復職を「戻したくない」と言われたら:法的リスクを避ける対応法

復職を「戻したくない」と言われたら:法的リスクを避ける対応法 休職・復職対応
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「あの人だけは戻してほしくない」——先日、ある管理職からそう直訴されました。メンタルヘルス不調で休職していたスタッフの復職が近づいた時期のことです。現場の声を無視するわけにもいかず、かといって法的なリスクも気になる。このジレンマを抱えたまま、復職判断を先送りにしている経営者・人事担当者は少なくありません。

本記事では、現場の拒否感にどう向き合い、法的リスクを避けながら経営判断を下すかを、実務の流れに沿って解説します。復職受け入れ拒否の相談は中小企業からの問い合わせで最も多いケースの一つです。正しい判断軸を持つことで、会社も本人も現場も守ることができます。

「戻したくない」は復職拒否の正当理由になるか

結論から言えば、上司や同僚の「戻したくない」という感情的な訴えは、復職を拒否する法的根拠にはなりません。復職の可否は、あくまで「業務を遂行できる状態かどうか」という医学的・業務的判断に基づくものです。

復職受け入れ拒否が問われる法的リスク

休職期間が満了する前に、主治医や産業医から「復職可能」との判断が出ているにもかかわらず、合理的な理由なく復職を認めない場合、会社は以下の法的リスクを負います。

  • 就労請求権の侵害——労働者の就労意思に応じない扱い
  • 不法行為——故意・過失による損害発生
  • 債務不履行——労働契約上の義務違反

労働契約法第6条が定める「労務提供義務と賃金支払義務の双務契約」という基本原則に照らしても、復職可能な状態の労働者の就労を正当な理由なく拒むことは、会社側の債務不履行に該当します。損害賠償請求を受けた場合、医学的根拠や判断プロセスを示すことができなければ、会社の過失が認定されやすくなります。

また、復職を先延ばしにしている間に休職期間満了を迎え、そのまま「自然退職」扱いにしてしまうケースも見られます。しかし、これは実質的な解雇と同視される可能性があり、より重大な紛争リスクを生じさせます。

正当な復職受け入れ拒否として認められる条件

上司の感情的な反対と、法的に有効な拒否理由は明確に異なります。裁判例や行政指針が示す「復職拒否の正当事由」は、概ね以下に限られます。

  • 就業規則上の明文の欠格事由に該当する場合
  • 主治医・産業医の判断と明らかに矛盾する業務遂行能力の欠如が認められる場合
  • 復職させることで他の従業員の安全に具体的・重大なリスクが生じる場合(安全配慮義務との衝突)

「チームの雰囲気が悪くなる」「以前トラブルがあった」といった理由は、それ単独では正当事由として認められません。現場の懸念を「管理上の対応が必要な課題」として整理し直すことが、会社の役割です。

上司の訴えは「感情」か「業務上の懸念」か

現場の声をすべて感情論として切り捨てるのは、別の意味でリスクがあります。上司が口にした懸念の中に、再発リスクやチームの業務負担に関する具体的な指摘が含まれている場合、それは復職後の環境整備に活かすべき情報です。

「戻したくない」という言葉の背後にある具体的な懸念を聞き出すヒアリングを行い、記録に残すことが、この段階での人事・経営者の重要な仕事です

現場の声を正しく「記録」し「整理」する

上司から復職への反対意見が出た場合、最初にすべきことは「記録すること」です。感情的な発言をそのまま放置せず、業務上の懸念として整理し直すプロセスが、後のトラブル予防につながります。

記録を残す重要性

上司が「戻したくない」と言ってきた場合、その内容・理由・日時・場所をメモまたはメールで残してください。これは二つの意味で重要です。

第一に、会社として現場の懸念を把握・対応したという証跡になることです。後に人事労務トラブルが生じた場合、「経営者・人事がどのような判断過程を経たか」を示す材料として機能します。

第二に、本人や主治医から「会社が不当に復職を妨害した」と主張された際の反論材料になることです。記録がないと、「現場の意向に流されて判断を誤った」という評価が会社に向けられかねません。

ヒアリングで「感情」を「懸念事項」に変換する

上司に対しては、「なぜ戻したくないのか」を具体的に問い直すヒアリングを実施してください。この会話の目的は説得ではなく、業務上の懸念を言語化することです。例えば次のように整理できます。

上司の言葉 業務上の懸念として整理 対応策の方向性
「また同じことが起きそう」 再発リスクへの不安 復職後の定期面談・観察期間の設定
「チームが気を使って疲れる」 チームへの業務・心理的負荷 段階的復職・業務量の調整・役割の明確化
「以前トラブルがあった」 対人関係上のリスク 復職支援プランへの関係調整項目の明記

