「主治医から復職許可の診断書が届いた。でも、本当にこのまま戻してよいのだろうか」――そんな不安を抱えながら、判断を迫られた経験はありませんか。専任の人事担当者も産業医もいない中小企業では、診断書の数行を読んで、あとは感覚で決めるしかない、という現場が少なくありません。この記事では、主治医と職場の判断が異なる場合の対応を含め、復職許可が出たときに職場として取るべき4つの対応と、後日トラブルを防ぐための記録術をわかりやすく解説します。
診断書が届いたら、まず立ち止まる
「復職可能」は治療の区切りであって、職場復帰の保証ではない
主治医の診断書に「復職可能」と記載されていても、その内容は「症状が安定している」「通院管理で対応できる状態」といった数行にとどまるケースがほとんどです。これは主治医が患者の治療経過を医療的観点から評価した意見であり、その方の職場の業務量・人間関係・勤務形態と照らし合わせた「職業的適性の判断」とは本質的に異なります。
重要な事実として、労働契約上の復職可否を最終的に決定する権限は会社側にあります。これは裁判例においても認められており、会社が産業医や外部専門家の意見を踏まえて独自に判断することは適法とされています。ただし、合理的な理由のない復職拒否は「労務受領拒否」として法的リスクを生むため、判断プロセスそのものの適正さが問われます。
「断りづらい」という感情が判断を歪める
「主治医も大丈夫と言っている」「これ以上休んだら生活が苦しい」という本人や家族からの言葉は、担当者として非常に重く感じるものです。しかし、その場の空気に流されて「では来週から」と決めてしまうことが、後の再休職リスクや職場トラブルにつながる典型的なパターンです。
まず立ち止まり、「診断書を受け取った。次のステップとして面談の日程を設定する」という手続きの流れに乗せることが大切です。感情的な判断ではなく、プロセスで動くことが担当者を守ります。
主治医と職場の判断が異なるときの調整方法
両者が見ているものが根本的に違う
主治医と産業医(または外部の専門家)の意見が食い違う場面は珍しくありません。その背景には、それぞれの役割の違いがあります。主治医は患者の回復状態を評価するのが仕事であり、「日常生活を送れる程度になった」という基準で復職可能と判断します。一方、産業医や会社側の視点では「その具体的な業務を、その環境で、その量こなせるか」という職業的適性を問います。
たとえば、デスクワーク中心の営業事務職であれば主治医の判断と職場の判断が近い場合もありますが、クレーム対応が多いコールセンター業務や、深夜シフトのある現場作業では乖離が生じやすくなります。この違いを担当者が理解しておくだけで、意見の食い違いへの対処が冷静にできるようになります。
意見の調整には「文書のやり取り」を活用する
主治医と産業医の意見が異なる場合、会社が直接主治医に連絡することは通常難しいため、本人の同意を得た上で、主治医への情報提供・照会書を作成する方法が有効です。職場の業務内容・勤務時間・想定される負荷を書面で主治医に伝え、「この環境での復職について改めて意見をいただきたい」と依頼します。
この照会書のやり取りは必ず文書で残します。口頭確認だけでは後日「そんな話は聞いていない」というトラブルが発生します。産業医がいない場合は、外部のメンタルヘルス支援サービスや社会保険労務士と連携して、この調整プロセスを設計することも有効な選択肢です。
復職条件と段階的復帰プランの設計
「なんとなく時短」で終わらせない具体的な設計
「最初は時短で、慣れてきたら通常勤務に戻しましょう」という口頭の約束だけでは、双方の認識がずれたまま進んでしまいます。復職許可が出た場合でも、復職条件は次の4点を必ず書面で明示します。
- 勤務時間・日数(例:最初の2週間は10〜15時の5時間勤務、週4日)
- 担当業務の範囲と制限(例:メール対応と資料作成のみ。顧客折衝・残業は禁止)
- 見直しのタイミング(例:4週間後に面談を行い、状況に応じてステップアップを検討)
- 状態悪化時の対応方針(例:欠勤が週2日以上続いた場合は即日面談を実施)
この4点を「復職条件合意書」として本人と会社の双方が署名する形で残しておくことで、後日の「そんな条件は聞いていない」という主張を防ぐことができます。
試し出勤(リハビリ出勤)の位置づけを明確にする
段階的な復帰手段として厚生労働省も推奨する試し出勤(リハビリ出勤)ですが、労働契約上の業務命令ではない扱いで実施されることが多く、賃金・労災の適用が曖昧になるケースがあります。試し出勤を実施する場合は、開始前に以下を書面で整理してください。
- 期間(例:2週間)と目的(職場環境への適応確認)
