「社員が突然出社できなくなった。とりあえず休んでもらっているけれど、何か書面を出すべきなのか」——専任の人事担当者がいない会社では、こうした事態が突然やってきます。休職命令書は法律で書式が定められているわけではないものの、後のトラブルを防ぐために最低限盛り込むべき項目があります。この記事では、中小企業の経営者・兼務人事担当者がすぐに使える文例3選と、法的要件をわかりやすく解説します。
休職命令書とは何か、なぜ必要か
休職命令書とは、会社が社員に対して「一定期間、就労義務を免除する」ことを書面で通知する文書です。口頭だけで休職を進めると「解雇された」「退職を強要された」という主張を受けるリスクがあるため、書面化が強く推奨されます。
口頭だけで進めると何が起きるか
「本人が休むと言ったので休んでもらっている」という状態で書面を交わしていないケースは少なくありません。しかし、休職の開始日・期間・賃金の扱いが明確でないと、後日「会社から一方的に解雇された」と主張されたとき、会社側には反論する根拠がありません。書面を残しておくことは、社員を守ると同時に会社自身を守ることでもあります。
休職命令書の法的な位置づけ
労働基準法に休職制度そのものの規定はありません。休職命令を出す根拠は、就業規則(労働契約法第7条・第10条)です。つまり、就業規則に休職規定がない会社は、そもそも命令を出す法的根拠が存在しないことになります。まず就業規則に休職に関する条文があるかを確認することが出発点です。
なお、労働基準法第89条により、常時10名以上の社員がいる事業場は就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。休職は「任意記載事項」ですが、ひとたび就業規則に定めた場合は正確に記載しなければなりません。
休職命令書と休職辞令の違い
「休職命令書」と「休職辞令」はどちらも休職を通知する書類ですが、性格が少し異なります。
| 書類名 | 性格 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 休職命令書 | 会社から社員への業務命令・通知 | 休職事由・期間・賃金の有無・復職条件などの詳細 |
| 休職辞令 | 人事発令の記録 | 「○年○月○日付で休職を命ずる」という簡潔な発令書 |
中小企業では、両者を1枚にまとめた「休職通知書(命令書)」として発行するのが実務上は合理的です。以降この記事では「休職命令書」に統一して解説します。
休職命令書に盛り込む法的要件
休職命令書に法律上「この書式でなければならない」という規定はありませんが、後のトラブルを防ぐために最低限記載すべき9項目があります。記載漏れは後日の紛争リスクに直結するため、一つずつ確認してください。
必ず記載すべき9項目
- 発令日・適用日:書面を交付した日と、休職が始まる日を明記します。
- 対象者(氏名・所属・役職):誰に対する命令かを特定します。
- 休職事由:「業務外の傷病により就労が困難なため」のように、就業規則の条項に対応した表現を使います。
- 休職期間:開始日と終了予定日(または上限期間)を明確にします。期間の定めがないと「いつ終わるのか」をめぐる紛争が起きやすくなります。
- 休職中の賃金の扱い:無給の場合はその旨を明記します。有給の場合も支給割合や条件を書いておきます。
- 社会保険料の取り扱い:休職中も健康保険・厚生年金の保険料は発生します。本人負担分をどのように徴収するか(銀行振込など)を明記します。
- 復職の手続き:誰の判断で(主治医・産業医・会社)、何を提出すれば(診断書など)復職できるかを明確にします。
- 休職満了時の取り扱い:就業規則に「休職満了で退職」と定めている場合は、その根拠条項を記載します。
- 会社名・代表者名・捺印欄、本人受領署名欄:本人が受け取ったことを示す署名欄を設けることで、後日「もらっていない」という主張を防ぎます。
産業医・就業規則の有無による注意点
常時50名以上の社員がいる事業場では産業医の選任が義務付けられており(労働安全衛生法第13条)、復職判断に産業医の意見を記載できます。一方、50名未満の中小企業では産業医がいないケースがほとんどです。その場合は「主治医の診断書をもとに会社が判断する」という旨を命令書に明記しておくと、復職時のトラブルを減らせます。
また、就業規則に休職規定がない場合は、まず就業規則の整備が先決です。規定のない命令書は法的根拠を欠くため、いざ紛争になったときに効力が認められないリスクがあります。
休職命令書の文例3選
ここでは、中小企業で頻度の高い3つのシーンに対応した文例を紹介します。会社名・氏名・日付・就業規則の条項番号は、実際の情報に差し替えてご使用ください。
メンタル不調(私傷病)による休職
最も多いケースです。本人から医師の診断書を提出してもらったうえで発行します。
休職命令書
発令日:○○年○月○日
氏名:山田 太郎 殿(営業部 主任)
下記のとおり休職を命じます。
【休職事由】業務外の傷病(適応障害)により就労が困難なため、就業規則第○条の規定に基づく。
【休職期間】○○年○月○日〜○○年○月○日(最長○ヶ月)
【賃金】休職期間中は無給とする。健康保険の傷病手当金の受給要件に該当する場合は、会社が申請手続きを補助する。
【社会保険料】本人負担分は毎月末日までに指定口座へ振込のこと。
【復職手続き】主治医による就労可能の診断書を提出し、会社の承認を得ること。
