休職中の転職活動に懲戒は可能?判断基準と3つの対応策

休職中の転職活動に懲戒は可能?判断基準と3つの対応策 メンタルヘルス対応
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「転職活動してるみたいなんですが、これって懲戒できますか?」——休職中の社員のSNSや求人サイトへの登録が発覚したとき、多くの経営者・人事担当者が最初に抱く疑問です。会社として給与補償や手続きのサポートをしてきた分、「裏切られた」という感情が先に立つのは自然なことです。しかし感情のまま動くと、懲戒権濫用として後から法的リスクを負うことになりかねません。この記事では、休職中 転職活動 懲戒の可否を判断する原則から、就業規則の確認ポイント、そして現実的な3つの対応策まで、実務に即して整理します。

転職活動だけでは懲戒できない理由

結論から言えば、休職中であっても「転職活動そのもの」を理由とした懲戒処分は、原則として認められません。この前提を押さえた上で、どこに懲戒の可能性が生まれるかを理解することが対応の出発点です。

職業選択の自由という壁

転職活動(求職行為)は、憲法第22条第1項が保障する「職業選択の自由」の範囲に含まれる私的行為です。在籍中・休職中を問わず、社員が転職先を探すこと自体を会社が禁止したり、それを理由に不利益処分を行ったりすることは、法的に根拠を持ちにくい行為です。就業規則に「転職活動を禁止する」という条項を設けても、その条項そのものが無効と判断されるリスクがあります。

懲戒処分が有効になるための3要素

労働契約法第15条は、懲戒処分が有効となるために次の3つの要素を求めています。

要素内容
就業規則上の根拠当該行為が懲戒事由として明記されていること
相当性処分の重さが行為の程度に見合っていること
手続きの適正弁明の機会付与・懲戒委員会等の手続きを経ていること

転職活動それ自体は懲戒事由として規定できないため、最初の「就業規則上の根拠」の段階で成立しません。軽微な転職活動に対して解雇という重い処分を選べば「相当性」の観点でも問題になります。

「療養専念義務違反」論の限界

「休職中は療養に専念する義務があるはずだ。転職活動はその義務に反する」という主張は理論上は存在します。しかし実務・判例の観点では認められるハードルが非常に高く、情報収集程度の転職活動(求人サイトの閲覧・登録など)では通りません。採用面接に繰り返し参加している、あるいは内定を承諾したといった段階まで進んでいる場合に初めて議論の余地が生じる、という程度に捉えておく必要があります。

懲戒の根拠になりうる「付随行為」とは

転職活動「本体」は懲戒の根拠にしにくいものの、それに伴う特定の行為については別途問題になる場合があります。懲戒を検討するなら、転職活動そのものではなく、こうした付随行為に着目することが実務上の正しいアプローチです。

競業他社への転職活動

就業規則や雇用契約書に競業避止義務条項がある場合、競合他社への転職活動が問題になることがあります。ただし競業避止義務が有効とされるためには、対象となる地域・期間・業務範囲の限定、代償措置の有無など合理性の要件を満たしている必要があります。「退職後○年間・同業他社への就業禁止」といった条項でも、範囲が広すぎると無効と判断されるケースは少なくありません。

機密情報の持ち出し・提供

転職活動の過程で会社の顧客リスト・技術情報・営業情報などを転職先に提供した場合は、就業規則上の守秘義務違反に加え、不正競争防止法違反となる可能性があります。この場合は転職活動の問題ではなく、情報漏洩という独立した懲戒事由として対応できます。証拠の確保と専門家への相談を早期に行うことが重要です。

病状と行動の著しい乖離

メンタル不調を理由に休職しているにもかかわらず、複数の採用面接に精力的に参加しているといった事実が確認できる場合は、「そもそも療養が必要な状態にあるのか」という休職の正当性への疑義が生じます。ただし、この判断は慎重さが求められます。メンタル不調の症状は波があること、主治医の判断が優先されることを踏まえ、独断で「仮病だ」と判断することは避けてください。産業医や専門家への相談を経ることが必須です。

