「50人未満だから、ストレスチェックは義務じゃない。だからやらなくていいか……」と後回しにしていませんか。法律上の罰則がないのは事実ですが、義務かどうかと、やるべきかどうかは別の話です。この記事では、50人未満の企業がストレスチェックの導入を判断するために知っておくべき法的な位置づけ・現実的なリスク・実務上のポイントをわかりやすく整理します。
「義務ではない」は「やらなくていい」と同じではない
法律上の位置づけをまず確認する
ストレスチェックは、労働安全衛生法第66条の10に基づく制度です。2015年12月に施行され、常時使用する労働者が50人以上の事業場には実施が義務づけられています。一方、50人未満の事業場は「努力義務」とされており、法律上の罰則はありません。
ただし、ここで注意したいのが「事業場単位」でカウントするという点です。本社だけを見れば30人でも、支店や営業所を合算すると50人を超えるケースがあります。複数拠点を持つ企業は、まず全拠点の人数を確認することが先決です。
「努力義務」が持つ実務上のリスク
罰則がないからといって、何もしなくてよいわけではありません。労働契約法第5条は、使用者が労働者の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を定めています。万が一、従業員がメンタル不調で休職・退職した場合、「会社として予防措置を取っていたか」が問われることがあります。
裁判例においても、企業がメンタルヘルス対策を怠っていたと判断された場合に損害賠償が認められたケースがあります。ストレスチェックを実施していたという記録は、会社が安全配慮義務を果たしていた証拠のひとつになりえます。「義務ではないからやらない」という選択が、後に大きなコストにつながるリスクがあることを認識しておきましょう。
「努力義務」だからこそ、主体的に判断できる余地がある
義務事業場は実施しなければなりませんが、50人未満の企業は自社の状況に合わせて柔軟に設計できます。「今期は簡易版で試してみる」「まず希望者だけで始める」といった段階的なアプローチも可能です。法律に縛られないからこそ、自社に合ったやり方で始められるのが、小規模企業の強みでもあります。
50人未満でも導入すべきか判断するポイント
過去のメンタル不調件数を振り返る
判断の出発点として、まず自社の実績を確認してください。過去2〜3年の間に、メンタル不調による休職者・退職者が1人でも出ている場合は、導入を真剣に検討すべき状況です。「うちはまだ出ていないから大丈夫」と思っていても、表面化していないだけで、高ストレス状態の従業員が潜在している可能性があります。
特に、残業時間が月45時間を超えている部署がある、特定の従業員に業務が集中している、離職率が同業他社より高いといった状況がある企業は、ストレスチェックで現状を「見える化」する意義が高いといえます。
従業員規模と業種の特性を考慮する
20〜50人規模の企業では、一人の休職が業務全体に大きなダメージを与えます。仮に30人の会社で1人が3カ月休職すれば、単純計算で全体の3%以上の労働力が失われることになります。その穴を埋めるための残業・採用コスト・教育コストを考えると、予防に数万円投資する方が合理的です。
また、接客業・医療・介護・教育など、感情労働の多い職種では特にストレスが蓄積しやすい傾向があります。業種の特性も含めて、自社のリスクを客観的に評価することが重要です。
コスト感を正しく把握する
「費用がかかりそう」という漠然とした不安が、導入を止める一因になっています。実際には、外部委託の場合、1人あたり500〜2,000円程度が相場です。仮に30人の会社なら、全体で1万5,000〜6万円の範囲に収まります。クラウド型のストレスチェックサービスが普及したことで、小規模企業でも低コストで実施できる環境が整っています。さらに、後述する助成金を活用すれば、実質的な負担はさらに軽減できます。
実施するうえで知っておくべき実務の基本
実施者は誰が担うのか
ストレスチェックを実施するには、医師・保健師・厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師または精神保健福祉士が「実施者」として関与する必要があります。社内にそのような専門職がいない場合(多くの中小企業がそうです)は、外部委託が現実的な選択肢です。
外部の産業保健サービス会社やクラウド型ストレスチェックサービスを利用すれば、実施者の手配・調査票の選定・集計・報告書の作成まで一括して依頼できます。人事担当者がゼロから調べて手配する必要はなく、窓口となる業者に任せるだけで実施体制が整います。
調査票と結果の取り扱い
調査票は、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が標準とされています。57問では回答負荷が高いと感じる場合は、23項目の短縮版も活用できます。小規模企業での初回導入には、短縮版から始めて従業員に慣れてもらうアプローチが有効です。
