同一労働同一賃金、中小企業が最低限おさえる7つのチェックポイント

同一労働同一賃金、中小企業が最低限おさえる7つのチェックポイント 人事制度
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「パートさんには通勤手当を出していないけど、これって問題になるんだろうか」——日々の業務に追われながら、ふとそんな不安が頭をよぎる経営者・人事担当者の方は少なくありません。パートタイム・有期雇用労働法が中小企業にも全面適用されてから数年が経ちますが、「なんとなく対応している気がする」という状態のまま、具体的な確認ができていないケースが多いのが実情です。この記事では、20〜50名規模の企業が最低限押さえるべき7つのチェックポイントを、法的根拠とあわせて実務的に整理します。

同一労働同一賃金とは何か、中小企業が知っておくべき前提

同一労働同一賃金とは、「正社員とパート・有期雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けてはならない」というルールです。大企業向けの話だと思われがちですが、2021年4月1日から中小企業にも全面適用されており、今や規模を問わず対応が求められています。

根拠となる法律

このルールの根拠は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)」です。旧称はパートタイム労働法でしたが、2020年の改正で有期雇用労働者(契約社員など)も対象に加わりました。特に重要なのは以下の三つの条文です。

条文内容違反した場合のリスク
第8条不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)損害賠償請求の対象になる
第9条差別的取扱いの禁止(均等待遇)※職務内容・配置変更範囲が同一の場合同上
第14条待遇の説明義務行政指導の対象になる

「違いがあってはいけない」ではなく「合理的な違いか」が問われる

よくある誤解として、「正社員とパートの待遇はすべて同じにしなければならない」という思い込みがあります。法律が求めているのは「均等」と「均衡」の二段階です。職務内容や配置転換の範囲がまったく同じ場合は均等(差をつけてはいけない)が求められますが、違いがある場合でも「その違いの程度に見合ったバランスの取れた待遇」が必要とされます。つまり、「違いに見合った差かどうか」が常に問われます。

判断の三要素を理解する

待遇差が合理的かどうかは、以下の三つの要素を比較して判断します。まず「職務の内容」(業務の種類と責任の程度)、次に「職務の内容及び配置の変更の範囲」(転勤・昇進の有無など)、そして「その他の事情」(採用経緯・職務経験など)です。この三要素に「相違がある」ことが、待遇差の合理的な根拠になりえます。ただし、「うちは正社員に転勤がある」という一点だけで、あらゆる待遇差が正当化されるわけではありません。

自社の対応状況を確認する7つのチェックポイント

対応できているかどうかを確認するには、待遇項目ごとに「正社員との差の有無」と「その差に合理的な理由があるか」を整理することが出発点です。以下の7項目が、中小企業で特に見落とされやすいポイントです。

通勤手当・各種手当の扱い

通勤手当は「業務のために通勤する」という事実に基づいて支給されるものです。そのため、正社員には支給してパートには支給しないという運用は、合理的な説明が非常に難しい待遇差とされています。厚生労働省のガイドラインでも、通勤手当・出張旅費については「業務上発生するものは正当な理由なく差をつけることは困難」と明示されています。同様に、食事手当や精皆勤手当なども支給の「趣旨・目的」が同じであれば、同じ基準で支給することが求められます。

賞与・退職金の支給方針

「賞与は正社員だけに出している」という会社は多いですが、これは一律に問題があるわけではありません。ただし、支給の趣旨(例:会社の業績への貢献に報いるもの)に照らして、パート・有期雇用労働者の貢献を一切無視していると、不合理と判断されるリスクがあります。大阪医科薬科大学事件(最高裁令和2年10月13日)では、アルバイトへの賞与不支給が「不合理とまでは言えない」と判断されましたが、これは判例の事情が特殊であり、「うちも同じように大丈夫」とは言えません。退職金についても、メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日)が参考になりますが、同様の理由で安易に「問題なし」とは判断できません。

特別休暇・福利厚生の利用

慶弔休暇・病気休暇・夏季休暇などの特別休暇を正社員にのみ付与している場合、問題になりやすい項目です。日本郵便事件(最高裁令和2年10月15日)では、有期雇用労働者への夏期冬期休暇の不付与が不合理と判断されました。また、食堂・更衣室・休憩室などの福利厚生施設の利用をパートに制限することも、原則として許されません。従業員が少ない会社ほど「そもそも制度がない」ケースがありますが、その場合も同様の考え方が適用されます。

教育訓練の機会

同じ職務を遂行するために必要な教育訓練は、パート・有期雇用労働者にも同等の機会を提供することが求められます。「正社員だけ研修に行かせている」「マニュアルすら渡していない」という状態は、対応が必要な可能性があります。

法的リスクが高い項目でも、個別の事情によって対応方法は変わります。「うちの場合はどう判断すればいいのか」と迷ったら、専門家に相談することで、的確なアドバイスが得られます。

待遇差の説明義務への対応

第14条に基づき、パート・有期雇用労働者から「なぜ正社員と待遇が違うのか」と質問された場合、会社には説明する義務があります。「そんなことを聞いてくる人はいない」という状況でも、問われたときに答えられない状態は義務違反です。説明できないということは、合理的な根拠がないとも解釈されます。

就業規則・雇用契約書の整備

待遇差の根拠は書面で明示されていなければなりません。「口頭でそう決めている」「昔からそうだった」では、いざトラブルになったときに対応できません。パートや有期雇用労働者向けの就業規則(または正社員就業規則への別段の定め)が整備されているか確認してください。

