休職中社員を整理解雇する前に確認すべきこと

休職中社員を整理解雇する前に確認すべきこと 休職・復職対応
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「業績が悪化して、あのポジション自体をなくすことにした。でも、担当していた社員はメンタル不調で休職中だ——どうすればいい?」

このような状況に直面したとき、多くの経営者・人事担当者は「整理解雇にしてしまえばいいのでは」と考えます。しかし、休職中の社員に対する整理解雇は、通常の整理解雇以上に法的なリスクが高く、手順を誤ると解雇無効の訴訟を招く危険があります。本記事では、休職中社員への整理解雇を検討する際に確認すべきポイントを順序立てて解説します。

休職中社員への整理解雇は「違法」ではないが、極めてハードルが高い

結論から言えば、休職中の社員を整理解雇の対象とすること自体は、法律上一律に禁止されているわけではありません。しかし、通常の整理解雇よりも要件充足のハードルが高く、特にメンタル不調による休職者については「傷病を理由とした解雇」との区別が厳しく問われます。

整理解雇と傷病解雇の混同が最大のリスク

整理解雇とは、使用者側の経営上の理由(人員削減の必要性)に基づく解雇です。一方、傷病を理由とした解雇は、労働者の能力・状態を理由にする別の解雇類型です。この二つは法的根拠がまったく異なります。

問題は、「整理解雇」という名目で処理していても、実態として「休職しているから選んだ」と評価された場合、裁判所が「傷病を理由とした解雇に実質的に該当する」と判断し、労働契約法第16条の解雇権濫用法理によって無効とされるリスクが生じる点です。「なぜ他の社員ではなく、この休職者を選んだのか」を傷病と無関係に説明できなければ、この疑いは晴れません。

就業規則に「休職中は解雇しない」規定がある場合は要注意

就業規則に「休職期間中は解雇しない」旨の条項を設けている企業は少なくありません。この規定がある場合、就業規則は労働契約の内容になっているため(労働契約法第7条)、休職期間中の解雇は規定違反となり、無効と評価される可能性があります。整理解雇を検討する前に、必ず自社の就業規則を確認してください。

「休職期間満了による退職」と「整理解雇」は別物

就業規則に「休職期間が満了しても復職できない場合は自然退職または解雇とする」という条項がある企業では、この規定に基づく退職処理と整理解雇を混在させてしまうケースがあります。両者は法的根拠がまったく異なり、一方の手続きをとれば他方の要件が免除されるわけではありません。混在させると、どちらの要件も満たせないまま解雇を行うことになり、より無効リスクが高まります。

整理解雇が有効と認められるための「4要件」とは

整理解雇の有効性は、判例法理として確立した「4要件(4要素)」を総合的に満たしているかどうかで判断されます。業績が悪化しているという事実だけでは足りません。

要件 内容 休職者が絡む場合の注意点
人員削減の必要性 削減しなければ企業存続に支障が生じる程度の経営上の必要性 財務資料・事業計画など客観的証拠が必要
解雇回避努力義務 役員報酬削減・新規採用停止・希望退職募集・配置転換等を尽くしたか 20~50名規模でも「できる限りのことをした」記録が必須
被解雇者選定の合理性 選定基準が客観的・合理的か。休職中であること自体を理由にしていないか 「なぜこの人か」を傷病と切り離して説明できるか
手続きの妥当性 労働者・組合への説明・協議を尽くしたか 本人の病状への配慮も含めた協議の記録が必要

人員削減の必要性:「苦しい」だけでは不十分

裁判所が問うのは「本当に解雇しか手段がなかったか」という点です。「売上が落ちた」「赤字が続いている」という事実に加え、どの程度の深刻さであるか(企業存続に関わるレベルか)を財務資料や事業計画で客観的に示せる必要があります。特定のポジションをなくす場合は、そのポジションが経営上不要になったことの説明も必要です。

