試用期間中の二重就労が発覚したら最初にすべきこと

試用期間中の二重就労が発覚したら最初にすべきこと 労務管理
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「入社書類をチェックしていたら、社会保険の扶養控除申告書に前の会社の名前が書いてある……」。採用担当者がふとした書類確認で気づく、試用期間中の二重就労。発覚した瞬間、「これって解雇できるの?」「まず何をすればいい?」と頭が真っ白になる方は多いはずです。手順を誤ると、後から不当解雇として争われるリスクもあります。この記事では、事実確認の進め方から処分の判断基準まで、試用期間中の二重就労に対応するための実務的なフローを順番に解説します。

試用期間中でも「自由に解雇できる」は誤解

試用期間中であっても解雇には合理的な理由と手続きが必要です。「試用期間だから何でもできる」という思い込みが、後のトラブルを招く最大の原因です。

試用期間の法的位置づけ

試用期間中の雇用は「解約権留保付労働契約」と呼ばれ、最高裁判所の三菱樹脂事件(昭和48年12月12日)で確立された法理に基づいています。これは「通常の解雇より広い範囲で契約解約が認められる」ものですが、あくまで「通常より少し緩い」だけであり、解雇が完全に自由になるわけではありません。

14日を超えたら解雇予告が必要

労働基準法第20条・第21条の規定により、雇用開始から14日を超えて在籍している従業員を解雇する場合、30日前の解雇予告、または平均賃金30日分の解雇予告手当の支払いが必要です。試用期間中であっても例外はありません。多くの企業で試用期間は3〜6か月に設定されているため、二重就労が発覚する頃には14日をとっくに超えているケースがほとんどです。

本採用拒否にも「客観的に合理的な理由」が必要

試用期間終了時に「本採用しない」という判断(本採用拒否)も、労働契約法第16条が類推適用され、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。「二重就労していた」という事実だけで即座に本採用拒否が認められるわけではなく、それが会社にとってどのような実害・リスクをもたらすかが問われます。

発覚直後にまず行う事実確認の手順

感情的に本人を問い詰める前に、客観的な証拠を集めることが最優先です。証拠のない状態で追い詰めると、後に「パワハラだ」と逆主張されるリスクがあります。

客観的な情報を先に集める

まず最初に、社内にある書類から状況を把握します。確認すべき書類の例としては、入社時の履歴書・職務経歴書の記載内容、社会保険・雇用保険の加入状況、源泉徴収票(複数の雇用先からの支払いがないか)、入社時に提出された「退職証明書」や「離職票」の有無などが挙げられます。これらを整理してから本人との面談に臨むことで、事実のすれ違いを防げます。

本人への事情聴取は「弁明の機会」として行う

本人との面談は、責める場ではなく「事実を確認し、本人の言い分を聴く場」として設定することが重要です。面談の冒頭で「確認したい点があるので話を聞かせてほしい」と伝え、いつからどこに在籍していたか、採用面接時に申告しなかった理由、現在も在籍しているかどうかを落ち着いて確認します。面談は録音するか、必ず複数人で立ち会い、後から議事録を作成して本人にサインをもらいましょう。

確認書への署名取得と書面管理

事情聴取後は、確認された事実を書面にまとめ、本人に署名・押印してもらいます。「言った言わない」のトラブルを防ぐためです。本人が署名を拒否した場合も、その状況をメモとして記録しておきます。この書面が、後に懲戒処分や本採用拒否の正当性を裏付ける重要な証拠になります。

就業規則の規定によって対応が変わる

二重就労への対処は、就業規則に副業・兼業の禁止規定があるかどうかで、取りうる手段が大きく変わります。規定の有無を確認することが、対応方針を決める出発点です。

規定がある場合:懲戒処分の検討へ

就業規則に副業・兼業の禁止または届出義務が明記されている場合は、それに違反した行為として懲戒処分の対象とすることができます。ただし、懲戒処分が有効とされるには「処分の内容が行為の重大性と均衡しているか(相当性の原則)」が問われます。いきなり懲戒解雇ではなく、譴責(けん責)→減給→出勤停止→論旨退職→懲戒解雇という段階的な処分を検討することが基本です。

規定がない場合でも「経歴詐称」で対応できるケースがある

副業禁止の規定がなくても、採用選考時に「前職を退職済み」と虚偽申告していた場合は、「経歴詐称」として独立した懲戒・本採用拒否の根拠になりえます。採用の意思決定を歪めた虚偽申告は、信義則に反する行為として評価されます。「判明した時点ではもう辞めていた」と本人が主張しても、採用面接の時点での事実が問題になります。

規定を整備するなら今がタイミング

就業規則に副業・兼業に関する規定がない場合、今回の対応と並行して規定を整備することを強くお勧めします。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改定)では、副業・兼業を制限できる合理的理由として、業務上の支障、企業秘密の漏洩、競業行為、会社の名誉・信用を損なう行為の4点を例示しています。これらを踏まえた規定を整備することで、将来的なリスクを大幅に下げられます。

本採用拒否・懲戒処分の判断基準

二重就労が確認された後、どの処分を選ぶかは「行為の実態と会社への影響」を軸に判断します。以下の表を参考に、自社のケースに当てはめて検討してください。

判断要素 処分への影響
採用選考時に虚偽申告があった 本採用拒否・懲戒の合理的理由として強く評価される
前職と競業関係にある 情報漏洩・競業リスクとして処分の相当性が高まる
業務に支障が出ている・出るおそれがある 具体的な実害として評価される
機密情報・顧客情報へのアクセスがある 会社への損害リスクとして重視される
本人が事実を認め、反省の意思を示している 処分を軽減する方向に働く場合がある