上司の意向に「引っ張られる」危険なパターン

「上司の意向を確認してから決める」という姿勢で進めると、確認・調整・再確認を繰り返すうちに時間が過ぎます。その間、本人や主治医の側には「復職できる状態なのに会社が拒んでいる」という認識が積み重なり、法的紛争のリスクが高まります。

上司はあくまで「参考意見を提供する立場」であり、復職の最終判断は会社(経営者・人事)が行うものです。この役割分担を、上司本人にも明確に伝えておくことが大切です。

「原職復帰」か「配置転換」か:選択基準と注意点

現場の拒否感が強い場合、別の部署への配置転換という選択肢が頭に浮かびます。ただし、これは「就業規則」と「本人の同意」の両面で慎重に検討する必要があります。

原職復帰が原則である理由

休職前と同じ職場・職務に戻すことが「原職復帰の原則」です。これは、休職制度が「傷病からの回復を前提とした雇用継続の仕組み」であり、復職後の生活イメージや仕事への慣れという観点からも、本人にとって最もリスクの低い方法とされているためです。

配置転換は本人の意向を無視した形で行うと、「不利益な異動」として問題になることがあります。特に休職直後の配置転換は「懲罰的な扱い」と認識される可能性があり、トラブルの発火点になりやすいため注意が必要です。

配置転換を選択できる条件

就業規則に「会社は業務上の必要に応じて配置転換を命じることができる」旨の規定があれば、原職以外への復職を命じることは法的に可能です。ただし、この場合も「業務上の合理的な必要性」が求められます。単に上司が嫌がっているという理由だけでは、配置転換命令の根拠として不十分です。

また、就業規則に配置転換の規定がない会社では、本人の同意なく異動を命じることはできません。この確認をまず行ってください。

小規模企業の「詰み」を避けるには

部署が2〜3しかない会社では、「別部署への異動」という選択肢がほぼ存在しないケースがあります。その場合、現実的なアプローチは「元の職場に戻すが、復職条件を丁寧に設計する」ことです。

具体的には、最初から通常業務に戻すのではなく、段階的復職(後述)を活用して、業務量・勤務時間・担当業務の範囲を段階的に広げていく方法が有効です。現場の上司に「最初からフル対応ではなく、段階的にサポートしながら戻す」と伝えることで、拒否感が和らぐことも少なくありません。

段階的復職と復職支援プランで現場の不安を減らす

復職時に現場の混乱を最小化するために有効なのが、「段階的復職(試し出勤)」の活用と、復職支援プランの書面化です。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、これらは推奨されています。

段階的復職の進め方

段階的復職とは、最初から通常の勤務形態に戻すのではなく、短時間勤務・軽減業務・特定の時間帯のみの出勤といった形で段階的に業務量を増やしていくアプローチです。

現場の上司にとっては「いきなり元通りではない」という安心感につながり、本人にとっては「急な負荷」を避けながら職場環境に慣れる機会になります。双方にメリットがあるため、復職受け入れ拒否のリスクを低減させる有効な手段です。

なお、試し出勤中の賃金の扱い(給与が発生するのか、しないのか)や労災の適用関係は、事前に就業規則または労働契約で整理しておく必要があります。曖昧なまま試し出勤を始めると、後に「賃金未払い」のトラブルになることがあります。

復職支援プランを三者で共有する

復職支援プランとは、復職後の業務内容・勤務条件・配慮事項・フォローアップの頻度などを書面にまとめたものです。重要なのは、このプランを本人・上司・人事(経営者)の三者で共有・合意することです。

上司が「自分だけが全部引き受けなければならない」と感じている場合、それが拒否感の根本原因になっていることがあります。プランに「人事が月1回面談を実施する」「産業医と連携してフォローする」といった会社側の関与を明記することで、上司の孤立感を和らげることができます。

産業医・主治医との連携を記録に残す

産業医が選任されている会社(常時50人以上の事業場では選任義務あり)では、産業医の意見書を復職判断の根拠として文書化することを強くお勧めします。

50人未満の小規模企業の場合は産業医の選任義務はありませんが、主治医の意見書を取得し、それをもとに判断した経緯を記録しておくことが重要です。「医学的根拠に基づいて復職を認めた」という事実が、後のトラブル時の会社の防御線になります。

安全配慮義務の「二面性」を理解する

復職対応において、会社には「復職させる義務」と「職場環境を整える義務」の両方が課されています。どちらか一方だけを意識すると、別の法的リスクが生じます。

復職後のハラスメント・孤立も会社の責任になる

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体・健康を守るための安全配慮義務を負うと定めています。復職を認めた後、現場での孤立・無視・嫌がらせが起きた場合、「会社は現場の拒否感を把握していたにもかかわらず、適切な対策を取らなかった」として、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

