経歴詐称が発覚したら?短期離職未記載の正しい対処法

経歴詐称が発覚したら?短期離職未記載の正しい対処法 採用・定着
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「採用した社員の履歴書に、直前の職場が載っていなかった。」そう気づいたとき、多くの経営者・人事担当者は頭が真っ白になります。すぐに取り消せるのか、どこまで調べていいのか、本人にどう話せばいいのか——判断の根拠がないまま、感情だけで動いてしまう前に、正しい手順と法的知識を確認しておきましょう。この記事では、短期離職の未記載という経歴詐称が発覚した場面を中心に、実務で使える対処法を順を追ってお伝えします。

「短期離職の未記載」は本当に経歴詐称なのか

経歴詐称だと断定して動く前に、まず「それが詐称と呼べる行為かどうか」を冷静に見極める必要があります。この判断を誤ると、後で会社側が法的リスクを負う可能性もあります。

書き漏れと詐称の違い

履歴書への職歴記載に法律上の定義はなく、「すべての職歴を記載しなければならない」という明文規定は存在しません。一般的な慣行として全職歴の記載が求められていますが、数日〜1か月未満の極めて短期の在籍については、実務上「書かないこともある」というグレーゾーンが存在します。意図的な隠蔽(積極的な偽装)と、慣行上の省略は、法的評価として区別されます。

詐称の重大性を判断する視点

すべての未記載が同じ重さを持つわけではありません。判断の基準として、以下の問いを使ってください。

  • その未記載の職歴を知っていたら、採用しなかったといえるか
  • 業務遂行能力・職場秩序・会社への信頼関係に重大な影響を与えるか
  • 意図的に隠したと判断できる根拠があるか(職務経歴書との矛盾、面接での虚偽発言など)
  • 未記載の職場数・期間はどの程度か(1社の3か月なのか、5社で合計2年分なのかで重さが変わる)

1社の短期離職が書かれていなかっただけで、業務に支障が出ていないケースでは、懲戒解雇や採用取り消しの根拠として認められないことがほとんどです。対応を誤れば、会社側が不当解雇を問われるリスクがあります。

就業規則に経歴詐称の規定があるか確認する

対処の根拠として最初に確認すべきは、就業規則です。「経歴詐称を懲戒解雇事由とする」旨の規定がある場合、その規定に基づいて対処できます。一方、規定が存在しない場合は法的根拠が弱く、解雇・取り消しに踏み切ると後でトラブルになります。就業規則がない・該当規定がない場合は、今後のためにも整備を検討してください。

発覚タイミング別の対処フローを知る

経歴詐称への対処は、発覚したタイミングによって取りうる手段が大きく変わります。「入社後だから何もできない」と諦める必要はありませんが、タイミングが遅いほど会社側に求められる要件は厳しくなります。

内定後・入社前に発覚した場合

採用内定は、最高裁判例(大日本印刷事件・1979年)によって「解約権留保付き労働契約の成立」と解されています。つまり内定の取り消しには、客観的・合理的な理由が必要です。ただし、「内定時に知っていれば採用しなかった」と認められる重大な詐称であれば、内定取り消しの合理的理由になりえます。軽微な記載漏れでは認められにくいため、以下の表を参考に重大性を判断してください。

発覚タイミング 取りうる対処 必要な要件の厳しさ
内定後・入社前 内定取り消し 中程度(重大な詐称であること)
試用期間中 本採用拒否(解雇) やや高い(解雇権濫用法理の適用あり)
本採用後 懲戒解雇・普通解雇 高い(客観的合理的理由+社会通念上の相当性が必要)

試用期間中に発覚した場合

試用期間中の本採用拒否(解雇)は、通常の解雇よりは広い裁量が認められています。しかし労働契約法第16条の「解雇権濫用法理」が適用されるため、「詐称の内容が採用判断に影響を与えるほど重大である」という客観的な根拠が必要です。試用期間中であることを理由に、軽い詐称でも自由に解雇できるわけではありません。

