産業医不在でも就業制限に対応する4つのステップ

産業医不在でも就業制限に対応する4つのステップ 労務管理
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健康診断の結果通知が届き、「要就業制限」の文字を見て固まった——そんな経験はないでしょうか。さらに困るのは、「産業医の意見を取得してください」と書いてあるのに、自社には産業医がいないという状況です。50名未満の中小企業では産業医の選任義務がないため、こうした場面で何をすればよいか途方に暮れる担当者は少なくありません。しかし、産業医がいないからといって何もしなければ、安全配慮義務違反として会社が責任を問われるリスクがあります。この記事では、産業医不在の会社が就業制限に対応するための具体的な4つのステップと、よくある落とし穴を実務目線で解説します。

産業医がいなくても就業制限への対応義務はある

産業医を選任していない企業でも、健康診断の結果に基づく就業上の措置義務は免除されません。この点を最初に押さえておくことが、すべての出発点です。

産業医選任義務と就業措置義務は別の話

労働安全衛生法第13条により、産業医の選任が義務付けられるのは「常時50名以上」の事業場です。50名未満であれば選任義務はなく、違法にはなりません。ただし、この「選任義務がない」という事実は、あくまで産業医を置かなくてもよい、という意味にすぎません。

問題は、同法第66条の5です。この条文は、健康診断で「異常の所見」があった労働者に対し、事業者が医師等の意見を聴いたうえで必要な就業上の措置を講じることを義務付けています。そして、この義務は従業員数に関係なく、すべての事業場に適用されます。「産業医がいない=意見聴取しなくていい」は法的に成立しない誤解です。

安全配慮義務違反になるとどうなるか

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体の安全を確保しながら労働させる「安全配慮義務」を負うことを定めています。健康診断で異常が指摘された従業員を、何の措置もとらずにそのまま働かせ続けた結果、病状が悪化した場合、会社は民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。

「産業医がいなかったので対応できなかった」は免責の理由になりません。後述するとおり、産業医不在でも意見を得る手段は複数存在するからです。

産業医不在でも医師の意見を得る3つの方法

産業医がいない場合でも、医師の意見を得る手段は制度上、複数用意されています。自社の状況に合わせて最適な方法を選ぶことが重要です。

地域産業保健センター(地さんぽ)を活用する

厚生労働省が全国に設置している「地域産業保健センター(通称:地さんぽ)」は、50名未満の事業場を対象に、産業医による無料相談や健康診断結果への意見提供サービスを行っています。費用がかからない点が最大のメリットであり、まずここに相談することが現実的な第一歩です。

各都道府県の産業保健総合支援センターのウェブサイトから管轄の地さんぽを検索できます。「要就業制限の意見書を作成してほしい」と具体的に伝えると対応がスムーズです。

嘱託産業医・スポット産業医に依頼する

嘱託産業医とは、月に数時間程度の契約でスポット的に活用できる産業医です。「意見書の作成だけ依頼したい」「健診結果を一度見てほしい」といった単発の相談にも対応しているケースが多く、常時契約の必要はありません。人事労務の支援会社や産業医紹介サービスを通じて探すことができます。費用は依頼内容によって異なりますが、意見書1件あたりの単価で依頼できるサービスも存在します。

健診機関の産業医サービスを確認する

健康診断を実施した健診機関が、結果への産業医意見付与サービスを提供しているケースがあります。すでに健診結果のデータを持っているため、手続きが比較的シンプルです。自社が利用している健診機関に「産業医の意見書作成サービスはありますか」と問い合わせてみてください。

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就業制限対応の4つのステップ

産業医不在の職場が就業制限に対応する際は、次の4つのステップを順番に進めることで、法的リスクを最小化しながら適切な対応が可能です。

健診結果を受領し、措置が必要か確認する

健診結果が届いたら、まず最初に「要就業制限」「要医療」「要精密検査」などの区分を確認します。これらの区分がついている場合は、何らかの対応が必要なケースです。「要経過観察」であっても放置は禁物で、フォローアップの記録を残すことが求められます。

重要なのは、「本人に結果を渡して終わり」ではないという点です。会社として結果を確認し、次のアクションを判断する責任があります。

医師の意見を取得する

次に、前述の地さんぽ・嘱託産業医・健診機関の産業医サービスのいずれかを通じて、医師の意見を書面で取得します。口頭での確認ではなく、「産業医意見書」などの書面として残すことが後日のトラブル防止につながります。

意見書には、就業制限の内容(残業禁止・重作業禁止・深夜業禁止・就業禁止など)と期間の目安を記載してもらうよう依頼してください。

就業措置の内容を決定し、本人に通知する

医師の意見に基づき、会社として就業措置の内容を決定します。措置の典型例は以下のとおりです。

措置の種類 具体的な内容の例
作業転換 重量物の運搬作業から事務作業へ変更
労働時間の短縮 残業禁止・深夜業禁止・休日出勤禁止
出張・出勤制限 長距離出張の禁止・在宅勤務への変更
休業・就業禁止 医師が就業不可と判断した場合の休職措置

決定した措置内容は、本人との面談を通じて説明します。本人が「自分は大丈夫」と言って措置に納得しない場合でも、会社の判断として措置を実施することが必要です。「本人が同意したから何もしなかった」は、安全配慮義務違反の言い訳にはなりません。

書面で記録を残し、定期的にフォローアップする

措置内容・面談の日時・本人への説明内容・本人の反応などを書面に記録し、保管します。健康診断の結果は労働安全衛生法により5年間の保存義務があります。意見書や措置記録も同様に保管することが望ましいです。