判断要素が多く重なるほど、本採用拒否や重い懲戒処分が合理的と認められやすくなります。一方で、「二重就労はしていたが、虚偽申告はなく、業務への支障も特にない」というケースでは、懲戒処分が過重と判断されるリスクがあることに注意が必要です。

試用期間中の本採用拒否と懲戒解雇の選択

まだ試用期間中であれば、懲戒解雇ではなく「本採用拒否」という形をとることが実務上はよく選ばれます。本採用拒否は試用期間終了時点での判断であり、懲戒解雇より手続きがシンプルです。ただし、解雇予告義務(30日前または解雇予告手当)は本採用拒否にも適用されます。試用期間が終了していない場合でも、同様の注意が必要です。

手続きは必ず書面で行う

処分の通知は口頭だけで済ませず、必ず書面で行ってください。書面には、処分の内容、処分の理由(具体的な事実と適用した就業規則の条文)、処分の効力発生日を明記します。後から「そんな説明は受けていない」と争われた場合、書面があるかどうかが重要な証拠になります。

対応フローを会社の規模別に整理する

専任の人事担当者がいない中小企業では、外部専門家との連携が対応の質を大きく左右します。自社の状況に合わせて、対応の優先順位を確認しておきましょう。

就業規則が整備されていない場合

常時10人以上の従業員を雇用している場合、就業規則の作成・届出は法律上の義務です(労働基準法第89条)。10人未満であっても、就業規則がなければ懲戒処分の根拠が乏しく、トラブル時に非常に不利な立場に立たされます。今回の事案を機に、社会保険労務士や弁護士に就業規則の整備を依頼することを検討してください。

産業医・外部相談窓口がない場合

試用期間中の二重就労が発覚すると、当事者である従業員も相当なプレッシャーを感じます。処分の決定前後に本人のメンタル不調が生じるケースも珍しくありません。産業医の選任義務がない規模(常時50人未満)の企業でも、外部の相談窓口を用意しておくことで、従業員への配慮と会社のリスク管理の両立が図れます。

初動対応で迷ったときの判断軸

何から手をつければよいかわからない場合は、「事実の確認→規定の確認→専門家への相談→処分の決定」という順番を守ることが最低限のリスクヘッジになります。感情的な判断や、確認なしの即時解雇は避けてください。焦って動くほど、後から会社側の立場が弱くなるという現実があります。

まとめ

試用期間中の二重就労が発覚した際は、「試用期間だから自由に解雇できる」という誤解を捨て、まず客観的な事実確認から始めることが鉄則です。就業規則の規定の有無・採用時の虚偽申告の有無・業務への実際の影響の3点を軸に処分の妥当性を判断し、すべての手続きは書面で記録に残してください。中小企業では就業規則の整備が追いついていないケースも多く、今回の対応を機に規定を見直すことが将来のトラブル予防にもつながります。

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よくある質問

Q. 試用期間が始まってまだ2週間なのですが、それでも解雇予告手当が必要ですか?

A. 雇用開始から14日以内であれば、労働基準法第21条の規定により解雇予告手当なしで即日解雇が可能です。ただし「14日以内」は入社日を含む日数で数えますので、正確に確認してください。14日を1日でも超えると解雇予告義務が発生します。

Q. 就業規則に副業禁止の規定がありません。二重就労でも何もできないのでしょうか?

A. 副業禁止規定がなくても、採用選考時に「退職済み」と虚偽申告していた場合は「経歴詐称」として独立した懲戒・本採用拒否の根拠になりえます。また、業務上の実害(遅刻・欠勤・情報漏洩リスクなど)が確認できれば、それを理由とした対応も検討できます。いずれにしても、今後のために就業規則の整備を急ぐことをお勧めします。

Q. 本人が「前の会社はもう辞めた」と言い訳した場合、対応できませんか?

A. 「現時点では退職済み」でも、採用面接の時点で在職していた事実が問題になります。採用の意思決定は面接時の申告内容に基づいて行われているため、その時点での虚偽申告は経歴詐称として評価されます。いつから在籍していて、いつ退職したかを事実確認書で明確にしておくことが重要です。

Q. 懲戒解雇と本採用拒否はどちらを選べばいいですか?

A. 試用期間中であれば「本採用拒否」という形をとる方が手続きとしてシンプルです。懲戒解雇は就業規則の懲戒規定と手続き(弁明の機会の付与など)が厳格に求められるため、規定整備が十分でない中小企業には手続き上のリスクが伴います。どちらが適切かは、事実の重大性・就業規則の状態・会社への実害の程度によって変わりますので、専門家に相談することをお勧めします。

Q. 事情聴取の際に本人が泣き崩れたり、体調を崩したりした場合はどうすればよいですか?

A. 面談を一旦中断し、本人が落ち着ける時間を設けてください。精神的に不安定な状態での署名・確認は後から「強制された」と争われるリスクがあります。必要に応じて後日に面談を再設定し、本人が安定した状態で事実確認を行うことが重要です。メンタル不調の兆候が見られる場合は、外部の相談窓口や医療機関への案内も検討してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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