本採用後に発覚した場合

本採用後は最も厳格な要件が課されます。懲戒解雇・普通解雇のいずれの場合も、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」と認められなければなりません。就業規則に懲戒解雇事由の規定があること、詐称の内容が業務や職場秩序に重大な影響を与えることを、証拠に基づいて示す必要があります。この段階では、弁護士や社会保険労務士への相談を強くお勧めします。

本人への確認ヒアリングの進め方

経歴詐称が疑われる場面での本人へのヒアリングは、「問い詰め」ではなく「事実確認」として進めることが重要です。対応を誤るとパワハラや個人情報侵害の指摘を受ける可能性があるため、手順と姿勢を事前に整えておきましょう。

ヒアリングの姿勢と切り出し方

面談の冒頭では、決して断定的な言い方をしないことが原則です。「履歴書と確認できた情報の間に相違点があったため、確認させてください」「書き漏れがあった可能性もあると思い、一度正確な職歴を確認させてください」といったスタンスで始めます。事実確認のフェーズと、会社としての評価・判断のフェーズを明確に分け、面談その場では結論を出さないことが鉄則です。

確認書(事実申告書)の取得と記録

口頭でのヒアリング後、本人に「正確な職歴を記載した書面」を提出させ、署名・日付を入れてもらいましょう。これが後の対応における重要な証拠になります。また、面談記録として「日時・出席者・確認した内容・本人の回答」を必ず書面化し、担当者が署名・保管する習慣をつけてください。面談記録がない状態では、後にトラブルとなった際に会社側の主張を裏付けることができません。

ヒアリングで絶対に避けること

長時間にわたる詰問、複数人での圧迫的な聴取、「今すぐ答えろ」といった威圧的な言動はパワーハラスメントと評価されるリスクがあります。面談は原則として30〜60分以内、担当者は1〜2名、本人に回答の猶予を与えることが適切です。また、前職企業の退職理由や個人の家庭事情など、業務能力の評価に直接関係しない情報を追及することも避けてください。

バックグラウンドチェックと在籍確認の適法な進め方

採用前後を問わず、職歴の事実確認を行う場合は、本人の同意取得が大原則です。同意なしに情報収集を進めると、個人情報保護法および厚生労働省の採用選考に関するガイドラインに抵触する可能性があります。

本人同意の取得方法

採用時に「提出書類の内容および前職在籍について確認することがある」旨を、採用条件や入社書類の一部として明記し、本人の署名をもって同意を得ておくことがベストプラクティスです。この同意書がある場合、後から在籍確認を行うことの根拠になります。同意書がない状態での調査は、たとえ事実確認目的であっても法的リスクが生じます。

前職企業への直接確認の範囲

本人の同意を得た上で、前職企業に在籍期間の確認を問い合わせること自体は違法ではありません。ただし、前職企業には回答する義務はなく、退職理由や評価などの詳細な情報提供を求めることは、プライバシーへの過剰な介入と判断される場合があります。確認できるのは「在籍の有無と期間」にとどめるのが適切です。

外部のバックグラウンドチェック会社を使う場合

外部のバックグラウンドチェック(身元調査)会社を利用する場合も、本人の書面による同意が前提です。また、収集してよい情報は業務遂行能力の評価に必要な範囲に限られ、思想・信条・家族構成・健康状態などの情報収集は禁止されています。チェック会社を選ぶ際は、個人情報保護法への対応体制や収集情報の範囲を事前に確認してください。なお、リファレンスチェック(前職の上司・同僚への評価確認)も本人の事前同意が必要であり、同意なしに行うことは不適切です。

採用継続か取り消しかを判断する社内基準を作る

経歴詐称が発覚した際に「取り消すべきか、継続すべきか」を感情や直感で決めると、後で説明責任を果たせなくなります。判断基準を明文化し、社内で共有しておくことが重要です。

判断の三つの軸

採用継続か取り消しかを判断する際は、次の三つの軸から総合的に評価します。まず「業務遂行への影響」として、詐称した職歴の有無が採用ポジションの業務遂行能力の評価に関わるかを確認します。次に「採用判断への影響」として、その事実を事前に知っていれば採用しなかったといえるかを検討します。そして「信頼関係への影響」として、意図的な隠蔽であったかどうかと、その後の職場での信頼回復が可能かを評価します。この三軸すべてが「重大な影響あり」であれば取り消しの根拠が強く、一部にとどまる場合は継続を前提とした指導・注意にとどめることが現実的です。