また、一度措置を取ったら終わりではありません。定期的に本人の状況を確認し、改善が見られれば措置の解除、悪化が見られれば再度医師に相談するというサイクルを回すことが安全配慮義務の実質的な履行につながります。

本人が「大丈夫」と言っても対応をやめてはいけない理由

就業制限対応において特に多い落とし穴が、「本人が問題ないと言っているから」という理由で措置を見送ることです。この判断は、後に会社にとって深刻なリスクをもたらします。

「本人同意」は事業者の義務を免除しない

労働安全衛生法および労働契約法が定める安全配慮義務は、従業員の同意・不同意に関わらず事業者が履行すべき義務です。本人が「働きたい」「問題ない」と申告したとしても、それは医師が判断した就業上のリスクを消去するものではありません。

万が一、措置を取らずに働かせ続けた結果として健康被害が生じた場合、「本人が大丈夫と言ったから」という事実は裁判において事業者の免責理由にはなりません。むしろ、本人の申告を鵜呑みにして医師の意見を無視したと判断されるリスクがあります。

現場の人手不足を理由にした措置の先送りも危険

従業員が少ない職場では、一人の業務を制限するだけで現場が回らなくなることがあります。しかし、「人がいないので就業制限はできなかった」も法的には通じません。

現実的な対応としては、措置の実施と並行して一時的な業務の再分配・外部リソースの活用・業務量の調整を検討することが求められます。完璧な対応が難しい場合でも、「会社としてできる限りの措置を取り、その経緯を記録した」という事実が、後日のリスク軽減につながります。

自社の状況別・対応の優先順位

就業制限への対応方法は、自社の従業員規模や産業医の契約状況によって優先順位が異なります。自分の会社に当てはまるケースを確認してください。

従業員数が50名未満で産業医契約なしの場合

最も多いケースです。まず最初に地域産業保健センター(地さんぽ)に相談してください。無料で産業医に相談でき、健診結果への意見書作成に対応している窓口です。複数回の相談が見込まれる場合や、今後もこのような事態が繰り返される可能性があるなら、嘱託産業医との契約を検討するタイミングです。

従業員数が50名未満だが、過去に嘱託産業医と契約したことがある場合

以前の契約先に連絡を取り、スポットでの対応が可能か確認してください。健診結果への意見書作成のみを依頼するケースでは、単発で対応してくれる産業医も多くいます。また、この機会に年間を通じた契約を検討することで、次回以降の対応がスムーズになります。

従業員数が50名以上で産業医未選任の場合

この状態は違法です。50名以上の事業場で産業医を選任していない場合、労働安全衛生法第13条違反となります。就業制限への対応と並行して、速やかに産業医を選任する手続きを進めてください。選任が完了するまでの暫定措置として、地さんぽまたは嘱託産業医を活用することを強く推奨します。

まとめ

産業医がいない会社でも、健康診断の異常所見に対する就業上の措置義務(労働安全衛生法第66条の5)は免除されません。対応の流れは、健診結果の確認→医師の意見取得(地さんぽ・嘱託産業医・健診機関のいずれか)→就業措置の決定と本人への通知→書面での記録と継続フォローアップ、という4つのステップです。「本人が大丈夫と言った」「人手が足りない」は法的な免責にはなりません。最も重要なのは、対応した事実を記録として残すことです。

健康診断への対応を人事だけで抱え込むと、判断の誤りやリスク見落としが生じやすいもの。ウェルセンス株式会社では、産業医不在の企業向けにスポット産業医手配やアドバイス支援を行っており、「この結果でどう対応すべき?」という段階からの相談に対応しています。

よくある質問

Q. 産業医がいない場合、健診結果への対応は法的に義務ですか?

A. はい、義務です。労働安全衛生法第66条の5は、従業員数に関係なくすべての事業場に適用されます。産業医を選任していない50名未満の企業でも、異常所見のある従業員に対して医師の意見を聴き、必要な就業措置を講じる義務があります。対応しなかった場合、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。

Q. 地域産業保健センター(地さんぽ)は本当に無料ですか?どこで探せますか?

A. 50名未満の事業場向けのサービスは無料です。各都道府県に設置されている産業保健総合支援センターのウェブサイト、または厚生労働省の公式サイトから管轄の地さんぽを検索できます。「健康診断結果への産業医意見書の作成」と具体的に伝えると、対応できる窓口につないでもらいやすくなります。

Q. 本人が「自分は大丈夫」と言っている場合、就業制限をしなくてもよいですか?

A. いいえ、本人の申告は事業者の義務を免除しません。安全配慮義務は、従業員の同意・不同意に関わらず事業者が履行すべき義務です。本人が「働きたい」と言っても、医師が就業制限を指示している場合は会社として措置を取る必要があります。本人の意向を尊重しながらも、会社の判断として制限を実施し、その経緯を書面で記録しておくことが重要です。

Q. 就業制限の記録はどのくらいの期間保管すればよいですか?

A. 健康診断の結果は、労働安全衛生法により5年間の保存義務があります。産業医の意見書や就業措置の記録、本人への通知書なども同様に5年間保管することを推奨します。記録が残っていることで、後日「対応していた」という事実を証明できます。デジタル・紙のいずれでも問題ありませんが、検索・参照しやすい形で整理しておくと実務がスムーズです。

Q. 嘱託産業医に「意見書だけ」を依頼することはできますか?

A. 可能です。嘱託産業医はスポット・単発での依頼にも対応しており、健康診断結果への意見書作成のみを依頼するケースも一般的です。費用はサービス提供者によって異なりますが、月額契約ではなく意見書1件ごとの単価で依頼できる産業医紹介サービスも存在します。産業医紹介会社や人事労務支援会社に問い合わせてみてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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