育児休業給付金は昇給で変わる?届出の要否と3つの確認ポイント

育児休業給付金は昇給で変わる?届出の要否と3つの確認ポイント 労務管理
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育休中のメンバーに昇給を反映させたら、「給付金の額も変わりますか?」と本人から問い合わせが来た——そういった場面で、即答に困った経験はありませんか。社会保険の月額変更届は聞いたことがあるけれど、雇用保険の育児休業給付金の側でも何か届け出が必要なのか、給付額が上がるのか下がるのか、判断に迷う担当者は多くいます。この記事では、育児休業給付金の仕組みと昇給の関係を整理し、会社として何を確認し何をすべきかを、実務の観点からわかりやすく解説します。

育児休業給付金の「給付額」はどう決まるか

育児休業給付金の額は、育休を開始する前の賃金をもとに計算されます。育休中に昇給しても、原則として給付額は変わりません。この仕組みを最初に理解しておくことが、従業員への正確な説明と社内手続きの判断につながります。

計算のもとになる「休業開始時賃金日額」

育児休業給付金は、雇用保険法第61条の7に基づいて支給されます。給付額の計算に使われるのは「休業開始時賃金日額」と呼ばれる数値です。これは、育休開始日の前日を起算点として、直近6か月間に支払われた賃金の合計額を180で割ることで算出されます。

たとえば、直近6か月の賃金合計が180万円であれば、休業開始時賃金日額は1万円(180万円÷180日)となります。給付率は、育休開始から180日目までは67%、181日目以降は50%ですので、この例では1日あたり6,700円または5,000円が給付額の目安になります。

育休中の昇給は給付額に影響しない

育休を取得した後に会社が昇給を実施しても、給付計算のベースとなる休業開始時賃金日額は変わりません。昇給は育休開始前の賃金実績には遡って反映されないためです。つまり、「昇給したから給付金も増える」ということはなく、この点は従業員に事前にきちんと伝えておく必要があります。

担当者が誤って「昇給に合わせて届け出をすれば給付が上がる」と説明してしまうと、後で従業員との間に不信感が生まれることもあります。「給付額は育休前の賃金で決まる」という原則を、入社時・育休前の説明の場で共有しておくと安心です。

ハローワークへの届出は必要か

育休中に昇給しても、雇用保険(ハローワーク)への給付額変更のための届出は原則として不要です。社会保険の月額変更届に相当する手続きは、育児休業給付金制度には設けられていません。

社会保険の「月額変更届」との違い

健康保険・厚生年金の分野では、固定的賃金の変動により標準報酬月額が2等級以上変わった場合に「月額変更届(随時改定)」を年金事務所へ提出する必要があります(健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条)。この手続きと混同して、「雇用保険側にも似た届出が必要なのでは」と考える担当者は少なくありません。

しかし、育児休業給付金は雇用保険の制度であり、管轄はハローワーク(公共職業安定所)です。社会保険とは管轄も制度も異なり、昇給に対応する給付額変更届という手続き自体が存在しません。昇給を理由にハローワークへ追加届出をする必要はありません。

支給申請で申告が必要な賃金とは

育児休業給付金の支給申請は、原則2か月ごとにハローワークへ行います。このとき、育休中に就労(「就労日数が10日以内」または「就労時間が80時間以内」)した場合は、実際に支払われた賃金額と就労日数を申告する必要があります。

昇給による賃金の変動ではなく、「育休中に実際に働いた日の賃金」が申告対象である点に注意してください。就労日数・賃金額の申告漏れは、給付の過払い・返還につながる場合があるため、現場での一部就労がある際は確実に記録しておきましょう。

