「産業医に相談したいんですが、うちの会社って産業医いますか?」——社員にそう聞かれて、言葉に詰まった経験はありませんか。20〜50名規模の会社では、産業医を置いていないケースは珍しくありません。ただ、「うちは義務がないから大丈夫」と思ったままでいると、社員の不調を見過ごすリスクや、対応の遅れによるトラブルにつながることがあります。この記事では、産業医選任義務がない会社でも実践できる相談窓口の選び方と、社員への正しい案内方法を整理します。
産業医の選任義務は何人から?まず自社の立ち位置を確認する
産業医の選任が法的に義務となるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の会社には選任義務はありませんが、「義務がないから何もしなくていい」というわけではありません。
法律が定める選任義務の基準
労働安全衛生法第13条および労働安全衛生規則第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医を選任し、専門的な立場から労働者の健康管理に関わらせることが義務づけられています。一方、50人未満の事業場については、同法第13条の2で「医師等による健康管理の措置を講ずるよう努める」とされており、努力義務にとどまります。
同じく、ストレスチェックの実施義務(労働安全衛生法第66条の10)も50人以上の事業場が対象です。衛生委員会の設置義務も50人以上から。つまり、20〜49人規模の会社は、これら三つの制度いずれも義務の対象外となります。
義務がなくても「安全配慮義務」は全員に適用される
ここで見落とされがちなのが、労働契約法第5条が定める安全配慮義務です。この義務は従業員数に関係なく、すべての事業者に課せられています。産業医がいないことは「対応しなくていい理由」にはならず、社員が「相談したい」と申し出た事実が後日記録として残り、対応の有無が問われる場面があります。規模の小さな会社であっても、適切に対応した証跡を残すことが、リスク管理の基本です。
社員に「相談したい」と言われたとき、まず何を伝えるか
社員から申し出を受けた瞬間の対応が、その後の信頼関係を大きく左右します。「確認します」と言ったまま放置するのが最も避けるべきパターンです。その場で伝えられる言葉と、翌日までに準備すべき情報を分けて考えましょう。
その場で伝えるべきこと
まず、「相談を受け付けた」という事実を社員に伝え、安心させることが大切です。「うちの会社は産業医を置いていないけれど、相談できる窓口を一緒に探しましょう」という一言が、社員の不安を和らげます。「うちは産業医がいないから無理」という回答は、社員を傷つけるだけでなく、安全配慮義務の観点からも問題になりえます。
翌日までに準備する情報
申し出を受けたら、次のことを整理して社員にフィードバックする準備をしましょう。
- 自社の所在地を管轄する地域産業保健センター(さんぽセンター地域窓口)の連絡先
- 社員が希望する場合のEAP(従業員支援プログラム)の有無
- 外部相談を利用した場合の費用負担の考え方(会社負担か個人負担か)
- 相談内容が会社に共有されるかどうかの確認(原則として守秘義務あり)
「確認して明日中にお伝えします」という約束を守ることが、社員との信頼関係を保つ最初のステップです。
🔗 判断に迷った局面でも、スポット相談で個別の専門家意見を聞くことで、より適切な対応が可能になります。 →
産業医がいない会社が活用できる代替相談窓口
産業医不在の会社でも、活用できる相談窓口は複数あります。それぞれの特徴と費用感を把握しておくと、社員への案内がスムーズになります。
地域産業保健センター(さんぽセンター地域窓口)
厚生労働省が都道府県ごとに設置している産業保健総合支援センターには、50人未満の事業場を対象にした「地域窓口(地域産業保健センター)」があります。産業医による健康相談や保健指導を無料で受けられるのが最大の特徴です。費用をかけずに公的なサポートを受けたい場合の第一選択肢として有効です。ただし、予約が集中する時期は待ち時間が生じることがあるため、急を要するケースには向かない場合があります。
EAP(従業員支援プログラム)
EAPとは、外部の専門機関が従業員のメンタルヘルス相談を受けるサービスです。カウンセリング・法律・家計相談などを包括的に提供するものが多く、月額固定費や従量課金など料金体系は各社さまざまです。小規模企業向けの低コストプランを設ける事業者も増えており、「大企業向けだから使えない」という先入観は必ずしも正しくありません。導入前に見積もりを複数社から取り、自社の規模と予算に合うプランを比較することをおすすめします。
