月曜日の朝、夏季休暇明けの出社日。社員から「体調が優れず出社できません」と連絡が入った。翌日も、その翌日も同じメッセージが届く。「サボりなのか、それとも本当に体調が悪いのか」「どう対応すれば会社として正しいのか」——専任の人事担当がいない職場では、こうした事態が突然降りかかり、誰が何をすべきか判断できないまま時間だけが過ぎていきます。この記事では、夏季休暇明けに社員が仕事に戻れない状態になったとき、会社として取るべき対応を実務的なステップで整理します。初動から法的リスクの回避、周囲の社員への配慮まで、実践できる手順を確認してください。
「仕事に戻れない」は意志の問題とは限らない
夏季休暇明けに出社できない社員が出たとき、まず理解しておくべきことがあります。それは、「本人の気持ちの問題」「気合いで解決できる」と決めつけることが、対応を大きく誤らせる最初のリスクだということです。
夏版の五月病と医学的な不調の違い
「リゾート症候群」「夏版の五月病」という言葉があるように、休暇明けに気分が上がらない・仕事モードに戻れないという状態は誰にでも起こりえます。ただし、これが数日で解消されるものなのか、それとも適応障害・うつ病・パニック障害などの症状の入り口なのかは、本人の自覚だけでは判断できません。「もう少し頑張れば戻れるはず」という認識のまま受診勧奨を遅らせると、症状が長期化し休職期間が長引くリスクが高まります。
不調のサインを見分けるポイント
以下のいずれかが当てはまる場合、単なる休暇後の倦怠感ではなくメンタルヘルス上の不調が背景にある可能性を考える必要があります。
- 連絡が不規則・返答に数時間〜翌日以上かかる
- 「体調不良」の説明が曖昧で、具体的な症状を言えない
- 休暇前から遅刻・ミスの増加・業務の滞りがあった
- 「出社しようとすると身体が動かない」「電車に乗れない」などを訴える
- 複数日にわたって同じ状態が続いている
こうしたサインが複数重なっている場合は、「様子を見る」よりも早期に次のアクションへ移ることが安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点からも求められます。
「知らなかった」は免責にならない
労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、「本人が何も言わなかった」「報告がなかった」だけでは免責されません。不調のサインを見落とし、適切な対応をしなかった結果として症状が悪化した場合、会社側の責任が問われることがあります。専任人事がいない企業ほど、「誰も気づかなかった」という状況が起きやすいため、管理職・経営者が基本的なサインの見方を共有しておくことが重要です。
初動で「誰が・何を」するかを決める
対応が遅れる最大の原因は、役割の曖昧さです。専任人事がいない場合、経営者・総務担当・直属の上司の誰もが「自分がやるべきか」と迷い、初動が遅れます。まず最初に、対応する担当者を1名明確にしてください。
連絡窓口を一本化する
出社できない社員への連絡は、原則として1名の担当者(多くの場合は直属の上司か経営者)が行います。複数人から連絡が届く状況は、社員にとって大きな心理的プレッシャーになります。窓口を一本化することで、社員側も「この人に連絡すればよい」という安心感を持ちやすくなります。
初回連絡で確認すべきこと
初回の連絡では、責めるトーンを避け、事実確認と体調の把握を優先します。確認すべき事項は主に3点です。現在の体調の状態(受診しているか・していないか)、いつ頃から出社できそうか(本人の見通し)、必要なサポートがあるかどうか。この段階では、「なぜ出社できないのか」を問い詰めるのではなく、「会社として状況を把握したい」という姿勢で話すことが重要です。
記録を残す習慣を今すぐ始める
初動の段階から、連絡の日時・内容・本人の発言を記録に残してください。「口頭で伝えた」「メッセージを送った」という事実が後になって証跡として機能します。後に労働紛争やトラブルになった場合、会社側が適切に対応していたことを示せるかどうかは、この記録の有無にかかっています。メール・チャットのログを保存するか、電話した場合は日時と概要をメモとして保管してください。
受診勧奨と診断書の求め方
欠勤が数日続き、本人から明確な回復の見通しが得られない場合は、受診を勧めるステップに進みます。会社が業務上の必要性に基づいて受診勧奨を行い、診断書の提出を求めることは一般的に認められています。
受診勧奨は「命令」ではなく「配慮」として伝える
「受診してください」と一方的に伝えるのではなく、「会社として心配しているので、一度専門家に診てもらえると安心です」という配慮のメッセージとして伝えることが重要です。特定の医療機関を強制したり、無理やり連れて行くような対応は問題になりえます。本人が「かかりつけ医がいない」という場合は、地域の精神科・心療内科への相談窓口を案内するだけで十分です。
診断書の提出を求めるタイミング
欠勤が継続する場合、会社として診断書の提出を求めることは適切な対応です。「診断書を提出していただけますか」と依頼すること自体はパワハラには当たりません。ただし、診断書の提出を求める際は、就業規則にその旨が明記されていることが理想的です。就業規則に規定がない場合でも業務上の必要性を説明したうえで依頼することは可能ですが、今後のトラブル予防のためにも規定の整備を検討してください。
診断書をそのまま採用することの落とし穴
「診断書が出たら自動的に休職、復職可なら自動的に復職」と考えていると、後々問題が起きやすくなります。主治医は患者本人の利益を優先して判断するため、職場の業務量・人間関係・環境などを十分に考慮しないまま「復職可」の診断書を書くケースがあります。会社は診断書の内容を参考にしつつも、産業医や外部の専門家の意見も踏まえた独自の判断を行う手順を持つことが重要です。この仕組みがないと「復職させたらすぐ再休職」という繰り返しが起きやすくなります。
