「とりあえず福利厚生費で処理してきたけど、これって本当に大丈夫なんだろうか」——社内でのデリバリーや昼食補助を経費計上している会社の担当者から、こういった相談が増えています。領収書は保存している、会計上も福利厚生費に入れている。でも、税務上の要件を満たしているかどうか、利用の偏りが問題にならないか、規程はどう整備すればいいか、となると途端に自信がなくなる。本記事では、社内飲食費を福利厚生費として正しく計上するための判断基準と、規程整備の実務的な進め方をわかりやすく解説します。
「福利厚生費で処理すれば大丈夫」は誤解です
会計上の科目名と税務上の取り扱いは別物です。「福利厚生費」という勘定科目に入れても、税務上の非課税要件を満たさなければ、税務調査で否認され給与課税される可能性があります。
会計科目と税務の非課税は連動しない
多くの中小企業の担当者が陥りやすいのが、「帳簿上で福利厚生費に分類しておけば問題ない」という思い込みです。しかし税務署が確認するのは、帳簿の科目名ではなく「支出の実態が税法上の非課税要件を満たしているかどうか」です。要件を満たさない支出は、科目がどこに入っていようと給与として課税対象になります。
所得税基本通達36-24が定める非課税の条件
食事の支給(デリバリーを含む現物給付)について、所得税基本通達36-24は非課税となる要件を次のとおり定めています。まず、役員・従業員が食事代の50%以上を自己負担していること。次に、会社の負担額が月3,500円(税抜)以下であること。この両方を同時に満たす必要があり、片方でも満たさない場合は会社負担分の全額が給与として課税対象になります。たとえば月5,000円のランチ補助を会社が全額負担している場合、自己負担ゼロで50%要件を満たさないため、5,000円全額が給与課税されます。
法人税上の損金算入にも別の要件がある
所得税(給与課税されないか)とは別に、法人税上で損金(経費)として認められるかどうかにも条件があります。全社員を対象とした支出であること、業務に関連した合理的な支出であること、金額や利用条件が社内規程等で明文化されていること——この3点が揃っていない支出は、損金算入が否認されるリスクがあります。
特定の社員だけが使っている状況が招く二重リスク
在宅勤務者と出社者の間、営業職と内勤職の間など、実態として特定のメンバーしか利用できていない状況は、税務・労務の両面でリスクを抱えています。
税務上は「特定者への経済的利益」とみなされる
福利厚生費として損金算入するための大前提は「全社員を対象とした支出」であることです。規程上は「全社員対象」と書かれていても、実態として特定部署や特定チームしか使えていない場合、税務調査では「特定の者に対する経済的利益の供与」、つまり給与として扱われる可能性があります。会社側は源泉徴収義務違反を問われるケースもあるため、実態の公平性が重要です。
労務上の不公平感が組織問題に発展する
「なぜあの部署だけ毎週デリバリーしているのか」という声は、小さな会社ほど広がりやすいものです。昼食補助の偏りは一見小さな問題に見えますが、処遇の不公平感はモチベーション低下や離職の遠因になります。場合によっては、特定メンバーへの優遇として不当な差別的取り扱いを主張する声につながることもあります。社員が30名前後の規模では、一人ひとりの不満が組織全体に与える影響が大きいため、早めの手当てが重要です。
| リスクの種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 税務リスク | 特定者への経済的利益として給与課税される。会社に源泉徴収義務違反が生じる可能性 |
| 労務リスク | 不公平な処遇として社員の不満・モチベーション低下を招く。ハラスメント申告につながるケースも |
福利厚生費として認められるための記録管理
税務調査で経費計上を認めてもらうには、支出の証拠となる記録が不可欠です。領収書の保存だけでは不十分で、「誰が・いつ・何のために・いくら使ったか」の記録がセットで必要です。
必要な記録の4要素
社内飲食費を福利厚生費として適切に処理するために最低限記録しておくべき情報は、対象者と人数、利用日、目的(会議対応・残業時の食事補助など)、金額と会社負担額の4点です。この記録がない支出は、税務調査の場で「証拠不十分」として否認される可能性があります。Excelの申請台帳でも構いませんが、月次で整理して保存しておく運用ルールを作ることが大切です。
デリバリーサービスの利用明細だけでは不十分な理由
Uber Eatsや出前館などのデリバリーサービスの請求明細には、注文日・金額・内容は記録されていますが、「誰が何のために使ったか」という情報は含まれていません。会社のアカウントで一括注文している場合でも、申請者・利用部署・利用目的を紐づける内部記録を別途作成する必要があります。
