社員の健康情報、人事で保管していいか迷ったら

社員の健康情報、人事で保管していいか迷ったら メンタルヘルス対応
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「診断書、とりあえず人事ファイルに挟んでおこう」——そう判断した経験はありませんか。本人にも口頭で了解を取ったし、自分しか見ない引き出しに入れているから大丈夫、と思いながらも、どこかに「これで本当にいいのか」という引っかかりが残る。中小企業で人事を兼務している方からよく聞く話です。実は、本人の同意を取れば何でも保管してよいわけではなく、健康情報には専用のルールが法律で定められています。この記事では、何をどう管理すればよいかを、専任人事がいない職場でも現実的に運用できる形で整理します。

健康情報は「普通の個人情報」と別扱いが必要な理由

病歴や診断書は、個人情報保護法上「要配慮個人情報」に分類され、通常の個人情報より厳しい取り扱いが義務づけられています。

要配慮個人情報とは何か

個人情報保護法第2条第3項は、病歴・身体障害・精神障害などを「要配慮個人情報」として定義しています。診断書の内容、産業医との面談記録、服薬情報、休職理由として共有した病名——これらはすべて該当します。通常の個人情報と大きく異なる点は、取得に際して「原則として本人の明示的な同意」が必要であることです。社内アンケートや入社書類への記載で黙示的に了解を得ただけでは、法的な同意とは認められません。

「同意を取れば何でも保管できる」は誤り

同意は必要条件のひとつですが、それだけでは不十分です。個人情報保護法第17条・第21条は、情報の利用目的を具体的に特定し、本人に通知または公表することを求めています。つまり「休職中の就労継続判断と配慮措置の検討のために使用する」のような目的を明示した上で同意を取得しなければ、適法な取り扱いとはいえません。また、厚生労働省が2018年に定めた「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」は、こうした健康情報の取り扱いルールを文書(取扱規程)として整備することを事業者に求めています。

労働安全衛生法も関係する

2019年の労働安全衛生法改正により、事業者は労働者の心身の状態に関する情報について「適正な取扱いのための措置」を講ずる義務が同法第104条第3項に明文化されました。産業医が把握した情報には守秘義務(同条第1項)もあります。産業医を選任している事業場(50人以上)では、産業医から会社へ情報を提供する際の手続きも規程に含める必要があります。

まず現状を把握する——情報の「棚卸し」から始める

規程を整備する前に、今どこに何が保管されているかを把握することが先決です。情報が散在したままルールだけ作っても、運用は形骸化します。

健康情報が散らばりやすい場所

中小企業の現場でよく見られる保管状況を確認してみましょう。診断書の紙コピーが引き出しの中、面談でメモした記録がノートに手書き、産業医や主治医からのメールが受信ボックスのまま、上司に状況を説明したときの議事録に病名が記載——これらはすべて「健康情報を管理している」状態です。どこに何があるかを書き出すだけで、漏れや重複が可視化されます。

情報の種類と発生経路を整理する

棚卸しの際には、情報の「種類」と「どこから来たか」の両軸で整理すると後の規程作成が楽になります。例えば、診断書は本人から紙で提出されるもの、面談記録は人事担当者が作成するもの、産業医意見書は産業医が発行するもの、といった具合です。発生経路によって同意取得のタイミングや保管担当者が変わるため、この整理が規程の骨格になります。

取扱規程に盛り込むべき必須項目

厚生労働省の2018年指針に基づけば、取扱規程に含めるべき項目は明確です。難しく考えず、下表の7項目を文書化することから始めましょう。

項目 記載すべき内容の概要
目的の明示 就労継続の判断、配慮措置の検討、職場復帰支援など具体的な用途を列挙
取り扱う情報の種類 診断書、面談記録、職場復帰支援計画書、産業医意見書など対象を明記
取り扱う者の範囲 閲覧・更新できる役職・部門を特定(例:代表取締役・人事担当者に限定)
同意取得の手続き 書面同意のタイミング・様式・控えの保管方法
保管・セキュリティ 施錠できるキャビネット、電子データの場合のアクセス権設定・暗号化など
第三者提供のルール 社内他部署・上司への共有基準、外部(産業医・行政)への提供条件
保存期間・廃棄方法 退職後の保存年数、シュレッダー処理や電子削除の手順

「取り扱う者の範囲」は特に重要

実務でもっとも漏れやすいのがこの項目です。「社長と人事担当者しか見ない」つもりでも、経営会議の資料に病名が記載されていたり、配属先の部長に状況を伝えてしまったりするケースがあります。規程には「誰が、どんな情報を、どんな目的で閲覧できるか」を具体的に書き、それ以外の共有は原則禁止とする旨を明記します。上司に「配慮が必要」と伝える場合でも、病名や詳細な診断内容を共有しなくてよいことをルール化しておくことが大切です。

保存期間と廃棄のルール

退職後の健康情報をいつまで保管するかは、多くの企業が曖昧にしている点です。労働基準法第109条は、賃金台帳や出勤簿などを退職後3年間(経過措置として当面5年間)保存することを義務づけていますが、健康情報の保存期間については明確な法定義務がありません。実務上は「退職後5年を目安に廃棄」という運用が多く見られます。重要なのは廃棄のタイミングと方法(紙はシュレッダー、電子データは完全削除)を規程に明記し、属人的な判断に委ねないことです。

