労災発生時にやるべき初動対応と手続き5ステップ

労災発生時にやるべき初動対応と手続き5ステップ 労務管理
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「労災が起きた。でも、何をすればいいかわからない」——専任の人事担当者がいない中小企業では、こうした状況に直面したとき、対応が後手に回ってしまうケースが少なくありません。初動を誤ると、従業員との信頼関係が壊れるだけでなく、法令違反のリスクも生じます。この記事では、労災発生時にやるべき初動対応を5つのステップに整理し、手続きの流れと注意点をわかりやすく解説します。

被災者の救護と安全確保を最優先にする

労災発生時の初動対応において、担当者がやるべき最初の行動は書類の準備でも報告でもなく、「人を助けること」です。被災した従業員の状態を確認し、必要であれば迷わず救急車を呼んでください。また、同じ事故が起きないよう、現場の危険要因を取り除くか立入禁止にするなどの安全確保も同時に行います。

けがの程度に関わらず、まず医療機関を受診させることが重要です。「たいしたことないだろう」と判断して受診を後回しにしてしまい、後から症状が悪化するケースも実際にあります。

事故の状況を記録する

救護と安全確保が済んだら、できるだけ早く事故の状況を記録します。記録すべき内容は、事故が起きた日時・場所・状況の経緯・目撃者の有無・被災者の状態などです。スマートフォンで現場の写真を撮影しておくことも重要で、後の申請手続きや再発防止策の検討に役立ちます。

記憶は時間が経つほど曖昧になります。その日のうちに文書化しておくことを習慣づけてください。

労災指定医療機関かどうかを確認する

搬送先の病院が「労災指定医療機関」かどうかによって、その後の手続きが変わります。労災指定医療機関であれば、従業員は自己負担なしで治療を受けられます。一方、指定外の医療機関の場合は、一旦従業員が立替払いをして、後から労働基準監督署(以下、労基署)に申請して還付を受ける流れになります。

近くの病院が指定医療機関かどうかは、厚生労働省の「労災保険指定医療機関検索」ページで確認できます。緊急時はやむを得ませんが、可能であれば指定医療機関に搬送することで、手続きがシンプルになります。

労働者死傷病報告の提出義務

労災が発生した場合、会社には「労働者死傷病報告」を労基署に提出する法的義務があります。提出期限と様式は、休業日数によって異なります。

休業が4日以上となる場合は「様式第23号」を、遅滞なく(原則として事故発生後すみやかに)提出します。休業が4日未満の場合は「様式第24号」を使い、四半期ごとにまとめて提出します。

この報告を怠ったり、虚偽の内容を記載したりすることは「労災隠し」として、労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金が科される可能性があります。後述しますが、労災隠しは罰則だけでなく、従業員との信頼関係や会社の評判にも深刻な影響を与えます。

療養補償給付と休業補償給付の申請手続き

療養補償給付の申請書類は、治療を受ける医療機関の種別によって変わります。業務上の労災(通勤ではなく仕事中の事故)で、労災指定医療機関を受診する場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を使います。この書類は医療機関経由で労基署に提出されるため、会社は書類に「事業主証明」を記入して医療機関に渡します。

指定外の医療機関を受診した場合は「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」を労基署に提出し、立替払い分の還付を受けます。通勤災害の場合は様式番号が異なり(様式第16号の3・第16号の5)、通常の業務災害とは手続きが異なる点に注意してください。

会社がやるべき主な書類対応は「事業主証明欄への記入」です。この証明は、事故の事実を会社として確認・認める行為であり、正当な理由なく拒否することは法律上認められていません。

従業員が4日以上休業する場合、給付基礎日額の約8割が支給される「休業補償給付」の申請も必要になります。こちらも申請書(様式第8号)への事業主証明が必要で、会社側の協力なしには手続きが進みません。担当者は従業員から依頼があった際には速やかに対応するようにしてください。

労災隠しは避けるべき違法行為

「労災認定されると会社の評判が落ちる」「保険料が上がるかもしれない」という不安から、業務上の事故を労災保険ではなく健康保険で処理しようとするケースが中小企業では見受けられます。しかし、これは明確な違法行為です。

業務上の傷病に健康保険を使うことは、健康保険法の趣旨に反します。後から発覚した場合、健康保険組合から費用の返還を求められるだけでなく、労基署の調査対象にもなります。従業員が後から「実は労災だった」と申し出るケースも多く、そのとき会社側の対応が悪質と判断されると、行政指導・書類送検に発展する可能性もあります。

被災した従業員や目撃者に対して、「労災申請はしないでほしい」「大げさにしないでくれ」などと伝えることも、労災隠しとみなされる可能性があります。経営者が悪意を持っていなくても、従業員がそのように受け取れば問題になります。

発生後の初動で不用意な発言をしてしまい、後に従業員から「申請を妨害された」と訴えられた事例は実際に存在します。労災が発生した事実を受け止め、正当な手続きを進めることが、会社を守ることにもつながります。

保険料への影響は中小企業では限定的

「労災を申請すると保険料が上がる」という誤解が根強くありますが、保険料に影響する「メリット制」が適用されるのは、一定規模以上の事業場に限られます。一般的には労働者数が100人以上の事業場が対象となるため、20〜50名規模の中小企業では保険料への直接的な影響はほとんどありません(ただし建設業・林業など一括有期事業は規模によらず適用される場合があります)。

