在宅勤務中の副業発覚|懲戒処分までの正しい進め方

在宅勤務中の副業発覚|懲戒処分までの正しい進め方 組織運営
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「在宅勤務の日、あの社員は本当に仕事をしているのか?」——業務時間中に別の会社の仕事をしているらしいと気づいたとき、多くの経営者・人事担当者は「怒り」と「どう対応すればいいかわからない」という二つの感情の間で立ち止まります。感情的に即座に解雇したい気持ちはわかります。しかし、手続きを誤れば不当解雇として会社側が訴えられるリスクもあります。この記事では、在宅勤務中の副業・他社就労が発覚した際に、法的根拠を踏まえながら懲戒処分を正しく進めるための実務手順を解説します。

在宅勤務中の副業は「当然に禁止」されているわけではない

副業・兼業そのものは法律で一律に禁止されていません。懲戒処分を有効に行うには、「何が問題なのか」を正確に特定することが出発点です。

労働時間中の他社就労が問題になる理由

在宅勤務中であっても、社員は会社から給与を受け取っている労働時間中は「職務専念義務」を負います。これは就業規則に明記がなくても、労働契約の性質上、信義則(民法1条2項)に基づいて当然に認められると解されています。業務時間内に別の会社の仕事をしていた場合、この専念義務違反が問題の核心となります。

副業の「種類」によって深刻度が変わる

一口に「副業」といっても、在宅勤務中の副業が問題になるかどうかは内容によって大きく異なります。たとえば、週末に個人でハンドメイド品を販売しているケースと、競合他社にフリーランスとして労務提供しているケースとでは、会社への損害リスクが全く違います。判断の軸は以下の三点です。

  • 業務時間内に行われていたか(専念義務違反の有無)
  • 自社と競合する事業・取引先への就労か(競業行為の有無)
  • 会社の機密情報・顧客情報が漏洩したおそれがあるか

競業行為については、就業規則の規定がなくても在職中は労働者の誠実義務として禁じられると一般に解されています。ただし、退職後の競業避止は別途誓約書や契約が必要です。

就業規則がない・古い場合はどうなるか

就業規則に副業禁止の規定がない場合でも、職務専念義務違反や競業行為を理由に指導・処分を行うことは不可能ではありません。ただし、就業規則に根拠規定がある場合に比べ、懲戒処分の有効性は格段に主張しにくくなります。今から就業規則を整備することは「遅すぎる」ことはなく、むしろ今回の件をきっかけに整備することが再発防止の観点からも重要です。なお、10人以上の事業場は就業規則の作成・届出が法律上の義務(労働基準法89条)です。

証拠の集め方——プライバシー侵害にならない適法な調査範囲

証拠収集は「適法な範囲内」で行うことが大原則です。違法な方法で得た証拠は、後の労働審判・訴訟で証拠能力を否定されるリスクがあり、かえって会社側が不利になります。

確認してよい情報・してはいけない情報

会社が業務目的で確認できる情報と、プライバシー侵害リスクが高い情報を整理すると以下のようになります。

確認できる(リスク低) 注意が必要(リスク中〜高)
会社支給PCの業務ログ・VPN接続記録 私用スマートフォンの内容閲覧
業務用メールの送受信履歴 個人メール・SNSアカウントの無断閲覧
勤怠システムのログイン・ログアウト記録 個人所有デバイスへの監視ツール導入
業務日報・タスク管理ツールの活動状況 自宅内をカメラで無断撮影
本人が公開しているSNS・クラウドソーシング登録情報 第三者(取引先など)への無断問い合わせ

会社が支給したPCやシステムの監視・確認は、就業規則や情報セキュリティポリシーに「業務目的で会社が監視・確認することがある」と明示されていれば、合理的な範囲で許容されます。逆に、個人所有のデバイスや個人アカウントへのアクセスは、同意なく行えば不正アクセス禁止法やプライバシー権の侵害となる可能性があります。

公開情報の活用と初期整理の重要性

調査の最初の一手として有効なのが、本人が公開しているSNSやクラウドソーシングサービス(ランサーズ・クラウドワークスなど)への登録状況の確認です。これらは誰でも閲覧できる公開情報であり、調査の適法性に問題はありません。また、発覚の経緯(誰から・いつ・何を把握したか)を時系列で記録し、「推測」と「事実」を明確に分けることが後の手続きを進める上で不可欠です。

