復職時の給与は元に戻すべき?判断基準と合意手順3ステップ

復職時の給与は元に戻すべき?判断基準と合意手順3ステップ 休職・復職対応
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「復職してもらいたいけれど、元の役職や給与に戻せる状況じゃない……」。そう悩む経営者・人事担当者は少なくありません。休職中にチーム体制が変わり、ポストが消えているケースも珍しくないのが中小企業の現実です。しかし「勝手に給与を下げたら訴えられる」「説明の仕方を間違えると再発するかもしれない」という二重の不安から、処遇をどうすべきか判断できずにいる方が多くいます。この記事では、復職時の給与・役職変更の法的な考え方と、従業員が納得できる合意取得の手順を3つのステップで解説します。

復職後の給与は「原則として元に戻す」が出発点

労働契約の回復という考え方

休職とは、労働契約を維持したまま労務提供を一時的に停止している状態です。そのため復職とは「一時停止していた労働契約が再稼働する」ことを意味し、法律的には休職前の労働条件に戻ることが原則となります。給与・役職・職位のいずれも、原則として元の状態に戻すことが出発点です。

この原則を最初に押さえておくことが重要です。「なぜ元に戻さないといけないのか」という理由を理解した上で、次に「どのような条件を満たせば変更できるか」を検討する、という順序で考えることで、後のトラブルを予防できます。

「元に戻せない」ならば変更の根拠を用意する

現実には、長期休職の間に組織体制が変わり、元のポストが存在しなくなっているケースがあります。たとえば、5名のチームを束ねていたマネジャーが8ヶ月休職した間に、そのチームが他部署に統合されてしまった場合などです。このような場合、変更には以下の3つの要素が必要になります。

  • 就業規則または雇用契約に「変更の根拠規定」があること
  • 業務上の合理的な理由があること(ポスト消滅、業務遂行能力の変化など)
  • 本人の自由な意思に基づく合意が取れていること

この3点がそろって初めて、復職時の処遇変更が「合理的な人事権の行使」として認められる可能性が高まります。逆に言えば、1つでも欠けていると法的リスクが生じます。

「降格」と「減給」は別々に考える

「役職を下げること(降格)」と「賃金を引き下げること(減給)」は、法的に別の問題として扱われます。役職の変更は一定の合理性があれば人事権の行使として認められやすい一方、賃金の引き下げは労働契約法第9条・第10条により原則として労働者の合意なく一方的に行うことは無効とされています。役職だけ変えて給与は据え置く、という選択肢も実務上は存在します。会社の状況と従業員の納得感のバランスを考えながら、何をどの範囲で変更するかを切り分けて検討することが重要です。

「病気を理由にした降格」は違法になるケースがある

障害者雇用促進法が適用されることがある

うつ病や適応障害など精神疾患による休職からの復職の場合、従業員が「精神障害者」に該当する可能性があります。この場合、障害者雇用促進法第35条の差別的取扱い禁止が適用され、「精神障害があること」を理由とした不当な降格・解雇は違法となります。

「病気だから役職を下げる」という理由付けは、たとえ口頭だけであっても、後で問題になりうる表現です。会社の内部文書・メモ・メールにもこの表現が残らないよう注意が必要です。

「合理的な業務上の理由」であれば認められる余地がある

一方で、「病気だから」ではなく「業務遂行能力や役割の実態変化に基づく合理的な変更」であれば、同法においても「合理的配慮の範囲」として認められる可能性があります。たとえば以下のような根拠であれば、正当性を説明しやすくなります。

  • 復職後の主治医・産業医の意見書に「軽作業・短時間勤務が望ましい」と記載がある
  • 従来のマネジャー業務(部下の管理、残業対応、緊急時の意思決定)が現時点では困難であることが医療的に示されている
  • 組織の実態としてポストが存在せず、代替のポジションを提示している

