リファレンスチェックでハラスメントを聞く3つの注意点

リファレンスチェックでハラスメントを聞く3つの注意点 コンプライアンス
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「採用した人が、前の職場でもハラスメントをしていたらしい」——入社後にそう知ったとき、すでに手遅れだった。20〜50名規模の会社では、たった一人の問題人材がチーム全体を崩壊させることがあります。だからこそ、採用前にリファレンスチェックでハラスメント歴を確認したいと考える経営者・人事担当者は少なくありません。しかし「違法にならないか」「何を聞いてよいのかわからない」という不安から、踏み出せずにいるケースも多いのが現実です。この記事では、法的な観点と実務の両面から、リファレンスチェックでハラスメント情報を適切に確認するための具体的な注意点を解説します。

リファレンスチェックでハラスメントを聞くことは違法か

結論からいえば、適切な手順を踏めば違法ではありません。ただし、守るべき法的ルールが複数絡み合っており、手順を誤ると採用企業側がコンプライアンス違反を問われるリスクがあります。リファレンスチェックで適法にハラスメント情報を確認するには、以下の法律を理解しておくことが必須です。

個人情報保護法が関係する理由

リファレンスチェックでは、前職の上司や同僚から応募者の個人情報を取得します。この行為は、個人情報保護法第27条が定める「第三者提供」に該当します。前職企業が応募者に関する情報(ハラスメント歴の記録を含む)を採用企業に提供する場合、原則として本人の同意がなければ違法となります。

また、採用企業側も同法第17条・第18条に基づき、「採用選考のためのリファレンスチェック」という利用目的を応募者に明示したうえで情報を収集する必要があります。目的を示さずに情報を集めることは、それ自体が法令違反につながります。

職業安定法の観点でも注意が必要

採用プロセスでは個人情報保護法に加えて、職業安定法第5条の4も適用されます。この条文は、求職者の個人情報を「業務の目的の達成に必要な範囲内」でのみ収集・使用することを義務づけています。具体的には、人種・思想・信条・宗教・出生地・本籍地・社会的身分などに関する情報は原則収集禁止とされています。

ハラスメント歴の調査そのものは禁止されていませんが、「職場での就労能力や業務遂行能力とどう関係するか」という説明責任が常に問われます。「なんとなく不安だから全部調べたい」という姿勢は法的に通用しません。

「要配慮個人情報」への注意

個人情報保護法第2条第3項が定める「要配慮個人情報」(病歴・障害・犯罪歴など)は、原則として取得に際して本人の明示的な同意が必要です。ハラスメント歴そのものはこの定義に列挙されていませんが、ハラスメントの内容が精神疾患や傷病と結びつく情報を含む場合は要配慮個人情報に抵触する可能性があります。ハラスメント行為の詳細な内容を深掘りして聞くことは、この観点からも避けるべきです。

本人同意は必須だが、同意さえあれば万能ではない

リファレンスチェックを実施する前に応募者本人の同意を得ることは絶対条件です。しかし、「同意を取ったから何でも聞いていい」というのは最も多い誤解の一つです。正しい同意の取り方と、同意の限界を理解しておくことが重要です。

同意が「必要条件」であって「十分条件」ではない理由

本人が同意していても、取得した情報は「採用選考」という目的の範囲内でしか利用できません。たとえば、リファレンスチェックで知り得たプライベートな健康情報を、入社後の人事評価に使うことは目的外利用となり違法です。また、同意書があっても前職企業は情報提供を拒否できます。提供はあくまで任意の協力であり、強制力はありません。

同意の取り方・タイミングの実務

同意を取るタイミングは、最終面接の前後または内定通知と同時が一般的です。重要なのは、応募者が十分に内容を理解したうえで同意できる状況を作ることです。口頭だけでなく、書面(同意書)で残すことが強く推奨されます。同意書には少なくとも以下の項目を明記してください。

  • リファレンスチェックを実施する旨とその目的
  • 確認先(前職上司・人事部門など)
  • 聴取する情報の範囲(職務遂行能力・職場での対人関係など)
  • 取得情報の利用目的と管理方法
  • 同意の任意性(同意しなくても選考上の不利益はない旨)