本人へのヒアリング——弁明の機会は必ず設ける

懲戒処分を行う前には、必ず本人に弁明の機会を与えることが必要です。これを省略すると、処分の手続き的瑕疵として後に無効と判断されるリスクがあります。

ヒアリングの進め方と記録の残し方

ヒアリングは、「業務時間外・外の仕事の有無と内容」を確認することが目的です。「知っているぞ」と問い詰める尋問スタイルは避け、「業務時間中に他社の仕事をしたことはあるか」「その内容・頻度・期間はどの程度か」「会社の情報・ツールを使用したか」といった事実確認の形で進めます。担当者が一人で行うと後のトラブルになりやすいため、証人として別の担当者を同席させ、議事録(または録音)で記録を残すことが重要です。

本人が否定した場合・認めた場合の対応分岐

本人が事実を認めた場合は、書面で確認書・経緯書を作成してもらうことで、後の処分の根拠が明確になります。一方、否定した場合でも、客観的なログデータや公開情報との整合性を踏まえて事実認定を行うことができます。重要なのは、「処分を先に決めてからヒアリングする」のではなく、「ヒアリング結果も踏まえて処分を決定する」という順序を守ることです。

在宅勤務中の副業発覚後、どのように本人と向き合い、どの段階で処分を判断するかは、組織全体への影響も大きい判断です。適切な手順を踏めているか、人事以外の視点から相談したいという企業は少なくありません。

懲戒処分の種類と選択基準——いきなり解雇は原則NG

懲戒処分は、違反の内容・程度・会社への影響に見合った重さでなければなりません。労働契約法15条は、懲戒処分が「客観的に合理的な理由」を欠き「社会通念上相当でない」場合は権利濫用として無効と定めています。

処分の重さと適用場面の目安

処分は軽い順に、譴責(けん責)→ 減給 → 出勤停止 → 降格 → 諭旨解雇 → 懲戒解雇という段階があります。いきなり懲戒解雇を選ぶと「重すぎる処分」として無効判断を受けるリスクが高く、特に初回・業務への影響が限定的なケースでは段階的な対応が原則です。

各処分の適用場面の目安は次のとおりです。

  • 譴責・始末書徴収:業務への影響が軽微、初回の違反、本人が反省の意を示している場合
  • 減給・出勤停止:繰り返しの違反、業務時間中の他社就労が相当期間に及ぶ場合(減給は労働基準法91条による上限あり)
  • 降格・諭旨解雇:競業行為が認められる、または情報漏洩のおそれがある場合
  • 懲戒解雇:競合他社への就労かつ機密情報の流出が確認された、または再三の警告後も改まらない場合などに限定的に検討

処分後に必ず行う文書化

処分を実施した後は、処分の理由・根拠規定・処分の内容・本人への通知日を書面で記録し、保存することが不可欠です。口頭だけの処分は後の労働審判・訴訟で「処分の事実自体」を争われることになります。処分通知書は必ず交付し、受領のサインまたは記録を残してください。

就業規則の整備——今からでも遅くない理由

副業・兼業に関する規定が就業規則に整備されていない場合でも、今から対応することは十分に意味があります。今回の案件への対応と並行して整備を進めることを強くお勧めします。

最低限盛り込むべき規定の内容

就業規則への追加・整備において優先すべき項目は以下です。まず、「業務時間中に会社の許可なく他の業務に従事することを禁じる」という専念義務の明記です。次に、競業他社への就労・役員就任の禁止規定。そして、情報管理・秘密保持に関する義務規定も合わせて整備することで、副業問題だけでなく情報漏洩リスク全般への対応力が高まります。なお、就業規則を変更した場合は、労働者への周知(掲示・配布・イントラネット掲載等)が法律上の効力発生要件(労働契約法7条)です。

PC監視・モニタリングポリシーの整備も同時に

在宅勤務における会社支給PCの利用ルールや監視・ログ確認に関するポリシーを就業規則またはテレワーク規程に明記することで、証拠収集の適法性を担保できます。「業務用端末は業務目的に限定して使用し、会社はセキュリティ・コンプライアンス管理のためアクセス状況を確認することがある」といった文言が典型です。規程がない状態での事後的なログ確認は、従業員との紛争時に適法性を問われるリスクがあります。

