社員が自傷・死にたいと言ったら、まず何をすべきか

社員が自傷・死にたいと言ったら、まず何をすべきか メンタルヘルス対応
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「死にたい」「消えてしまいたい」——社員からそんな言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった経験はありませんか。専任の人事担当者がいない中小企業では、経営者や兼務の担当者が突然この場面に直面することが少なくありません。何を聞けばいいのか、誰に連絡すべきか、プライバシーはどう扱うのか。この記事では、社員が自殺念慮を示したときに「まず何をすべきか」を実務の手順として整理します。

「死にたい」という言葉をタブー視してはいけない理由

「聞くと刺激する」は誤解である

多くの経営者・人事担当者が最初に直面する壁は、「自殺について話すと、かえって本人を刺激してしまうのではないか」という恐れです。しかしこれは誤解です。国際的な研究を含む複数のエビデンスが、「自殺念慮について率直に話すことは、念慮を強めるのではなく、むしろ本人の孤立感を和らげる」ことを示しています。言葉を避けて「そんなことを言わないで」と打ち消す対応こそが、本人に「この人には話せない」という孤立感を与えてしまいます。

話しかけないリスクの方が大きい

自殺念慮を抱えている人の多くは、誰かに気づいてほしい・話したいという気持ちを同時に持っています。正面から向き合ってもらえたとき、「自分は一人ではない」という感覚が生まれます。逆に、周囲が腫れ物に触るように接すると、本人は「やはり迷惑をかけている」という確信を強めかねません。怖くても、まず言葉を受け止めることが、対応の出発点です。

会社側に求められる安全配慮義務

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮する義務を定めています。自傷・自殺念慮のサインを把握しながら何も対応しなかった場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求につながる可能性があります。重要なのは「知らなかった」ではなく「知り得た状況にあったかどうか」が問われる点です。だからこそ、気づいた段階で動くことが、会社を守ることにもなります。

緊急度をどう判断するか

3段階で緊急度を見極める

「今すぐ119番すべきか」「様子を見ていいのか」——この判断軸がないと、過剰反応(本人が萎縮する)と過小反応(見逃し)の両方のリスクを抱えることになります。社員の自殺念慮への緊急度は以下の3段階で考えると実務的です。

【高・即時対応】
具体的な計画や手段がある、または直近に行動を起こす兆候がある場合。たとえば「今夜薬を大量に飲もうと思っている」「包丁を手元に置いた」など。この場合は一人にせず、119番や警察、精神科救急への連絡を即時行います。

【中・当日中】
死にたいという念慮はあるが、具体的な計画は不明確で、感情的に不安定な状態。産業医や主治医への即時相談、必要に応じて家族への連絡を検討します。

【低・継続注視】
「消えてしまいたい」「疲れた」という表現はあるが、具体的な念慮は確認できない。継続的な見守りと定期的な面談を設定し、状態の変化を記録します。

リスクを評価する4つの問い

産業保健の実務では、自殺念慮のリスクを評価する際に「SLAP」と呼ばれる枠組みが参考にされます。専門家でなくても意識できる4つの視点です。

まず、死にたいという気持ちがあるかどうかを確認します。次に、その気持ちの強さ・頻度・持続性を把握します。そして、薬や刃物など手段への接触可能性を確認します。最後に、具体的な計画が存在するかを確認します。これらは「ある・なし」の二択ではなく、グラデーションで緊急度を判断するための視点です。担当者がすべて把握しようとする必要はなく、「計画や手段はある?」という一言を投げかけられるかどうかが分岐点になります。

「口癖っぽい」発言も軽視しない

「いつも大げさなことを言う人だから」「昨日は元気だったのに今日だけ」という状況で、発言を流してしまうケースが現場では少なくありません。しかし自殺念慮は、日々の状態変化が大きく、昨日と今日で全く別のリスク水準になることがあります。「また言っている」という判断は、担当者の個人的な印象に依存しすぎており危険です。発言があった時点で毎回記録し、変化の傾向を見ることが重要です。

