在宅勤務中のメンタル不調社員の勤怠管理に迷ったら

在宅勤務中のメンタル不調社員の勤怠管理に迷ったら メンタルヘルス対応
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「チャットを送っても既読にならない。電話も出ない。でも、休んでいるとも言っていない——」在宅勤務中のメンタル不調社員への対応で、こんな場面に直面したことはありませんか。オフィス勤務なら上司が声をかけられますが、在宅では状況の把握すら難しい。しかも「どう対応すれば法的に正しいのか」を確認できる社内ルールもない、という企業が少なくありません。この記事では、在宅勤務中のメンタル不調社員に対する勤怠管理のルールを、就業規則にどう落とし込むかを、実務の視点から整理します。

在宅勤務とメンタル不調が重なると何が起きるか

在宅勤務中にメンタル不調が生じた場合、「状態の悪化」と「勤怠の乱れ」が同時に起きやすく、どちらが先かの判断が難しくなります。まずこの二重の難しさを整理しておきましょう。

「働いているのか休んでいるのか」がわからない

オフィスなら席にいるかどうかで在席確認ができます。しかし在宅では、始業・終業の申告が本人任せになりがちです。メンタル不調の社員の場合、意欲・集中力の低下から「なんとなく席に座っているが実質的には機能していない」という状態が長く続くことがあります。逆に、本人が「働けている」と感じていても過少申告になっているケースもあります。労働時間の実態が見えないまま放置すると、後から「未払い残業があった」「過重労働を黙認していた」という問題に発展するリスクがあります。

連絡が取れなくなったとき、何もできない

不調が深刻化すると、チャットの既読がつかない、電話に出ないという状況が起きます。このとき、「連絡を重ねたらハラスメントと言われないか」という不安から対応が止まってしまうケースが多く見られます。しかし、労働契約法第5条が定める安全配慮義務(使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務)は、在宅勤務中も適用されます。「在宅だから把握できなかった」は義務違反の免責にはなりません。

就業規則がオフィス前提のままになっている

テレワーク導入後も就業規則を更新していない企業、あるいは「テレワーク規程」を作成したものの一般社員向けの内容にとどまり、メンタル不調者への対応手順を盛り込んでいない企業は多くあります。ルールがなければ、管理職も人事担当者も「何をしてよいか・何をしてはいけないか」の判断軸を持てません。

就業規則に明文化すべき5つの項目

在宅勤務中のメンタル不調社員への対応は、就業規則またはテレワーク規程に以下の5項目を明記することで、会社と社員双方の行動基準が定まります。

項目 定めるべき内容
始業・終業の報告方法 使用するツール・報告のタイムリミットを明記
中間連絡のルール 何時間以内に応答がない場合に連絡するか
不応答時の対応フロー 上長→緊急連絡先→自宅確認の順序を規定
在宅勤務継続の可否判断基準 誰が・何をもとに継続可否を判断するか
休職移行の要件・手続き 在宅勤務中でも休職規程が適用される旨を明示

始業・終業と中間連絡のルール

始業時刻から30分以内に所定のチャットツールで報告する、終業時には業務日報をメール送信するなど、方法・タイミング・手段を具体的に決めます。あいまいな文言(「適宜報告すること」など)では運用できません。中間連絡については、「2時間以上応答がない場合、直属上長は電話で状況確認を行う」のように時間の目安を設けることで、過剰介入とも放置とも評価されない適切な対応の根拠になります。

不応答時の対応フローと休職移行の基準

上長への連絡→緊急連絡先(本人が届け出た家族など)への確認→必要に応じた自宅確認、という段階的なフローをあらかじめ文書化しておきます。「会社が自宅を確認する」という行動は、ルールがなければハラスメントと受け取られかねませんが、就業規則に根拠があれば安全配慮義務の履行として正当化できます。また、「在宅勤務中の社員であっても、所定の要件を満たした場合は休職を命じることができる」という条文を明示しておかないと、在宅のまま不調が長期化するケースが生じます。