【満了時の取り扱い】休職期間満了時に復職できない場合は、就業規則第○条により退職とする。
○○株式会社 代表取締役 ○○○○ 印
受領署名:________________________ ○○年○月○日
身体疾患(骨折・手術等)による休職
復職時期がある程度見通せる場合は、終了予定日を明記すると本人も安心しやすくなります。
休職命令書
発令日:○○年○月○日
氏名:鈴木 花子 殿(総務部 一般職)
下記のとおり休職を命じます。
【休職事由】業務外の傷病(腰椎椎間板ヘルニア・術後療養)により就労が困難なため、就業規則第○条の規定に基づく。
【休職期間】○○年○月○日〜○○年○月○日
【賃金】休職期間中は無給とする。傷病手当金の申請については別途案内する。
【社会保険料】本人負担分は毎月末日までに指定口座へ振込のこと。
【復職手続き】主治医による就労可能の診断書を提出し、会社の承認を得ること。
【満了時の取り扱い】休職期間満了時に復職できない場合は、就業規則第○条により退職とする。
○○株式会社 代表取締役 ○○○○ 印
受領署名:________________________ ○○年○月○日
本人申し出ではなく会社から休職を命じるケース
本人が「大丈夫」と言い張りながら業務遂行が困難な状態が続く場合、会社側から命令を出すことがあります。この場合も就業規則の根拠条項を必ず明示してください。
休職命令書
発令日:○○年○月○日
氏名:田中 一郎 殿(製造部 リーダー)
下記のとおり休職を命じます。
【休職事由】健康状態の悪化により正常な業務遂行が困難であると会社が判断したため、就業規則第○条の規定に基づく。
【休職期間】○○年○月○日〜○○年○月○日(最長○ヶ月)
【賃金】休職期間中は無給とする。
【社会保険料】本人負担分は毎月末日までに指定口座へ振込のこと。
【復職手続き】医師による就労可能の診断書を提出し、会社の承認を得ること。
【満了時の取り扱い】休職期間満了時に復職できない場合は、就業規則第○条により退職とする。
○○株式会社 代表取締役 ○○○○ 印
受領署名:________________________ ○○年○月○日
休職命令書を交付するまでの手続きフロー
命令書の内容が正しくても、交付のタイミングや手順を誤ると後のトラブルにつながります。実務上の順番を把握しておくことが重要です。
診断書の受領から命令書交付まで
まず、本人または上司から体調不良・欠勤の報告を受けたら、医師の診断書の提出を求めます。これは就業規則上の要件確認のためです。診断書が揃った段階で休職事由・期間を確認し、命令書の内容を整理します。その後、本人に命令書を手渡して内容を説明し、受領サインをもらいます。郵送する場合は内容証明または簡易書留が推奨されます。
交付後に行う手続き
命令書の交付後は、傷病手当金の申請案内と社会保険料の徴収方法について本人と合意します。傷病手当金は業務外の傷病による休職で、連続3日間の待期期間を経た4日目以降に受給できる制度です(健康保険法第99条)。標準報酬日額の3分の2相当が支給されるため、社員の生活保障として必ず案内してください。また、休職中も月に1回程度、状況確認の連絡を入れる「連絡ルール」を書面または口頭で合意しておくと、復職に向けた関係を維持しやすくなります。
復職時の判断フロー
復職の判断は、主治医の診断書の提出を受けてから会社が最終判断を行います。産業医がいる場合(50名以上の事業場)は産業医の意見も取り入れます。復職後の業務内容・就業上の配慮事項は、復職時に別途「復職支援プラン」として書面化すると、本人も上司も安心して職場に戻れます。
よくある落とし穴と回避のポイント
休職命令書の作成・運用では、知識があっても見落としやすいポイントがいくつかあります。あらかじめ把握しておくことでトラブルを防げます。
「診断書が出れば自動的に休職が始まる」という誤解
診断書はあくまで休職の「事由の証明」であり、会社が命令書を交付して初めて正式な休職が始まります。診断書だけを受け取って曖昧に休ませていると、その期間が欠勤なのか休職なのかが不明確になり、後の解雇・退職の手続きで問題が生じます。
休職期間の上限が就業規則に書かれていない
命令書に「最長○ヶ月」と記載しても、就業規則に上限期間の規定がなければ、その満了を根拠に退職扱いとすることが難しくなります。命令書を作る前に、就業規則の休職条項に「勤続年数に応じた上限期間」が明記されているかを確認してください。
復職条件が「会社の判断」だけになっている
「会社が承認した場合に復職できる」という条件だけでは、社員側から「恣意的に復職を拒まれた」と主張されるリスクがあります。「主治医の診断書の提出」を前提条件として明記し、必要であれば「会社指定医の受診」も条件に加えると、判断基準が客観的になります。
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まとめ
休職命令書に法律上の定まった書式はありませんが、就業規則の根拠条項・休職期間・賃金の扱い・復職条件・満了時の取り扱いの5点は必ず明記する必要があります。口頭だけで休職を進めると、後日「解雇された」「退職を強要された」という主張を受けるリスクがあるため、書面化は会社と社員の双方を守る手段です。また、命令書の交付だけで終わらず、傷病手当金の案内・社保料の徴収合意・月次の状況確認まで一連のフローとして運用することが重要です。
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