保険料を心配して労災を隠すことは、実態のないリスクを恐れて、はるかに大きなリスクを招く行為です。

精神疾患による労災への対応

「体のけが」だけが労災の対象だと思っている方は少なくありませんが、長時間労働やハラスメントが原因で発症したうつ病・適応障害なども、労災認定の対象になります。厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和5年9月改正)に基づき、以下の3つの要件を満たす場合に認定されます。まず対象となる精神障害が発症していること、次に業務による強い心理的負荷があったこと、そして業務以外の原因では説明できないこと、の3点です。

近年は申請件数が増加傾向にあり、令和4年度の精神障害に関する労災支給決定件数は710件と過去最多を更新しました。中小企業においても決して他人事ではありません。

初動での不用意な発言が訴訟リスクになる

精神障害の労災で特に注意が必要なのは、発生直後の会社側の言動です。「本人の性格の問題だ」「仕事が原因とは思えない」といった発言を会社が早々にしてしまうと、後に従業員が訴訟を起こした際に、会社の誠実さを疑われる材料になります。

初動では「事実の確認」に徹し、原因や責任についての判断は慎重に行うことが重要です。特にハラスメントが疑われる場合は、当事者への事情聴取や証拠の保全も必要になるため、専門家への相談を早めに検討してください。

労基署が労災認定の調査を行う際、会社には勤務記録や業務内容の提供など、調査への協力が求められます。ここで情報を隠したり、調査を妨害したりすると、民事訴訟において会社側に不利な状況を生み出す可能性があります。

「認定されたくないから協力しない」という姿勢は逆効果です。誠実に対応することで、会社の信頼性を保ちながらリスクを最小化できます。

再発防止と社内体制づくり

労災対応は申請書類を提出して終わりではありません。同じ事故が再発しないよう、原因を分析し、具体的な再発防止策を実施して記録しておくことが求められます。たとえば、機械のメンテナンス不足が原因であれば点検スケジュールの見直し、業務過多が原因であれば人員配置の改善といった対策が考えられます。

再発防止策の記録は、万一の際に「会社として誠実に対応した証拠」にもなります。

対応フローと担当者をあらかじめ決めておく

専任の人事担当者がいない企業ほど、「労災が起きたときに誰が何をするか」があいまいになりがちです。事前に対応フローを整理しておくだけで、いざというときのパニックを大幅に減らせます。

具体的には、緊急連絡先(救急・警察・労基署・社会保険労務士など)のリスト化、初動チェックリストの作成、申請書類のテンプレート保管などが有効です。年に一度、担当者が変わったタイミングで内容を見直す習慣をつけることをおすすめします。

社会保険労務士などの専門家への相談を検討する

労災手続きは、発生のたびに様式を調べ、記載内容を確認し、提出先を確認する作業が伴います。専任人事がいない企業にとっては、かなりの負担です。社会保険労務士と顧問契約を結んでおくか、いざというときに相談できる窓口を持っておくことで、初動の混乱を最小限に抑えられます。

特にメンタル疾患が絡む労災は判断が難しいため、発生が疑われた時点で早めに専門家に相談することが重要です。

まとめ

労災発生時の初動対応は、まず被災者の救護と安全確保、次に状況の記録、そして医療機関への搬送と書類手続きへの協力、という流れで進めます。会社が申請を妨害したり、健康保険で処理したりすることは法令違反であり、後から発覚した場合のリスクは申請そのものよりもはるかに大きくなります。精神疾患の労災は特に初動の対応が重要で、不用意な発言や調査への非協力が訴訟リスクを高めます。

「いざとなれば何とかなる」ではなく、事前に対応フローを整えておくことが、会社と従業員の双方を守ることにつながります。ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・人事担当者の方からのご相談をお受けしています。労災対応から休職復職支援、メンタルヘルス対応まで、人事労務の課題を幅広くサポートいたします。「何から手をつければいいかわからない」という段階でも構いません。一緒に整理しますので、まずはお気軽にご連絡ください。

よくある質問

Q. 労災の申請は会社がやるのですか?従業員がやるのですか?

A. 労災保険の請求者は従業員本人です。ただし、申請書類には会社が「事業主証明」を記入する必要があり、会社の協力なしには手続きが完結しません。会社は書類への署名・押印や、労働者死傷病報告の提出など、定められた対応を行う義務があります。

Q. 労災を申請すると保険料が上がりますか?

A. 保険料が変動する「メリット制」は、一般的に労働者数100人以上の事業場に適用されます。20〜50名規模の中小企業では、原則として保険料への影響はほとんどありません。ただし建設業・林業など一括有期事業は規模が小さくても適用される場合があるため、ご自身の業種・規模を確認してください。

Q. 従業員が「労災申請しなくていい」と言っています。それでも手続きは必要ですか?

A. 休業が4日以上になる場合、労働者死傷病報告の提出は会社の義務であり、従業員の意向に関わらず提出が必要です。給付申請自体は従業員の権利ですが、会社が申請を妨げたり怠ったりすることは法令違反となります。従業員が申請を望まない場合も、会社として報告義務は果たしてください。

Q. メンタル不調で休んでいる従業員が労災申請したいと言ってきました。会社はどう対応すべきですか?

A. まず従業員の申請を妨げず、必要な書類への協力を行うことが基本です。労基署から調査依頼があった場合は、勤務記録や業務内容に関する資料を誠実に提供してください。発症原因についての会社側の判断を早計に発言することは避け、事実確認に徹する姿勢が重要です。対応に不安がある場合は、早めに社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

Q. 療養補償給付の申請書類はどこで入手できますか?

A. 様式第5号・第7号・第8号などの書類は、最寄りの労働基準監督署の窓口で入手できるほか、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードすることも可能です。労災指定医療機関の場合は、医療機関窓口に様式が備え付けられているケースもあります。どの様式を使えばよいか迷った場合は、労基署に直接確認するのが確実です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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