解雇回避努力:20~50名規模の企業が陥りやすい落とし穴

大企業であれば希望退職の募集・グループ内配置転換などが選択肢として挙げられますが、20~50名規模の企業ではそもそも異動先の部署が少なく、希望退職募集の実効性も限られます。ただし、「できなかった理由」を記録することが重要です。たとえば「全部署の人員配置を見直し、受け入れ可能なポジションがないことを確認した(添付:組織図と確認記録)」のように、尽くしたことを残すことが訴訟リスクを下げます。役員報酬の削減・新規採用の停止・残業の抑制といった措置も、実施したかどうかが問われます。

被解雇者選定の合理性:休職者を選ぶ理由を傷病と切り離せるか

休職者を整理解雇の対象にする場合、選定基準の説明が特に重要です。たとえば「担当していた事業部門を廃止するため、その部門の全員が対象となる」「担当職務が自動化・外注化されたため、同業務に従事していた社員全員が対象となる」のように、休職・傷病とは無関係の理由で選定されたことを示せなければなりません。「休んでいるから」「職場復帰が不確かだから」という理由で選ぶと、傷病を理由にした解雇と実質的に同一と評価されます。

手続きで失敗しないための実務チェックリスト

4要件を満たしていても、手続きが不適切であれば解雇は無効となります。特に休職中社員への手続きは、本人の状態への配慮も含めて慎重に進める必要があります。

本人への事前説明・協議は複数回が原則

整理解雇においては、対象者への事前説明・協議が義務的に求められます。1回の通知で終わらせると「協議を尽くしていない」と判断されるリスクがあります。説明の内容(経営状況、解雇回避努力の内容、選定理由、今後のスケジュール)と協議の経過は必ず文書として記録してください。メールや書面での連絡は、証拠として残る形式が望ましいです。

主治医・産業医との情報連携の要否を判断する

メンタル不調による休職者に対して解雇の話をすることは、本人の病状を悪化させる可能性があります。これは倫理的な問題だけでなく、「通知の方法が不適切で本人に損害を与えた」として損害賠償請求につながるリスクもあります。産業医が選任されている企業(常時50名以上の事業場では選任義務あり)は産業医に相談し、通知のタイミングや方法について助言を得ることが望まれます。産業医がいない場合は、主治医への情報照会や、弁護士への相談を経て進め方を決める必要があります。

解雇予告と金銭的手続きの確認

整理解雇であっても、労働基準法第20条に基づく解雇予告(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)は必須です。また、退職金制度がある場合は就業規則に基づく退職金の計算・支払い、雇用保険の離職票の記載区分(会社都合退職となることが多い)、社会保険の資格喪失手続きなども遅滞なく行う必要があります。離職票の記載区分を誤ると、本人の失業給付の受給に影響するため注意が必要です。

復職可能性の評価タイミングが対応の順序を変える

休職中社員への対応は、整理解雇を検討する時点での「復職可能性の状態」によって、進め方の優先順序が変わります。この分岐を理解しておくことが、対応ミスを防ぐ鍵です。

復職可能な状態にある場合:先に復職手続きを進める

主治医や産業医から「復職可能」との判断が出ている、あるいはその見込みが近い段階で整理解雇を行うと、「復職できるのに解雇した」という事実が選定の不合理性を強調することになります。この場合は、まず復職手続きを経たうえで、復職後に整理解雇の手続きを開始するか、復職先のポジションが存在しないという事実を改めて確認してから進める必要があります。

復職が見込めない状態で在籍が長期化している場合

就業規則の休職期間上限に達しておらず、かつ回復の見通しが不透明な状態が続いている場合は、整理解雇よりも先に「就業規則に基づく休職期間満了による退職または解雇」の規定が適用できるかを検討することが、法的に整合性の取れた対応につながりやすいです。ただし、この場合も「形式的に満了を待ったためだけで、本人の回復を支援しなかった」と評価されないよう、医療機関との連携や復職支援の取り組みの記録が重要です。

訴訟になった場合の現実的なリスクを把握する

手続きを誤った整理解雇が訴訟に発展した場合、企業が負うリスクは金銭的損害だけにとどまりません。解雇無効が確定した場合、休職期間中を含む未払い賃金(バックペイ)の全額支払い義務が生じます。

