復職後フレックス除外の就業規則への書き方と運用ポイント

復職後フレックス除外の就業規則への書き方と運用ポイント メンタルヘルス対応
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「うちの会社はフレックスタイム制を導入しているけれど、復職した社員にもそのまま適用していいものか……」——人事を兼務しながら日々の業務をこなすなかで、こうした判断に悩む場面は少なくありません。復職後まもない社員は生活リズムの安定が回復の要。フレックスタイムの自由度が、かえって回復の妨げになることもあります。かといって「あの人だけ除外するのは差別では」という不安も拭えない。この記事では、復職後のフレックスタイム適用除外が法的に可能かどうかを整理したうえで、就業規則の書き方・個別合意書の文例・産業医との連携まで、実務で使えるポイントを具体的に解説します。

復職後にフレックスを外すことは合法か

結論から言えば、適切な手順を踏めば合法です。ただし「誰でも自由に外せる」わけではなく、正当な理由と正しいプロセスが必要です。

フレックスタイム制の法的な仕組み

フレックスタイム制は労働基準法第32条の3に規定されています。同条は、フレックスタイム制を「適用する労働者の範囲」を就業規則または労使協定で定めることができると明記しています。つまり、適用対象者を限定すること自体は法律が認めているのです。問題になるのは、その限定の方法が「不当な差別」や「一方的な不利益変更」に当たらないかという点です。

健康配慮義務が正当な根拠になる

復職後の適用除外で法的に強力な根拠になるのが、労働契約法第5条に定める使用者の健康配慮義務です。主治医や産業医が「定時出退勤により生活リズムを固定することが療養上必要」と判断している場合、会社がフレックスの適用を除外することは「差別」ではなく、むしろ健康配慮義務の履行として位置づけられます。「不利益を与えているのではなく、回復を支援するための措置だ」という論理で整理できるため、本人や周囲への説明もしやすくなります。

「不利益変更」との関係を正しく理解する

フレックスタイムの適用除外は、賃金カットのような直接的な金銭的不利益ではありません。しかし働き方の変更には違いなく、労働契約法第10条の不利益変更の合理性が問題になることがあります。特に、これまでフレックスを日常的に使っていた社員を、就業規則の一方的な変更だけで除外しようとすると紛争になりやすい。だからこそ、後述する「就業規則の例外規定+個別合意書」という二段構えの対応が実務上の正解です。

就業規則への例外規定の書き方

就業規則への明記が最初の土台です。重要なのは「病気だから」という属性で限定するのではなく、「状態・期間・条件」で限定する書き方にすることです。これにより差別的扱いのリスクを大きく減らせます。

アプローチAとBの違いを理解する

就業規則への書き方には大きく2つのアプローチがあります。以下の表で整理します。

アプローチ 特徴 向いているケース
A:状態・期間で限定する 「復職後〇ヶ月以内の者」など条件を就業規則に明記。属性でなく状態で定義する 就業規則を整備して全社的な運用ルールにしたい場合
B:協議・合意を前提にする 「健康管理上必要と判断した場合、本人と協議のうえ適用を除外できる」と明記 個別事情が多様で、ケースバイケースの判断が必要な場合

どちらか一方でも効果はありますが、AとBを組み合わせることで「規定上の根拠」と「個別の合意プロセス」の両方を担保でき、より安全です。

具体的な規定文例

実際に就業規則に盛り込む文例を示します。現在の就業規則のフレックスタイム制の条項に、以下のような一文を追加するかたちが現実的です。

【文例A:状態・期間による限定】
「試用期間中の者、休職からの復職後6ヶ月以内の者、その他会社が健康管理上必要と認めた者は、フレックスタイム制の適用対象から除くことができる。」

【文例B:協議・合意による除外】
「業務上の事情または健康管理上の必要があると会社が判断した場合は、本人との協議のうえ、フレックスタイム制の適用を一時停止または除外することができる。」

既存社員への適用と労使協定の確認

就業規則に新たに例外規定を追加する場合、既にフレックスを利用している社員には「不利益変更」の問題が生じる可能性があります。特にフレックスタイム制の導入時に労使協定を締結している場合は、協定の内容と整合が取れているかを確認してください。変更の影響を受ける社員には、変更の理由・内容を事前に丁寧に説明し、可能な限り個別同意を得る対応が紛争予防につながります。