本人への接し方——TALKの原則

率直に、しかし責めない言葉で聞く

自殺予防の対話技術として知られる「TALKの原則」は、専門家でなくても実践できる基本姿勢です。まず「Tell(伝える)」として、「死にたいと思っている?」と率直に確認します。曖昧に察するのではなく、言葉にして聞くことが重要です。このとき「なぜそんなことを考えるの」「しっかりしなきゃ」という言葉は避けます。責めているように受け取られ、本人が口を閉ざす原因になります。

感情を受け止め、解決しようとしない

次に「Ask(聞く)・Listen(聴く)」として、本人の言葉に真剣に耳を傾けます。担当者がやりがちな失敗は、「どうすれば解決できるか」というモードで話を聴いてしまうことです。この段階では、解決策を提示する必要はありません。「それはつらかったね」「話してくれてありがとう」という受け止める言葉が、本人の安心感につながります。沈黙を恐れず、そこにいることが大切です。

安全を確保し、専門家につなぐ

最後に「Keep safe(安全を確保する)」として、本人を一人にしないこと、そして専門家へのつなぎを行います。「一緒に病院に行こう」「今日は帰宅せずここにいよう」という具体的な行動の提案が有効です。「病院に行ってみてください」という言葉だけで終わらせず、予約の電話を一緒にかける、付き添いを手配するなど、つなぎの行動をセットにすることが重要です。

守秘義務とプライバシーの扱い方

「秘密にしてほしい」と言われたらどうするか

本人から「誰にも言わないでほしい」と求められるケースは非常に多いです。このとき担当者が「わかりました」と約束してしまうと、その後の対応の手が縛られてしまいます。まず伝えるべきことは、「あなたのことを大切に思っているから、必要なときは助けを求めることがある」という誠実な宣言です。約束はせず、本人の安全を最優先することを説明することが、信頼関係の構築にもなります。

生命の危険がある場合は情報共有が優先される

個人情報保護法では、健康情報は「要配慮個人情報」として厳格な管理が求められます。しかし同法は「人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合」は、本人の同意なしに第三者へ情報提供できると定めています。つまり、生命の危機が切迫している状況では、守秘義務よりも安全配慮義務・緊急避難の観点が法的にも優先されます。「勝手に話して訴えられる」という恐れは、法的には根拠のない懸念です。

誰に、何を、どこまで共有するか

共有の範囲は「本人の安全確保に必要な最小限」が原則です。直属の上司、産業医(または顧問の相談窓口)、必要に応じて家族というラインが基本です。同僚や他部署への共有は原則不要であり、むしろ職場内での不必要な噂や本人の孤立を生む原因になります。共有した事実、共有した相手、日時は必ず記録に残してください。

専門機関へのつなぎ方と社内記録の残し方

産業医がいない場合の相談先

50人未満の中小企業では産業医の選任義務がなく、月1回の非常勤のみという企業も多い現状があります。その場合のつなぎ先として、まず「かかりつけ医への紹介状を書いてもらう」「精神科・心療内科への予約を一緒に入れる」という方法があります。公的機関としては、各都道府県に設置されている「精神科救急情報センター」や、よりそいホットライン(0120-279-338)なども活用できます。EAP(従業員支援プログラム)を未契約の企業は、この機会に外部専門家との契約を検討することを強くおすすめします。

対応後に残すべき記録の内容

緊急対応後、何を記録すべきかも重要です。記録には、発言があった日時・場所・発言の内容(できるだけ言葉のまま)・その場にいた人・対応した内容・相談した専門家の名前と相談日時を含めます。記録は担当者個人のメモではなく、会社として管理できる形式で保存してください。後に労務トラブルが発生した場合、「対応した事実」を証明するこの記録が最大の防御になります。

対応した担当者自身のケアも忘れずに

自傷・自殺念慮の対応をした担当者は、二次的な精神的ダメージ(支援者のバーンアウト)を受けるリスクがあります。特に専任人事のいない中小企業では、経営者や兼務担当者が一人で抱え込む構造になりやすいです。対応後は、信頼できる外部の専門家に「自分がどう感じたか」を話す機会を意識的に作ってください。対応した自分を責める必要はなく、対応できたこと自体が重要な行動です。