同意の任意性を明示することは、後のトラブルを防ぐうえで特に重要です。「同意しなければ選考から外す」という運用は、実質的な強制となり問題になります。

同意書・記録の保管は必ず行う

同意書の取得記録、チェック実施日・実施者・聴取相手・聴取内容のメモは、選考終了後も一定期間保管してください。万一、不採用となった応募者から「なぜ落とされたか」と問い合わせがあった場合や、法的トラブルに発展した場合に、適切な手続きを踏んでいた証跡となります。

聞いてよいこと・聞いてはいけないことの具体的な線引き

リファレンスチェックで確認できる内容には明確な範囲があります。ハラスメント歴を直接的に聞くのではなく、職場での対人関係やマネジメントスタイルを通じて間接的に確認するのが、法的にも実務的にも適切なアプローチです。

聞いてよい質問の例と聞いてはいけない質問の例

カテゴリ 質問例 判断
業務遂行能力 担当業務での実績・得意分野を教えてください 問題なし
対人関係・コミュニケーション チームメンバーや部下との関係性はいかがでしたか 問題なし
マネジメントスタイル 部下の指導・育成においてどのようなスタイルでしたか 問題なし
職場トラブルの確認(間接的) 職場での対人関係で課題になったことはありましたか 問題なし(聴取範囲に記載があること)
再雇用意向 再度一緒に働きたいと思いますか 問題なし
ハラスメント歴の直接確認 ハラスメントで社内処分を受けたことがありますか 原則として避けるべき
懲戒処分の内容 懲戒処分の詳細を教えてください 避けるべき(要配慮情報に触れる可能性)
プライベートな健康情報 メンタル不調で休職したことがありますか 禁止(要配慮個人情報)
家族・出身・思想 家族構成や出身地、政治的な考えを教えてください 禁止(職業安定法違反)

ハラスメントは「間接的な質問」で確認する

「ハラスメントをしていましたか」と直接聞くことは、前職企業が回答を拒否する可能性が高く、また法的な境界線としても慎重に扱うべき質問です。実務では「チームマネジメントのスタイル」「部下への指導方法」「職場でのトラブルがあったとすればどのような場面か」といった間接的な質問に置き換えることで、実態をある程度把握することができます。回答のトーンや言いよどみ、「再雇用はしたくない」という返答も重要な判断材料になります。

前職企業に断られた場合・情報が得られない場合の対処法

前職の上司や人事担当者が「そういったことはお答えできません」と回答を断ることは珍しくありません。断られること自体は違法ではなく、情報提供はあくまで任意です。重要なのは、断られた事実をどう判断材料として活かすかです。

断られること自体が情報になる場合がある

「在籍期間と担当業務以外はお答えできません」という回答は、前職企業が何らかの理由で情報提供を控えているサインと読み取れることがあります。もちろん、企業のポリシーとして一律に回答を制限している場合もあります。断られた場合は、応募者本人に「前職の上司に確認を試みましたが確認が難しい状況でした。補足できることがあれば教えていただけますか」と伝え、本人の説明を聞くことで一定の情報を得る方法もあります。

複数のリファレンス先を設定する

一人の回答者に依存せず、複数名(直属の上司・他部署の関係者など)をリファレンス先として設定しておくことで、一方が断った場合でも情報収集が可能になります。応募者に同意取得の段階で「複数名への確認を行う場合があります」と伝え、候補者を何名か挙げてもらう運用が実務的です。

外部の専門サービスの活用を検討する

近年、リファレンスチェックを代行する専門サービスが増えています。これらのサービスは、質問設計・同意取得・記録保管をまとめて対応しており、人事専任者がいない中小企業でも適法な手続きを踏みやすいメリットがあります。費用は1件あたり数千円〜数万円程度のサービスが多いですが、1名の問題採用が引き起こす離職コストや対応コストと比較して費用対効果を検討してみてください。

