メンタル不調の社員がオープン就労を希望したら

メンタル不調の社員がオープン就労を希望したら メンタルヘルス対応
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「診断書を出すので配慮をお願いしたい」——そう申し出た社員への対応を、あなたは今、手探りで進めていないでしょうか。あるいは逆に、「病気のことは会社に知られたくない」と言われ、どこまで関与していいのか迷っている状況かもしれません。メンタル不調社員の「オープン就労」「クローズ就労」をめぐる対応は、法的義務と個人のプライバシーが複雑に絡み合います。専任人事がいない環境で、一人で抱えるには荷が重い問題です。この記事では、知っておくべき法律の要点と、現場で使える実務判断の軸を整理します。

オープン就労・クローズ就労とは何か

オープン就労とは疾患・障害を会社に開示して働くこと、クローズ就労とは開示せずに働くことです。どちらを選ぶかは原則として本人の権利であり、会社が強制することはできません。

二つの就労形態の基本的な違い

オープン就労では、診断書や障害者手帳などを会社に提出し、業務上の配慮を正式に求めることができます。一方のクローズ就労は、本人が「職場に知られることで評価や人間関係に影響が出ることを避けたい」と考える場合に選ばれます。どちらの選択にも本人なりの理由があり、そこに会社が介入する権限は基本的にありません。

会社が「開示してほしい」と伝えることは許されるか

開示を強制することはできませんが、「開示してもらわないと適切な配慮ができない」という事実を、正直に本人に伝えることは問題ありません。たとえば「症状を教えてもらえれば、業務の割り振りや職場環境について相談できる。もし開示が難しければ、どのような点で困っているかだけでも教えてほしい」という形で対話を促すことが実務上の適切な対応です。開示の強制は禁止、対話の働きかけは可、という線引きを押さえておきましょう。

採用時に「健康」と申告していた場合はどうなるか

入社後にメンタル疾患が明らかになるケースでは、「採用時に言ってくれれば」という感情が生じることがあります。しかし法律上、採用時の病歴開示義務は原則として労働者にはありません。業務との直接的な関連がある場合(特定の身体機能を必要とする業務など)を除き、「言わなかった」ことを理由に不利益な扱いをすることには法的リスクが伴います。採用後の開示であっても、その時点から適切に対応することが会社に求められる姿勢です。

合理的配慮の提供義務——中小企業も対象です

2024年4月の障害者雇用促進法改正により、合理的配慮の提供は民間事業主に規模を問わず法的義務となりました。「中小企業は関係ない」という認識は誤りです。

何が「合理的配慮」にあたるのか

合理的配慮とは、障害のある労働者が他の労働者と均等に働ける機会を確保するための措置です。メンタル不調の場面では、たとえば以下のような対応が該当します。

  • 繁忙期の残業を免除し、業務量を調整する
  • 大人数の会議への参加を一時的に免除する
  • フレックスタイム制や短時間勤務を活用して通院時間を確保する
  • 業務内容を一時的に負荷の低いものに変更する
  • 静かな環境で集中できる席への変更を検討する

「配慮」はゼロかすべてかではありません。本人の状態と職場の実情を踏まえながら、できることを一緒に考えるプロセス自体が義務の核心です。

障害者手帳がなくても義務は発生する

よくある誤解のひとつが「障害者手帳がなければ合理的配慮義務は生じない」というものです。障害者雇用促進法における合理的配慮は、手帳の有無ではなく、実質的に障害・疾患があることが確認できるかどうかで判断されます。精神科・心療内科の診断書によってメンタル疾患が確認できれば、手帳がなくても対象になりえます。「手帳を持っていないから何もしなくていい」という判断は法的リスクを招きます。

「過重な負担」があれば断れる——ただし手順が必要

合理的配慮には「過重な負担にならない範囲で」という条件があります。厚生労働省のガイドラインでは、事業の規模・財務状況・配慮に要するコスト・他の労働者への影響などを考慮するとされています。中小企業はこの「過重な負担」と認定される余地が大企業より広いのは事実です。ただし重要なのは、「できません」と即答することが義務違反になりうるという点です。まず本人と対話し、代替案を検討し、「これ以上は難しい」という判断に至ったプロセスを記録することが求められます。結論よりも、対話と検討のプロセスを踏むことが義務の本質です。

クローズ就労でも会社の安全配慮義務はなくならない

本人がクローズを希望していても、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務は会社に課され続けます。「言わなかったから関知しない」は法的に通用しません。

安全配慮義務とは何か

労働契約法第5条は、会社が労働者の生命・身体・精神の安全に配慮しなければならないと定めています。これはメンタル疾患の開示・非開示にかかわらず適用されます。業務パフォーマンスの著しい低下、遅刻・欠勤の増加、言動の変化など、不調のサインを会社が認識した場合、その認識した範囲での対応が求められます。「気づくべきだったか」という点も、後の民事上の争いでは問われることがあります。

「知らなかった」では済まないケースとは

クローズ就労の場合、本人が症状を伝えないことで会社が対応しきれない状況は起こりえます。しかし、たとえばパワハラ被害との複合ケース、過重労働との因果関係が疑われるケースなどでは、「本人が言わなかったから」という主張が損害賠償請求を完全には防がない場合があります。実務上の対策として、「体調に変化があればいつでも相談してほしい」という声かけを定期的に行い、その記録を残すことが重要です。面談記録や1on1の記録が、義務を果たしたプロセスの証拠になります。

産業医・相談窓口がない場合の現実的な対応

50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、専門家に相談できないまま判断を迫られるケースが少なくありません。この場合、まず主治医の意見書や診断書の内容を業務判断の参考にすることが現実的な対応です。また、外部のメンタルヘルス支援機関や社会保険労務士と連携することで、判断の根拠を補うことができます。一人で抱え込まず、相談できる外部リソースを持つことが、小規模組織の安全配慮義務を果たすうえで不可欠です。