昇給のタイミングで対応が変わる3つのケース

育休前・育休中・復職後のいずれのタイミングで昇給が発生したかによって、給付額や社会保険の手続きへの影響が異なります。自社のケースに当てはめて確認してください。

昇給のタイミング 育児休業給付金への影響 必要な対応
育休開始前(直近6か月以内) 給付額の計算に反映される 特になし(自動的に計算に含まれる)
育休中 給付額は変わらない 雇用保険側の届出は不要。社会保険の随時改定は復職後に判断
復職後(再び育休を取得する場合) 新たな休業開始時賃金日額が昇給後の賃金で計算される 次の育休開始前の賃金実績が基準になることを従業員に説明

育休開始前の昇給は計算に反映される

育休開始前の直近6か月の間に昇給があった場合、その昇給後の賃金が休業開始時賃金日額の計算に含まれます。このケースでは、会社側が特別な手続きをしなくても、給付額には昇給の効果が自然に反映されます。

育休中の昇給は現在の給付に影響しない

育休中に昇給が発生しても、現在受給中の給付額は変わりません。ただし、産後パパ育休(出生時育児休業)や育休の延長・再取得が発生した場合、その新たな休業の開始時点での賃金が次の給付額の基準になります。その時点までに昇給が反映されていれば、新たな育休期間の給付額は高くなる可能性があります。

復職後の再育休では昇給後の賃金が基準になる

一度復職した後に再び育休を取得する場合、新たな育休の給付額はその時点の賃金をもとに計算されます。育休中に昇給が行われていれば、復職後の賃金が昇給後の水準になるため、新たな育休での給付額が従前より高くなるケースもあります。この点は、出産を複数回予定している従業員に聞かれることがあるため、把握しておくと役立ちます。

社会保険側で確認すべき手続き

育休中の昇給については、雇用保険側での届出は不要ですが、社会保険(健康保険・厚生年金)側では復職後の対応が必要になるケースがあります。この2つの制度を混同せずに、それぞれの対応を確認することが重要です。

育休中は社会保険料が免除されている

育休中の従業員は、申出により健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。ただし、標準報酬月額の記録自体は継続しており、育休中に昇給があっても、その昇給が標準報酬月額に直ちに反映されるわけではありません。

復職後の随時改定(月額変更届)の要否を確認する

育休が終了して復職した後、3か月間の実際の賃金をもとに標準報酬月額の変動を確認します。固定的賃金の変動(昇給など)があり、変動前後で標準報酬月額が2等級以上の差となった場合は、月額変更届(随時改定)を管轄の年金事務所に提出します(健康保険法第43条、厚生年金保険法第23条)。

なお、昇給によって賃金が上がったにもかかわらず、時短勤務等により実際の支給額が下がるケースもあります。その場合、通常の随時改定の要件(2等級以上の差)を満たさなくても、「育児休業等終了時報酬月額変更届」(健康保険法第43条の2、厚生年金保険法第23条の2)を活用することができます。この届出は1等級の差でも適用可能で、本人からの申出が条件になります。

育休明けの手続きをチェックリストで整理する

社会保険の手続きは、育休終了後にまとめて確認する流れが実務上のポイントです。育休終了日・復職日の把握、復職後3か月間の賃金記録、随時改定の要否確認という順に進めると漏れが防げます。専任の社労士や顧問先がいる場合は、育休終了の1か月前ごろに一度相談のタイミングを設けると安心です。

従業員への説明で押さえておきたいポイント

育休中の昇給に関する従業員からの質問に正確に答えるには、あらかじめ伝えるべきポイントを整理しておくことが大切です。誤った説明は不信感を招くため、会社として統一した説明方針を持っておきましょう。

昇給しても給付金が増えないことを事前に伝える

最も多いのは「昇給したから給付金も増えるはず」という従業員の誤解です。育休前から定期昇給の時期が育休期間と重なることは珍しくなく、「会社が手続きをしてくれていないから給付が増えないのでは」という不信感につながることもあります。

育休開始前の面談や書類交付のタイミングで「給付額は育休前の賃金をもとに計算され、育休中の昇給によって変わることはない」という点を書面で説明しておくと、後のトラブルを防ぐことができます。

