ストックオプションは労働条件通知書に書くべきか迷ったら

ストックオプションは労働条件通知書に書くべきか迷ったら 労務管理
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「社員にストックオプションを付与することになったが、労働条件通知書には何を書けばいいのか」——IPO準備中の経営者や、スタートアップで初めてストックオプション制度を導入しようとしている兼務人事担当者から、こうした相談が増えています。労務側の手続きと税務側の課税ルールが複雑に絡み合うため、「とりあえず割当契約書を交わしておけばいい」と思いがちですが、そこには見落としやすい落とし穴がいくつもあります。この記事では、労働条件通知書への記載要否から税制適格・非適格の違い、会社に発生する源泉徴収義務まで、実務担当者が自分のケースに当てはめて判断できるよう整理します。

労働条件通知書にストックオプションは「必ず書く」義務があるのか

結論から言うと、ストックオプションは労働条件通知書の「絶対的明示事項」には含まれず、法律上の必須記載事項ではありません。ただし、制度の内容や付与の経緯によっては、記載しないことがトラブルの原因になるケースがあります。

絶対的明示事項と相対的明示事項の違い

労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条は、労働契約締結時に使用者が書面(または電磁的方法)で示さなければならない事項を定めています。賃金の計算・支払方法、労働時間、休日などが「絶対的明示事項」であり、これらは定めの有無にかかわらず必ず明示が必要です。

一方、「退職手当に関する事項」「臨時の賃金等に関する事項」は「相対的明示事項」に分類されます。制度として定めがある場合のみ書面で示す義務が生じます。ストックオプションがインセンティブ報酬としての性格を持つ場合、これらの項目との整理が必要になります。

ストックオプションが「賃金」に該当するかどうかの判断

非適格ストックオプションでは、権利行使時に生じる利益(権利行使益)が給与所得として課税されます。税法上「給与所得」として扱われるということは、労働の対価という性格を持っていると解釈される余地があります。こうしたケースでは、就業規則や賃金規程にストックオプションの付与条件・算定根拠を明記しておくことが、後日の紛争を防ぐうえで重要です。

一方、税制適格ストックオプションは権利行使時には課税されず、株式売却時に譲渡所得として課税されます。賃金としての性格が薄いため、労働条件通知書本体への記載の必要性は相対的に低くなりますが、付与の事実と条件は別途書面で残すべきです。

実務上の推奨対応:割当契約書+規程の整備

現場での一般的な対応は、「ストックオプション割当契約書を個別に締結し、就業規則または賃金規程にストックオプションに関する規定を設ける」という方法です。労働条件通知書本体への記載は必須ではないものの、割当契約書の存在と規程の整備を省略すると、社員との認識のズレや税務調査時の証拠不足につながります。専任人事がいない場合は特に、このセットでの整備を優先してください。

税制適格と非適格、会社側の手続きはどう変わるのか

税制適格か非適格かによって、会社側の事務負担と源泉徴収義務の有無が大きく変わります。制度選択の前に両者の違いを正確に把握しておくことが欠かせません。

税制適格ストックオプションの要件と管理義務

税制適格ストックオプションは租税特別措置法第29条の2に規定されており、要件を満たすことで権利行使時の給与課税が発生しません。主な要件は以下のとおりです。

要件項目 内容
付与対象者 会社の取締役・従業員等(大口株主等を除く)
権利行使価額 付与時の株式時価以上
権利行使期間 付与決議日の2年後〜10年後
年間行使上限額 1,200万円以下(2024年度税制改正で一定要件下に拡充動向あり)
株式の保管委託 証券会社等への預託が必要

重要なのは、付与時だけでなく権利行使まで継続的に要件を維持する必要がある点です。証券会社への預託契約の維持、年間行使額の上限管理、権利行使価額の算定根拠の記録保存——これらを怠ると、後から遡って非適格と判断され、追徴課税や不納付加算税のリスクが生じます。

非適格ストックオプションで発生する源泉徴収義務

非適格ストックオプションでは、社員が権利行使した時点で「権利行使価額と株式時価の差額(権利行使益)」が給与所得として課税されます。この段階で会社側に源泉徴収義務が発生します。たとえば行使価額500円・行使時の株式時価1,500円の場合、1株あたり1,000円の差額が給与所得として扱われ、会社は所得税・住民税の源泉徴収を行い、納付する義務を負います。

