育児短時間勤務の社員に残業させてもいい?

育児短時間勤務の社員に残業させてもいい? 労務管理
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「短時間勤務の社員に、ちょっとだけ残ってもらうのはダメなの?」「本人が『いいですよ』と言っているんだけど…」。育児中の社員への残業依頼は、多くの中小企業の経営者・人事担当者が判断に迷う場面です。実は、育児・介護休業法には「所定外労働免除」という制度があり、知らずに対応していると法的リスクを抱えることがあります。この記事では、育児短時間勤務中の社員への残業命令が許されるケース・許されないケースを、法律の根拠とともにわかりやすく解説します。

育児短時間勤務と所定外労働免除は「別の制度」

育児短時間勤務制度とは

育児短時間勤務制度は、育児・介護休業法第23条に基づく制度です。3歳未満の子を持つ労働者が希望した場合、事業主は所定労働時間を原則1日6時間に短縮しなければなりません。たとえば、もともと1日8時間勤務の社員が、産休・育休から復帰後に「1日6時間で働きたい」と申し出たときに適用されるのがこの制度です。

大切なのは、この制度はあくまで「1日の所定労働時間を短くする」ための仕組みだということです。残業(所定労働時間を超える労働)を禁止するかどうかについては、別の制度が関係してきます。

所定外労働免除制度とは

所定外労働免除制度は、育児・介護休業法第16条の8に定められた制度です。3歳未満の子を養育する労働者が事業主に「申請」をした場合、事業主は所定労働時間を超える労働——つまり残業——をさせてはならないという義務が発生します。

ここが重要なポイントです。この制度は「努力義務」ではなく「義務規定」です。申請があれば、事業主には原則として拒否する権限はありません。申請の方法は書面が望ましいとされていますが、法律上の様式は特に指定されていません。適用期間は、申出から1か月以上1年以内の範囲で労働者が定めて申請します。

育児短時間勤務と所定外労働免除の違い

実務上よくある誤解は、「育児短時間勤務中だから残業は当然禁止」と思い込むケースです。しかし法律上の扱いは次のようになります。

育児短時間勤務を利用していても、所定外労働免除の申請をしていなければ、育児・介護休業法上は直ちに残業命令が違法になるわけではありません。逆に、フルタイムで働いている社員であっても、所定外労働免除の申請をすれば残業をさせてはなりません。つまり、残業の可否を決めるのは「短時間勤務かどうか」ではなく、「所定外労働免除の申請があるかどうか」なのです。

申請があった場合、事業主は断れるのか

原則として拒否はできない

所定外労働免除の申請があった場合、事業主は原則としてその申請を断ることができません。「今は繁忙期だから」「人手が足りないから」といった業務上の理由があっても、法律上の義務として免除しなければなりません。これは育児・介護休業法が労働者の権利として明確に定めているためです。

たとえば、経理担当の社員が3歳未満の子を養育しており、決算期に差しかかったタイミングで所定外労働免除を申請してきた場合でも、事業主はその申請を受け入れる義務があります。「決算が終わるまで待ってほしい」という対応は法律違反になります。

例外的に適用しなくてよいケース

ただし、一定の条件に該当する労働者については、申請があっても所定外労働免除を適用しなくてよい場合があります。具体的には、日々雇用される労働者(日雇いの方)が対象外となるほか、労使協定(労働者代表と事業主が締結する取り決め)を結んでいる場合は、継続雇用1年未満の労働者や、週の所定労働日数が2日以下の労働者も適用外とすることができます。

ただし、この「労使協定」がなければこれらの除外はできません。「うちは規模が小さいから関係ない」と思っている会社ほど、知らないうちに違反しているケースがあります。自社に労使協定があるかどうか、一度確認しておくことをお勧めします。

申請を受けた後の実務対応

申請があった場合、まず申請内容(いつからいつまでの期間か、対象となる子どもの情報など)を確認します。次に、社内でその社員のシフトや業務分担を見直し、残業が発生しない体制を整える必要があります。「申請を受けた」という事実は記録として残しておきましょう。書面での申請が望ましいのはこのためでもあります。

