中小企業の降格、制度と基準なしで進めて大丈夫?

中小企業の降格、制度と基準なしで進めて大丈夫? 人事制度
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「あの管理職、このままでは困る。でも降格させる根拠がない……」。そんな悩みを抱えたまま、判断を先送りにしていませんか。専任人事がいない中小企業では、降格の制度や基準が整っていないケースが大半です。しかし根拠なく降格を進めると、後から「不当だった」と指摘され、労使トラブルに発展するリスクがあります。この記事では、降格基準の設定から実際の面談の進め方まで、実務に即して解説します。

降格には「2種類」ある――混同が最大のリスク

懲戒降格と人事降格は別物

降格と一口に言っても、法的な性質が異なる2種類があります。一つは懲戒降格、もう一つは人事降格です。懲戒降格は、ハラスメントや業務上の重大なミスなど、規律違反に対するペナルティとして行うものです。一方、人事降格は業績不振や能力不足を理由に、役職・職位を見直すものです。

この2つを混同して処理してしまうと、それぞれの手続き要件をどちらも満たせず、後で無効になるリスクがあります。「問題がある社員だから降格」と感覚で動いてしまうのが最も危険なパターンです。

それぞれに必要な「根拠の場所」が違う

懲戒降格を有効に行うには、就業規則の懲戒規定に降格が懲戒処分として明記されている必要があります。労働基準法第89条は、制裁の定めをする場合は就業規則への記載を義務付けており、記載がなければ懲戒降格は無効と判断される可能性が高いです。

一方、人事降格の場合は懲戒規定ではなく、人事評価制度・等級制度に降格の事由と手続きが定められていることが根拠となります。「評価が2期連続で最低ランクだった場合、降格の対象とする」といった形で明文化されているかどうかが重要です。

記録を残すことが実務上の最重要事項

裁判例では、人事権の行使には「業務上の必要性があること」「不当な動機・目的がないこと」「労働者に著しい不利益を与えていないこと」の3つが求められています。これを後から証明するために、降格基準の明文化・降格の理由・経緯・面談記録を文書として残すことが不可欠です。記録がなければ、どれだけ正当な判断であっても立証できません。

降格と降給は別の問題――同時にできるとは限らない

役職手当の廃止は比較的認められやすい

「役職を下げるなら給与も下げる」と考える経営者は多いですが、降格(役職変更)と降給(賃金変更)は法的に別の問題です。役職手当など、役職に付随する手当の廃止・減額は、降格の結果として比較的認められやすい部分です。「課長手当を廃止する」という処理は、役職がなくなった結果として合理性を持ちやすいといえます。

基本給の引き下げには本人同意が必要

問題になりやすいのが基本給の引き下げです。これは労働条件の不利益変更にあたり、原則として本人の同意が必要です(労働契約法第9条・第10条)。就業規則に「降格に伴い対応する給与テーブルを適用する」旨の規定があれば、制度上の根拠として合理性の判断材料になりますが、それでも大幅な降給(目安として30%以上)は合理性が否定されやすい傾向があります。

「同意書」と「制度整備」の両方を押さえる

実務上は、降給を行う際に本人から同意書を取得することと、就業規則に降給の根拠規定を整備することの両方を押さえておくのが安全です。口頭での同意だけでは後から「同意した覚えはない」と言われるリスクがあります。必ず書面で残してください。降給の幅が大きいほど、後のトラブルにつながりやすいので慎重に検討することが重要です。

降格基準がない会社が今すぐすべき就業規則の整備

まず現状の就業規則を確認する

多くの中小企業では、就業規則が古いひな形のままで、降格に関する条文が存在しないか、あっても曖昧な記述にとどまっています。まず現状の就業規則を確認し、「懲戒の種類」の欄に降格・降職が含まれているかをチェックしてください。含まれていなければ、懲戒降格は法的に行えません。

降格基準と手続きを明文化する

次に必要なのは、降格の事由と手続きの明文化です。人事降格については、たとえば次のような形で規定します。「人事評価において2期連続で最低評価を受けた場合、または業務遂行能力が職位に対して著しく不足していると認められる場合、降格の対象とすることがある。降格を行う場合は、本人への事前通知と面談を行うものとする」。具体的な基準があるほど、後から「恣意的な判断だった」と指摘されにくくなります。

専任人事がいない会社でも運用できるシンプルな設計を

制度設計で陥りがちな失敗は、複雑すぎて運用できない制度を作ってしまうことです。大企業並みの等級制度をそのまま流用しても、現場が混乱するだけです。20〜50名規模の企業であれば、「役職ごとの期待水準を1枚の紙にまとめた基準表」と「降格の事由・手続きを明記した就業規則条文」の2点から始めるのが現実的です。シンプルで使える制度を作ることが、リスク回避の第一歩です。