緊急対応後の職場としての動き方

就業継続か休職かの判断基準

緊急対応を経たあと、「通常業務を続けてもらうのか」「休職を検討するのか」という判断が必要になります。この判断は担当者が単独で行うべきではなく、産業医や主治医の意見を踏まえて決定することが原則です。主治医からの診断書がある場合は、その内容を産業医と共有したうえで就業可否を判断します。「本人が休みたくないと言っているから」という理由だけで就業を継続させることは、安全配慮義務の観点から避けてください。

職場環境の調整と継続的なモニタリング

就業を継続する場合も、業務負荷の軽減・定期的な面談の設定・孤立しない職場環境の整備が必要です。特に、発言のきっかけとなったストレス要因(人間関係・業務量・ハラスメントなど)が職場内にある場合は、その原因への対処も並行して行う必要があります。面談は週1回を目安に設定し、「最近どうですか」という短い確認でも継続して行うことが重要です。変化の記録を積み重ねることで、状態の改善・悪化を客観的に把握できるようになります。

会社全体でのメンタルヘルス体制を整える

今回のような事態が起きてから体制を整えるのでは遅すぎます。50人未満の事業場でも「心の健康づくり計画」の策定は推奨されており、緊急時の対応フローをあらかじめ文書化しておくことが、担当者の混乱を最小化します。「誰が対応する」「どこに連絡する」「何を記録する」という手順を、平時に整備しておくことが、社員と会社の両方を守ることにつながります。

まとめ

社員から「死にたい」「消えてしまいたい」という言葉を聞いたとき、担当者に求められるのは「専門家と同じ対応」ではありません。まず言葉を受け止め、緊急度を判断し、一人にしないこと。そして適切な専門家へつなぎ、記録を残すこと。この流れを平時から頭に入れておくだけで、いざという場面での行動が大きく変わります。

しかし実際には、「うちの会社にどんな体制が必要か」「産業医がいない状況でどこに相談すればいいか」と悩む経営者・担当者の方が多いのが現実です。ウェルセンス株式会社では、専任人事のいない中小企業向けに、メンタルヘルス危機対応の体制づくりから緊急時のサポートまでを一貫してご支援しています。「自殺念慮を示した社員への対応でお困りの場合」「うちの状況でどこから手をつければいいか分からない」という段階からでも、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員に「死にたい」と言われたとき、まず何を聞けばいいですか?

A. 「今、死にたいという気持ちがある?」と率直に確認することが第一歩です。曖昧に察しようとするより、言葉にして聞くことで本人の孤立感が和らぎます。解決策を提示しようとせず、「話してくれてありがとう」「それはつらかったね」と感情を受け止める言葉を優先してください。

Q. 本人から「誰にも言わないで」と言われた場合、秘密を守る必要がありますか?

A. 生命の危険が切迫している状況では、守秘義務よりも安全配慮義務が法的に優先されます。個人情報保護法でも「人の生命・身体の保護のために必要な場合」は本人同意なしの情報共有が認められています。秘密を守る約束はせず、「あなたの安全を最優先にする」と伝えることが誠実な対応です。

Q. 産業医がいない場合、どこに相談すればいいですか?

A. 精神科・心療内科への受診同行、各都道府県の精神科救急情報センターへの連絡、よりそいホットライン(0120-279-338)の活用などが選択肢です。緊急性が高い場合は119番や警察への連絡も躊躇わないでください。また、平時からEAPや外部の産業保健支援サービスと契約しておくと、こうした場面での相談先が明確になります。

Q. 対応後、どのような記録を残せばいいですか?

A. 発言があった日時・場所・発言の内容(できるだけ言葉のまま)・その場にいた人・行った対応・相談した専門家名と相談日時を記録してください。担当者個人のメモではなく、会社として管理できる形式で保存することが重要です。この記録は、後に労務トラブルが発生した際に「安全配慮義務を果たした事実」を証明する根拠になります。

Q. 対応した担当者自身が精神的につらくなった場合はどうすればいいですか?

A. 自傷・自殺念慮の対応をした支援者が二次的な精神的ダメージを受けることは珍しくありません。対応後は、信頼できる外部の専門家に自分の気持ちを話す機会を意識的に設けてください。「自分が対応できたのか不安」という感情を一人で抱え込まないことが大切です。会社として担当者のケア体制も整えておくことが、持続可能な職場環境の構築につながります。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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