解雇無効と判断された場合のバックペイ

裁判所が解雇を無効と判断した場合、解雇日から判決確定日まで(場合によっては和解成立まで)の期間の賃金全額を支払う義務が生じます(民法第536条第2項)。訴訟期間が1~2年に及ぶことも珍しくなく、中小企業にとっては経営上の打撃になり得ます。加えて、精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められるケースもあります。

社会的信用への影響と職場環境の悪化

訴訟自体が公になることで、採用活動への影響・既存社員の士気低下・取引先からの信頼喪失といった間接的なダメージも生じます。特に20~50名規模の企業では、一つの訴訟が組織全体の雰囲気を変えるほどの影響力を持つことがあります。整理解雇は「最後の手段」として位置づけ、事前の法的確認と手続きの徹底が不可欠です。

まとめ

休職中社員への整理解雇は、法律上一律に禁止されているわけではありませんが、「4要件の充足」「傷病を理由とした解雇との区別」「就業規則の確認」「本人への丁寧な説明・協議」という複数のハードルを越える必要があります。特に20~50名規模の企業では、配置転換先の限界や産業医の選任状況によって対応の選択肢が変わるため、一般論をそのまま当てはめることが難しい場面が多くあります。

「業績が苦しいから整理解雇しよう」という判断を、手続きの準備なしに進めることは、解雇無効の訴訟・バックペイ請求・社会的信用の毀損という深刻なリスクを招きます。まず就業規則・財務資料・社員の状態を整理し、法的観点から対応を設計することが先決です。

ウェルセンス株式会社では、メンタル不調による休職者対応・復職支援に加え、休職者に関わる人事労務の判断整理についてもご相談をお受けしています。「うちの場合はどう対応すればいいか」を具体的に整理したい経営者・人事担当の方は、お気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 休職中の社員が担当していた部署を廃止した場合、整理解雇は認められますか?

A. 部署廃止という経営判断は「人員削減の必要性」の根拠になり得ますが、それだけでは不十分です。解雇回避努力(他部署への配置転換の検討など)を尽くしたか、選定理由が傷病と切り離して説明できるか、本人への説明・協議を適切に行ったかという点もすべて問われます。4要件を総合的に満たしていなければ、解雇無効とされるリスクがあります。

Q. 就業規則に「休職中は解雇しない」と書かれていても、整理解雇は例外になりますか?

A. 原則として例外にはなりません。就業規則の規定は労働契約の内容となっているため(労働契約法第7条)、「整理解雇だから例外」という解釈は裁判所では認められにくいです。就業規則に当該規定がある場合は、休職期間の満了を待つ、または規定の改定(適切な手続きが必要)を検討することが先決です。

Q. 整理解雇の対象選定で「休職中であること」を理由にすると、なぜ問題になるのですか?

A. 「休職中である=傷病がある」という状態を理由に解雇することは、実質的に傷病を理由とした解雇と評価されます。この場合、整理解雇の名目であっても解雇権濫用法理(労働契約法第16条)によって無効とされる可能性が高まります。選定理由は「担当業務・部門の廃止」「担当職務の消滅」など、傷病とは無関係の客観的基準で説明できることが必要です。

Q. 解雇予告は、休職中の社員にも30日前に行わなければなりませんか?

A. はい、整理解雇であっても休職中の社員であっても、労働基準法第20条に基づく解雇予告義務(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)は適用されます。ただし、解雇予告の通知方法・タイミングについては、本人の病状への影響を考慮する必要があります。主治医や産業医への確認を経て、適切な方法で行うことが望まれます。

Q. 休職期間中に人員整理を決定した場合、復職を待たずに整理解雇の通知をしてもいいですか?

A. 復職可能性の評価が重要です。主治医や産業医から「復職可能」との見立てがある場合、復職を待たずに通知すると「復職できるのに解雇した」と評価され、選定の合理性が問われやすくなります。理想的には復職手続きを経て、復職後に対象となるか改めて検討するか、復職先のポジションが存在しないことを客観的に確認してから進める方が法的リスクが低いです。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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