「うちの社員、最近カフェで仕事してるみたいなんだけど、規程に何も書いてないんだよね」——こんな会話が、人事担当者の間でじわじわ増えています。テレワーク導入時に「自宅での勤務」を想定してテレワーク勤務場所の規程を作ったものの、現実には従業員が喫茶店・コワーキングスペース・帰省先などで作業しており、規程と実態がかけ離れている。そのまま放置するとセキュリティ事故が起きたとき会社が責任を問われる可能性もあります。では、テレワーク勤務場所の規程は「どこまで」書けばよいのでしょうか。この記事では、法的な最低ラインから具体的な文言例・違反時の対応まで、実務に使える形で整理します。
「自宅以外は禁止」の一文では規程として機能しない
テレワーク勤務場所の規程に「勤務場所は自宅に限る」と書くだけでは、実務的な抑止力として不十分です。「自宅」の定義が曖昧なまま運用されると、「実家も自宅では?」「ホテルも宿泊先の自宅では?」という解釈の余地が生まれてしまいます。
「自宅」の定義を明確にする
規程上の「自宅」は、住民票上の住所または会社に届け出た居住地と明示することが重要です。「会社に届け出た住所地の自宅」と限定することで、実家・ホテル・旅先などの曖昧な場所を除外できます。届け出変更の手続きも規程に含めておくと、正当な異動(引越し等)にも対応できます。
禁止場所を例示列挙する
「自宅以外を禁止」とポジティブに定義するより、「以下の場所では作業を禁止する」とネガティブリストで例示する方が従業員に伝わりやすくなります。具体的には、カフェ・飲食店・図書館・公共交通機関・ホテルのロビー・フリーアドレスのコワーキングスペースなどを列挙します。例示は限定列挙ではなく「例えば」と書いておくことで、将来の新しい形態にも対応できます。
申告制・承認制という中間策も有効
一律禁止ではなく「自宅以外でのテレワーク勤務場所での作業は事前申請・上長承認を必要とする」という運用もあります。子育て中や介護中の従業員への配慮、優秀な人材の離職防止を考えると、この中間策は現実的な選択肢です。承認条件として「VPN接続必須」「公共Wi-Fi使用禁止」「のぞき見防止フィルター装着」を明示することで、柔軟性とリスク管理を両立できます。
懲戒処分を有効にするには就業規則との連携が必須
テレワーク規程に違反した従業員を懲戒処分にするには、就業規則の懲戒事由にテレワーク規程違反が含まれていることが法的な前提条件です。規程単体で「違反したら懲戒」と書いても、それだけでは法的効力が生じません。
労働契約法が定める懲戒の要件
労働契約法第15条・第16条は、懲戒処分は「就業規則に明示された懲戒事由に該当する行為」に対してのみ有効と定めています。つまり、テレワーク規程を別規程として設ける場合は、就業規則の懲戒事由に「会社の定める諸規程への違反」という文言を必ず加える必要があります。また、テレワーク規程の冒頭に「本規程は就業規則第〇条に基づき定める」と明示することで、就業規則との一体性を担保できます。
違反時の対応フローを規程に入れておく
規程に違反を発見した際の手順が明確でないと、現場担当者が「注意でいいのか」「始末書か」「懲戒か」と判断に迷います。軽微な違反(初回・情報漏洩なし)は口頭注意→書面警告、重大な違反(情報漏洩・繰り返し)は懲戒処分の検討、という段階的なフローを規程または運用マニュアルに記載しておくことを推奨します。
就業規則の変更手続きも忘れずに
テレワーク勤務場所に関する規程を新設・変更する場合、それが就業規則の変更に当たるときは、労働組合または労働者の過半数代表者への意見聴取と、労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条・第90条)。従業員10名未満でも就業規則を作成済みであれば同様の手続きが求められます。手続きを省略した規程は効力が不安定になるため、必ず確認してください。
情報漏洩が起きたとき「従業員が悪い」では会社は免責されない
従業員がカフェで顧客情報を扱い情報漏洩が発生した場合、「勝手にやったこと」では会社は免責されません。個人情報保護法は会社に「安全管理措置」を義務付けており、テレワーク勤務場所の規程と技術的対策の両方が求められます。
個人情報保護法が求める「安全管理措置」とは
個人情報保護法第23条・第24条は、個人情報取扱事業者に対して、個人データの漏洩・滅失・毀損を防ぐための「必要かつ適切な安全管理措置」を義務付けています。会社が安全管理措置として「規程の整備」「従業員への教育・周知」「技術的対策の実施」を怠っていた場合、個人情報保護委員会への報告義務が生じるだけでなく、是正指導や勧告の対象となりえます。顧客・取引先からの損害賠償請求リスクも生じます。
技術的対策と規程は両輪で考える
規程だけを整備しても、会社が技術的に「守れない状況を放置」していれば責任を問われる可能性があります。最低限押さえるべき技術的対策は以下のとおりです。
| 対策の種類 | 具体的な内容 | 対応の優先度 |
|---|---|---|
| VPN接続の義務化 | 社外からのシステムアクセス時にVPNを必須とする | 高(個人情報を扱う場合は必須) |
| 公共Wi-Fi使用禁止 | フリーWi-Fi経由での業務アクセスを規程で明示禁止 | 高 |
| 画面フィルター(のぞき見防止) | 社外作業時の装着を承認条件として明示 | 中(承認制導入時に合わせて) |