スポット契約の産業医・外部専門家
月額契約ではなく、必要なときだけ産業医や産業保健師にスポットで相談できるサービスも存在します。休職・復職の判断や就業上の措置が必要になった場面で、産業医の意見書に相当する書類を取得したい場合に特に有効です。常駐産業医を置く余裕はなくても、判断が必要な局面だけ専門家を活用するという選択肢は、コストと実効性のバランスを取りやすいアプローチです。
判断に迷った局面でも、スポット相談で個別の専門家意見を聞くことで、より適切な対応が可能になります。
相談窓口を案内した後に会社がすべきこと
外部窓口を紹介したら終わり、と考えていると落とし穴にはまります。外部機関は守秘義務を持つため、社員の同意なしに情報を会社へ共有することはありません。相談の結果として就業配慮が必要になったとき、最終的な意思決定は会社が行う必要があります。
社内の意思決定フローを整備する
「誰が判断し、誰が記録するか」を事前に決めておくことが重要です。専任の人事担当がいない場合は、経営者・総務担当・現場の管理職のうち誰が窓口になるかを明確にしておきましょう。判断した内容と日付を文書で残す習慣を作るだけで、後日のトラブルリスクが大きく下がります。
主治医の診断書との付き合い方
産業医がいない環境では、主治医の診断書が就業措置の主な根拠になります。ただし、主治医は患者(社員)の治療を担う立場であり、職場環境や業務内容を考慮した意見を出すことには限界があります。診断書の「休養が必要」という記載をそのまま鵜吞みにするのではなく、社員本人と面談し、業務のどの部分が負担になっているかを確認したうえで配慮内容を検討することが望ましいです。外部の産業保健専門家に意見を求めるのも一つの方法です。
記録と再発防止の視点を持つ
一度「相談したい」という声が上がった事実は、職場環境に何らかのサインがある可能性を示しています。個別対応にとどまらず、業務量・人間関係・役割の不明確さといった組織的な要因がないかを振り返る機会にすることが、再発防止につながります。
会社の規模・状況別に選ぶ対応の優先順位
自社の状況によって、どの対応を優先すべきかは異なります。以下の表を参考に、自分の会社に合ったアプローチを選んでください。
| 状況 | 優先すべき対応 |
|---|---|
| 今すぐ社員に窓口を案内したい・費用をかけたくない | 地域産業保健センター(さんぽセンター地域窓口)に連絡・予約 |
| 継続的に社員の相談窓口を整備したい | EAPサービスの導入を検討・複数社に見積もり依頼 |
| 休職・復職判断など個別の重要局面でのみ専門家が必要 | 産業医・産業保健師のスポット契約を活用 |
| 社内の対応フロー自体が整っていない | まず意思決定・記録のルールを整備し、外部専門家に相談 |
| 今後50人規模に近づく見込みがある | 産業医選任・衛生委員会の準備を早めにスタート |
対応フローに不安があれば、人事判断の前に外部専門家に相談することで、より堅牢な対応が実現します。
まとめ
産業医の選任義務は50人以上の事業場に課せられているため、20〜49人規模の会社には法的な義務はありません。しかし、安全配慮義務(労働契約法第5条)はすべての事業者に適用されるため、「産業医がいないから対応できない」という姿勢は通用しません。地域産業保健センターの無料相談、EAPの活用、産業医のスポット契約など、小規模企業でも現実的に使える選択肢は複数あります。大切なのは、社員から「相談したい」という声が上がったとき、即座に窓口を案内できる準備を整えておくことと、外部窓口に任せきりにせず、社内の意思決定フローと記録の仕組みを持つことです。
ウェルセンス株式会社では、産業医不在の中小企業が直面するメンタルヘルス対応・休職復職支援について、会社の規模や状況に合わせた実務的なアドバイスを提供しています。判断に迷ったときや対応方法が不明確な場合は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
🔗 対応フローに不安があれば、人事判断の前に外部専門家に相談することで、より堅牢な対応が実現します。 →
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