処遇変更の理由は「病気だから」ではなく「業務の実態・組織の状況」に基づくものとして文書化しておくことが、法的リスクを下げる最大のポイントです。

復職時の処遇変更を進める合意手順

現状整理と変更内容の明文化

まず最初に行うべきは、変更する内容を曖昧なままにせず、文書として明確にすることです。具体的には次の項目を書き出します。

  • 変更前の役職・等級・月給・業務内容
  • 変更後の役職・等級・月給・業務内容
  • 変更の理由(組織体制の変更、医師意見書の内容など)
  • 変更の開始時期と見直し条件(例:6ヶ月後に状況を見て再評価する、など)

この段階で「見直し条件」を設けることは非常に重要です。「将来的に元の処遇に戻る可能性がある」という希望を明示することで、従業員の心理的な受け入れハードルが下がります。実際に、復職後6〜12ヶ月を経て体調が安定したタイミングで役職・給与を段階的に回復させているケースは少なくありません。

面談での説明と本人の意思確認

次に、従業員本人への説明面談を行います。この場で最も大切なのは、「会社が一方的に決めた」ではなく「一緒に確認する場」として設計することです。以下の流れが実務上有効です。

  • まず、会社として本人の復職を歓迎していることを伝える
  • 組織の現状(ポストの状況など)を事実ベースで説明する
  • 変更の内容と理由を文書を見せながら説明する
  • 本人の疑問・不安を受け止め、回答する時間を取る
  • その場で署名を求めず、「一度持ち帰って考えてもらって構わない」と伝える

特に回復途上の従業員に対して、面談の場で即決を迫ることは避けてください。「自由な意思に基づく合意」が後から争われないためにも、持ち帰りの時間を与えることが重要です。面談には可能であれば産業医や外部の支援者に同席してもらうと、中立性が保たれ、従業員の安心感にもつながります。

書面による合意の取り交わし

面談後、本人が内容に納得したら、「復職条件確認書」または「労働条件変更合意書」を取り交わします。この書面には以下を盛り込みます。

  • 変更内容の全項目(役職・給与・業務範囲・勤務時間など)
  • 変更の理由
  • 見直し・再評価の時期と条件
  • 本人が自らの意思で合意した旨の文言
  • 本人の自署・押印(または電子署名)と日付

口頭での合意は後から「そんなことは聞いていない」「承諾した覚えはない」と言われやすく、トラブルの温床になります。書面化は、会社を守ると同時に従業員にとっても「何が決まったか」を明確にするためのものです。双方にとって安心できる記録を残すこととして、前向きに取り組んでください。

試し出勤・段階復職の期間中の給与はどうする

試し出勤はグレーゾーンだからこそ事前に決めておく

フルタイム復職の前に「週3日・午前のみ出勤」などの段階的な復帰(リハビリ出勤・試し出勤)を行う企業が増えています。この期間は、厚生労働省のガイドラインでも「職場復帰の可否を判断するために活用できる」と位置づけられていますが、法的には「正式な復職」でも「業務命令」でもないグレーゾーンです。

問題は賃金の扱いです。「労務提供があれば賃金が発生する」というノーワーク・ノーペイの原則の裏返しとして、実際に出勤して何らかの作業をしている場合は賃金支払いが生じる可能性があります。一方、「職場に慣れるための活動であり業務ではない」と整理している企業もあります。

就業規則への明記と事前の取り決めが不可欠

試し出勤期間の賃金処理を後でトラブルにしないためには、事前に就業規則または個別合意書で明記しておくことが必要です。たとえば以下のような記載例が考えられます。

  • 「試し出勤期間中は、実際の勤務時間に応じた賃金を支払う」
  • 「試し出勤期間中の賃金は月額の○割とし、別途合意書で定める」
  • 「試し出勤は労働ではなく復職準備活動として位置づけ、賃金は発生しない(ただし傷病手当金の受給継続可否を要確認)」

特に傷病手当金を受給中の従業員が試し出勤を行う場合、健康保険組合によっては給付が停止される場合があります。会社と従業員の双方が不利にならないよう、社会保険労務士や健康保険組合に事前確認することをおすすめします。

