「月の途中で入社した社員の給与、どう計算すればいいんだろう」――採用が決まった喜びもつかの間、こんな疑問が頭をよぎる経験はありませんか。暦日で割るのか、所定労働日数で割るのか、それとも固定の日数で割るのか。調べても「どれが正しい」と書いてあるサイトもあれば「会社が決めてよい」と書いてあるサイトもあり、結局どうすればいいかわからない。そんな状況を抱えたまま、「とりあえず去年と同じ方法で」と処理してきた方も少なくないはずです。本記事では、給与の日割り計算に使われる3つの方式の違いを具体的な数字で整理し、就業規則への正しい書き方まで、実務担当者が迷わず動けるレベルで解説します。
法律で決まっていない給与日割り計算が混乱の原因に
給与の日割り計算方式は、労働基準法によって特定の方式が義務付けられているわけではありません。これが混乱の根本原因です。ただし「何でもよい」ではなく、「会社が方式を決め、就業規則に明記する義務がある」というのが正確な理解です。
労働基準法が求めていること
労働基準法第89条第2号は、「賃金の決定、計算及び支払の方法」を就業規則の絶対的必要記載事項と定めています。つまり、従業員10名以上の会社は就業規則を作成しなければならず、その中に給与の計算方法を書く義務があります。給与の日割り計算方式は「計算方法」の一部ですから、就業規則に明記しなければならない事項に該当します。
特定の場面では別ルールが存在する
入退社時や給与改定時の日割り計算方式は法定されていませんが、別の場面では異なります。たとえば、使用者の責に帰すべき事由による休業時に支払う休業手当(労働基準法第26条)は「平均賃金の60%以上」と定められており、平均賃金は「直近3か月の賃金総額÷総暦日数」という法定の計算式を使います。日割り計算方式と混同しやすい概念ですが、別物として整理しておく必要があります。
「30日で割っておけば安全」は誤解
根拠なく30日で割り続けている会社は一定数存在します。しかし31日ある月に30日で割ると社員に有利な単価になり、28日の2月に30日で割ると社員に不利な単価になります。就業規則に根拠がなければ、退職時などに「計算方法が不当だ」と異議を申し立てられた場合、会社側が不利な立場に置かれるリスクがあります。
給与日割り計算の3つの方式と計算方法
実務で使われる日割り計算方式は大きく3つに分類できます。それぞれ「何で割るか」が異なり、メリット・デメリットも明確に違います。どれが優れているというものではなく、自社の運用実態に合うものを選ぶことが重要です。
| 方式 | 割る数 | 特徴 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| 暦日方式 | その月の実暦日数(28〜31日) | 月によって日割り単価が変動する。採用企業が多く説明しやすい | 入退社が頻繁にある会社全般 |
| 所定労働日数方式 | その月の所定労働日数(会社カレンダー) | 休日分を給与に含まない合理的な考え方。月によって変動する | 変形労働時間制や独自カレンダーの会社 |
| 固定日数方式 | 年間所定労働日数÷12(例:240日÷12=20日) | 毎月同じ数で割るため計算が簡単。実態とズレる月も出る | 計算の簡便さを優先したい会社 |
暦日方式の計算例
月給25万円の社員が4月16日に入社した場合を例に取ります。4月は30日あるので、日割り単価は250,000円÷30日=8,333円(端数処理は会社規定による)。在籍日数は4月16日から30日までの15日間なので、支払い額は8,333円×15日=124,995円となります。月によって割る数が変わるため、5月入社なら31日で割ることになり、日割り単価が変わります。
所定労働日数方式の計算例
同じく月給25万円、4月16日入社で、4月の所定労働日数が20日の会社の場合、日割り単価は250,000円÷20日=12,500円。4月16日から30日の間に所定労働日が何日あるかを数え、仮に10日あれば12,500円×10日=125,000円となります。「稼働日数方式」と呼ばれることもありますが、「実際に出勤した日数」を指す場合もあるため、就業規則では「所定労働日数」と明確に表現することを推奨します。
固定日数方式の計算例
年間所定労働日数が240日の会社では、月平均所定労働日数は240日÷12か月=20日。月給25万円なら日割り単価は常に250,000円÷20日=12,500円です。4月16日入社で在籍した所定労働日が10日なら、12,500円×10日=125,000円。計算がシンプルですが、たとえば祝日が多い月は実際の所定労働日数が18日程度になることもあり、固定の20日で割ると社員に不利になるケースもあるため、その点を理解した上で採用する必要があります。
給与計算でのお困りごと: 「3つの方式の違いがまだ判断できない」「うちに合う方式がわからない」という場合、人事経験が少ない担当者であっても、実務的なサポートで見直しをお手伝いすることができます。
給与改定が月途中にある場合の処理
月の途中で昇給・降給が発令された場合は、改定前後の金額をそれぞれ日割り計算して合算するのが標準的な処理です。入退社と比べると経験が少ない担当者が多く、最もミスが起きやすい場面のひとつです。
