です。特に初めて部下を持つプレイングマネージャーに対しては、具体的な場面(部下が「今日残業していいですか」と言ってきたらどう対応するか等)を使った実務的な説明が定着につながります。

まとめ

プレイングマネージャーであっても、部下の労働時間を把握・管理する義務は会社に帰属し、その実行はマネージャーが担います。承認フローは「存在する」だけでは不十分で、申請・承認・記録の三要素が実際に機能していること、そして客観的記録との突合や月次モニタリングがセットで運用されていることが求められます。また、管理職の定義・処遇が曖昧なまま時間外手当を支払っていない場合は、名ばかり管理職問題として未払い賃金リスクを内包します。「ルールはある、でも実態が追いついていない」という状況は、専任人事のいない中小企業では特に起きやすい課題です。こうした労務管理の整備は、人事部門だけで抱え込むのではなく、経営層と現場を含めた全社的な取り組みとして進めることが成功の鍵となります。ウェルセンス株式会社では、こうした人事労務の実務的な整備について、経営者・兼務人事担当者の方からのご相談をお受けしています。「うちの現状で何から手をつければいいか」という段階のご相談でも、お気軽にお声がけください。

よくある質問

Q. プレイングマネージャー自身の残業代は支払う必要がありますか?

A. 労働基準法第41条第2号が定める管理監督者の三要件(経営への実質的関与・労働時間の自由裁量・相応の処遇)をすべて満たす場合は時間外手当の適用除外となりますが、これを満たさない場合は「名ばかり管理職」として残業代の支払い義務が生じます。役職名だけで判断せず、実態を確認することが重要です。

Q. 残業承認フローは就業規則に書かなければいけませんか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出義務があり、時間外労働に関する事項は絶対的記載事項に含まれます。承認フローの詳細は就業規則本文または別規程(時間外労働管理規程など)に記載し、業務分掌と連動させるのが実務的に有効です。10人未満でも、文書化しておくことでトラブル時のリスクを大幅に下げられます。

Q. 部下が承認なしに残業した場合、会社に責任はありますか?

A. 使用者が実態を「知っていた、または知り得た」状況であれば、未承認であっても賃金支払い義務が生じる場合があります。裁判例でも、承認フローの有無より「使用者が実態を知り得たか」が判断基準となるケースがあります。承認フローの整備と合わせて、勤怠記録の定期確認・周知の記録を残すことが重要です。

Q. マネージャーが不在のとき、残業申請はどう処理すればいいですか?

A. 代替承認者をあらかじめ就業規則や業務分掌に明記しておくことが基本です。上位職・人事兼務担当者など、連絡が取りやすい立場の方を代替承認者として設定し、権限委譲を形式的な書面(辞令・業務分掌への記載)に残しておきます。「承認が取れなかったので申請できなかった」が起きない設計が重要です。

Q. 勤怠システムを導入していれば労働時間の把握義務は果たせますか?

A. 勤怠システムの導入は客観的把握の手段として有効ですが、システムへの入力が実態と乖離していれば義務を果たしたとは言えません。承認記録とシステムの記録を定期的に突合し、差異があれば確認・是正するプロセスまで運用に組み込むことが、改正労働安全衛生法が求める「実態把握」の要件を満たすための実務的なポイントです。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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