規程を作った後の「運用」を続けるための工夫

規程は作って終わりではありません。担当者が変わっても機能し続ける仕組みをあらかじめ組み込んでおくことが、中小企業での現実的な運用のカギです。

引き継ぎを前提にした設計にする

兼務人事のよくある落とし穴は、規程の存在を担当者だけが知っている状態です。規程文書の保管場所(フォルダのパスやキャビネットの棚番号)と、同意書・面談記録などの保管場所を規程本文に明記しておきます。また、年1回(健康診断の時期に合わせると忘れにくい)、保管状況を確認するタイミングを規程内にスケジュールとして盛り込んでおくと、業務として定着しやすくなります。

「知らずにルール違反」を防ぐ周知の仕組み

健康情報を扱う可能性がある人(経営者・人事担当者)には、規程の内容を入社時または担当就任時に説明する機会を設けます。説明した記録(説明日・対象者のサイン欄を設けた確認書など)を残しておくと、万が一のトラブル時の備えにもなります。規程自体は社内イントラや共有フォルダに置くだけでなく、「誰がどこで確認できるか」を全員に周知することが重要です。

従業員規模・産業医の有無による対応の違い

産業医を選任している事業場(従業員50人以上)では、産業医が取得した情報を会社へ提供する際の手続きや条件を規程に含める必要があります。一方、従業員50人未満で産業医がいない場合でも、外部の相談機関(EAP:従業員支援プログラム)や主治医から情報を受け取るケースはあるため、第三者提供のルールは省略できません。就業規則がない企業は、健康情報の取り扱いを含む雇用管理全般のルールを先に整備することを検討してください。

「規程の内容は理解したけれど、実際の文書化をどこから始めたらいいか迷っている」という場合は、まずは現状の情報がどこに散在しているかを把握することから始めましょう。その過程で不明な点が出てきたら、専門家に相談するのも一つの方法です。

同意書と面談記録——実務で使えるポイント

規程と並行して整備したいのが、実際に使う書式です。同意書と面談記録の2点を押さえるだけで、日常的な管理の質が大きく変わります。

同意書に必ず入れる3つの要素

書面による同意書には、少なくとも次の3点を盛り込みます。まず「何の情報を取得するか」(例:主治医の診断書、面談時の記録内容)、次に「何のために使うか」(例:就労継続の判断と配慮措置の検討)、そして「誰が閲覧できるか」(例:代表取締役および人事担当者)です。同意の撤回ができる旨と撤回方法も記載しておくと、個人情報保護法の趣旨に沿った丁寧な対応になります。同意書は本人用と会社用の2部作成し、それぞれが控えを持つ形が望ましいです。

面談記録の残し方

休職者との面談記録は、後日のトラブル対応や職場復帰支援計画の根拠としても機能します。記録には、日時・場所・参加者・話し合った内容の要旨・合意事項・次回の確認事項を記載し、「誰が作成したか」がわかるよう担当者名も入れます。手書きメモのままではなく、所定の様式(Wordテンプレートでも十分)に清書して保管することで、第三者が読んでも内容を把握できる状態を保ちます。

まとめ

社員の健康情報は「要配慮個人情報」として、通常の個人情報より厳しい管理が法律で求められています。本人の同意取得は出発点に過ぎず、利用目的の明示・閲覧者の限定・保管方法・廃棄ルールまでを文書化した取扱規程の整備が事業者に義務づけられています。専任人事がいない職場だからこそ、「担当者が変わっても動く仕組み」を最初に設計することが重要です。

「自社に合わせた規程づくりをどう進めるか」「現状の管理体制に不安が残っている」という方は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。中小企業の実態に即した健康情報の取扱規程整備と、その後の運用定着支援をお手伝いしています。法令要件だけでなく、実際に続けられる体制づくりが私たちの専門です。

よくある質問

Q. 口頭で本人の了解を取っていれば問題ないですか?

A. 口頭の了解では不十分です。個人情報保護法が要配慮個人情報に求める同意は「明示的」なものである必要があり、黙示や口頭による了解は認められません。利用目的を明記した書面に本人のサインをもらう形で同意を取得してください。

Q. 従業員が数名しかいない小規模事業者でも取扱規程は必要ですか?

A. 取り扱う個人情報の数によらず、要配慮個人情報を取得・保管している事業者には適切な管理措置が求められます。小規模であっても、厚生労働省の2018年指針は取扱規程の策定を求めています。ページ数の多い文書でなくても構いませんので、必要な項目を網羅した簡潔な規程を整備することをお勧めします。

Q. 上司に「あの人は休職中です」と伝えることも問題になりますか?

A. 休職の事実や病名は健康情報に含まれ得るため、共有の目的と範囲に注意が必要です。業務運営上の必要性がある場合でも、病名や詳細な診断内容まで伝える必要は通常ありません。「療養中のため不在」程度の情報共有にとどめ、詳細を共有する場合は本人の同意を取った上で、その旨を規程に基づいて記録しておくことが望ましいです。

Q. 退職した社員の診断書や面談記録はいつ廃棄すればよいですか?

A. 健康情報の保存期間に関する明確な法定義務はありませんが、退職後5年を目安に廃棄する運用が実務上多く見られます。労働基準法第109条が定める帳簿類(賃金台帳等)の保存義務(退職後3年、経過措置として当面5年)との整合を踏まえ、取扱規程に廃棄基準と廃棄方法(シュレッダー・電子削除)を明記して運用することをお勧めします。

Q. 産業医がいない会社では、健康情報の取り扱いをどう考えればよいですか?

A. 産業医がいない場合でも、本人から提出される診断書や面談記録など健康情報を取り扱う機会は発生します。取扱規程の整備義務は産業医の有無に関係なく事業者に課せられています。外部の産業保健サービスやEAP(従業員支援プログラム)を利用している場合は、外部機関との情報共有ルールも規程に含めてください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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