ストックオプション付与規程がない会社の退職時はどうなる?

ストックオプション付与規程がない会社の退職時はどうなる? コンプライアンス
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「退職した社員がストックオプションを行使すると言ってきた。そんなことができるのか?」——実はこのトラブル、規程を整備していない会社で起きやすい典型例です。新株予約権の割当契約書は作ったし、登記もした。でも社内に「付与規程」がない。そういう状態の会社は少なくありません。この記事では、規程がない場合に退職した社員のストックオプションがどうなるのか、失効条項を有効にするには何が必要なのか、そして今から整備できるかどうかを、実務的な観点でわかりやすく解説します。

規程がない場合、退職した社員のストックオプションはどうなるか

結論から述べると、付与規程や割当契約書に失効条項がなければ、退職後も権利は消滅せず、元社員は引き続きストックオプションを行使できる状態が続きます。

新株予約権は「財産権」である

ストックオプション(新株予約権)は、会社法第236条以下に定める財産的権利です。雇用契約とは切り離された独立した権利であるため、退職したからといって当然に消滅するわけではありません。「退職したら権利はなくなる」という口頭の合意や社内文化的な了解は、法的な効力を持たない場合がほとんどです。

失効させるための唯一の方法

退職時にストックオプションを失効させるには、発行時点で割当契約書または付与規程に「退職した場合は新株予約権を喪失する」旨が明確に書かれていることが必要です(会社法第236条第1項)。この条件が書面に記載されており、付与対象者が合意していて初めて、退職時の失効が法的に有効になります。文言が曖昧な場合でも解釈トラブルになります。

「割当契約書はある」だけでは不十分なケースがある

よくある落とし穴が「割当契約書はある」「登記もした」という状態です。しかし、その割当契約書に失効条項の記載があるかどうかを確認してください。記載がなければ、退職後も権利は存続します。社内の管理規程(ストックオプション付与規程)は、運用手続きを定めるものであり、失効条項そのものは割当契約書に盛り込む必要があります。両者は別物です。

退職時失効条項を有効にするために何を書けばよいか

退職による失効を確実に有効化するには、割当契約書において退職の定義と失効の効果を具体的・網羅的に記載することが必要です。

「退職」の定義は列挙して明確にする

実務上よく問題になるのが「退職」という言葉の定義です。自己都合退職・会社都合退職・解雇・定年退職・死亡・役員の任期満了など、退職の類型は複数あります。それぞれについて「失効する」「行使できる期間を設ける」「相続人に権利が承継されるか」を個別に定めておかないと、後でトラブルになります。

退職類型ごとの扱いの例

以下は、退職類型ごとに異なる条件設定をする場合の考え方の例です。自社の状況に合わせて設計してください。

退職の類型 設計例
自己都合退職 退職日をもって即時失効
会社都合退職(リストラ等) 退職後一定期間(例:3ヶ月)は行使可能
解雇(懲戒解雇) 退職日をもって即時失効
定年退職 退職後一定期間は行使可能、または失効
死亡 相続不可・失効(または相続人への承継を認める)

失効条項の文言例と注意点

「付与対象者が当社を退職した場合(理由の如何を問わず)、退職日をもって本新株予約権は消滅する」という形が基本です。ただし、これだけでは退職類型ごとの扱いが不明確なため、各類型を括弧書きや別表で列挙するのが実務上の安全策です。また、文言は弁護士や司法書士に確認したうえで確定させることを強くお勧めします。

割当契約書の失効条項の確認や再整備について、判断が難しい場合は専門家に相談することが安心です。ウェルセンス株式会社では、こうした人事労務の具体的な課題について、気軽に相談できる環境を用意しています。

