就業規則・賃金・評価規程、整備すべき順番3ステップ

就業規則・賃金・評価規程、整備すべき順番3ステップ 人事制度
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「就業規則はひな形のまま。賃金の根拠は口頭の約束。評価基準は経営者の感覚……。いつか整えなければと思いながら、何年も経ってしまった」——人事専任を置けない規模の会社では、こうした状況が珍しくありません。問題は、どこから手をつければいいかです。就業規則・賃金規程・評価規程の3つを「まとめて一気に整備しよう」とすると、工数が読めずに動き出せません。この記事では、法的義務を起点に、現実的な3ステップで整備の優先順位を整理します。

法的義務がある規程とそうでない規程、まず区別する

整備の順番を決めるには、「法律で義務づけられているか」という軸を最初に確認する必要があります。この区別がつかないまま進めると、義務ではないものに工数をかけ、本当に整えるべきものが後回しになるというリスクがあります。

就業規則は「常時10人以上」で作成・届出が義務

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成と所轄労働基準監督署への届出を義務づけています。この「10人」のカウントには、正社員だけでなくパート・アルバイト・有期雇用者も含まれます。20〜50名規模の会社であれば、ほぼ例外なく対象です。

さらに、作成・届出だけでは不十分で、労働者への周知義務(第106条)も伴います。社員が実際に確認できる状態にしておくこと——掲示、配布、社内イントラへの掲載など——が必要です。

賃金規程は就業規則の一部として届出が必要

賃金に関する事項は、就業規則の「絶対的必要記載事項」(労働基準法第89条)に含まれます。実務上は「賃金規程」として別文書に切り出すことが多いですが、法的には就業規則の一部です。就業規則本則に「賃金に関する詳細は賃金規程による」と明記したうえで、賃金規程を添付して届け出ることで一体として機能します。つまり、賃金規程を整備することは、就業規則の整備と事実上セットです。

評価規程に法的作成義務はないが、リスクは存在する

人事考課規程・評価規程については、法令上の作成義務はありません。ただし、評価基準が書面化されていない状態で降格や減給を行うと、「恣意的な人事」として労働審判・訴訟で争点になりやすいという実務上のリスクがあります。労働契約法第3条が定める均衡・合理的な労働条件の観点からも、書面による基準の明確化は重要です。

規程の種類 法的義務 根拠 整備しない場合のリスク
就業規則 あり(常時10人以上) 労働基準法第89条・第90条 30万円以下の罰金、労基署是正勧告
賃金規程 あり(就業規則の一部) 労働基準法第89条 賃金トラブル時に根拠なし、未払い認定リスク
評価規程 なし (労働契約法第3条関連) 降格・減給への異議申立、訴訟での証拠不足

まず整えるべき就業規則、「名ばかり」状態を脱する

整備の出発点は就業規則です。法的義務であることに加え、賃金規程・評価規程の土台となるため、ここがしっかりしていないと後の規程が機能しません。

ひな形のまま使い続けることのリスク

インターネット上で入手できるひな形をそのまま届け出ている会社は少なくありません。しかし、ひな形は「最低限の内容」をカバーしているにすぎず、自社の実態——テレワーク、フレックスタイム、副業容認、育児短時間勤務の運用——と乖離していることが多いです。乖離がある状態では、いざトラブルが起きたときに「就業規則に書いていない」「実態と違う」と言われ、かえって会社側が不利になります。

絶対的必要記載事項の確認が最初の作業

就業規則を見直す際、まず確認するのは労働基準法第89条が定める「絶対的必要記載事項」が正確に記載されているかどうかです。

  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇(有給休暇の付与・取得手続きを含む)
  • 賃金の決定・計算・支払いの方法、締め日・支払日、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇事由を含む)

これらが抜けている、または曖昧な表現になっている場合は、修正・再届出が必要です。

作成・届出・周知の三点セットで初めて有効

よく見落とされるのが、周知の手続きです。就業規則は「作って届け出た」だけでは法的効力が完成しません。労働基準法第106条は、就業規則を常時各作業場の見やすい場所に掲示するか、書面を交付するか、電子データで閲覧可能にするかなど、労働者が実際に内容を確認できる方法での周知を求めています。社員が「見たこともない」という状態は、規程が存在していても機能していないのと同じです。

