休職中の人事評価、対象外にしていいか迷ったら

休職中の人事評価、対象外にしていいか迷ったら メンタルヘルス対応
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「この社員、今期は休職していたけど、評価ってどうすればいいんだろう……」。評価期間の終わりが近づくたびに、この問いが頭をよぎる経営者・人事担当者は少なくありません。感覚的には「休んでいた期間を評価するのは難しい」とわかっていても、対象外にしてよい根拠がなく、就業規則にも何も書いていない。そのまま「なんとなく対象外」で処理し続けると、復職後のトラブルや社員の不信感につながるリスクがあります。この記事では、休職中の人事評価を適切に運用するための法的根拠・規程への書き方・賞与や昇給との連動整理まで、実務に即して解説します。

休職中の社員を評価対象外にすることは違法か

結論から言えば、休職中の社員を人事評価の対象外とすること自体は違法ではありません。ただし、「規程に根拠がない」「運用が人によってバラバラ」という状態は、後々のトラブルの火種になります。

法律が禁止していること・していないこと

労働基準法や労働契約法には、「休職中の社員を評価対象外にしてはならない」という規定はありません。人事評価の設計・運用は、基本的に使用者の人事権の範囲内で決定できます。ただし、その運用が「不利益取扱い」や「不当な降格」に当たらないよう、合理的な基準を規程に定めておくことが前提です。

メンタル不調が原因の休職には別途注意が必要

精神障害を理由とした休職の場合は、障害者雇用促進法の観点も絡んできます。同法第35条は障害者への差別的取扱いを禁止しており、第36条の3では合理的配慮の提供義務を定めています。「評価対象外にする」こと自体は問題ありませんが、それを使って意図的に不利益を与える運用(たとえば、評価なしで自動的に降格させるなど)は、差別的取扱いと判断されるリスクがあります。「評価しない」ことと「評価を通じて不利益を与える」ことは明確に区別して運用してください。

「これまで対象にしていた」場合の変更には注意

もし自社でこれまで「休職中でも最低評価扱いとして賞与を支給していた」という運用実績がある場合、それを変更することは労働契約法第9条・第10条が定める「不利益変更」に当たる可能性があります。変更するには、変更の合理性と就業規則への明記・周知が求められます。過去の運用実績を確認してから制度整備に進むことが重要です。

就業規則・評価規程に何をどう書けばよいか

「規程に書く」と一口に言っても、何をどこに書けばよいかわからないという声は多くあります。記載すべき項目とその考え方を整理します。

記載場所は「評価規程」か「就業規則の付属規程」

人事評価の仕組みは賃金・昇給の根拠に直結するため、労働基準法第89条が定める就業規則の記載事項(賃金の決定・計算方法など)と整合している必要があります。多くの会社では就業規則の本体には「評価は別途定める評価規程による」と記載し、評価規程を付属規程として整備する形をとります。就業規則本体と評価規程の両方に矛盾がないよう確認してください。

評価規程に盛り込むべき項目の骨格

以下の項目を規程に明記することで、個別判断による運用ブレを防ぐことができます。

項目 記載内容のポイント
評価対象者の定義 「評価期間の全部または一部において休職中の者は、当該期間の評価対象外とする」など
賞与との連動 「休職期間に対応する賞与を不支給とする/按分支給とする」のどちらかを選択し明記
昇給・昇格との連動 「休職期間中は昇給・昇格の起算期間に含まない」など
復職後の扱い 「復職後は一定期間の試用的観察期間を設け、その評価をもって次期昇格審査の対象とする」など
本人への通知 休職開始時に書面で評価上の扱いを説明することを明記

就業規則変更の手続きも忘れずに

就業規則を新設・変更するには、労働者代表への意見聴取(労働基準法第90条)と所轄労働基準監督署への届出(同法第89条)が必要です。「手続きが面倒で後回し」になりがちですが、規程のない状態での運用こそが最大のリスクです。意見聴取は反対意見であっても届出は可能であり、手続き自体は難しくありません。社労士に依頼すれば文書作成から届出まで代行してもらえます。