既に付与済みのストックオプションに後から失効条件を加えられるか

既に付与した分への後付け適用は、対象者の個別同意なしには原則として困難です。ただし、今後の対策は取ることができます。

過去分への遡及適用は「合意形成」が前提

すでに付与済みの新株予約権に「退職したら失効する」という条件を後から追加することは、権利者の同意なしには法的に無効となります。権利内容の一方的な変更は財産権の侵害にあたるからです。どうしても過去分に失効条件を設けたい場合は、対象の社員・役員ひとりひとりと個別に交渉し、覚書や変更合意書を締結する必要があります。強制はできず、合意しない場合は元の条件が維持されます。

今から整備できること・すべきことの順序

現状のリスクを踏まえ、実務的な優先順位で整理します。まず最初に行うべきは、手元にある割当契約書の内容確認です。失効条項があるか、文言は明確かを確認します。次に、今後付与する分については新規規程と新しい割当契約書のひな型を整備します。続いて、既付与の対象者について、失効条件の追加が必要と判断した場合は変更合意書の締結を検討します。最後に、新株予約権原簿(会社法第249条に定める法定帳簿)が適切に管理されているかも確認してください。

新規付与分から規程を整備することが最も現実的

過去分の修正には合意形成コストがかかります。現実的な対応として、まず今後新たに付与する分について適切な規程と契約書ひな型を整備し、それ以降は適正な条件で付与することを徹底する方法が多くの会社で取られています。

税制適格ストックオプションの要件を維持しながら失効設計できるか

退職失効条項を設けること自体は、税制適格要件(租税特別措置法第29条の2)を直接壊すものではありません。ただし、失効条項の設計内容によっては要件に抵触するリスクがあるため注意が必要です。

税制適格ストックオプションの主な要件を押さえる

税制適格ストックオプションとは、行使時ではなく株式売却時に課税が発生する優遇措置です(租税特別措置法第29条の2)。主な要件として、付与対象者は自社・子会社の取締役・執行役・使用人であること、年間の権利行使価額の合計が1,200万円以下であること、行使期間が付与決議後2年を経過した日から10年以内であること、行使価額が付与時の時価以上であることが求められます。

失効条項が要件に影響するケース

失効条項そのものは要件違反になりません。ただし、失効条項の運用の中で「行使期間」を変更するような設計にした場合、税制適格要件の「行使期間」に関する条件に抵触する可能性があります。たとえば「退職後3ヶ月は行使可能」とした場合に、その期間が付与決議後2年以内や10年超に該当してしまうケースです。設計段階で税理士・弁護士と連携して確認することが不可欠です。

社員側に予期しない課税が発生するリスク

もし会社の設計ミスによって税制適格要件が崩れた場合、社員・役員側が行使時に予期しない課税(給与所得として課税)を受けるリスクがあります。これは会社への信頼を大きく損なう事態です。「よかれと思って設計した失効条項」が税務上の問題を引き起こさないよう、専門家との確認は必須です。

整備が必要な書類と役割の整理

ストックオプション管理で整備すべき書類は複数あり、それぞれ役割が異なります。「どれかがあれば大丈夫」ではなく、すべてが揃って初めて適切に機能します。

書類ごとの役割を正確に理解する

まず、株主総会決議・取締役会決議は発行の法的根拠を定めるものです(会社法第238条等)。次に、新株予約権割当契約書は各付与対象者との個別合意であり、失効条項を含む付与条件を定める最も重要な書類です。ストックオプション管理規程(社内規程)は行使手続き・管理方法など社内の運用ルールをまとめるもので、失効条項を補完する役割もあります。新株予約権原簿は会社法第249条に定める法定帳簿であり、権利者の氏名・付与内容を記録します。

「社内規程がない」という落とし穴

スタートアップや成長期の中小企業では、税理士や弁護士の手を借りて割当契約書と登記は済ませたものの、社内管理規程が存在しないというケースが非常に多くあります。社内規程は、行使請求があったときの手続きや、退職者への対応フロー、紛失時の処理などを定めるものです。規程がないと担当者が変わるたびに対応が属人化し、トラブルのリスクが高まります。