会社の状況別・リファレンスチェック実施判断の目安

リファレンスチェックの実施方針は、会社の状況によって判断が変わります。就業規則の整備状況や採用ポジションの性質に応じて、適切な対応を選択してください。

管理職・マネージャー職の採用では特に重要

部下を持つポジションへの採用では、リファレンスチェックの必要性は格段に高まります。20〜50名規模の会社では、マネージャー一人の行動が組織全体の雰囲気に直結します。管理職採用では、対人関係やマネジメントスタイルの確認を採用プロセスに組み込むことを強く推奨します。

就業規則・個人情報保護方針の整備状況を確認する

リファレンスチェックで得た情報の取り扱いルールは、就業規則や個人情報保護方針に落とし込まれていることが望ましいです。「採用選考における個人情報の取り扱い」を明文化していない会社は、この機会に整備を検討してください。就業規則の整備がまだ不十分な段階であれば、まず外部の専門家(社会保険労務士・人事コンサルタント)に相談して基盤を作ることが先決です。

採用頻度が低い会社は外部サービスの活用が現実的

年間採用人数が数名程度の会社では、リファレンスチェックの内製化(自社でノウハウを蓄積する)よりも、必要なときに外部サービスを利用するほうが現実的です。一方、採用を継続的に行う成長期の会社では、同意書のひな形・質問項目・記録フォーマットを整備して標準化することが長期的にコストを下げます。

まとめ

リファレンスチェックでハラスメント情報を確認することは、適切な手順を踏めば違法ではありません。ただし、本人同意の取得・聴取範囲の限定・記録の保管という三つの柱を守ることが前提です。ハラスメント歴を直接聞くのではなく、対人関係・マネジメントスタイルという形で間接的に確認するアプローチが、法的にも実務的にも有効です。また、同意を得たからといって何でも聞けるわけではなく、取得情報は採用選考の目的内でのみ利用しなければなりません。

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よくある質問

Q. 応募者の同意なしにリファレンスチェックを実施してもよいですか?

A. 原則として本人同意なしに実施することは避けてください。個人情報保護法および職業安定法の観点から、採用選考目的で第三者から応募者の情報を収集する場合は、事前に応募者本人への目的の明示と同意取得が求められます。同意なしに実施した場合、法令違反となるリスクがあります。

Q. 前職企業がリファレンスチェックへの回答を断った場合、それ自体を不採用の理由にできますか?

A. 前職企業が断ること自体は珍しくなく、一律に不採用の根拠にすることは推奨されません。企業のポリシーとして回答しない方針の会社も多いためです。断られた場合は、応募者本人に補足の説明を求めるか、別のリファレンス先への確認を試みることを検討してください。

Q. 同意書にはどのような内容を盛り込めばよいですか?

A. 最低限、(1)リファレンスチェックの実施目的、(2)確認先(前職上司・人事部門など)、(3)聴取する情報の範囲(職務遂行能力・職場での対人関係など)、(4)取得情報の利用目的と管理方法、(5)同意は任意であり同意しなくても選考上不利益を与えない旨、の五点を記載してください。書面で残し、署名・日付を取得することを推奨します。

Q. リファレンスチェックで得た情報を理由に不採用にした場合、応募者に理由を説明する義務はありますか?

A. 現行法上、採用選考の段階では不採用理由の開示義務は明示されていません。ただし、応募者から問い合わせがあった場合に備えて、「選考の結果、総合的に判断した」などの説明ができるよう選考記録を整理しておくことがトラブル予防につながります。リファレンスチェックの内容を詳細に開示する必要はありません。

Q. 外部のリファレンスチェックサービスを使うと、法的リスクは軽減されますか?

A. 専門サービスを使うことで、同意取得・質問設計・記録保管といった手続きが適法な形で行われやすくなるメリットがあります。ただし、サービスを利用したからといって採用企業側の法的責任がなくなるわけではありません。どのサービスを選ぶ場合も、個人情報保護法や職業安定法に基づく取り扱いがなされているか確認したうえで契約することを推奨します。

【監修】ウェルセンス株式会社
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