復職後の給付(再育休の場合)については別途説明する

一方で、再び育休を取得する可能性がある従業員には、「次の育休では昇給後の賃金が給付額の基準になる」という点も伝えておくと親切です。育休中の昇給が「無意味」ではなく、将来の給付額に影響する可能性があることを正確に伝えることで、従業員のモチベーションや会社への信頼感を維持することができます。

「何を聞けばよいかわからない」状態を解消する

社労士や社外の専門家に確認する際に、「昇給が育休中に発生した」「雇用保険側と社会保険側それぞれの手続きの要否を確認したい」「従業員への説明内容を整理したい」という3点を伝えると、必要な情報を効率よく得ることができます。専任人事がいない企業では、「何を聞けばいいか」自体が曖昧になりがちですので、問い合わせ前に状況を簡単にメモしておくと会話がスムーズになります。

まとめ

育児休業給付金の給付額は「休業開始時賃金日額」をもとに計算され、育休中に昇給しても原則として給付額は変わりません。ハローワーク(雇用保険側)への給付額変更のための届出も不要です。一方、社会保険(健康保険・厚生年金)側では、復職後に随時改定の要否を確認する必要があり、育休中の昇給はこの判断に影響します。また、再育休を取得する場合には昇給後の賃金が次の給付額の基準になる可能性があるため、従業員への丁寧な事前説明が重要です。

育休対応は雇用保険と社会保険にまたがる複雑な手続きが多く、判断に迷う担当者が多い課題です。「制度の仕組みはわかったが、うちの場合はどうすればいいのか」と感じられたら、ウェルセンス株式会社までお気軽にご相談ください。人事専任がいない企業の事情に寄り添った、実務的なサポートが可能です。

よくある質問

Q. 育休中に昇給した場合、ハローワークに何か届け出は必要ですか?

A. 昇給を理由とした給付額変更のための届出は、育児休業給付金制度には設けられていないため、原則として不要です。社会保険(健康保険・厚生年金)の月額変更届と混同しやすいですが、管轄も制度の仕組みも異なります。育休中の一部就労があった場合は就労日数と賃金額の申告が必要ですが、これは昇給とは別の話です。

Q. 育休中に昇給があった従業員から「給付金が増えないのはおかしい」と言われました。どう説明すればよいですか?

A. 育児休業給付金は育休を開始する前の賃金実績(直近6か月)をもとに算出されるため、育休中の昇給は現在の給付額に影響しない仕組みになっています。制度上そのように定められており(雇用保険法第61条の7)、会社側の手続き漏れではありません。「給付額は休業前の賃金で固定される」という点を丁寧に説明し、必要であれば書面で伝えると誤解を防ぎやすくなります。

Q. 育休中に昇給した場合、復職後の社会保険料に影響はありますか?

A. はい、影響する可能性があります。復職後3か月間の実際の賃金をもとに、標準報酬月額の変動(2等級以上)が確認された場合は月額変更届(随時改定)の提出が必要です。また、時短勤務等で実際の支給額が下がった場合は「育児休業等終了時報酬月額変更届」の活用も検討できます。管轄の年金事務所または社労士に確認することをおすすめします。

Q. 育休中に複数回の昇給があった場合、給付額はどう計算されますか?

A. 育休中に何度昇給があっても、給付額の計算には影響しません。基準となる「休業開始時賃金日額」は育休開始前の直近6か月の実績で固定されるため、その後の昇給額や回数は反映されません。ただし、再び育休を取得する場合は、その時点での昇給後の賃金が新たな基準になります。

Q. 専任人事がいない場合、育休と昇給の手続きはどこに相談すればよいですか?

A. 育児休業給付金(雇用保険)の相談はハローワーク、社会保険の月額変更届は年金事務所が窓口ですが、両方を総合的に確認する場合は顧問社労士の活用が効果的です。「何を確認すればよいかわからない」という段階からでも社外の専門家に相談できる体制を整えておくと、手続き漏れのリスクを大幅に減らすことができます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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