テレワーク規程とメイン就業規則の連結

テレワーク規程を別規程として整備している場合は、「本規程に定めのない事項は就業規則の定めによる」という連結条項を入れることが重要です。これにより、休職・復職手続きは既存の就業規則に基づいて処理でき、規程間の矛盾や抜け穴を防ぐことができます。なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更・新設に届出義務があります(労働基準法第89条)。

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連絡が取れない社員への対応:放置と過剰介入の間

連絡不通の社員に対しては、「一定時間内に段階的な確認を行う」というフローを会社として決めておくことが、法的リスクを最小化する最善策です。

「放置」が安全配慮義務違反になるリスク

在宅勤務中に連絡が取れなくなった社員を数日間そのままにしておき、後から状態が重篤化していたことが判明した場合、使用者は安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を問われる可能性があります。「本人から連絡がなかった」「在宅だから状況がわからなかった」という事情は、免責の理由にはなりません。特に、過去にメンタル不調の兆候があった社員については、より積極的な状況確認が求められます。

「過剰介入」がハラスメントと評価されるリスク

一方、1時間ごとに電話をかける、深夜にメッセージを送る、といった対応は、不当な監視・心理的圧迫として問題になり得ます。重要なのは「ルールに基づいた合理的な範囲内の確認」であることを記録で示せることです。就業規則に「2時間応答がない場合は電話で確認する」と定めてあれば、その通りに動くことで会社の行動は正当化されます。対応した日時・内容・結果を記録しておく習慣も、トラブル防止に有効です。

判断に迷う場合は、産業医や労務の専門家に状況を相談することで、適切な対応の根拠が得られ、後の紛争予防にもつながります。

主治医の「在宅なら復帰可」という診断書への正しい対応

主治医から「在宅勤務であれば復帰可能」と記載された診断書を受け取っても、そのまま受け入れるだけでは不十分です。使用者には独自の就労可否判断の責任があります。

診断書はあくまで「医学的見解」

主治医は患者の症状・経過を把握していますが、その社員が担う具体的な業務内容・責任範囲・職場環境については十分な情報を持っていない場合がほとんどです。診断書は「医学的に在宅勤務が可能な状態である」という見解であり、「当該業務を在宅で遂行できる」という業務適性の判断ではありません。最高裁の片山組事件(平成10年)では、労働者が特定の業務に就けない場合でも、他の業務への配置可能性を含めて使用者が就労可否を判断すべきとされており、使用者側が主体的に判断する義務があることが示されています。

受け入れる前に確認・整備すること

在宅復職を認める場合は、まず前述の勤怠管理ルールが整備されているかを確認します。次に、業務の範囲・量・コミュニケーション頻度など、在宅復職の条件を書面で合意します。産業医がいる場合は産業医の意見も取得してください。産業医の選任義務がない規模(常時50人未満)の企業でも、地域の産業保健総合支援センターの無料相談を活用することができます。試し出勤的な段階的復帰(リハビリ勤務)についても、就業規則に根拠があれば運用しやすくなります。

会社規模・状況別:今すぐ着手すべきこと

対応の優先順位は、会社の規模や現状の就業規則の整備状況によって変わります。自社の状況に照らして確認してください。

就業規則がない・テレワーク規程が未整備の場合

常時10人以上の従業員がいる場合、就業規則の作成・届出は法的義務です(労働基準法第89条)。まだ整備していない場合は、在宅勤務ルールの前に就業規則の基本部分から整備する必要があります。社労士への依頼が現実的ですが、「何をお願いすれば良いか」の整理が難しい場合は、メンタルヘルスや労務に詳しい外部支援者に相談しながら進める方法もあります。

就業規則はあるがテレワーク規程がない場合

最低限、「テレワーク勤務における始業・終業報告の方法」「不応答時の対応フロー」「休職規程の適用範囲」の3点を就業規則の附則または別規程として追加することを検討してください。条文のたたき台(文例)は、厚生労働省「テレワークモデル就業規則」を参考にしながら、自社の実態に合わせて調整します。