申請がない場合でも残業を頼むときの注意点

育児・介護休業法上の問題と、それ以外の問題は別

所定外労働免除の申請がない状態で育児短時間勤務中の社員に残業を依頼することは、育児・介護休業法上は直ちに違法とはなりません。しかし、それだけで「問題なし」とはいえません。

まず、雇用契約書や就業規則で所定労働時間が短縮されている場合、その時間を超えて働かせることは契約上の問題になりえます。たとえば、「1日6時間勤務」と雇用契約書に明記されているのに7時間・8時間働かせることは、たとえ本人が「いいですよ」と言っていても、会社側のリスクになります。

ハラスメントになる可能性

本人の意思に反して残業を強制したり、断りにくい雰囲気を作ったりすることは、マタニティハラスメント(マタハラ)や育児ハラスメント(育ハラ)として問題になる可能性があります。「頼んだら断れなかった」「上司に言われたので仕方なく残った」という状況が積み重なると、後から労務トラブルに発展するケースがあります。

「本人が了承しているから大丈夫」という判断は危険です。了承の背景に心理的なプレッシャーがあれば、法的には強制と見なされる可能性があります。

時間外労働の上限規制は全員に適用される

育児短時間勤務中の社員であっても、時間外労働の上限規制(原則として月45時間・年360時間以内)は変わらず適用されます。短時間勤務で1日の労働時間が短いからといって、月の残業時間を多く命じることは認められません。この点も見落としがちなポイントです。

3歳以上の子どもを持つ社員に関連する制度も知っておく

時間外労働の制限制度(小学校就学前まで)

育児・介護休業法には、所定外労働免除のほかにも「時間外労働の制限制度」(第17条)があります。これは小学校就学前の子を持つ労働者が対象で、申請した場合に時間外労働を月24時間・年150時間以内に制限できる制度です。

所定外労働免除(3歳未満)と時間外労働の制限(就学前まで)は対象年齢が異なります。子どもが3歳を過ぎた社員が申請してきた場合、所定外労働免除は使えませんが、時間外労働の制限は申請できます。混同しないよう整理しておきましょう。

深夜業の制限制度

同じく育児・介護休業法の規定として、小学校就学前の子を持つ労働者が申請した場合、深夜(午後10時から午前5時)の労働を免除する「深夜業の制限制度」もあります。育児短時間勤務中の社員に深夜シフトを割り当てる予定がある場合は、この制度の申請があれば対応できない点を理解しておく必要があります。

育児関連制度の全体像

以下のように整理すると、各制度の対象範囲が明確になります。所定外労働免除は3歳未満の子を持つ労働者が申請した場合に残業ゼロが義務となり、時間外労働の制限は就学前の子を持つ労働者が申請した場合に月24時間・年150時間以内の制限が課されます。深夜業の制限は同じく就学前の子を持つ労働者が申請した場合に深夜帯の就労が免除されます。それぞれ「申請があって初めて発動する制度」であることが共通の特徴です。

社内の公平感をどう保つか

制度の権利であることを現場に説明する

短時間勤務の社員が定時で帰るたびに、現場から「なぜあの人だけ帰れるのか」という声が上がることがあります。このような場合、「法律上の権利だから」という一言で片付けるのではなく、制度の趣旨と会社としての方針を丁寧に伝えることが大切です。

「育児中の社員が安心して働ける環境を会社として整えている」という姿勢を示すことで、他の社員の理解も得やすくなります。また、育児期間が終われば本人も通常業務に戻ることをあわせて伝えると、周囲の受け取り方が変わることもあります。

業務の偏りを放置しない仕組みづくり

短時間勤務社員が残業できない分、その業務を他の社員が引き受けることになれば、そちらの負担が増えます。放置すると、「制度を使っている社員ばかり得をしている」という不満が職場全体に広がります。

業務の分担を見直す、特定の社員に偏らないようにローテーションする、あるいは業務量そのものを整理するといった対応が必要です。「誰かが我慢すればいい」という構造を放置していると、ハラスメントや離職の温床になります。