結果の取り扱いで最も重要なのは、本人の同意なしに事業者が個人の結果を閲覧することは禁止されているという点です。「会社に精神的な状態が筒抜けになる」と従業員が不安に思う場合、このルールをきちんと説明することで、正直な回答を得やすくなります。個人情報の保護が法律で担保されていることを、実施前に社内に周知しておくことが信頼関係の構築につながります。
高ストレス者が出た場合の対応フロー
ストレスチェックを避ける理由として、「高ストレス者が見つかったら対処できない」という不安を挙げる経営者は少なくありません。しかし、対応フローは決して複雑ではありません。高ストレスと判定された従業員が面接指導を希望した場合、事業者は医師による面接を設定する義務(義務外企業でも推奨)があります。その後の対応は、面接した医師の意見を踏まえて職場環境や業務内容を調整するというステップです。
「見つけてしまうと余計に大変」という感覚は、対応の流れが見えていないために生じる不安です。あらかじめ外部の支援機関や産業医との連携体制を用意しておけば、いざというときも慌てずに動けます。
助成金を活用して導入コストを抑える
小規模事業場産業医活動助成金とは
50人未満の小規模事業場がストレスチェックを実施する場合、独立行政法人・労働者健康安全機構が提供する「小規模事業場産業医活動助成金」の対象となる可能性があります。この助成金は、産業医との契約や産業保健サービスの利用にかかる費用の一部を支援するものです。
詳細な要件や申請方法は年度によって変わるため、最新情報を労働者健康安全機構または最寄りの産業保健総合支援センター(通称:さんぽセンター)で確認することをおすすめします。「補助があるなら試してみようか」という一歩につながることがあります。
助成金活用で実質負担を抑えた事例
たとえば、従業員35人の製造業の会社がクラウド型ストレスチェックサービスを導入した場合、委託費用の概算は3万5,000〜7万円程度です。助成金が適用されれば、この費用の一部が戻ってきます。初年度の導入コストを助成金で補いながら、翌年以降は継続的な運用体制を整えるというアプローチは、コスト面での心理的ハードルを大きく下げます。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
「やりっぱなし」にしないための結果活用の考え方
集団分析を職場改善に活かす
ストレスチェックの結果は、個人の診断で終わらせるのではなく、職場単位の集団分析に活用することが重要です。たとえば、特定の部署だけストレスの点数が高い場合、業務量の偏り・人間関係の問題・マネジメントスタイルに課題がある可能性が読み取れます。
集団分析の結果を経営会議や管理職ミーティングで共有し、「この部署は来期から業務分担を見直す」「マネージャーへの研修を実施する」といった具体的なアクションにつなげることが、ストレスチェックの本来の価値です。「集計して終わり」にならないよう、結果を受けてどう動くかを事前に決めておくことが大切です。
定期健康診断と組み合わせて運用する
実務上スムーズなのは、年1回の定期健康診断と同じタイミングでストレスチェックを実施する方法です。健診案内と一緒にストレスチェックの説明を配布し、同じ期間内に回答してもらうことで、従業員の負担を最小限にしながら回答率を高めることができます。多くの企業がこの方法を採用しており、運用の定着化に効果的です。
予防から対応・復帰まで一連の流れで捉える
ストレスチェックは「予防」の入口に過ぎません。高ストレス者の面接対応、その後の休職移行、そして職場復帰支援まで、一連の流れとして設計しておくことが重要です。予防段階でストレスの高い従業員を早期に把握し、必要であればタイムリーにサポートにつなげることで、長期休職や退職を未然に防ぐことができます。
「ストレスチェックをやる担当者」「高ストレス者のフォローをする担当者」「休職になった場合の窓口」を、実施前に社内で決めておくだけで、いざというときの対応スピードが大きく変わります。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
50人未満の企業にとって、ストレスチェックは「義務ではないからやらない」でも「なんとなくやっておく」でもなく、自社の現状とリスクを正しく把握したうえで判断することが大切です。過去のメンタル不調件数・従業員規模・業種の特性・費用対効果を整理すれば、「今やるべきかどうか」の答えは自ずと見えてきます。
実施体制の整備・調査票の選定・結果の活用・高ストレス者への対応まで、専任人事のいない中小企業が一から準備するのは容易ではありません。ウェルセンス株式会社では、「導入すべきかどうかの判断」から伴走します。まずは自社の状況を話してみるだけでかまいません。現状のヒアリングと優先度の整理から始められますので、気軽にご相談ください。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