自社の就業規則で対応できるか確認する方法

懲戒の可否は、最終的には「自社の就業規則に何が書かれているか」で決まります。休職中 転職活動に関する対応を進める前に、自社の就業規則を手元に用意した上で、以下のポイントを確認してください。

確認すべき規定の種類

以下の条項が整備されているか、また内容が具体的かどうかをチェックします。

  • 休職中の行動規制・療養専念義務:「休職中は療養に専念し、会社に届け出なく他の就労・活動を行ってはならない」などの規定があるか
  • 復職義務・復職意思の確認規定:「休職者は定期的に会社へ状況を報告しなければならない」などの規定があるか
  • 競業避止・守秘義務条項:内容が具体的か、合理的な範囲に限定されているか
  • 懲戒事由の列挙:上記の行為違反が懲戒事由として明記されているか
  • 休職期間満了・自然退職条項:「休職期間が満了し、復職できない場合は退職とみなす」という規定があるか

規定がない・古い場合の現実的な判断

中小企業では就業規則があっても、休職中の行動規制や復職義務が具体的に規定されていないケースが多くあります。根拠条文がなければ懲戒は事実上不可能です。「今回の対応」と「今後のリスク管理」を分けて考え、今回は後述する退職交渉などの現実的な手段を取りつつ、就業規則の整備を別途進めることをお勧めします。就業規則の変更は、労働者の不利益変更にならない範囲で行い、所轄の労働基準監督署への届け出も必要です。

発覚後に取りうる3つの対応策

転職活動の発覚後、実務上取りうる対応は大きく3つに整理できます。どの選択肢が適切かは、就業規則の整備状況・転職活動の進行度・社員の病状・会社の経営方針によって異なります。

就業規則に基づく書面での注意・指導

就業規則に療養専念義務や報告義務が明記されており、社員がそれに違反していると判断できる場合は、まず書面による注意・指導を行います。この段階では懲戒処分ではなく、「規則に基づく指導」として記録を残すことが重要です。メンタル不調の休職者へのコンタクトは慎重さが求められます。直接電話ではなく書面や電子メールを使い、主治医や産業医と連携しながら進めてください。配慮を欠いたアプローチは、症状悪化の一因として後から問題になるリスクがあります。

退職交渉への切り替え

懲戒追及よりも退職交渉に切り替えることが現実的な場面は少なくありません。社員が転職先への内定を承諾している場合、休職期間満了が近い場合、または就業規則の整備が不十分で懲戒の根拠が弱い場合には、退職交渉が合理的な選択肢です。会社側としては「休職期間満了による自然退職」という規定を活用しつつ、本人の意向を確認し、合意退職の形を目指すことで、双方にとって円満な着地点を探ることができます。退職勧奨は社員の自由な意思を尊重して行うことが大前提であり、強迫や威圧にわたる言動は不法行為とみなされます。

復職プロセスの継続と条件明確化

転職活動が発覚しても、本人がまだ意思決定していない段階であれば、復職に向けたプロセスを継続することが選択肢の一つです。この場合、曖昧なまま進めることが後々のトラブルにつながるため、「復職の条件(主治医の診断書・産業医との面談・段階的復帰の計画)」を書面で明確にし、社員に伝えておくことが重要です。また、転職活動の事実を確認した旨を記録として残し、今後の復職判断の参考情報として保管しておきましょう。

メンタル不調の社員への連絡で気をつけること

休職中のメンタル不調社員に対して連絡・交渉を行う際には、通常の人事対応とは異なる配慮が必要です。対応の質が、後のトラブルリスクを大きく左右します。

接触方法と頻度の原則

メンタル不調で休職中の社員への連絡は、原則として書面・電子メールで行い、電話は緊急性がある場合や本人から希望があった場合に限定することが望ましいとされています。頻度についても、主治医や産業医の意見を参考にしながら決めてください。就業規則に休職中の定期報告義務を定めている場合は、その枠組みの中で連絡を取ることが双方にとって安心です。