配慮の内容をどこまで進めるか、判断に迷う場合は、外部の専門家に相談することで、対応の質が大きく変わります。

オープン就労を選んだ社員への具体的な配慮の進め方

「配慮します」と言ったあと、何をどこまでするかが曖昧なまま放置されるケースが多く見られます。対話・合意・記録の三段階で進めることが実務上の鉄則です。

本人との対話で「何に困っているか」を具体化する

配慮の内容を会社が一方的に決めるのではなく、まず本人が「どの場面で、どのように困っているか」を具体的に聞くことから始めます。「残業がつらい」「大声が飛び交う環境が苦手」「急な業務変更でパニックになる」など、状況によって必要な配慮は異なります。主治医の意見書があれば、「業務遂行上の制限事項」の欄を参考に対話の起点にしましょう。

配慮内容を合意・文書化する

対話で出てきた内容をもとに、会社として対応できること・対応が難しいことを整理し、双方で合意した内容を書面または記録として残します。口頭だけのやりとりは後のトラブルの原因になります。配慮の内容は固定ではなく、状態の変化に応じて定期的に見直すことも明記しておくと良いでしょう。

他の社員への対応と情報共有の範囲

「あの人だけ特別扱い」という不満を防ぐためには、情報共有の範囲を本人と事前に合意しておくことが重要です。診断名や治療内容は要配慮個人情報(個人情報保護法)にあたるため、本人の同意なく周囲に伝えることはできません。一方、「体調管理のため業務量を調整している」という事実のみを上司・チームに伝えることは、本人の同意を得たうえで可能です。「何を、誰に、どこまで伝えるか」を本人と合意し、記録に残してください。

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会社が直面しやすい状況別の判断軸

実際の対応は、従業員数・就業規則の整備状況・産業医の有無によって変わります。自社の状況を確認しながら判断の軸を持つことが重要です。

状況 優先して確認・対応すること
従業員50人未満・産業医なし 主治医の診断書・意見書を活用。外部の支援機関・社労士との連携を検討する
就業規則に休職規定がない 休職が必要になる前に規定を整備する。雛形をそのまま流用せず実情に合わせる
本人がクローズを希望・パフォーマンス低下あり 定期的な声かけを記録。「業務上の問題」として面談を設定し、安全配慮義務の履行を記録に残す
オープン就労・配慮内容で合意できない 「過重な負担」の観点から代替案を提示し、対話プロセスを記録する。弁護士・社労士に相談
採用後に初めて疾患が開示された 不利益扱いをせず、開示時点から適切な対応を開始する。過去の遡及は原則しない

判断に迷う場合は、早めに外部の人事労務専門家に相談することで、対応の安全性が大きく高まります。

まとめ

メンタル不調社員のオープン・クローズ就労への対応は、「本人の意思を尊重しながら、会社としての義務を果たす」という二軸で考えることが基本です。開示の強制はできませんが、安全配慮義務と合理的配慮の提供義務は、規模を問わずすべての会社に課されています。大切なのは「正しい答えを出すこと」より、「対話・合意・記録というプロセスを踏むこと」です。

とはいえ、専任人事がいない環境でこれらを一人で判断し続けるのは、現実的に限界があります。ウェルセンス株式会社では、中小企業の経営者・兼務人事担当者の方から「配慮の内容をどこまで進めればいいかわからない」「対応が法的に適切か不安」というご相談を多くいただいています。法的義務の整理から、具体的な配慮の進め方、社内体制づくりまで、実務に沿った形でご支援しています。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員がクローズ就労を希望しています。会社として何もしなくていいのでしょうか?

A. 何もしなくていいわけではありません。クローズ就労を選ぶことは本人の権利ですが、会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)はなくなりません。業務パフォーマンスの低下など不調のサインが見られる場合は、「いつでも相談してほしい」という声かけを定期的に行い、その記録を残しておくことが実務上の最低限の対応です。

Q. 障害者手帳を持っていない社員でも、合理的配慮の対象になりますか?

A. なりえます。障害者雇用促進法における合理的配慮の提供義務は、障害者手帳の有無ではなく、実質的に障害・疾患があることが確認できるかどうかで判断されます。精神科・心療内科の診断書によってメンタル疾患が確認できれば、手帳がなくても対象になる可能性があります。「手帳がないから義務はない」という判断は法的リスクを招くため注意が必要です。

Q. 合理的配慮として残業免除を求められていますが、業務が回らなくなります。断れますか?

A. 「過重な負担」と判断される場合は断ることができます。ただし、即答で断ることは義務違反になりえます。まず本人と対話し、「残業の頻度を減らす」「特定の日だけ定時退社を認める」など代替案を検討したうえで、どうしても難しいと判断したプロセスを記録しておくことが重要です。対話と検討のプロセス自体が、合理的配慮義務の履行にあたります。

Q. 本人の同意なく、上司や同僚に病名を伝えることはできますか?

A. 原則としてできません。診断名・治療内容は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」にあたり、本人の同意なく第三者に共有することは禁止されています。業務調整の必要上、上司に何らかの情報を伝える場合も、まず本人に「何を、誰に、どこまで伝えるか」を確認し、同意を得てから行うことが鉄則です。

Q. 産業医がいない中小企業では、誰を頼りに対応を進めればいいですか?

A. 産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、主治医の診断書・意見書を業務判断の参考にすることが現実的です。また、メンタルヘルスに詳しい外部支援機関や、労務に精通した社会保険労務士との連携も有効な選択肢です。一人で抱え込まず、外部の専門家を早めに巻き込むことが、対応の質とスピードを高めるうえで重要です。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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