産業医がいる・いないによる対応の違い

常時50人以上の従業員がいる事業場は産業医の選任義務があり、在宅復職の可否判断や状態悪化時の対応で産業医の意見が重要な役割を果たします。50人未満の事業場では選任義務はありませんが、地域の産業保健総合支援センター(産保センター)では無料で産業医・保健師への相談ができます。外部の専門家サービスを活用することも、専任人事のいない中小企業では現実的な選択肢の一つです。

ルール作成と実運用は両輪です。就業規則に定めた後、実際の事例でどう判断するか、人事だけで抱え込まず外部の知見を活用することで、より適切な対応が可能になります。

まとめ

在宅勤務中のメンタル不調社員への対応で迷う根本的な原因は、「ルールがないこと」です。労働時間の把握義務(労働安全衛生法第66条の8の3)や安全配慮義務(労働契約法第5条)は在宅勤務でも適用されますが、その義務を果たすための仕組みが就業規則やテレワーク規程として整備されていなければ、担当者は毎回「どこまでやるべきか」を判断しなければなりません。まず始業・終業報告のルール、不応答時の対応フロー、休職移行の基準の3点を文書化することが出発点です。診断書への対応や在宅復職の受け入れ判断は、ルールが整って初めて適切にできるものです。「自社に当てはめるとどうなるか」の整理に迷ったとき、ウェルセンス株式会社では中小企業の実情に合わせたメンタルヘルス対応・就業規則整備のご相談をお受けしています。一人で抱え込まずに、まず状況をお聞かせください。

よくある質問

Q. 在宅勤務中の社員に対しても、出退勤の客観的な記録が必要ですか?

A. 必要です。労働安全衛生法第66条の8の3および同規則第52条の7の3により、使用者は裁量労働制の適用者を除いて労働者の労働時間を客観的な方法で把握する義務があります。在宅勤務であっても同様で、本人の申告のみに頼ることは原則として認められていません。PCのログイン・ログオフ記録、業務システムのアクセス履歴、始業・終業報告のチャット履歴などを組み合わせた記録管理が求められます。

Q. 在宅勤務中に連絡が取れなくなった社員に、会社が自宅を確認しに行くことは問題ありませんか?

A. 就業規則やテレワーク規程に「連絡不通時の対応フロー」が定められており、その手順に従って行動する場合は、安全配慮義務の履行として正当化できます。ただし、いきなり自宅確認に向かうのではなく、「上長からの連絡→緊急連絡先への確認→自宅確認」という段階を踏むことが重要です。ルールなしに自宅確認を行うと、プライバシー侵害やハラスメントと評価されるリスクがあります。

Q. 主治医が「在宅勤務なら復帰可能」と書いた診断書を持参されました。そのまま受け入れなければなりませんか?

A. 診断書の内容をそのまま受け入れる義務はありません。主治医の診断書は医学的な見解であり、業務遂行能力の判断は使用者側が行う責任があります。片山組事件(最高裁・平成10年)の考え方も踏まえ、実際の業務内容・量・コミュニケーション頻度などを踏まえて、会社として就労可否を独自に判断することが求められます。産業医がいる場合は意見書を取得し、いない場合は産業保健総合支援センターへの相談も活用してください。

Q. テレワーク規程を新たに作った場合、労働基準監督署への届出は必要ですか?

A. 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則(およびその別規程として位置づけられるテレワーク規程)の作成・変更には労働基準監督署への届出が必要です(労働基準法第89条)。10人未満の事業場には届出義務はありませんが、ルールを書面で整備しておくこと自体は、トラブル防止の観点から強く推奨されます。

Q. 従業員が30名程度で専任の人事担当者がいません。就業規則の整備はどこに相談すればよいですか?

A. 社会保険労務士(社労士)への依頼が基本的な選択肢ですが、メンタルヘルス対応や在宅勤務ルールを含めた整備を一体的に進める場合は、労務と産業保健の両方に知見を持つ支援者に相談するとスムーズです。ウェルセンス株式会社では、中小企業の人事担当者が抱える「何から手をつければいいかわからない」という段階からのご相談を受け付けています。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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