上司の懸念を記録し、復職支援プランに具体的な対応策を盛り込んでおくことは、この意味でも重要です。

「復職させる判断」と「環境整備の判断」は同時に行う

復職可否の判断を下した後、職場環境の整備を後回しにするケースが見られます。しかし、この二つは同時並行で進める必要があります。

復職日が決まったら、その日までに上司との認識合わせ・業務分担の調整・必要なルール変更を完了させるスケジュールで動いてください。「復職を認めた、あとは現場に任せる」という姿勢は、安全配慮義務上のリスクを高めます。

まとめ

現場の「戻したくない」という声は、復職を拒否する法的根拠にはなりません。しかし、その声の中に業務上の正当な懸念が含まれている場合、それを無視することも別のリスクを生みます。

正しい対応の流れは次の通りです。

  1. 上司の意見を記録してヒアリングし、感情的反応を業務上の懸念として言語化する
  2. 就業規則を確認したうえで原職復帰か配置転換かを判断する
  3. 段階的復職と復職支援プランを活用して、現場の不安を具体的な対応策に変える
  4. 復職後も安全配慮義務を果たす観点から、継続的なフォローアップを実施する

この流れで動くことで、法的リスクを最小化しながら、現場の混乱も抑えることができます。

とはいえ、「就業規則の内容が古い」「産業医がいない」「初めての休職・復職対応で何から手をつければいいかわからない」という状況は、中小企業では珍しくありません。ウェルセンス株式会社では、このような復職対応の実務相談を承っています。復職受け入れ拒否の問題は、適切に対応することで双方にとってプラスの結果につながります。一人で抱え込む前に、まず現状をお聞かせください。

よくある質問

Q. 主治医が「復職可能」と言っているのに、上司が強く反対しています。会社はどちらの意見を優先すべきですか?

A. 復職の可否判断の基本は、主治医・産業医による医学的評価です。上司の意見は「職場環境の整備に関する情報」として活用すべきものであり、復職そのものを拒否する根拠にはなりません。主治医の意見をベースに判断を下したうえで、上司の懸念を復職支援プランに反映させる形で対応してください。なお、主治医の意見だけでは業務遂行能力の判断が不十分な場合もあるため、産業医がいる会社では産業医の意見書も取得することをお勧めします。

Q. 以前、本人がチームに迷惑をかけるトラブルがありました。それを理由に復職を拒否することはできますか?

A. 過去のトラブルだけを理由にした復職拒否は、法的に正当とは言えません。ただし、そのトラブルが再発する具体的なリスクがあり、他の従業員の安全に重大な支障をきたすと判断できる場合は、配置転換や復職条件の設定によって対応することが現実的です。過去のトラブルの内容・経緯を記録し、復職後の再発防止策(定期面談・観察期間・行動上のルール設定など)を復職支援プランに盛り込んだうえで復職を認めるアプローチが、法的にも実務的にも安全です。

Q. 部署が少なく、異動先がありません。拒否感のある上司のもとに戻すしかないのでしょうか?

A. 部署が少ない小規模企業では、配置転換が現実的でないことがほとんどです。その場合は、元の職場への復職を前提としたうえで、段階的復職(短時間勤務・軽減業務からスタート)と復職支援プランの書面化によって、現場の負担感を分散・軽減することが有効です。また、上司に対しては「最初からフル対応を求めない」ことを明示し、人事・経営者がフォローアップに関与する体制を示すことで、拒否感が和らぐことがあります。

Q. 試し出勤(段階的復職)の期間中、賃金は支払わなければなりませんか?

A. 試し出勤中の賃金の扱いは、法律で一律に定められているわけではなく、会社の就業規則や労働契約の内容によって異なります。「労働としてみなさない訓練期間」として無給とする会社もあれば、通常勤務と同様に賃金を支払う会社もあります。いずれの扱いにする場合も、事前に就業規則または個別の合意書で明確にしておかないと、後に「賃金未払い」や「復職日の認定」をめぐるトラブルになります。導入前に就業規則の整備・見直しを行うことをお勧めします。

Q. 復職前に現場の拒否感があることを把握しています。その場合、復職後にハラスメントが起きても会社は責任を問われませんか?

A. 会社は労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を負っており、復職後の職場環境にも責任を持つ必要があります。復職前に現場の拒否感があったことを会社が把握していたにもかかわらず、適切な対策を取らなかった場合、「予見可能なリスクへの対応を怠った」として安全配慮義務違反が認められる可能性があります。復職前に現場の状況を記録し、復職支援プランに具体的な対応策を盛り込んでおくこと、そして復職後も定期的なフォローアップを実施することが、会社を守ることにもつながります。

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【監修】ウェルセンス株式会社
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