次に整える賃金規程、「口約束」を書面に落とす

就業規則が整ったら、次は賃金規程です。給与の根拠が属人的・口頭ベースのままでは、採用・昇給・離職のたびにトラブルの種になります。

賃金規程で定めるべき核心は「計算の根拠」

賃金規程が果たすべき最も重要な役割は、「この給与はどのように決まり、どのように計算されるか」を誰でも確認できるようにすることです。特に実務上のチェックポイントになるのは以下の点です。

  • 基本給の決定基準(等級・職種・経験年数など)
  • 各種手当の支給要件と金額(通勤手当、役職手当、家族手当など)
  • 割増賃金の計算方法(割増基礎賃金の算定方法を明記する)
  • 昇給・降給の基準と手続き
  • 賞与の有無と算定基準

割増基礎賃金の算定方法が曖昧な場合、未払い残業代請求の場面で算定根拠が争点になります。この点は特に注意が必要です。

最低賃金との整合確認を忘れない

賃金規程を整備する際、または既存の規程を見直す際には、必ず現行の最低賃金(地域別・産業別)と照合してください。最低賃金は毎年10月前後に改定されるため、数年前に作成したまま放置している規程は、気づかないうちに最低賃金法違反になっている可能性があります。特に手当を多く設定している場合、最低賃金の比較対象となる賃金の範囲の確認が必要です。

採用時の労働条件通知書との整合を確認する

賃金規程を整えるタイミングで、個別の労働条件通知書も合わせて点検してください。労働基準法第15条および同施行規則第5条は、採用時に法定13項目を書面等で明示することを義務づけています。賃金規程と通知書の内容が食い違っていると、個別の約束が優先されるケースがあり、思わぬトラブルの原因になります。

実際に「どの規程から始めたらよいか判断がつかない」「既存の規程が最新法に対応しているか不確実」という状況であれば、まずは現状診断だけでも専門家に相談することで、優先順位が明確になります。

最後に整える評価規程、「シンプルに始める」が続く秘訣

評価規程は法的義務ではありませんが、社員が10名を超えてくると「なぜこの給与なのか」「昇給の基準はどこにあるのか」という疑問が必ず出てきます。このタイミングで評価の枠組みを書面化しておくことが、離職防止と公正な人事の両面で有効です。

評価規程を「大プロジェクト」にしないための発想

評価制度の整備が先送りになる最大の理由は、「完璧なものを作ろうとする」ことです。等級定義・コンピテンシー評価・目標管理・フィードバック面談……と要素を積み上げていくと、専任コンサルタントを入れた数百万円規模のプロジェクトになりかねません。しかし、人事専任がいない中小企業に最初から必要なのは、そうした精緻なシステムではありません。

最初の評価規程に必要なのは、「何を・誰が・どのように・いつ評価するか」という4点を1枚〜2枚のシンプルな文書にまとめることです。評価項目は5〜7項目程度、評価サイクルは年2回、評価者は直属の上司、というシンプルな構造から始めて、運用しながら改善するほうが現実的です。

賃金規程と評価規程の連動設計が重要

評価規程を整えるうえで見落とされがちなのが、賃金規程との連動です。評価結果が昇給・賞与・等級変動にどう反映されるかが曖昧なままでは、「評価されたのに何も変わらない」という不満につながります。逆に、評価と処遇変動の連動ルールが明文化されていれば、降格・減給を行う際の根拠にもなり、労働紛争リスクを下げます。評価規程と賃金規程は、別々の文書であっても相互に参照できる構成にしておくことが重要です。

運用が続く設計かどうかを意識する

兼務人事担当者にとって最大の課題は「作った後に続くか」です。評価シートは紙1枚でもExcelでも構いません。重要なのは、評価サイクルが年間のスケジュールに組み込まれていて、誰が何月に何をするかが決まっていることです。更新・改訂の主担当も明確にしておかないと、数年後に「作りっぱなし」になります。毎年4月に内容を見直す、といったシンプルなルールを評価規程の末尾に一行入れておくだけで、形骸化を防ぎやすくなります。