「税務上も労務上も問題ないか」という判断は、会社だけで進めると見落としが生じやすいもの。税理士や社労士に相談しながら進めるのが確実です。
規程が記録管理の土台になる
記録を継続的に残すためには、「申請→承認→記録」の流れを規程で定めておくことが効果的です。規程がなければ承認基準が担当者任せになり、記録の粒度もバラつきます。規程と申請フォームをセットで整備することで、担当者が変わっても一定水準の記録管理が維持できます。
福利厚生規程に盛り込むべき項目
福利厚生規程を整備する際に決めておくべき核心的な項目は、利用資格・上限額・対象費用の範囲・申請承認の手続きの4つです。この4点が明文化されていれば、税務上・労務上の説明責任を果たせる規程の骨格ができます。
利用資格の設定方法
誰が使えるかを明確にすることが規程の出発点です。正社員のみか、パート・アルバイトも含むか、派遣社員はどうするか——これらを曖昧にすると「全員対象」の建前が崩れます。雇用形態ごとに利用可否を明示するか、「雇用形態を問わず自社と雇用契約を結ぶ全従業員」のように包括的に定めるかは、自社の人員構成に合わせて選択してください。在宅勤務者が多い場合は、出社・在宅を問わず利用できる形(例:食事補助の現金支給相当のポイント付与)を検討すると公平性が保ちやすくなります。
上限額の決め方と税務要件との整合
会社負担の上限額は、所得税基本通達36-24の月3,500円(税抜)以下という非課税ラインを踏まえて設定します。自己負担50%以上の要件も規程に明記しておくと、運用時の判断ブレを防げます。たとえば「1食あたりの会社補助は500円を上限とし、残額は本人負担とする」のように具体的な金額で定めると運用しやすくなります。上限額を超えた場合の処理(超過分は本人負担、または申請不可とする等)も合わせて規定しておきましょう。
対象費用の範囲と申請手続きの定め方
「どんな飲食費が対象か」を曖昧にすると、アルコールを含む飲食や取引先との会食まで申請されるケースが出てきます。対象を「業務時間中の食事(昼食・残業時の食事)に限る」「社内での飲食に限る」のように限定することが基本です。申請手続きは、申請者→上長承認→経理受付という流れを定め、申請時に必要な情報(日付・人数・目的・金額・領収書)を明記します。承認権限者が不在の場合の代替承認フローも用意しておくと実務がスムーズです。
規程整備を進める際の現実的なアプローチ
完璧な規程を一度に作ろうとすると動けなくなります。まず現状の運用を棚卸しし、最低限の骨格を文書化することから始めるのが現実的です。
現状の運用を棚卸しする
規程整備の出発点は、現在どのような社内飲食費が発生しているかの把握です。過去3〜6ヶ月の領収書や請求明細を確認し、誰が・どのくらいの頻度で・どの用途で使っているかを洗い出します。この棚卸しで「実態として特定部署に偏っていた」「月の会社負担額が3,500円を超えているケースがあった」という問題が明確になることがよくあります。
実務的な進め方の要点
- 過去3〜6ヶ月の飲食費を全て洗い出す
- 月の会社負担額が3,500円(税抜)を超えていないか確認する
- 利用が特定部署・特定社員に偏っていないか実態を検証する
- 骨格となる規程(利用資格・上限額・対象範囲・申請手続き)を文書化する
- 規程の税務上の整合性を税理士に確認し、労務面は社労士に相談する
専任人事がいない場合の相談先の選び方
福利厚生規程の整備は、税務面(税理士)と労務面(社会保険労務士)の両方の知識が絡みます。専任人事がいない中小企業では、どちらに相談すべきか迷うことも多いでしょう。税務上の課税非課税ラインの確認は税理士、規程の文言整備や労務上のリスク確認は社労士、という役割分担が一般的です。両方への相談コストが負担な場合は、まず顧問税理士に「今の処理の税務リスク」を確認することを優先してください。
まとめ
社内飲食費を福利厚生費として正しく計上するには、所得税基本通達36-24が定める「月3,500円以下・自己負担50%以上」の非課税要件を満たすこと、全社員を対象とした支出であること、そして誰が・いつ・何のために使ったかの記録を残すことが基本です。帳簿上の科目名だけでは税務リスクは防げません。また、特定の社員だけが利用できる実態は、税務・労務の両面でリスクを生みます。規程整備は完璧を目指さず、利用資格・上限額・対象範囲・申請手続きの4点を明文化することから始めましょう。
人事労務の判断には専門的な目が必要です。「現在の運用が本当に大丈夫か」「規程整備をどこから始めるべきか」といった実務的な課題については、一度専門家に相談しておくことをお勧めします。
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