就業規則に規定がない場合のリスクと対策

規定のない変更は「合意なし」と主張されやすい

中小企業の就業規則には、「復職時の賃金・等級の取り扱い」について何も書かれていないケースが多くあります。この状態で処遇変更を行うと、後から従業員に「就業規則に根拠がない変更だ」「合意した覚えはない」と言われた場合に、会社側が反論しにくくなります。

就業規則の整備は労働基準法上10人以上の事業所に義務づけられていますが、10人未満の企業でも「会社のルールを文書化している」という事実が、法的紛争予防において大きな意味を持ちます。

規定がない今でもできる対策

就業規則の整備がすぐには間に合わない場合でも、以下の対策を先行して行うことができます。

  • 個別の「復職条件確認書」を作成し、本人と取り交わす
  • 「現時点では就業規則に規定がないため、本書をもって両者の合意を確認する」という文言を明記する
  • 早期に就業規則を整備し、既存の合意内容と整合を取る

個別合意書は、就業規則がない状態でも有効な合意の証拠となります。ただし、後から就業規則を整備する際に、個別合意の内容と矛盾しないよう整合を確認しておくことも必要です。

まとめ

復職時の給与や役職は「原則として元に戻す」が法律上の出発点です。変更が必要な場合は、就業規則上の根拠・業務上の合理的な理由・本人の自由な意思による合意、この3点をそろえることが不可欠です。「病気を理由にした降格」は違法リスクがあるため、理由の表現には細心の注意が必要です。また、試し出勤期間の賃金や見直し条件なども事前に文書化しておくことで、後のトラブルを防げます。

「処遇を変更したいが、どう伝えればいいかわからない」「合意書のひな形がほしい」「説明面談に同席してもらえる人が必要」――そうしたお悩みを、ウェルセンス株式会社はメンタルヘルスの専門知識と人事労務の実務経験を組み合わせてサポートしています。復職対応に不安を感じたとき、一人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 復職後の給与は必ず元に戻さなければなりませんか?

A. 原則は「元の労働条件に戻す」です。ただし、就業規則や雇用契約に根拠規定があり、業務上の合理的な理由があり、かつ本人の自由な意思による合意が取れている場合は、変更が認められる可能性があります。この3点がそろわないまま一方的に給与を下げると、労働契約法違反となるリスクがあります。

Q. うつ病を理由に役職を下げることはできますか?

A. 「うつ病だから」という理由だけで降格することは、障害者雇用促進法の差別的取扱い禁止に抵触するリスクがあります。一方、「医師の意見書に基づき現時点では管理職業務の遂行が困難であること」「組織体制の変化によりポストが存在しないこと」など、業務上の合理的な理由に基づく変更であれば、認められる余地があります。理由の根拠を文書化しておくことが重要です。

Q. 本人が同意書にサインしてくれない場合はどうすればよいですか?

A. 同意が得られない場合は、一方的に変更を実施することは避けてください。まずは、変更の理由を丁寧に説明し、本人の不安や疑問に答える時間をつくることが先決です。それでも合意が難しい場合は、社会保険労務士や外部の支援機関を交えた三者面談を設けることで、中立な立場から状況を整理できることがあります。

Q. 試し出勤(リハビリ出勤)の期間中、給与は払わなくてよいですか?

A. 試し出勤期間中の賃金は、事前の取り決めによります。実際に業務に近い作業を行っている場合は賃金が発生するリスクがあるため、「復職準備活動として無給とする」「実労働時間に応じた賃金を支払う」など、就業規則または個別合意書で事前に明記しておくことが必要です。また、傷病手当金を受給中の従業員が出勤した場合は、給付が止まる可能性があるため、健康保険組合への確認も欠かせません。

Q. 就業規則に復職時の処遇に関する規定がありません。今すぐ変更を進めても大丈夫ですか?

A. 就業規則に根拠規定がない状態での処遇変更は、後から「合意していない」と主張されるリスクがあります。今すぐ就業規則の整備が難しい場合でも、個別の「復職条件確認書」を作成し、変更内容・理由・見直し条件を明記した上で本人の署名をもらうことで、合意の証拠を残すことができます。並行して就業規則の整備を進めることをおすすめします。

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