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個別合意書の作り方と文例

就業規則の規定だけでは不十分です。復職面談の際に個別合意書を締結することが、実務上最もリスクを低減する手段です。

個別合意書が必要な理由

就業規則はあくまで会社の内部ルール。「規則には書いてあるが、自分はそんな話を聞いていない」という後からのトラブルを防ぐには、復職面談の場で本人が内容を理解したうえで署名する個別合意書が不可欠です。合意書は復職支援プランの一部として位置づけると、「制裁」ではなく「回復をサポートする計画」として受け取ってもらいやすくなります。

合意書に盛り込むべき項目

  • フレックスタイム制の適用を一時停止する旨と期間(例:復職後3ヶ月間)
  • 定時出退勤を求める根拠(主治医・産業医の意見を踏まえた健康配慮措置である旨)
  • 勤務時間帯(始業・終業の固定時刻)
  • 見直しのタイミングと条件(例:復職後3ヶ月経過時点で産業医の意見をもとに判断)
  • 本人が申し出できる相談窓口
  • 本人の署名・日付欄

面談での伝え方のポイント

合意書を渡す場面で重要なのは、会社側の意図が「健康配慮」であることを言葉で伝えることです。「規則だから従ってください」という一方的な提示は、後の不満につながります。「主治医の先生からも、まず生活リズムを固定することが大切だとお聞きしています。そのためにしばらくは定時出退勤でサポートします」という伝え方が、本人の納得感を高めます。合意書の内容を一緒に確認しながら進める形式が理想です。

産業医・主治医との連携と判断のタイミング

フレックス除外の判断を「会社の勝手な判断」にしないために、医療職の意見を書面で確認し、記録に残すことが重要です。

産業医がいる場合の進め方

産業医がいる会社(常時50人以上の事業場では選任義務あり)では、復職面談に産業医を関与させ、「定時出退勤が健康管理上必要か」について産業医意見書を取得します。この意見書が、フレックス除外の正当根拠を医学的に担保する最も強力な文書になります。意見書には「復職後〇ヶ月間は定時出退勤が望ましい」と具体的な期間と理由を記載してもらうと、後の運用がしやすくなります。

産業医がいない場合(50人未満の企業)

産業医の選任義務がない規模の会社では、主治医の診断書・意見書を活用します。復職可否の判断書に「生活リズムの安定のため定時勤務を推奨する」といった記載がある場合は、それを根拠として活用できます。また、地域産業保健センター(各都道府県の産業保健総合支援センターが設置)では、産業医のいない中小企業向けに無料または低コストで産業医相談を利用できる場合があります。

【専門家に相談する選択肢】復職対応は判断の積み重ねです。医学的根拠の取り方や合意書の文言に不安があれば、産業医や人事の専門家に相談することで、後のトラブルを大きく減らせます。

フレックス再適用のタイミングを決める判断基準

「いつまで除外するか」を曖昧にしておくと、本人の不満が蓄積します。あらかじめ見直しのタイミングを合意書に明記し、以下のような観点で再評価することを伝えておきましょう。

  • 出勤率が一定水準(例:90%以上)を維持できているか
  • 始業時刻の遅刻が継続的に発生していないか
  • 産業医または主治医が「通常勤務に問題なし」と判断したか
  • 本人自身が「フレックスへの移行に不安がない」と申し出ているか

「本人がフレックスを使いたいと主張してきた」ときの対応

本人から「フレックスを使わせてほしい」と申し出があったとき、慌てて認める必要はありません。プロセスを踏んで対応すれば、会社の判断は合理的に守られます

最初にすべき3つのアクション

まず申し出の内容と日時を記録します。次に、「現在の就業規則・復職支援プランに基づいて判断する」と本人に伝え、感情的な対立を避けます。そのうえで、産業医または主治医に現在の状態を確認し、フレックス移行の可否について意見を求めます。この3つを踏むことで、「会社が恣意的に拒否した」という主張を防げます。