改定前後を分けて計算する考え方
たとえば月給25万円から27万円に昇給が4月15日付けで発令された場合、4月の給与は次のように計算します(暦日方式・4月30日の場合)。まず4月1日から14日まで(14日間)は旧給与の250,000円÷30日×14日=116,667円。次に4月15日から30日まで(16日間)は新給与の270,000円÷30日×16日=144,000円。合計は260,667円となります。発令日が「その日から適用」なのか「翌日から適用」なのかによって計算が変わるため、社内で運用ルールを統一しておく必要があります。
欠勤控除方式との整合性
給与の日割り計算方式は、月途中の入退社や給与改定だけでなく、欠勤控除の計算にも連動します。たとえば「入退社は暦日方式で計算するが、欠勤控除は所定労働日数方式で行う」という運用も不可能ではありませんが、社員への説明が複雑になり、給与明細を見た際に疑問を持たれやすくなります。原則として同じ方式に統一することで、運用の透明性が高まります。
就業規則への日割り計算の正しい書き方
給与の日割り計算方式は就業規則に明記することが必要です。方式が特定できない曖昧な記述では、労使トラブルの際に会社側の根拠になりません。記載すべき要素と記載例を確認しておきましょう。
記載すべき4つの要素
就業規則に日割り計算の条項を設ける際は、以下の4点を盛り込むことで、後から解釈が分かれるリスクを防げます。
- 日割り計算が発生する場面(月途中の入社・退職・給与改定・欠勤控除など)
- 採用する計算方式(暦日方式・所定労働日数方式・固定日数方式のいずれか)
- 端数処理のルール(円未満切り捨て・四捨五入など)
- 昇給・降給が月途中にある場合の起算日ルール(発令日当日から適用か翌日からか)
記載例(暦日方式の場合)
「月額給与の日割り計算が必要な場合(月の途中における入社・退職・給与改定時を含む)は、その月の暦日数を除数として計算する。計算式は『月額給与÷当該月の暦日数×対象日数』とし、円未満の端数は切り捨てとする。なお、欠勤控除についても同様の方式を適用する。」
既存の就業規則を確認するポイント
現在の就業規則に「必要に応じて日割り計算する」とだけ書かれている場合は、早急に改訂が必要です。また、就業規則の記載と給与計算ソフトのデフォルト設定が一致していないケースも多く見られます。たとえば就業規則には「所定労働日数方式」と書いてあるのに、給与ソフトが暦日方式で自動計算されている場合、毎月の給与が規則と異なる処理になっている可能性があります。就業規則の見直しと同時に、給与計算ソフトの設定確認も必ず行ってください。従業員数10名未満で就業規則の作成義務がない会社であっても、雇用契約書や労働条件通知書に計算方式を明記しておくことを強く推奨します。
会社規模・状況別の判断ガイド
どの方式を採用すべきかは、会社の規模や雇用形態、運用の手間とのバランスで判断します。以下の観点を参考に、自社に合った給与日割り計算方式を選んでください。
採用方式を選ぶときの判断軸
入退社や給与改定が頻繁に発生する会社では、「暦日方式」が実務的に扱いやすいケースが多いです。月ごとに日数が変わっても、カレンダーを見れば誰でも計算できるため、担当者が変わっても引き継ぎやすいメリットがあります。一方、変形労働時間制を採用している会社や、会社独自のカレンダー(特定曜日休み、工場カレンダーなど)で動いている会社は、「所定労働日数方式」のほうが実態に即した計算ができます。給与計算の手間をとにかく減らしたい場合は「固定日数方式」が候補になりますが、実態との乖離が出やすいため、社員への丁寧な説明が求められます。
就業規則がない・見直し時期にある場合の優先順位
就業規則がまだ整備できていない会社、または古い就業規則を使い続けている会社は、給与の日割り計算方式の明記を就業規則整備の優先課題のひとつとして位置づけてください。特に退職時の給与計算は、社員との認識のズレがトラブルに発展しやすい場面です。退職後に「日割りの計算方法がおかしい」として労基署への相談や少額訴訟に至った事例も存在します。方式の選定と就業規則への明文化は、採用・退職が重なる時期(年度替わりや人事異動シーズン)が来る前に済ませておくのが理想です。
まとめ
給与の日割り計算方式に「法律で定められた正解」はありません。ただし、会社が方式を選び、就業規則に明記することは労働基準法第89条で求められている義務です。主な方式は「暣日方式」「所定労働日数方式」「固定日数方式」の3つで、それぞれ計算の基準となる日数と特徴が異なります。方式を選んだら、入退社・給与改定・欠勤控除を同じ方式で統一し、端数処理や発令日の起算ルールまで含めて就業規則に書き込むことが重要です。また、給与計算ソフトの設定が就業規則と一致しているかの確認も忘れずに行ってください。
人事に関する疑問や判断が難しい場面は、一人で抱えず相談することが重要です。「就業規則の日割り計算条項をどう書くか」「給与ソフトの設定が本当に正しいのか」といった具体的な課題について、ウェルセンス株式会社では実務レベルのサポートを提供しています。専任人事がいない状況でも、現場に寄り添ったアドバイスが可能です。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