規程整備の際に専門家と連携すべき理由

新株予約権は会社法・税法・労働法が複合的に絡む領域です。自社だけで規程テンプレートを流用して作成すると、文言の抜けや法令との齟齬が生じるリスクがあります。弁護士・司法書士が法的有効性を確認し、税理士が税制適格要件を確認したうえで、人事担当者が社内運用のフローを整える——この3者の連携が理想的です。

「どこから手をつけたらよいか」「現在の書類が十分かどうか判断したい」という段階でも大丈夫です。ウェルセンス株式会社なら、人事だけで抱え込まず、専門家との橋渡しから実務サポートまでできます。

まとめ

ストックオプション付与規程がない、あるいは割当契約書に失効条項がない会社では、退職した社員がストックオプションを行使できる状態が法的に続く可能性があります。退職時の失効を有効にするには、発行時点の割当契約書に退職の定義と失効の効果を明確に記載し、対象者の合意を得ることが必要です。既付与分への遡及適用は合意形成が前提であり、今後の付与分から適切に規程を整備することが現実的な対策です。税制適格要件との整合性も含め、弁護士・税理士・司法書士と連携した専門的な設計が不可欠です。

ウェルセンス株式会社では、人事労務の課題に直面している経営者・兼務人事担当者の方々からの相談を受け付けています。「現在の対応で大丈夫か」という疑問や「整備に何から着手すべきか」という悩みも、気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 割当契約書に失効条項がない場合、退職後に元社員が権利行使を求めてきたらどうすればよいですか?

A. 発行条件として失効条項が明記されていない場合、退職後も新株予約権は存続しており、元社員が行使を求めることは法的に認められる可能性があります。まず手元の割当契約書・総会決議の内容を弁護士に確認してもらい、権利の存否・行使期間・交渉の余地を把握することが先決です。感情的な対応や口頭での「失効しているはず」という主張は、トラブルを悪化させるリスクがあります。

Q. ストックオプション付与規程のテンプレートをそのまま使っても大丈夫ですか?

A. テンプレートはあくまで出発点です。退職失効条項の文言、退職類型の定義、税制適格要件との整合性など、自社の発行条件・株式構成・対象者の属性に合わせたカスタマイズが必要です。テンプレートをそのまま使用した場合、法的に有効でない条項や、税制適格要件を満たさない設計が含まれるリスクがあります。弁護士・税理士による確認を経てから運用することをお勧めします。

Q. 退職失効条項を設けると、税制適格ストックオプションの要件が崩れてしまいますか?

A. 退職失効条項そのものは、租税特別措置法第29条の2の税制適格要件を直接壊すものではありません。ただし、「退職後一定期間は行使可能」という設計をした場合、その期間が行使期間の要件(付与決議後2年経過〜10年以内)に抵触しないかを確認する必要があります。設計の詳細によっては要件違反となり、社員に予期しない課税が発生する可能性があるため、必ず税理士と連携して設計・確認を行ってください。

Q. すでに付与したストックオプションに後から失効条件を追加することはできますか?

A. 一方的な変更は原則できません。新株予約権は財産権であるため、発行後に会社が一方的に条件を変更することは法的に認められません。既付与分に失効条件を追加するには、対象者ごとに個別交渉を行い、変更内容に合意する覚書・変更合意書を締結する必要があります。対象者が合意しない場合は元の条件が維持されます。現実的な対策として、今後の付与分から適切な条件を整備するアプローチが多く取られています。

Q. 社内に人事専任者がいなくても、ストックオプション規程の整備はできますか?

A. 可能です。ストックオプション規程の整備は、主に弁護士・司法書士(法的有効性の確認)と税理士(税制適格要件の確認)が担当するものです。社内の人事担当者は、行使手続きの社内フローや対象者への通知・説明の運用部分を整備する役割を担います。専任人事がいない場合でも、外部の専門家と連携しながら段階的に整備することは十分可能です。何から始めればよいかわからない場合は、まず現状の書類を専門家に確認してもらうことが最初の一歩です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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