整備の後に必要な「更新・維持」の視点

規程は一度作れば終わりではありません。「10年前に作ったまま」の就業規則は、法令との乖離が生じており、整備していない状態と同様のリスクをはらんでいます。

法改正への対応は定期的な確認が必要

近年だけでも、育児・介護休業法の改正(産後パパ育休の新設、2022年)、フレックスタイム制の清算期間延長、有給休暇の時季指定義務(2019年)など、労働関係法令は継続的に改正されています。就業規則がこれらの改正内容を反映していなければ、法令違反の状態になります。少なくとも年1回、法改正情報を確認して就業規則・賃金規程の内容を点検する習慣をつけることが重要です。

社員に不利な変更には手続きが必要

就業規則の内容を社員にとって不利益な方向に変更する場合、労働契約法第10条により、原則として労働者との合意、または変更の合理性と周知が求められます。一方的に変更・掲示するだけでは、後の紛争で変更の効力が否定されるリスクがあります。賃金の引き下げや休暇日数の削減など、不利益変更を伴う場合は、事前に専門家への相談を検討してください。

規程整備は「人事だけで決めなければならない」わけではありません。法改正への対応や不利益変更の手続きなど、判断に迷う場面では、早めにプロに相談することで、後々のトラブルを防ぐことができます。

まとめ

就業規則・賃金規程・評価規程の整備は、「法的義務かどうか」を軸に優先順位をつけることで、現実的に進められます。まず最初に取り組むのは就業規則の作成・届出・周知の三点セット、次に賃金規程による賃金計算根拠の明文化、そして最後に評価規程をシンプルな形から整備する——この順序が、人事専任を置けない中小企業にとって無理なく実行できる道筋です。いずれの規程も「作って終わり」ではなく、法改正への定期対応と運用継続の仕組みがセットで必要です。

「自社の状況でどこから手をつければいいかわからない」「既存の就業規則が実態に合っているか確認したい」という場合、ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の成長企業を対象に、規程整備から運用設計まで実態に合わせてサポートしています。まずは現状の確認だけでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 従業員が9人なので就業規則の作成義務はないと思っていますが、作らなくてもよいですか?

A. 常時9人以下の場合、労働基準法上の作成・届出義務はありません。ただし、義務がないことと「作らなくていい」は別です。就業規則がない状態では、労働条件の基準が曖昧になり、トラブル時に会社側が不利になるケースがあります。採用が増えて10人に達した時点で義務が生じるため、9人の段階から整備を始めておくことを推奨します。

Q. 就業規則と賃金規程は必ず別の文書にしなければいけませんか?

A. 法律上、別文書にする義務はありません。就業規則の本則に賃金に関する全事項を記載する形でも有効です。ただし、賃金規程を別文書にしておくほうが、改訂のたびに就業規則全体を届け出なくて済むなど実務上便利なケースが多く、従業員規模が大きくなるほど別規程として管理する会社が多いです。

Q. インターネットのひな形をそのまま使って届け出た場合、問題になりますか?

A. 届出自体は受理されますが、自社の実態(勤務形態・手当・休暇制度など)と乖離したまま使い続けることがリスクです。ひな形に書かれた内容が「就業規則で定めた労働条件」として効力を持つため、自社で導入していない制度が規程上は存在する、あるいは実際に運用している制度が規程に反映されていないという状況が生じます。トラブル時に会社側の主張が通りにくくなるケースがありますので、自社実態に合わせた修正が必要です。

Q. 評価規程を整備するのに、専門コンサルタントを入れる必要がありますか?

A. 必ずしも必要ではありません。最初は「何を・誰が・いつ・どのように評価するか」を明記したシンプルな1〜2枚の文書から始め、運用しながら改善していくアプローチが現実的です。ただし、賃金規程との連動設計(評価結果が昇給・降格にどう影響するか)や、不利益変更を伴う場合の手続きなど、法的な論点が絡む部分については、社労士や人事の専門家に確認を取ることをお勧めします。

Q. 就業規則を変更するたびに、毎回労働基準監督署に届け出る必要がありますか?

A. はい、就業規則を変更した場合には、変更後の就業規則を所轄労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。あわせて、変更内容を労働者に周知する手続きも必要です。なお、就業規則の内容を社員にとって不利益な方向に変更する場合は、届出・周知に加えて、労働者との合意または変更の合理性の確保が求められます(労働契約法第10条)。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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