不当な降格と言われないための降格面談の進め方

面談前の準備が結果を左右する

降格を本人に伝える面談は、準備なく臨むと深刻なトラブルに発展します。面談前に整理しておくべきことは、降格の理由(具体的な事実・評価の結果)、降格後の役職と給与の変化、今後のフォローアップ計画の3点です。「なんとなく合わないと思って」「上からそう言われたから」では通用しません。数字や具体的なエピソードを根拠として用意してください。

伝え方がパワハラにならないよう注意する

降格面談は、伝え方によってパワハラに該当するリスクがあります。大勢の前での通告、過度に感情的な発言、「会社に居場所はない」といった追い詰める表現は厳禁です。個室で、1対1か直属上司と人事担当者の2名で行い、落ち着いた環境で事実ベースの説明を心がけてください。また、面談後は内容を議事録として記録に残すことが重要です。

本人の反応に応じたフォローアップを設計する

降格通知は本人に強い心理的ショックを与えます。面談後に落ち込みや意欲低下が続く場合は、放置せず1〜2週間後にフォロー面談を設定してください。労働契約法第5条の安全配慮義務に基づき、降格後の本人の状態を観察・支援する義務があります。降格が引き金となってメンタル不調・休職に至り、対応が不十分だったと判断された場合、使用者責任を問われるリスクもあります。

降格後のメンタルヘルスケア――休職に至らせないために

降格直後の「危険なサイン」を見逃さない

降格後に注意すべきサインとして、急激な業務パフォーマンスの低下、欠勤・遅刻の増加、コミュニケーションの回避、食欲低下や睡眠障害を訴えるといった変化があります。こうした変化が2週間以上続く場合は、早期に産業医や専門家への相談を検討してください。降格後1〜3か月はリスクが高い時期と心得ておくことが重要です。

「降格=終わり」ではないメッセージを伝える

降格が休職・退職につながる大きな要因の一つは、本人が「もう会社に必要とされていない」と感じることです。降格は懲罰ではなく役割の再設定であることを、言葉で丁寧に伝えることが重要です。「現在の役職の期待水準に対応できていないが、別の形で貢献できる役割がある」というメッセージを、面談で明確に伝えてください。

降格後のキャリア支援が定着率を左右する

降格した社員が職場に居続けられるかどうかは、その後のサポートにかかっています。降格後に新しい役割での目標設定を行い、3か月後・6か月後の評価機会を設けることで、本人に「再起の道がある」と感じさせることができます。中長期で考えると、降格後の適切なフォローは離職防止と組織の安定に直結します。

まとめ

降格は、正しく進めれば組織と個人の双方にとって再スタートの機会になります。しかし降格基準や制度がないまま進めると、労使トラブルや休職・退職といった深刻なリスクを招きます。まず就業規則に降格の根拠規定を設けること、降格と降給の違いを正確に理解すること、そして面談と事後フォローを丁寧に行うこと——この3点が、中小企業における降格対応の核心です。

「うちの会社の就業規則で本当に降格できるのか」「今進めようとしている降格面談の進め方に不安がある」といった疑問は、早めに専門家に確認するのが最も確実です。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の制度整備・面談設計・メンタルヘルスフォローをまとめてご支援しています。降格に関してお困りでしたら、まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 就業規則に降格の規定がなくても降格できますか?

A. 懲戒降格は就業規則への記載がなければ無効になる可能性が高いです。人事降格については明文規定がなくても行える場合もありますが、評価基準や手続きが不明確だと「権利の濫用」と判断されるリスクがあります。いずれの場合も、就業規則への明記が最も安全な対応です。

Q. 降格に伴って基本給を下げることはできますか?

A. 役職手当の廃止は比較的認められやすいですが、基本給の引き下げは労働条件の不利益変更にあたり、原則として本人の同意が必要です(労働契約法第9条)。就業規則に降給の根拠規定を設けたうえで、本人から書面で同意を取得することが実務上の標準的な対応です。

Q. 降格を伝えたら本人が強く反発しました。どう対応すればいいですか?

A. まず本人の感情を否定せず、話を聴く姿勢を持つことが重要です。反発が続く場合は、改めて個別面談の場を設けて、降格基準と判断理由、今後のキャリアについて丁寧に説明してください。面談内容は必ず記録に残しましょう。感情的な対立が深まる前に、第三者(外部の人事専門家など)を交えた対話を検討することも有効です。

Q. 過去に行った降格が「不当だった」と指摘されるリスクはありますか?

A. あります。特に当時の判断に記録がなく、合理的な理由を証明できない場合はリスクが高まります。現時点で記録が残っていない場合は、当時の経緯をできる限り文書化し、再発防止のために今後の降格基準と手続きを整備することが重要です。不安な場合は専門家に相談して現状を確認することをおすすめします。

Q. 降格後にメンタル不調になった社員には、どこまで対応する義務がありますか?

A. 労働契約法第5条の安全配慮義務に基づき、会社は降格後の社員の状態を観察・フォローする義務があります。不調のサインが見られた場合は産業医や専門家への相談を促し、必要に応じて業務量の調整や面談の実施を行ってください。対応が不十分だと、休職・退職後に使用者責任を問われるリスクもあるため、早期の対処が重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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