等級制度がない会社、給与はどう決めればいい?

等級制度がない会社、給与はどう決めればいい? 人事制度
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「給与をいくらにするか、毎年悩んでいる。でも根拠を聞かれても答えられない」——中小企業の経営者・兼務人事担当者から、こんな声をよく聞きます。採用時は求職者の希望額に合わせ、昇給は社長の感覚で決め、気づけば社内の給与バランスがバラバラに。等級制度も賃金テーブルもない状態で給与を決め続けていることに、うっすらと不安を感じながらも「うちだけじゃないはず」と思っている方も多いのではないでしょうか。この記事では、等級制度がない中小企業が今すぐ知っておくべきリスクと、現実的な整備の第一歩をわかりやすく解説します。

等級制度がない中小企業は「普通」か「問題あり」か

結論から言えば、等級制度がない中小企業は決して珍しくありません。ただし「珍しくない」ことと「リスクがない」ことはまったく別の話です。

多くの中小企業が同じ状況にある

20〜50名規模の企業では、創業期から人が増えてきた経緯上、「社長が給与を決める」という文化が根付いているケースが多くあります。採用時は候補者の希望額や前職の給与をベースに交渉し、既存社員の昇給は毎年の業績感覚や「あの人は頑張っている」という印象で決まる——そういった運用は、実はごく一般的です。等級制度や賃金テーブルを整備しているのは、ある程度人事機能が整った組織が多く、兼務人事が多い中小企業では後回しになりがちです。

「普通」でも課題は確実に蓄積している

問題は、こうした運用を続けるうちに「給与の歪み」が静かに積み上がることです。中途採用者を市場相場で迎えた結果、入社5年の既存社員より給与が高くなる。昇給要求に個別対応するうちに、同じ職種・同じ年次でも給与が数万円違う社員が生まれる。こうした状況は、社員が少ないうちは表面化しにくいものの、人数が増えるにつれて「なぜあの人の方が給料が高いのか」という不満が生まれる温床になります。「今は問題なく回っている」という認識は、多くの場合「問題がまだ表面化していないだけ」です。

制度がないと何が起きるか——具体的なリスク

等級制度・賃金テーブルがない状態で給与を決め続けると、経営・採用・法令対応の三方向でリスクが顕在化します。

優秀な人材が「評価されていない」と感じて離職する

頑張っている社員が昇給するかどうかが社長の感覚に依存している場合、当の社員には「どうすれば評価されるかわからない」という閉塞感が生まれます。昇給の根拠が不透明な組織では、優秀で自分の市場価値を知っている人ほど「ここにいても正当に評価されない」と感じ、転職を選ぶ傾向があります。採用コストをかけて入社させた人材が2〜3年で離職するサイクルが続いているなら、給与制度の曖昧さが一因になっている可能性があります。

採用時に「適正な給与」が判断できない

賃金テーブルがないと、採用候補者から希望年収を提示されたとき、それが自社にとって妥当かどうかを判断する軸がありません。業界相場との比較もせず候補者の希望額に応じ続けると、既存社員との逆転が起きます。逆に相場より低く提示して内定辞退が続くケースもあります。給与水準の「根拠」がないことは、採用競争力の見えない低下につながります。

法令上のリスクが気づかないうちに生じる

等級制度の有無にかかわらず、給与決定には法令上の制約があります。見落としやすいのは以下の点です。

  • 最低賃金の違反リスク:昇給を長年行わないでいると、毎年引き上げられる地域別最低賃金を下回る可能性があります。意図せず違反状態になるケースは珍しくありません。
  • 同一労働同一賃金への対応(パートタイム・有期雇用労働法):正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差は禁止されており、中小企業への適用は2021年4月からです。給与決定の根拠が曖昧だと、「なぜ差があるか」の説明責任を果たせず、紛争リスクになります。
  • 男女同一賃金の原則(労働基準法第4条):性別を理由とした賃金差別は禁止されています。制度がない状態では、意図せず性別による差が生じていても気づきにくい構造になっています。