| 端末の暗号化・画面ロック | MDM(モバイルデバイス管理)やBitLockerなどの活用 | 高(紛失・置き忘れリスク対策) |
規程に書くべき情報セキュリティの最低ライン
「最低限何を書けば会社として義務を果たしたといえるか」という観点では、次の3点が外せません。まず、個人情報・機密情報をテレワーク勤務場所での社外で取り扱う際の場所・接続環境の制限を明示すること。次に、違反した場合の報告義務(情報漏洩が疑われる場合は直ちに上長に報告する等)を定めること。そして、年1回以上の研修・周知の実施を規程に明記することです。この3点を規程に落とし込むことで、「会社として必要な措置を講じた」という根拠になります。
テレワーク勤務場所の規程の文言例:実務で使えるひな形ポイント
テレワーク勤務場所の規程の文言は「禁止する」だけでなく、定義・承認条件・違反時の対応まで一セットで書くことで実効性が高まります。以下に文言例のポイントを示します。
勤務場所の定義と制限の文言例
たとえば次のように書きます。「テレワーク勤務の場所は、従業員が会社に届け出た自宅(住民票上の住所または会社に届け出た居住地)とする。カフェ、飲食店、図書館、公共交通機関内、ホテルのロビーその他の公共の場所(これらに類する場所を含む)でのテレワーク勤務は禁止する」。「これらに類する場所を含む」という一文を加えることで、新しい作業形態にも対応できます。
例外的承認の条件と文言例
テレワーク勤務場所の申告制を取る場合は次のように書きます。「前項の規定にかかわらず、業務上の必要がある場合は、事前に所属長の承認を得た上で自宅以外の場所で作業することができる。この場合、以下の条件をすべて満たさなければならない。(ア)会社指定のVPNに接続して業務システムにアクセスすること。(イ)公共のWi-Fiネットワークを使用しないこと。(ウ)のぞき見防止フィルターを装着した状態で画面を使用すること。(エ)個人情報および機密情報を含む書類・データを画面表示しないこと」。条件を具体的に列挙することで、従業員が何をすべきか明確になります。
既存規程の変更が「不利益変更」になるかの判断
すでに「勤務場所は問わない」と明示・黙示に認めていた場合、一律禁止へのテレワーク勤務場所変更は労働契約法第10条に基づく「労働条件の不利益変更」となりえます。この場合、個別の同意取得か、合理的な変更理由の説明と十分な周知・猶予期間の設定が必要です。「以前は黙認していたが今後は禁止にする」という場合は、少なくとも1〜3か月の周知期間と、従業員への説明の場を設けることが現実的なリスク回避策です。
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テレワーク勤務場所の規程整備の進め方:会社規模・状況別の優先順位
テレワーク勤務場所に関する規程の整備は、会社の状況によって優先すべき対応が変わります。自社の状況を確認しながら段階的に進めることが現実的です。
就業規則の有無で対応が変わる
常時10名以上の従業員がいる会社は就業規則の作成・届出が法定義務です(労働基準法第89条)。この場合、テレワーク勤務場所に関する規程は就業規則の附則として位置付け、変更届を提出する必要があります。一方、10名未満で就業規則がない場合でも、テレワーク規程を「労働条件の明示」として書面化することは、トラブル防止の観点から強く推奨されます。
個人情報を取り扱うかどうかで最低ラインが変わる
顧客の氏名・連絡先・取引情報など個人データを業務で扱う場合は、個人情報保護法上の安全管理措置として規程と技術的対策の両方が必要です。個人情報をほぼ扱わない社内業務中心の場合でも、機密情報漏洩のリスクはゼロではないため、少なくとも「公共Wi-Fi禁止」「VPN推奨」の文言は入れておくことを推奨します。
- 個人情報を日常的に取り扱う(営業・CS・人事等):VPN義務化・公共Wi-Fi禁止・テレワーク勤務場所の制限の三点セットを規程に明記
- 個人情報の取り扱いが限定的(エンジニア・制作等):公共Wi-Fi禁止・場所の申告制を最低ラインとして検討
- テレワーク自体が例外的な会社:個別ケースのルールを雇用契約書・覚書で補完する形でも対応可能
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まとめ
テレワーク勤務場所の規程は、「自宅に限る」の一文だけでは不十分です。自宅の定義、禁止場所の例示、例外承認の条件、情報セキュリティ上の遵守事項、そして違反時の対応フローまでを一体として整備することで、初めて機能する規程になります。懲戒処分を有効に行使するには就業規則との連携が必須であり、個人情報保護法への対応として技術的対策との両輪も求められます。一律禁止が難しい場合は「申告・承認制」という中間策も有効です。「どこから手をつければいいかわからない」「既存の規程を見直したいが何が足りないのか判断できない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。テレワーク勤務場所の規程の文言確認から就業規則との整合チェック、従業員への周知方法まで、会社の規模や状況に合わせて一緒に整理します。
よくある質問
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