産業医・社労士との連携が不可欠な理由

専任人事のいない中小企業では、この種の対応を経営者や兼務担当者が単独で進めることには限界があります。産業医がいない場合でも、地域産業保健センターの相談窓口(無料)を活用することができます。また、退職交渉や就業規則に基づく対応は、社会保険労務士(社労士)に同席・確認を依頼することで、手続きの適正性を担保できます。「自分だけで判断して後からやり直す」という事態を防ぐためにも、専門家との連携を早期に取ることを強くお勧めします。

まとめ

休職中の転職活動そのものを理由とした懲戒処分は、職業選択の自由(憲法第22条)の観点から原則として認められません。懲戒が可能になるとすれば、競業避止義務違反・機密情報の漏洩・病状と行動の著しい乖離といった付随行為がある場合に限られ、いずれも就業規則上の根拠・相当性・手続きの適正(労働契約法第15条)の3要素を満たす必要があります。自社の就業規則に休職中の行動規制や懲戒事由が明記されていない場合は、懲戒の追求より退職交渉や復職プロセスの明確化に切り替えることが現実的です。また、メンタル不調の社員へのコンタクトは慎重な配慮が求められるため、産業医・社労士など専門家との連携が不可欠です。

ウェルセンス株式会社では、休職中の社員対応・復職支援・就業規則の整備に関するご相談を承っています。「自社のケースで懲戒できるのか、退職交渉に切り替えるべきか、判断がつかない」という段階からでも、実務に即したアドバイスを提供しています。メンタル不調社員の対応は判断を誤ると法的リスクにつながります。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 休職中の社員がハローワークに行っているようです。これは懲戒の対象になりますか?

A. ハローワークへの来所や求職登録は、転職活動の一環として憲法が保障する職業選択の自由の範囲内の行為です。それ自体を懲戒の根拠とすることは原則として認められません。ただし、就業規則に療養専念義務や届け出義務が規定されており、それに反していると判断できる場合は、書面による注意・指導の材料にはなりえます。まずは就業規則の内容を確認してください。

Q. 社員のSNSで転職活動していることを知りました。証拠として使えますか?

A. 公開されているSNSの投稿は、事実確認の参考情報として活用できます。ただし、SNSの閲覧内容を無断でスクリーンショットして無制限に収集するなど、プライバシーの侵害と受け取られる方法は避けてください。証拠として活用できるかどうかは、その取得方法と内容によっても判断が変わります。対応を進める前に、社労士や弁護士に相談することを強くお勧めします。

Q. 就業規則に「休職期間満了による自然退職」条項があります。これを理由に社員に退職を伝えてもいいですか?

A. 就業規則の条項に基づき、期日が到来したことを本人に事前に明確に伝えることは適切です。ただし、その際に「転職活動をしているから退職」という強迫的なニュアンスで伝えたり、本人の同意なく一方的に進めたりすることは避けてください。就業規則に基づく手続きであることを明確にした上で、本人に十分な検討時間を与え、必要に応じて本人の意向確認を行うことが原則です。

Q. 就業規則に副業禁止規定があります。転職活動はこれに違反しますか?

A. 副業・兼業禁止規定は、他の事業者のために就労して報酬を得る行為を対象とするものです。転職先を探す「転職活動」は就労でも報酬の受領でもないため、副業禁止規定をそのまま適用することはできません。休職中の転職活動を規制したい場合は、別途「休職中の就職活動に関する届け出義務」などを就業規則に明記する必要があります。

Q. 産業医がいない会社でも、メンタル不調社員の対応について相談できる機関はありますか?

A. はい、あります。厚生労働省が運営する「地域産業保健センター」では、従業員50人未満の事業場を対象に、産業医による相談や労働者のメンタルヘルス対応に関する無料相談を提供しています。また、都道府県の産業保健総合支援センターでも同様のサポートが受けられます。これらと並行して、人事・労務の実務対応については社会保険労務士への相談が有効です。

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【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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