対応で絶対に避けるべきこと

本人の申し出を無視・放置することは避けてください。「病気だから使わせない」という言い方も厳禁です。また、口頭だけで処理し記録を残さないのも危険です。すべての対応を書面または記録として残し、「会社は適切な手順を踏んだ」という事実を積み上げることが、万一の紛争時に最大の防御になります。

他社員との公平性に関する質問への答え方

「なぜあの人だけフレックスが使えないのか」と他の社員から問われることがあります。個人の健康情報は開示できないため、「健康管理上の理由による特別な就労条件で働いてもらっています」と説明するにとどめます。例外規定が就業規則に明記されていれば、「規則上の制度に基づく措置」として説明できるため、就業規則の整備が社内の公平性説明にも直結します。

まとめ

復職後のフレックスタイム適用除外は、正しい手順を踏めば合法であり、むしろ健康配慮義務の履行として正当化できます。実務上の基本は「就業規則への例外規定の追加」と「個別合意書の締結」という二段構えの対応です。就業規則では「病気だから」という属性ではなく「復職後〇ヶ月以内」といった状態・期間で対象を定義することが差別リスクを避けるポイントです。産業医や主治医の意見書で医学的根拠を担保し、見直しのタイミングを合意書に明記しておくことで、本人の納得感と会社の法的安全性を同時に高められます。

復職支援は、単なるルール運用ではなく、本人の回復を最優先にしながら会社を守るバランスが求められます。「判断に確信が持てない」「対応の妥当性を確認したい」——そんなときこそ、外部の専門家を活用するのが管理的な負担を減らすコツです。ウェルセンス株式会社では、復職対応の個別相談を承っています。

よくある質問

Q. 就業規則にフレックスの例外規定を追加するだけで、今いる社員にも適用できますか?

A. 新たに就業規則を変更して既存社員に適用することは、労働契約法第10条の不利益変更の問題が生じることがあります。特にフレックスを日常的に利用していた社員については、就業規則の変更だけでなく個別の説明と合意取得を行うことが安全です。今後の復職者に対してルールとして運用する場合は、変更後の就業規則を周知したうえで、復職面談時に個別合意書を締結する流れが実務上の標準です。

Q. 産業医がいない小規模な会社でも、フレックス除外を適切に行えますか?

A. 可能です。産業医の選任義務は常時50人以上の事業場に課されますが、それ以下の規模でも主治医の診断書や意見書を活用することで医学的根拠を確保できます。また、各都道府県の産業保健総合支援センターが設置する地域産業保健センターでは、小規模事業場向けに産業医相談を無料または低コストで受けられる制度があります。主治医の意見書に「生活リズムの安定のため定時勤務が望ましい」と記載してもらえれば、フレックス除外の根拠として活用できます。

Q. 本人が個別合意書への署名を拒否した場合はどうすればいいですか?

A. 署名を強制することはできません。ただし、就業規則に例外規定が明記されていれば、合意書がなくても就業規則上の根拠はあります。拒否があった場合は、その事実と対話の経緯を記録に残したうえで、産業医や主治医を含めた三者面談を設定し、医学的観点から定時出退勤の必要性を本人に説明してもらう方法が有効です。感情的な対立を避け、「本人の回復のための措置」という位置づけを丁寧に伝えることが重要です。

Q. フレックスを除外している期間中、給与や手当の扱いはどうなりますか?

A. フレックスタイムの適用除外は、あくまで「働く時間帯の管理方法」の変更であり、所定労働時間や月額賃金を変えるものではありません。定時勤務に戻ることで残業時間が減少し、時間外手当が少なくなる可能性はありますが、基本給や固定手当に影響するものではないのが原則です。ただし、フレックスの活用を前提にした業務量や働き方の設計があった場合は、個別に労働時間の確認と整理が必要なケースもあります。

Q. 復職後のフレックス除外期間は何ヶ月が目安ですか?

A. 一般的には3ヶ月から6ヶ月を初期の目安とする企業が多いですが、法律上の定めはなく、本人の回復状況や主治医・産業医の意見によって異なります。重要なのは「最初から期間を明示して合意を得る」ことと「見直しのタイミングを定期的に設ける」ことです。例えば「復職後3ヶ月時点で産業医と面談し、状況に応じて延長・短縮を判断する」という設計にすると、本人も見通しを持ちやすく、モチベーション維持につながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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