処分後の職場リスクへの備え

懲戒処分を実施した後も、対応は終わりではありません。処分後に想定されるリスクを事前に把握し、備えておくことが経営上の判断として重要です。

労働審判・訴訟リスクへの対策

処分を受けた本人が労働審判や訴訟を起こすケースは珍しくありません。対抗するための最大の武器は「記録」です。発覚から処分に至るまでの全経緯を文書化し、弁明の機会を付与したことの記録、根拠規定の明示、比例原則に沿った処分の選択といった手続きのすべてを証拠として残しておくことが、法的リスクへの最善の備えとなります。

他の社員への影響と情報管理

処分の事実を社内にどこまで開示するかは、慎重な判断が必要です。処分内容を不必要に広めると名誉毀損のリスクが生じますが、全く情報を出さないと職場秩序の維持に支障が生じることもあります。原則として「処分が行われた事実」のみを周知し、詳細は当事者・人事担当者の間に留めるという対応が一般的です。また、処分後に本人がSNSで会社批判を行うケースもありますが、事実に基づかない内容であれば名誉毀損として対応できる場合があります。

まとめ

在宅勤務中の副業・他社就労が発覚した場合、感情的に動くことが最大のリスクです。まず発覚した事実を整理し、適法な範囲で証拠を確認する。次に本人へのヒアリングで弁明の機会を確保する。そして、違反の内容と業務への影響を踏まえた上で、比例原則に基づいた段階的な懲戒処分を選択する——この手順を踏むことが、処分の有効性を守り、会社側のリスクを最小化する正しい進め方です。就業規則の整備が不十分な企業は、今回の対応と並行して副業・兼業規定とモニタリングポリシーの見直しを進めることをお勧めします。

ただし、個別事情の判断や法的リスク評価は、人事だけで抱え込むべきではありません。ウェルセンス株式会社では、案件の内容に応じた実務サポートを提供しています。「うちのケースはどう対応すべきか」など、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に副業禁止の規定がなくても懲戒処分できますか?

A. 業務時間中の他社就労であれば、就業規則の規定がなくても職務専念義務違反として指導・処分を行うことは法的に不可能ではありません。ただし、就業規則に明確な根拠規定がある場合に比べ、懲戒処分の有効性を主張する根拠が弱くなります。特に競業行為や情報漏洩を伴うケースでは、就業規則の整備が処分の有効性に直結するため、早急に規定を整備することをお勧めします。

Q. 業務時間外の副業でも懲戒処分の対象になりますか?

A. 業務時間外の副業は、原則として個人の自由であり、それだけを理由に懲戒処分を行うことは難しいです。ただし、競合他社への就労・機密情報の漏洩・副業による疲弊が本業の業務遂行に支障をきたしている場合など、会社の正当な利益を損なう具体的な事情があれば、就業規則の規定を根拠に処分の対象となり得ます。

Q. 会社支給のPCのログを確認することは合法ですか?

A. 就業規則や情報セキュリティポリシーに「業務用端末は業務目的に限定して使用し、会社がアクセス状況を確認することがある」旨が明記されていれば、合理的な範囲での確認は適法と判断されやすいです。一方、そうした規定がない状態での確認は、後のトラブルで適法性を争われるリスクがあります。私用端末・個人メール・個人SNSの無断閲覧は規定の有無にかかわらず違法になるリスクが高いため避けてください。

Q. 副業発覚を理由に即日懲戒解雇することはできますか?

A. 原則としてできません。労働契約法15条により、懲戒処分は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要です。競合他社への就労かつ機密情報の流出が確認されたケースや、再三の警告に従わない悪質なケースを除き、いきなりの懲戒解雇は権利濫用として無効と判断されるリスクが高いです。まずは譴責・書面警告から段階を踏むことが基本です。

Q. 疑いはあるが確証がない段階で、本人に確認を取っても問題ありませんか?

A. ヒアリング自体は問題ありませんが、進め方が重要です。「知っているぞ」と決めつける問い方や、長時間にわたる拘束・圧迫的な質問は、ハラスメントや不当な人権侵害として逆に問題となる可能性があります。「業務時間外に他の仕事をしたことがあるか」など事実確認の形で進め、別の担当者を同席させ、議事録を残すことが基本です。確証がない段階では処分の決定を留保し、まず事実の把握に徹することが適切な対応です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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