規程の整備に加え、休職者本人への対応や医学的判断が必要な場合は、産業医や社労士の助言を早めに取り入れることで、トラブル予防につながります。

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賞与・昇給・等級への影響をどう整理するか

評価対象外にする=すべての処遇が止まる、ではありません。賞与・昇給・等級それぞれについて、どう連動させるかを明確にしておくことが運用上の混乱を防ぐポイントです。

賞与の扱い:不支給か按分かを明確に

賞与については、大きく「休職期間中は不支給」「在籍期間に応じて按分支給」の二択です。どちらが正解というわけではなく、自社の方針と就業規則の整合性によります。重要なのは、就業規則または賃金規程に明記することです。規程に何も書かれていない場合、賞与をめぐる交渉になりやすく、復職後のトラブルにつながります。なお、育児休業中の賞与不支給は認められている判例がありますが(最高裁・東朋学園事件など)、休職中の扱いも規程上の根拠が判断の基礎になります。

昇給の扱い:自動昇給があるかどうかで変わる

定期昇給(勤続年数に応じた自動昇給)がある会社では、「休職期間を勤続年数にカウントするかどうか」を明確にしておく必要があります。評価連動型の昇給であれば、評価対象外=昇給対象外という整理が一般的です。ただし、この整理も規程に明記されていないと、「なぜ昇給しなかったのか」と復職後に問われるケースがあります。

等級・職位の変動:復職後の格付けを事前に定めておく

休職中に等級を下げることは、原則として認められません。復職後の職位・等級については「休職前と同等の職位で復帰させる」「一定期間の試用的観察期間を経て次の評価で昇格機会を与える」などのルールを明記しておくと、復職後の格付け交渉が発生しにくくなります。降格・降給を伴う変更は、人事権の濫用(最高裁が確立した法理)に当たらないかの確認が別途必要になります。

社員への伝え方:本人が納得できるコミュニケーション

制度が整っていても、伝え方を誤ると「不利益を受けている」という不信感を生みます。休職者への説明には、タイミングと内容の両面で配慮が必要です。

休職開始時に書面で説明する

評価上の扱いについては、休職が始まるタイミングで書面により説明するのがベストです。「評価期間中に休職している場合、当該期間は評価対象外となります。これは就業規則第〇条の規定に基づくものです」という形で、規程の根拠とともに伝えることで、「会社の恣意的な判断ではない」ことが伝わります。復職後に初めて知らされると、不満につながりやすくなります。

「不利益ではない」ことを伝える言い方の工夫

評価対象外であることは、「あなたへの不利益措置ではなく、稼働実績のない期間に評価を行わないという制度上の整理である」という趣旨を丁寧に伝えることが重要です。また、「復職後に評価機会があること」「等級が維持されること」を同時に説明することで、将来への安心感につながります。休職者のモチベーション維持は復職率にも関係するため、制度の冷たさより運用の温かさが大切です。

自社の状況別:何から手をつけるべきか

就業規則の整備状況や社員数によって、優先すべき対応は異なります。自社の状況を確認しながら、現実的な順番で動くことが重要です。

就業規則がそもそも整備されていない場合

常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成・届出が義務です(労働基準法第89条)。10人未満の場合も、就業規則がないと個別の労使交渉がその都度発生するため、実務上は整備を推奨します。まず本体の就業規則を整備し、その後に評価規程・賃金規程を付属規程として追加していく順番が現実的です。

就業規則はあるが評価規程に休職の記載がない場合

最も多いのがこのケースです。既存の評価規程に「休職中の扱い」の条項を追加する改訂作業が必要です。大幅な変更ではないため、社労士に依頼すれば短期間で対応できます。改訂後は労働者代表への意見聴取と労基署への届出を忘れずに行ってください。