整備しておきたいルールと書類

所定外労働免除の申請があった場合に慌てないよう、あらかじめ社内ルールを整備しておきましょう。具体的には、申請書の様式を準備しておく、申請期間の管理をする担当者を決める、就業規則に制度の取り扱いを明記するといった対応が考えられます。社員数が少ない会社ほど、一人の申請が業務に与える影響が大きいため、事前の準備が重要です。

まとめ

育児短時間勤務中の社員への残業命令が許されるかどうかは、「所定外労働免除の申請があるかどうか」によって決まります。申請があれば、事業主は原則として残業をさせてはならず、拒否することもできません。申請がない場合でも、雇用契約上の問題やハラスメントリスクがあるため、「本人が了承しているから大丈夫」という判断は避けるべきです。さらに、3歳以上・就学前の子を持つ社員には「時間外労働の制限」や「深夜業の制限」といった関連制度もあり、対象年齢ごとに適用できる制度が異なります。現場の公平感を保つためにも、制度の趣旨を職場全体で共有し、業務分担の偏りを解消する仕組みを整えることが大切です。

育児中の社員への対応は、制度を正しく理解しているかどうかで、会社のリスクが大きく変わります。「うちの会社の対応は正しいのだろうか」と少しでも不安に感じたら、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。育児・介護休業法に関する実務対応から、社内ルールの整備、現場への説明方法まで、中小企業の実情に合わせたアドバイスをご提供しています。

よくある質問

Q. 育児短時間勤務を利用している社員は、申請なしでも残業を断る権利がありますか?

A. 育児・介護休業法上の「所定外労働免除」は、あくまで社員が申請することで発動する制度です。申請がない場合、育児・介護休業法上は残業命令が即座に違法になるわけではありません。ただし、雇用契約書に定められた所定労働時間を超える残業を強制すれば別の問題が生じます。本人が「残業したくない」という意思を示している場合は、心理的プレッシャーをかけずに、制度の申請を案内することが適切な対応です。

Q. 所定外労働免除の申請書には決まった様式がありますか?

A. 育児・介護休業法では、申請の書式は特に指定されていません。ただし、申請の事実と期間を会社として記録に残すため、書面で申請を受け付けることを社内ルールとして定めておくことをお勧めします。厚生労働省のモデル書式を参考に自社用の様式を作成しておくと、担当者が変わっても一貫した対応ができます。

Q. 過去に短時間勤務の社員に残業させていたことが判明しました。どんなリスクがありますか?

A. 所定外労働免除の申請があったにもかかわらず残業させていた場合、育児・介護休業法違反となり、都道府県労働局から助言・指導・勧告を受ける可能性があります。また、未払い賃金がある場合は遡及して支払い義務が生じることがあります。申請がなかった場合でも、強制的な残業はハラスメント問題に発展することがあります。まずは当時の状況を整理した上で、労働局や専門家へ相談することをお勧めします。

Q. 子どもが3歳を過ぎた社員には、もう残業に関する制限はなくなりますか?

A. 3歳を過ぎると所定外労働免除の対象外となりますが、子どもが小学校に就学するまでの間は「時間外労働の制限制度」(月24時間・年150時間以内)と「深夜業の制限制度」を申請できます。これらも育児・介護休業法に基づく権利であり、申請があれば事業主は対応する義務があります。子どもの年齢に応じて適用できる制度が変わりますので、社員から相談を受けたときは年齢を確認した上で案内してください。

Q. 短時間勤務の社員が「自分から進んで残業したい」と言った場合はどうすればいいですか?

A. 所定外労働免除の申請をしていない場合、本人の自発的な意思による残業は育児・介護休業法上は直ちに違法にはなりません。ただし、本人が「大丈夫」と言っている背景に職場からの無言のプレッシャーがないかを確認することが大切です。また、雇用契約上の所定労働時間を超えることになるため、残業代の扱いや就業規則との整合性を確認しておく必要があります。「本人の同意があれば何でもOK」とは言えない点に注意してください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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