比較対象となる正社員の整理

自社内に「比較対象となる正社員」がいるかどうかを整理することも重要です。職種・職務内容が異なる正社員しかいない場合でも、「その職務の内容・責任の程度の差がどの程度か」が問われます。特に少人数の会社では、正社員もパートも同じような業務をしているケースが多く、差をつけにくい状況になっていることがあります。

問題が見つかった場合の優先順位と対処の考え方

すべての待遇差を一度に是正するのは現実的ではありません。リスクの高さと改善のしやすさを軸に、優先順位をつけて対応することが現実的です。

まず手をつけるべき項目

優先度が最も高いのは、合理的な説明がほぼ不可能な待遇差です。通勤手当の不支給・福利厚生施設の利用制限・業務に必要な教育訓練の差は、正当な理由を作ることが難しく、トラブルになった場合の損害賠償リスクも高い項目です。これらはまず見直しの対象にしてください。

次に整理すべき書面と説明体制

次に取り組むべきは、就業規則・雇用契約書の整備と、説明義務への対応準備です。待遇差に合理的な理由があるとしても、それが書面に落とされていなければ意味をなしません。「なぜこの差があるのか」を文章で説明できる状態を作ることが、法的リスクの軽減に直結します。

賞与・退職金は慎重に検討する

賞与や退職金の是正は、財務への影響が大きいため、慎重な検討が必要です。いきなり「パートにも全額支給」とするのではなく、労働時間や職務内容に応じた比例的な支給基準を設けることが現実的な対応です。ただし、この領域は判例の積み重ねで解釈が変わる部分でもあるため、専門家への相談を強くお勧めします。

「感覚」で差をつけることが一番のリスク

法的に問題になるのは、「差があること」よりも「差に合理的な説明ができないこと」です。長年の慣行や感覚で差をつけてきた場合、それが法的に通用するかどうかを一度棚卸しすることが不可欠です。

「昔からそうだった」では通用しない

「うちは創業当時からパートには手当を出していない」という状況は、多くの中小企業で見られます。しかし法律が変わった今、過去の慣行は法的な根拠にはなりません。労働者から指摘された場合、あるいは退職後に請求された場合に、対応できる状態を作っておく必要があります。

退職後のトラブルが増えている

在職中は何も言わなかった従業員が、退職後に待遇差に関する請求を行うケースは珍しくありません。内容証明郵便での請求や労基署への申告、労働審判といった手段は、退職後でも利用可能です。「今は問題なさそう」という状態は、リスクがないことを意味しません。

自社の状況に合わせた判断が必要

正社員が10名でパートが5名の会社と、正社員30名・パート10名の会社では、比較対象の整理も是正のアプローチも変わります。就業規則が複数ある場合・ない場合でも対応方法は異なります。「うちはどのレベルから手をつければいいのか」は、会社の規模・雇用形態の構成・現在の就業規則の状態によって変わるため、一律の答えはありません。

複数の雇用形態を抱える中小企業こそ、人事労務の整理をプロと一緒に行うことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

まとめ

同一労働同一賃金への対応は、「全部やらなければならない」という気負いではなく、「まず現状を把握し、リスクの高いところから整備する」という姿勢で進めることが大切です。通勤手当・福利厚生・説明義務への対応から始め、就業規則の整備、賞与・退職金の検討へと順を追って取り組むことで、現実的な対応が可能になります。

ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業の経営者・兼務人事担当者の方に向けて、こうした人事労務の課題整理をサポートしています。「うちの会社、どこから手をつければいいのかわからない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。現状のヒアリングから優先順位の整理まで、一緒に考えます。

よくある質問

Q. パートと正社員の仕事内容が違えば、どんな待遇差も許されますか?

A. 仕事内容や責任の範囲・配置転換の有無に違いがあれば、一定の待遇差は認められます。ただし「違いに見合った差かどうか」が常に問われます。職務内容が少し違うだけで、すべての手当や福利厚生の差が正当化されるわけではありません。待遇ごとに個別の合理的理由が必要です。

Q. パートから「なぜ正社員と待遇が違うのですか」と聞かれた場合、どう対応すればいいですか?

A. パートタイム・有期雇用労働法第14条により、会社には説明義務があります。「会社の方針だから」という回答では不十分です。職務内容・配置転換の範囲・その他の事情に照らした合理的な説明を、文書または口頭で行う必要があります。説明できない差は、法的リスクが高まります。

Q. 契約社員(有期雇用)は同一労働同一賃金の対象になりますか?

A. はい、対象になります。2020年の法改正により、パートタイム労働者だけでなく有期雇用労働者(契約社員・嘱託社員など)も同じ法律の適用を受けます。雇用形態にかかわらず、正社員と不合理な待遇差を設けることは禁止されています。

Q. 就業規則がパート・正社員で分かれていない場合、どう対応すればいいですか?

A. まず現行の就業規則がパートや有期雇用労働者にどう適用されているかを確認してください。正社員向けの就業規則しかない場合、パート・有期雇用労働者向けの別規則を作成するか、正社員向け規則に「パートへの適用に関する別段の定め」を設けることが必要です。就業規則の整備は義務違反の防止だけでなく、トラブル時の会社側の根拠にもなります。

Q. 対応が遅れた場合、過去にさかのぼって損害賠償を請求されることはありますか?

A. あります。不合理な待遇差は強行規定違反であり、退職後であっても時効の範囲内で損害賠償請求が可能です。賃金の時効は2020年の民法改正後、原則5年(当面は3年)に延長されています。「在職中に何も言わなかった」という事実は、請求を防ぐ根拠にはなりません。早期に対応状況を整理しておくことが重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました