介護休業の就業規則整備は義務?未対応の法的リスクとは

コンプライアンス

「介護で休みたいと言われたが、うちには介護休業の規定がない。どう対応すればいいのか」——中小企業の人事担当者から、こうした相談が増えています。専任の人事担当者がいない会社では、就業規則の整備が後回しになりがちです。しかし、介護休業に関する規定を設けていないことは、法的リスクと直結します。この記事では、中小企業にも適用される法定義務の範囲と、未整備のまま放置した場合の具体的なリスクを整理します。

介護休業・介護休暇は中小企業にも義務として適用される

結論からお伝えすると、介護休業・介護休暇の付与義務は、企業の規模に関わらずすべての事業主に適用されます。「従業員が少ないから関係ない」という認識は、法律上の誤りです。

「中小企業は対象外」という思い込みの危険性

かつて育児・介護休業法には、一定規模以下の中小企業に対して猶予規定が存在していましたが、現在はすべて撤廃されています。従業員が1人でもいる事業主であれば、法律で定められた介護休業・介護休暇を認める義務があります。20〜50名規模の成長企業であれば、当然に適用対象です。

介護休暇と介護休業の違いを正確に把握する

現場の混乱を防ぐために、まず二つの制度の違いを押さえておきましょう。

制度 主な目的 期間・回数 取得単位
介護休暇 通院付き添いなど突発的な介護対応 対象家族1人につき年5日(2人以上で年10日) 1日または時間単位
介護休業 介護体制を整えるための中長期休業 対象家族1人につき通算93日・3回まで分割可 まとまった期間

突発的な欠勤が続いている場合は「介護休暇」の範囲内の話であることが多く、中長期にわたって介護が必要になった場合に「介護休業」が活用されます。担当者が両者を混同したまま対応すると、社員の権利を侵害するリスクが生じます。

申出があったとき、会社は原則として断れない

法定の要件を満たす労働者(雇用期間の要件や介護対象者の範囲など)が介護休業・介護休暇を申し出た場合、会社は原則としてその申出を拒否できません。「今は繁忙期だから待ってほしい」「うちには規定がないから」という理由での拒否は、法律違反となります。

就業規則への記載は義務か——法的根拠を確認する

常時10人以上の労働者を雇用している事業場は、介護休業に関する事項を就業規則に記載する義務があります。これは育児・介護休業法ではなく、労働基準法第89条に基づく義務です。

就業規則記載義務の対象になる会社かどうかを確認する

判断基準はシンプルで、「常時10人以上の労働者を雇用しているかどうか」です。この記事を読んでいる20〜50名規模の企業は、全員が記載義務の対象に該当します。パートタイムや契約社員も常時雇用していれば人数に含まれるため、正規・非正規の区別なく合計人数で確認してください。

記載義務を果たしていない場合の法的リスク

就業規則に介護休業の規定を設けていない場合、労働基準監督署の調査が入った際に是正勧告を受ける可能性があります。また、就業規則への記載がなくても育児・介護休業法は法律として直接適用されるため、「就業規則に書いていないから認めなくていい」という主張は通りません。むしろ、規定がないまま申請を拒否した場合、法律違反として労使トラブルに発展するリスクが高まります。

法改正への対応漏れが潜在リスクになる

就業規則を数年間見直していない会社では、法改正への対応が漏れているケースが少なくありません。たとえば、介護休暇が時間単位で取得できるようになった改正(2021年1月施行)が反映されていない就業規則が、いまだに現場で使われているケースがあります。古い規定のまま運用していると、社員から「会社が正しい制度を案内してくれなかった」と主張される可能性もあります。

現場でよく起きる「落とし穴」と対処のポイント

法律の知識だけでなく、実務上の誤解が原因でトラブルになるケースも多くあります。特に注意が必要な二つの誤解を取り上げます。

「有給を使えばいい」という対応が法律違反になるケース

介護を理由に休もうとした社員に対して、「有給休暇で対応してください」と案内している会社は珍しくありません。しかしこの対応は、場合によって法律上の問題になります。介護休暇は有給休暇とは独立した法定の権利であり、社員が「介護休暇として取得したい」と申し出た場合には、有給休暇の消化を強制することはできません。有給残日数があるかどうかに関わらず、社員の選択を尊重する必要があります。

「規定がないから断れる」という誤解が招くトラブル

就業規則に介護休業の規定を設けていないことを理由に、申請を断ることはできません。育児・介護休業法は、就業規則の有無に関わらず、法律として直接すべての事業主に適用されます。規定がない状態のまま申出を拒否すれば、法律違反として都道府県労働局の指導対象となり、悪質な場合は企業名の公表も法律上は想定されています。

不利益取扱いが「ケアハラスメント」として問題化するリスク

介護休業を取得した社員に対して、降格・賃金減額・解雇などの不利益な取扱いをすることは、育児・介護休業法で明確に禁止されています。近年は「ケアハラスメント(ケアハラ)」という言葉も広まり、介護を理由とした不利益取扱いへの社会的な関心が高まっています。管理職が悪意なく「介護で何度も休むなら評価に響く」と発言するだけでも、ハラスメントとして問題になり得ます。管理職への周知・教育も欠かせません。

介護対応が複数の管理職で属人的に判断されると、のちのち個別の相談対応が必要になります。人事だけで抱え込まず、専門家に初期段階で整理してもらうと後々の負担が大きく減ります。

突発欠勤への対応基準を整える——管理職が迷わないために

介護を理由とした突発的な欠勤への対応は、会社として統一した基準を持っておくことが重要です。基準がなければ、管理職ごとに対応がバラバラになり、職場全体の不公平感につながります。

「まず制度の説明」から始める対応フロー

突発欠勤が続いている社員がいる場合、まず会社として取るべき行動は、法定制度の存在を社員に伝えることです。「介護休暇として処理できること」「介護休業を検討してもよいこと」を会社側から案内することで、社員が制度を知らないまま有給を消化し続けるリスクを防げます。制度の案内は、会社が制度を「隠していた」「教えてくれなかった」と後から言われないための自衛にもなります。

対応が属人的にならないための社内ルールを決める

突発欠勤への対応が管理職の裁量に委ねられたままだと、「あの上司は認めてくれたのに、なぜ私の上司は認めてくれないのか」という不満が生じます。次のような基本的な方針を会社として定め、管理職に共有しておくと良いでしょう。

  • 介護を理由とした欠勤申出は、まず人事担当者に報告する
  • 年間の介護休暇取得日数の上限(法定の年5日または10日)を管理職が把握する
  • 介護が長期化しそうな場合は、人事担当者が本人と面談して介護休業の取得可否を確認する
  • 取得日数・処理区分(介護休暇か有給かなど)を記録として残す

長期化シナリオを想定した業務体制の準備

短期の欠勤対応として介護休暇を案内した後も、介護状況が長期化して介護休業の取得につながるケースがあります。最大93日(約3か月)の休業が生じる可能性を念頭に置いて、業務の引き継ぎや代替体制の整備を事前に検討しておくことが重要です。「まさかそんな長く休むとは思っていなかった」という事態になってから慌てるよりも、可能性のあるシナリオとして準備しておくことが会社としての誠実な対応です。

就業規則の整備をどこから始めるか

就業規則に介護休業の規定を整備するにあたって、何から手をつければよいか迷う担当者も多いです。ここでは優先度の高い確認事項を整理します。

現在の就業規則に何が書かれているかを確認する

まず手元の就業規則を確認し、介護休業・介護休暇に関する条文が存在するかどうかを確認します。条文がない場合は早急に整備が必要です。条文がある場合でも、最終改定日を確認してください。2021年以前の内容であれば、時間単位取得などの法改正が反映されていない可能性があります。

就業規則の整備を社労士に依頼するタイミング

育児・介護休業法は法改正が繰り返されており、条文の文言ひとつで解釈が変わるケースもあります。専任人事がいない会社であれば、就業規則の整備は社会保険労務士(社労士)に依頼することを推奨します。自社の業種・働き方に合わせた規定を作成してもらうことで、後から「規定と実態が合っていない」という問題を防げます。

整備後に欠かせない社員への周知

就業規則を整備しても、社員に内容が伝わっていなければ意味がありません。育児・介護休業法は、事業主に対して制度の周知義務も課しています。入社時の説明、社内イントラへの掲載、管理職向けの説明会など、複数の手段で周知することを検討してください。特に、介護に直面する可能性が高い40〜50代の社員が在籍している会社では、能動的な周知が重要です。

まとめ

介護休業・介護休暇の付与義務は、企業規模に関わらずすべての事業主に適用されます。常時10人以上の従業員を雇用している会社は、就業規則への記載も法律上の義務です。就業規則に規定がなくても法律は直接適用されるため、「規定がないから断れる」という対応は法律違反のリスクを伴います。また、有給休暇の消化を強制したり、介護休業取得者を不利益に扱ったりすることも、法的トラブルの原因となります。突発欠勤への対応基準の整備、就業規則の見直し、管理職への教育——これらを一つひとつ整えていくことが、トラブルを未然に防ぐ最善策です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・人事担当者からの相談を受け付けています。「現在の就業規則で対応可能か診断してほしい」「介護対応の判断基準を一緒に整理したい」といったご相談も歓迎しています。人事課題に専門的なサポートがあれば、判断が格段に楽になります。

よくある質問

Q. 従業員が10人未満の会社は、介護休業の就業規則整備は不要ですか?

A. 就業規則への記載義務(労働基準法第89条)は常時10人以上の事業場に課されるため、10人未満の場合は記載義務の対象外です。ただし、介護休業・介護休暇を付与する義務そのものは企業規模に関係なくすべての事業主に適用されます。記載義務がなくても、社員から申出があれば原則として認める必要があります。

Q. 介護休暇は無給でも構いませんか?

A. 育児・介護休業法は介護休暇を有給とすることを義務付けていないため、就業規則に特段の定めがない場合は無給で差し支えありません。ただし、有給とするかどうかは就業規則に明記しておく必要があります。社員が「介護休暇は有給だと思っていた」というトラブルを避けるためにも、規定への明記を推奨します。

Q. 試用期間中の社員から介護休暇の申出があった場合、断ることはできますか?

A. 介護休暇については、入社後6か月未満の労働者を対象外とする労使協定を締結している場合に限り、申出を拒むことが認められています。労使協定がない場合は、試用期間中であっても原則として申出を認める必要があります。労使協定の締結状況を確認のうえ対応してください。

Q. 介護休業中の社員の社会保険料はどうなりますか?

A. 介護休業中も社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格は継続します。ただし、育児休業と異なり、介護休業中の社会保険料免除制度は現行法上存在しません。会社負担分・本人負担分ともに原則として通常通り徴収・納付が必要です。休業期間中の保険料の取り扱いについては、事前に社員に説明しておくことが重要です。

Q. 介護休業を取得した社員の人事評価への影響はどこまで許容されますか?

A. 介護休業の取得を直接の理由として評価を下げることは、育児・介護休業法が禁じる不利益取扱いに該当します。ただし、休業期間中の業務実績がない部分を評価に反映しないことは、合理的な理由があれば許容されるケースもあります。「休んだから評価を下げる」ではなく、「実績に基づいて評価する」という設計にしておくことが重要です。判断が難しい場合は、社労士や専門家に個別に確認することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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