なお、退職後に権利行使する場合は退職所得または一時所得として扱われるケースもあり、課税区分が変わることがあります。在職中の行使と退職後の行使で手続きが異なる点も、事前に整理しておく必要があります。

有償ストックオプション・信託型の取り扱い変化

社員が対価を払って取得する有償ストックオプション、および信託型ストックオプションは、かつて給与課税を回避できる設計として活用されていました。しかし2023年以降、国税庁が信託型ストックオプションに対して給与課税を適用するとの見解を示したことで、実務上の取り扱いが大きく変化しています。この領域は今なお税務当局の動向が流動的なため、導入を検討する場合は必ず最新情報を税理士・弁護士と確認してください。

就業規則・賃金規程の整備を省略してはいけない理由

割当契約書を交わすだけで就業規則・賃金規程への定めを省略すると、社員との間でトラブルが起きたときに会社側が不利な立場に置かれるリスクがあります。

規程がないと何が起きるか

就業規則や賃金規程にストックオプションの付与条件・行使条件・失権事由が定められていない場合、社員が「自分は権利を持っている」と主張したときに、会社側が契約の内容を明確に示せない状況が生まれます。たとえば、業績不振による未行使のまま退職した社員が「付与された権利は引き続き行使できる」と主張するようなケースでは、規程の有無が紛争の行方を左右します。

IPO準備中の企業が特に注意すべき点

IPO(株式上場)を目指す企業では、証券会社や証券取引所の審査において、ストックオプションの付与根拠・条件・管理体制が適切に整備されているかどうかが確認されます。割当契約書だけが存在し、就業規則や賃金規程に対応する規定がない状態は、審査上の指摘事項になり得ます。上場準備に入る前の段階から、労務書類の整備を進めておくことが重要です。

規程整備のタイミングと優先順位

ストックオプションを初めて付与するタイミングが、規程整備の最も適切な機会です。付与後に規程を後追いで整備しようとすると、既存の付与との整合性を取るための調整が必要になり、手間が増えます。まず就業規則にストックオプションに関する条項を追加し、次に賃金規程または別規程(ストックオプション規程)として詳細を定める、という順序で進めるとスムーズです。

社員への説明責任:何をどのタイミングで伝えるか

社員から「これは給与になるのか」「行使したらいくら税金を払うのか」と聞かれたとき、曖昧な回答をすると信頼を損ないます。会社として伝えるべき内容と、専門家に委ねるべき内容を区別して整理しておくことが大切です。

付与時に社員に伝えるべき基本事項

付与時には、少なくとも以下の内容を書面(割当契約書または付与通知書)で社員に示すことを推奨します。付与する株式の種類・数、権利行使価額、権利行使期間、失権事由(退職・解雇等による権利喪失の条件)、税制適格または非適格の区分、課税のタイミングの概要——これらを明示することで、社員の誤解を防ぐとともに、後日の「聞いていなかった」というトラブルを防げます。

税制適格と非適格で社員への説明が変わる部分

税制適格の場合は「権利行使時には課税されず、株式を売却したときに譲渡所得として課税される」と伝えます。非適格の場合は「権利行使時に給与所得として課税され、会社が源泉徴収を行う」と説明します。社員にとっては手取り額に直結する話であるため、付与条件と合わせて丁寧に説明することが、モチベーション管理の観点からも重要です。ただし個別の税額計算は税理士に相談するよう案内するのが適切です。

退職時・権利行使時のフォローアップ

ストックオプションは付与から権利行使まで数年かかることが多く、その間に社員が退職するケースも出てきます。退職時に権利がどうなるかを就業規則・規程で明確にしておき、退職面談の場で確認することが必要です。また、権利行使のタイミングで会社側が源泉徴収の手続きを正確に行えるよう、経理・税理士との連携体制を事前に整えておきましょう。