「就業規則に規程があるから大丈夫」は危険な誤解

「社労士に就業規則を作ってもらったとき、賃金規程も入れてもらったから問題ない」と思っている経営者は少なくありません。しかし、実態は要注意です。規程に「等級に応じた賃金表」が書かれていても、実際の採用・昇給では使われていない、あるいは規程上の賃金表と実際の支給額が合っていない——これは「規程はあるが遵守されていない」という状態です。労使紛争や行政調査の際、規程と実態の乖離は「制度がない」よりもむしろリスクが高い場合があります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が義務(労働基準法第89条)であり、「賃金の決定・計算・支払の方法」は必須記載事項です。規程が形骸化していないか、一度確認することをお勧めします。

多くの中小企業が給与決定の根拠を曖昧なままにしていますが、社内不満や法令リスクの蓄積は避けられません。完璧な制度がなくても、現状を整理し判断基準を明確にすることから始めることが重要です。

給与決定の「根拠」をどう作るか——現実的な考え方

等級制度を一から設計しなくても、給与決定に「説明できる根拠」を持つことは可能です。まず考え方の整理から始めましょう。

給与を構成する3つの要素を整理する

給与の根拠を作るうえで、以下の3軸を整理することが出発点になります。

内容 決め方のヒント
市場水準 業界・職種・地域の相場 求人票・厚生労働省の賃金構造基本統計調査で確認
役割・職責 その人が担う仕事の範囲・難易度 職務内容を文章で整理し、役割レベルを3〜4段階に分ける
個人の習熟・貢献 経験年数・スキル・成果 昇給の判断基準を言語化する

これら3軸すべてを精緻に設計する必要はありません。「うちの会社ではどの軸を重視するか」を決めるだけでも、毎年の昇給判断の根拠として機能します。

役割レベルを「言葉」で定義するだけで変わる

本格的な等級制度を作らなくても、役割レベルを簡単な言葉で定義するだけで、給与決定に一貫性が生まれます。たとえば「一般社員(指示を受けて業務を遂行)」「中堅社員(一部の業務を自律的に進め、後輩のサポートをする)」「リーダー(チームや案件を主体的にマネジメントする)」という3段階を設け、それぞれの給与レンジの上限・下限を設定するだけで、採用時・昇給時の判断が大きく楽になります。完璧な制度を目指すより、「社長が一人で悩まなくていい仕組み」を先に作ることを優先してください。

既存社員の給与を「下げる」ことはできないと理解する

制度整備を進める際に必ず押さえておきたいのが、賃金引き下げの制約です。就業規則・労働契約に反する一方的な賃金引き下げは無効とされており、最高裁の判例でも繰り返し確認されています。「制度を整備したから既存社員の給与を適正額に下げる」という対応は、個別の同意または合理的な就業規則変更手続きを踏まない限り認められません。制度整備は「既存の給与を整理する」ではなく「今後の採用・昇給の基準を作る」という方向で進めることが現実的です。

等級制度整備、最初の一手は何か

制度整備の第一歩は「完成形を描くこと」ではなく「現状を見える化すること」です。まず現在地を把握することから始めましょう。

現状の給与分布を一覧化する

最初にやるべきことは、全社員の給与・役職・職種・勤続年数を一覧表にまとめることです。これだけで、給与の偏りや逆転現象が視覚的に把握できます。「同じ職種・同じ年次なのに給与差が大きい社員がいる」「入社順に給与が上がっており、役割とズレている」といった課題が一目でわかります。この現状把握がなければ、どんな制度を設計しても絵に描いた餅になります。

会社の規模・状況で整備の優先順位を変える

どこまで整備するかは、従業員数・就業規則の状況・直近の人事課題によって変わります。目安として以下を参考にしてください。

  • 従業員10名未満:就業規則の作成義務はありませんが、雇用契約書に賃金決定の根拠を明記する習慣をつけることが最低限の対策です。
  • 従業員10〜30名:就業規則・賃金規程の整備が法的義務(労働基準法第89条)。まず規程と実態の乖離をなくすことを優先します。
  • 従業員30〜50名:採用・昇給の頻度が上がり、給与決定の根拠がないまま放置すると社内不満が蓄積しやすい時期。役割レベルの定義と賃金レンジの設定に着手するタイミングです。