休職発令と就業規則の確認
医師の診断によりメンタルヘルス上の不調が確認された場合は、休職の発令を検討します。ここで多くの中小企業が直面するのが「就業規則の休職規定が曖昧」という問題です。
休職は法律上の制度ではない
休職は労働基準法などの法律で定められた制度ではなく、会社が就業規則で任意に設ける制度です。そのため、就業規則に休職の発令要件・休職期間・休職満了時の扱い(自動退職か解雇かなど)が明記されていないと、発令のタイミングや手続きで会社・社員の双方にとって不利益が生じます。常時10名以上の事業場では就業規則の作成・変更には労働基準監督署への届出が必要ですので、規定の見直しを行う場合はこの点も確認してください。
休職中の処遇を明確にしておく
休職期間中の賃金(無給・有給・一部支給など)、社会保険料の負担、復職に向けた手続きの流れなどは、あらかじめ就業規則や休職発令書に明記しておく必要があります。「口頭で説明した」だけでは、後に「聞いていなかった」とトラブルになることがあります。健康保険の傷病手当金(業務外の傷病により連続3日以上休業した場合に申請可能)についても、本人に案内できるように情報を整理しておくと親切です。
解雇は最後の手段——不当解雇リスクを理解する
「無断欠勤が続くから解雇できる」という判断は非常に危険です。労働契約法第16条が定める解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は無効とされます。休職制度を経ずに欠勤を理由として解雇することは、後の労働紛争の原因になりやすく、不当解雇として争われるケースも少なくありません。解雇を検討する前に、休職制度の活用・復職支援の試みを行うことが法的リスク回避の観点からも重要です。
産業医・外部専門家の活用と周囲への配慮
20〜50名規模の企業では産業医の選任義務がないケースが多いですが、外部の専門家を活用する選択肢は存在します。また、休職者が出た際の周囲の社員への対応も、企業として考えておくべき重要な課題です。
産業医義務なし企業でもできること
産業医の選任義務は常時50名以上の事業場から発生します(労働安全衛生法第13条)。50名未満の企業では義務はありませんが、任意で産業医や外部のメンタルヘルス支援機関と契約・相談関係を持つことは可能です。地域の産業保健総合支援センターでは、中小企業向けの無料相談を提供しているところもあります。専門家への相談ルートを1つでも確保しておくことが、いざというときの初動の速さに直結します。
社員の健康情報は要配慮個人情報
休職している社員の病名・受診状況・診断書の内容は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。管理職や同僚に対して、本人の了解なしに病名などを開示することは原則として避けてください。周囲への説明は「本人の体調上の理由で一時的に休んでいる」という範囲にとどめ、詳細は本人のプライバシーとして保護するのが適切な運用です。
残った社員の負担と士気への対応
メンバーが休職すると、残った社員に業務が集中し、不満・疲弊・不安が広がりやすくなります。経営者や管理職は、業務の再配分・優先順位の整理・必要であれば一時的な外部リソースの活用を検討してください。また「なぜ休んでいるのか」という問いに対して、プライバシーを守りつつ「会社として適切に対応している」という姿勢を示すことが、チーム全体の安心感につながります。
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対応の全体像を整理する
夏季休暇明けに社員が戻れない状態になったとき、会社が取るべき対応の流れを整理すると、以下のようになります。状況によって分岐しますが、基本の順序として参照してください。
| フェーズ | 主なアクション | 注意点 |
|---|---|---|
| 初動(1〜2日目) | 担当者を一本化して状況把握・記録開始 | 複数人からの連絡は避ける |
| 継続欠勤(3〜5日目) | 受診勧奨・診断書提出の依頼 | 強制・特定医療機関への誘導はNG |
| 診断後 | 就業規則の休職規定を確認・休職発令の検討 | 診断書をそのまま採用しない。会社独自の判断も必要 |
| 休職中 | 定期的な状況確認・復職支援の準備 | 健康情報の管理・周囲への情報開示の範囲を守る |
| 復職検討時 | 産業医または外部専門家の意見を踏まえた復職判断 | 主治医の「復職可」だけで自動復職させない |
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まとめ
夏季休暇明けに社員が仕事に戻れない状態になったとき、「サボりか病気か」という判断の前に、まず対応担当者を決め、記録を残しながら段階的に対応を進めることが重要です。安全配慮義務の観点から「知らなかった・放置していた」は免責になりません。受診勧奨・診断書の取得・休職発令・復職判断のそれぞれの場面で、就業規則の規定・法的リスク・プライバシーへの配慮を踏まえた対応が求められます。
「就業規則に休職規定がない」「産業医とのつながりがない」「誰に相談すればいいかわからない」という状況でも、専門家のサポートを活用することで、一つひとつの課題を整理していくことができます。ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業が直面するメンタルヘルス対応・休職復職支援・就業規則の整備に関する相談をお受けしています。「うちの会社のケースはどう対応すればいいか」という具体的な状況をもとに、一緒に考えていきますので、ご相談ください。
よくある質問
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