- 賃金の取り扱い(休職中の規程に準じるか否か)
- 評価の基準(何をもって「問題なし」と判断するか)
この整理がないまま試し出勤を始めると、本人が「もう復職したつもり」で動き、会社側が「まだ試験段階」と認識するというすれ違いが発生します。実際に復職トラブルで労働審判に発展した事例の多くが、このグレーゾーンで起きています。
復職後の再発リスクを減らすモニタリング
最初の3ヶ月間が最も重要な観察期間
精神疾患による休職からの復職後、再休職が最も起きやすいのは復職後3ヶ月以内です。この時期は本人も「頑張らなければ」という心理が強く働きやすく、無理をして状態が悪化するパターンが多く見られます。職場側からの定期的な観察と声かけが、再発防止の最大の手段です。
具体的には、週1回程度の短時間の状態確認面談(5〜10分)を直属の上司または人事担当者が実施し、その記録を残します。「今週しんどいことはありましたか」「睡眠は取れていますか」という2〜3問のシンプルな確認で十分です。記録はメモ書きで構いませんが、日付・確認者・本人のコメント・所見を残す習慣をつけてください。
再発サインを見逃さないための観察ポイント
再発につながるサインとして現場で把握しておきたい具体的な変化には以下のものがあります。
- 遅刻・早退・欠勤が増えてきた
- 表情が暗くなる、他のメンバーとの会話が減る
- 業務上のミスが目立つようになる
- 「大丈夫です」という返答が多くなるが、目が合わない
- 以前にはなかった身体症状(頭痛・胃の不調)を訴え始める
これらのサインが出始めた段階で面談の頻度を上げ、必要に応じて主治医への受診を促すことが再休職の防止につながります。問題が顕在化してから動くのではなく、小さな変化を記録し続けることが会社と本人の両方を守ります。
復職判定会議の記録と証拠の残し方
最低限整備すべき5つの基本ドキュメント
万一、後日「会社が無理に復職させた」「復職を不当に拒否された」というトラブルが発生した場合、会社が適切な対応をしたことを示せるかどうかは、記録の有無で決まります。最低限、以下の5種類のドキュメントを整備してください。
- 主治医診断書(原本または写し。受領日を記載する)
- 復職面談記録(日時・参加者・決定事項・本人の発言内容を含む)
- 産業医または外部専門家の意見書(産業医がいない場合は外部サービスの所見メモでも可)
- 復職条件合意書(業務制限内容・勤務時間・見直しタイミング・双方の署名入り)
- 経過観察記録(週次または月次の状態確認メモ)
記録を属人化させないための保管ルール
記録を担当者のパソコンのローカルフォルダに保存しているだけでは、担当者が異動・退職したときに情報が消えます。個人情報を含む書類であることを踏まえた上で、アクセス権限を設定したクラウドストレージや共有フォルダへの保管を推奨します。
また、メールでのやり取りも重要な記録です。本人からの復職申請、会社から本人への復職条件の通知、面談日程の調整などはできるだけメールで行い、証跡として保管します。口頭で決めた事項は、その日中に「本日の面談で合意した内容を確認します」というメールを送ることで記録を補完するのが実務的な方法です。
会社として何を決め、本人が何に合意したかを第三者が見ても理解できる形で残すことが、トラブルが起きたときに会社を守る唯一の手段です。就業規則や復職規程に手続きフローを明記しておくことも、担当者が変わっても同じ水準の対応を維持するために不可欠です。
まとめ
「復職許可の診断書が届いたが不安」という状況への対応は、感覚や気遣いではなくプロセスで動くことが基本です。まず診断書の内容を職場環境に照らして読み解くことから始め、次に主治医と会社側の役割の違いを踏まえた意見調整を行い、具体的な復職条件を書面で合意します。そして復職後の3ヶ月間を丁寧にモニタリングしながら、全プロセスの記録を残す――この流れを整えることが、本人の安定した復職と職場のリスク管理を両立させます。
「プロセスは理解できたが、自社で一から設計する時間も知識もない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。復職フローのテンプレート整備から、主治医意見の職場適応アセスメント、本人・家族・職場の三者調整まで、中小企業の実態に合わせた形でサポートします。まずは現状のご状況を聞かせていただくだけで構いません。お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
社会保険労務士・産業カウンセラーと連携し、中小・成長企業の人事課題に向き合う実務ノウハウをお届けします。