産業医・社労士がいない場合の現実的な対応

産業医の選任義務は常時50人以上の事業場ですが(労働安全衛生法第13条)、50人未満の会社でも地域の産業保健センターや社労士に相談することで、メンタルヘルス対応と規程整備を同時に進めることができます。専任人事がいない会社ほど、外部の専門家を活用することで運用コストを抑えながら制度を整備できます。

「規程は作ったけど、実際に休職者が出たときの対応がわからない」という場面では、人事だけで判断する前に外部の専門家に相談することで、後々のトラブルを大きく減らせます。

まとめ

休職中の社員を評価対象外とすること自体は違法ではありませんが、その運用を就業規則・評価規程に明記していなければ、復職後のトラブルや社員の不信感につながるリスクがあります。賞与・昇給・等級への連動もあわせて規程に整理し、休職開始時に書面で本人に説明することが、適切な運用の基本です。「なんとなく対象外にしている」状態から抜け出すためには、規程の整備と一貫した運用ルールの確立が欠かせません。

ウェルセンス株式会社では、休職・復職対応に特化した人事労務のご相談をお受けしています。「自社の就業規則に何を追記すればよいか」「休職者への説明をどう行えばよいか」といった具体的な悩みも、お気軽にご相談ください。専任人事がいない中小企業の経営者・担当者の方からのご連絡をお待ちしています。

よくある質問

Q. 休職期間が評価期間の一部だけにかかる場合、その期間全体を対象外にしてよいですか?

A. 評価規程の定め方によります。「評価期間の一部でも休職があった場合は全期間を対象外とする」と明記していれば、その運用は可能です。一方、「稼働期間分のみ按分評価する」という設計も選択肢です。いずれかを規程に明確に定めておくことが重要で、曖昧なまま運用すると担当者の個別判断でバラつきが生まれます。

Q. 評価対象外にした場合、賞与は必ず不支給にしなければなりませんか?

A. 必ずしも不支給にする必要はありません。評価対象外とすることと、賞与の支給有無は別の問題です。「評価対象外だが、在籍期間に応じて按分支給する」という設計も法的に問題ありません。大切なのは、賞与規程に支給基準を明記し、一貫して運用することです。規程の根拠なく「気分で支給・不支給を判断」することが最もリスクの高い状態です。

Q. 復職後、休職前より低い等級に変更することはできますか?

A. 原則として難しく、慎重な対応が必要です。復職後に職位・等級を引き下げる場合、最高裁が確立した人事権濫用の法理に照らして判断されます。「休職していたから」という理由だけでは合理性が認められない可能性があります。業務遂行能力の著しい低下など具体的な事情があり、かつ本人への説明と同意が得られている場合でも、社労士や弁護士に相談のうえ進めることを強くお勧めします。

Q. 休職中の社員が「評価対象外は不公平だ」と訴えてきた場合はどう対応すればよいですか?

A. まず、就業規則・評価規程に明記された根拠を示すことが基本の対応です。規程に根拠があれば「制度上の取り扱いである」と説明できます。問題になりやすいのは規程に記載がない場合で、その場合は制度整備を急ぎながら、個別の丁寧な説明で対応するしかありません。いずれにせよ、感情的な対立になる前に書面での説明記録を残しておくことが重要です。

Q. 就業規則の変更手続きはどのくらいの時間と手間がかかりますか?

A. 変更内容の草案作成から労基署届出まで、社労士に依頼した場合はおおむね2〜4週間程度が目安です。手続きの流れは、変更案の作成→労働者代表への意見聴取(意見書の作成)→就業規則の周知→所轄労働基準監督署への届出、という順番になります。労働者代表が反対意見を述べても届出は可能です(意見書に反対意見を記載して添付)。専任人事がいない会社でも、社労士に依頼すれば一括して対応してもらえます。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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