労務と税務の両面から対応を進めるなら、全体像を整理してくれる相談相手があると安心です。

「自社はどのパターンか」チェックリストで確認する

ストックオプションの労務・税務対応は、会社の状況によって優先すべき作業が変わります。以下のポイントで自社の状況を確認してください。

規模・フェーズ別の対応優先度

まだストックオプション制度を導入していない段階(検討中)であれば、税制適格か非適格かの制度設計の選択と、就業規則・規程の整備を同時に進めることが最優先です。すでに付与済みだが規程が未整備という状況では、まず付与済み分の割当契約書の内容を確認し、就業規則への追記を急いでください。IPO準備フェーズにある場合は、証券会社の審査に備えて、付与根拠の記録・保管委託の維持・年間行使額の管理状況を一括で見直す必要があります。

専任人事がいない場合のリスク管理

専任人事がいない中小企業では、ストックオプションの継続管理(保管委託の維持、年間行使額の上限チェック、権利行使時の源泉徴収対応)が経営者や兼務担当者の後回しになりがちです。税理士・社労士への丸投げだけでは、労務側と税務側の連携が抜け落ちることがあります。どの専門家が何を担当しているかを明文化し、会社側のチェックポイントを年間スケジュールに組み込むことが現実的な対策です。

複数の専門領域が交わるストックオプション対応は、人事だけで判断せず、早めに労務・税務の専門家と整理することが成功のカギです。

まとめ

ストックオプションは、労働条件通知書の絶対的明示事項には含まれませんが、割当契約書と就業規則・賃金規程の整備をセットで行わないと、後々のトラブルや税務調査時のリスクにつながります。税制適格か非適格かで会社側の源泉徴収義務の有無が変わり、要件の継続管理を怠ると遡及課税のリスクも生じます。社員への説明責任を果たすためにも、付与時に書面で条件を明示し、退職・権利行使の際のフローをあらかじめ整備しておくことが重要です。

「自社の状況でどこから手をつければいいかわからない」「労務側と税務側を一緒に整理できる相談窓口が欲しい」という場合は、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。専任人事がいない成長企業の実情に合わせて、優先度の高い課題から一緒に整理します。

よくある質問

Q. ストックオプションは労働条件通知書に必ず記載しなければなりませんか?

A. 法律上の絶対的明示事項には含まれないため、必須ではありません。ただし、インセンティブ報酬としての性格がある場合は「臨時の賃金等に関する事項」などの相対的明示事項として整理し、就業規則・規程と割当契約書で内容を明確にしておくことが実務上強く推奨されます。

Q. 税制適格ストックオプションなら会社側に源泉徴収の手続きは不要ですか?

A. 要件を満たし続ける限り、権利行使時の給与課税は発生しないため、その段階での源泉徴収義務は生じません。ただし、証券会社への預託維持・年間行使額の上限管理など継続的な管理義務があり、要件を1つでも満たさなくなった時点で非適格となり、源泉徴収義務が発生します。付与後の管理体制の構築が不可欠です。

Q. 非適格ストックオプションの場合、会社は何をしなければなりませんか?

A. 権利行使時に「権利行使価額と株式時価の差額(権利行使益)」が給与所得として課税されるため、会社側に源泉徴収義務が発生します。社員が権利行使した際に所得税・住民税の源泉徴収・納付の手続きを行う必要があります。退職後の行使では課税区分が変わる場合があるため、税理士との連携が重要です。

Q. 割当契約書を締結していれば就業規則の整備は省略できますか?

A. 省略はリスクがあります。就業規則や賃金規程にストックオプションの付与条件・失権事由が定められていない場合、退職した社員との紛争時に会社側が契約内容を明確に示せない状況が生まれます。またIPO準備中であれば、審査において就業規則・規程の整備状況が確認されます。割当契約書と規程整備はセットで対応することが原則です。

Q. 信託型ストックオプションは現在も給与課税を回避できますか?

A. 2023年以降、国税庁が信託型ストックオプションに対して給与課税を適用するとの見解を示したことで、実務上の取り扱いが大きく変化しています。現時点では給与課税回避の手段として安易に活用することは難しい状況です。導入を検討している場合は、最新の税務当局の動向を税理士・弁護士に確認したうえで判断してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
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