「完璧な制度」より「動かせる仕組み」を目指す

制度整備を先送りにする最大の理由は「大がかりなことをしなければならない」という思い込みです。実際には、役割を3段階に分けて給与レンジを設定し、昇給の判断基準を一枚の紙にまとめるだけでも、「根拠のある給与決定」に向けた大きな前進になります。専門家(社労士・人事コンサルタント)に依頼する場合も、「現状の課題を整理したうえで相談する」と、支援の範囲が明確になり、コストも抑えやすくなります。まず現状の一覧化と役割の言語化から自社で始め、それを材料に専門家へ相談する流れが、最も現実的なアプローチです。

給与決定の根拠作りは、人事だけの問題ではなく経営全体に関わる課題です。自社で整理できる部分は準備しながら、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、実行性のある仕組みが作れます。

まとめ

等級制度がない中小企業は珍しくありませんが、「珍しくない」ことはリスクがないことを意味しません。給与決定の根拠が曖昧なまま放置すると、優秀人材の離職・採用競争力の低下・法令違反リスクが静かに積み上がります。整備の第一歩は「完璧な制度を作ること」ではなく、まず現状の給与分布を見える化し、役割レベルを言葉で定義することです。その作業を通じて、自社の課題が初めて具体的に見えてきます。

ウェルセンス株式会社では、人事制度が整っていない中小企業の経営者・兼務人事担当者からのご相談を受け付けています。「何から手をつければいいかわからない」という段階からでも、現状整理のサポートが可能です。給与制度の整備、賃金規程と実態の乖離確認、昇給基準の言語化など、貴社の規模・状況に合わせた現実的なアドバイスをお伝えします。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 等級制度がなくても法律上は問題ないのでしょうか?

A. 等級制度の設置自体は法律で義務付けられていません。ただし、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則(賃金規程を含む)の作成と労働基準監督署への届出が義務(労働基準法第89条)です。また、「賃金をどう決めるか」の基準を就業規則に記載することは法令上必要であり、等級制度がなくても給与決定の根拠を書面化しておく必要があります。

Q. 制度整備に合わせて、高すぎる給与の社員を下げることはできますか?

A. 原則として、就業規則・労働契約に反する一方的な賃金引き下げは無効です。既存社員の給与を下げるには、本人の個別同意を得るか、合理的な理由のある就業規則変更手続き(不利益変更)を踏む必要があります。制度整備は「今後の採用・昇給の基準を作る」方向で進め、既存社員の給与調整は慎重に対応することが重要です。

Q. 社労士に就業規則を作ってもらったときに賃金規程も入れました。改めて整備が必要ですか?

A. 賃金規程があっても、実際の給与決定でその規程が使われていない場合は「規程と実態の乖離」が生じており、何もない状態よりリスクが高いケースもあります。規程上の賃金表と実際の支給額が合っているか、採用・昇給の際に規程に沿った運用ができているかを一度確認してください。乖離が大きい場合は、規程の見直しまたは運用の修正が必要です。

Q. パート・アルバイトと正社員の給与差は、制度がなくても認められますか?

A. パートタイム・有期雇用労働法により、正社員と非正規社員の間の「不合理な待遇差」は禁止されています(中小企業への適用は2021年4月から)。給与差が認められるかどうかは「職務内容・責任の範囲・異動の有無などの差異に基づく合理的な理由があるか」で判断されます。給与決定の根拠が曖昧な状態では、「なぜ差があるか」を説明できず、紛争リスクが高まります。

Q. 本格的な等級制度を作るのにどのくらいの費用・時間がかかりますか?

A. 社労士・人事コンサルタントへの依頼内容・規模によって大きく異なります。ただし、最初から完璧な制度を目指す必要はありません。まず自社で「現状の給与一覧の作成」「役割レベルの言語化(3〜4段階)」を行い、その内容を整理した状態で専門家に相談することで、支援範囲が絞られてコストを抑えやすくなります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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