決裁フローと記録の整備

判断は必ず経営者・人事担当者・必要に応じて顧問弁護士・社労士が関与した上で行い、「いつ・誰が・どのような事実に基づいて・どう判断したか」を書面として残してください。口頭の会議だけで動いた場合、後に「不当な取り消しだった」と争われた際に対抗できません。判断の記録が残っていることそのものが、会社側のリスクヘッジになります。

再発防止のための採用プロセスの見直し

経歴詐称が発覚した後は、対処だけでなく採用フロー自体を見直す機会にしてください。面接での職歴確認の徹底、入社時の書類提出と同意書の整備、就業規則への経歴詐称規定の追加、そして必要に応じた採用時のバックグラウンドチェック導入が有効な再発防止策です。専任人事がいない会社ほど、仕組みで防ぐ設計が重要になります。

まとめ

短期離職の未記載が発覚したとき、まず確認すべきは「それが法的に詐称と評価できる重大な事実か」という判断です。書き漏れと積極的な隠蔽は異なり、発覚のタイミング(内定後・試用期間中・本採用後)によって取りうる対処も変わります。本人へのヒアリングは「事実確認」として丁寧に進め、必ず記録を残すこと。バックグラウンドチェックは本人の同意を得た上で適法な範囲で行うこと。そして採用継続か取り消しかの判断は、就業規則・三つの判断軸・社内決裁フローに基づいて書面で残すことが原則です。

専任人事がいない環境では、こうした判断を一人で抱え込まず、専門家のサポートを活用することが会社と社員双方を守ることにつながります。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・兼務人事担当者からの人事労務に関するご相談を承っています。経歴詐称への対応方法や採用判断について、個別の状況に応じたアドバイスが必要な場合は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 入社後に短期離職の未記載が発覚しました。すぐに解雇できますか?

A. 入社後(本採用後)の解雇は、労働契約法第16条の解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められなければなりません。短期離職1社の未記載で業務に支障が出ていない場合は、即解雇の根拠として認められないことがほとんどです。まず就業規則の懲戒規定を確認し、弁護士や社会保険労務士に相談した上で対応を判断してください。

Q. 本人に確認するとき、同席者は必要ですか?

A. 同席者がいることで「言った・言わない」のトラブルを防げるため、面談には担当者2名が望ましい場合があります。ただし多人数での圧迫的な面談はパワハラと評価されるリスクがあるため、原則1〜2名にとどめ、面談記録を必ず書面で残すことが重要です。本人にも記録の存在を伝えると透明性が高まります。

Q. 本人の同意なしに前職に在籍確認の電話をするのは違法ですか?

A. 確認行為そのものは直ちに違法とはいえませんが、個人情報保護法および厚生労働省の採用選考に関するガイドラインの趣旨から、採用に関する個人情報の収集は本人の同意を得ることが原則です。また前職企業には回答義務がありません。採用時に同意書を整備しておくことが、リスク回避のベストプラクティスです。

Q. 就業規則がない場合、経歴詐称を理由に解雇はできませんか?

A. 就業規則に「経歴詐称を懲戒解雇事由とする」旨の規定がない場合、解雇の法的根拠が弱くなります。詐称の内容が採用判断に直結する重大なものであれば一定の根拠にはなりますが、規定のない状態での解雇は会社側が争われた際に不利になることがあります。就業規則の整備を早急に進めることを強くお勧めします。

Q. 経歴詐称の発覚後、採用を継続した場合にリスクはありますか?

A. 採用を継続する場合も、詐称の事実を確認した経緯・判断の根拠・対応内容を書面で記録しておくことが重要です。「知っていたのに何もしなかった」という状況が後にほかの問題と絡んだとき、会社としての対応が曖昧だったと評価されるリスクがあります。本人に対して事実確認書の提出を求め、注意・指導を行った記録を残した上で継続することが適切な対応です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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