「試用期間中は給与を低めに設定しておきたいけれど、どこまで下げていいのか判断できない」——採用コストやリスクヘッジを考えると、多くの経営者や兼務人事担当者が抱えるリアルな悩みです。実は、一定の条件を満たせば試用期間中の給与を本採用より低く設定すること自体は違法ではありません。ただし、守るべき法的ルールと実務上の落とし穴を知らないと、後から大きなトラブルに発展することも。この記事では、合法的に設定するための3つの条件と、現場で見落とされがちな限界額の考え方を整理します。
試用期間中の給与を低く設定することは合法か
結論からいえば、一定の条件を満たす限り、試用期間中の給与を本採用より低く設定することは違法ではありません。ただし「試用期間だから何でもOK」ではなく、守るべきルールが明確に存在します。
法律が試用期間の低賃金設定を禁止していない理由
労働基準法や労働契約法には、「試用期間中の賃金は本採用と同額でなければならない」という規定は存在しません。企業が合理的な理由のもとで労使合意を得て設定する限り、差額設定そのものは許容されています。試用期間は「従業員としての適性を見極める期間」という性質があり、その特殊性を反映した賃金設定ができると解釈されています。
合法になる3つの条件
試用期間中の低賃金設定が合法となるためには、以下の3条件をすべて満たすことが必要です。
| 条件 | 根拠法令 | ポイント |
|---|---|---|
| 最低賃金を下回らない | 最低賃金法第4条 | 都道府県ごとの地域別最低賃金が絶対的な下限 |
| 採用時に書面で明示している | 労働基準法第15条 | 労働条件通知書または雇用契約書への記載が必須 |
| 不合理な格差でない | 労働契約法・同一労働同一賃金 | 差額に合理的な理由を説明できること |
「試用期間中は例外」という誤解が生む違法リスク
最低賃金法第7条には「試みの使用期間中の者」への減額特例が存在しますが、これは都道府県労働局長の許可を得た場合に限り、最低賃金額の10%以内の範囲で減額が認められる制度です。許可を取得せずに最低賃金を下回る賃金を設定した場合は違法となります。実務上、この許可申請を行う企業はほとんどなく、大多数の企業は最低賃金以上の水準で差額を設定しています。
許容される差額はいくらまでか
法律上「何割減まで」という明文規定は存在しません。ただし、実務慣行と法的リスクの観点から、合理性を説明できる範囲を把握しておくことが重要です。
実務上の目安と考え方
裁判例や労働行政の実務傾向を踏まえると、本採用時の賃金に対して10〜20%程度の差額が慣行的に許容されやすいとされています。ただし、これは法令に明記された数値ではなく、「合理性があるか」という判断基準の目安にすぎません。差額が大きくなるほど、その理由を説明できる根拠が求められます。
絶対に下回れない最低賃金ライン
月給制の場合、時間換算した時給が都道府県の地域別最低賃金を上回っているかを必ず確認してください。たとえば東京都の最低賃金(2024年10月改定後)を例にとると、所定労働時間が月160時間の場合、月給の下限額は最低賃金×160時間で算出されます。産業別最低賃金が設定されている業種では、地域別と産業別の高いほうが適用されるため注意が必要です。
差額が大きいほど問題になりやすいケース
差額が本採用賃金の20%を超えるような設定は、「不合理な格差」と判断されるリスクが高まります。特に、試用期間が3か月を超えて長期化している場合や、本採用後との給与差が数万円単位に及ぶ場合は、従業員からのクレームや労働基準監督署への申告につながるケースもあります。差額を設ける場合は、職業能力の習熟期間や業務の習得状況など、具体的な合理的理由を社内で整理しておくことを推奨します。
採用時に必ず明示すべき書類と記載方法
試用期間中の低賃金設定でトラブルを防ぐ最大のポイントは、採用時の書面明示です。「言った・言わない」を防ぐために、正確な書き方を押さえておきましょう。
労働条件通知書・雇用契約書への記載
労働基準法第15条は、採用時(労働契約締結時)に賃金を含む労働条件を書面で明示することを義務付けています。試用期間中の賃金を本採用と異なる金額に設定している場合、その両方を明記することが必要です。記載例としては次のような形が適切です。
- 試用期間:入社日から3か月間
- 試用期間中の基本給:月額〇〇円
- 本採用後の基本給:月額〇〇円(または「試用期間終了後、能力・勤務態度を評価のうえ決定」と明記)
2024年4月施行の省令改正で明示事項が拡充
2024年4月施行の労働基準法施行規則の改正により、労働条件の明示事項が拡充されました。試用期間の有無・期間、試用期間中の賃金、本採用後の賃金または昇給条件をより具体的に示すことが求められています。旧来のテンプレートをそのまま流用している場合、記載が不十分になっているケースがあります。改正内容に対応しているか、今一度確認することを強くお勧めします。
求人票と実際の条件を一致させる
求人票に記載した給与額と、実際に提示する労働条件通知書の内容が乖離していると、採用後のトラブルの原因になります。求人票に「月給〇〇万円〜」と記載している場合、それが本採用後の金額なのか試用期間中の金額なのかを明確に区別して記載することが必要です。ハローワーク等への求人票にも「試用期間あり・期間中は月給〇〇円」と明示する習慣をつけておきましょう。
就業規則への記載が必要なケース
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。試用期間中の賃金はこの就業規則に記載が必要な事項に該当します。
就業規則の「賃金の決定に関する事項」として記載する
労働基準法第89条は、賃金の決定・計算・支払方法を就業規則の記載事項(相対的必要記載事項)と定めています。試用期間中の賃金額や算定方法も、この「賃金の決定に関する事項」として記載しておくことが求められます。就業規則に記載がなく、個別の雇用契約書だけで処理している場合、監督署の調査時に指摘を受けるリスクがあります。
従業員数が10人未満の事業場の対応
従業員数が10人未満の場合、就業規則の作成義務はありません。ただし、就業規則がない場合でも雇用契約書(労働条件通知書)への明示義務は全事業場に適用されます。従業員数が少ないからこそ、個別の契約書で丁寧に条件を明記しておくことが、後のトラブル防止に直結します。
同一労働同一賃金との関係に注意が必要なケース
試用期間中の社員の雇用形態によっては、同一労働同一賃金のルールが適用され、給与差の設定に制約が生じる場合があります。自社のケースがどれに該当するかを確認することが重要です。
有期雇用契約で試用期間を設ける場合のリスク
試用期間を「有期雇用契約」として処理し、本採用後に無期雇用に切り替える形を取っている場合、パートタイム・有期雇用労働法の適用対象となります。この場合、正規雇用の社員と比較して「不合理な待遇差」があってはならないとされており、試用期間中の大幅な給与引き下げは同一労働同一賃金の観点から問題になるリスクがあります。
無期雇用として試用期間を設ける場合
試用期間を無期雇用契約の中の一区分として設ける場合(入社時から無期雇用、ただし試用期間中は条件付き)は、有期雇用労働法の直接的な規制は受けません。ただし、賃金設定の合理性の説明は引き続き求められます。既存の正社員との比較で不合理な格差とならないよう、差額の根拠を整理しておくことが重要です。
パート・アルバイト社員との比較も忘れずに
試用期間中の新入社員の時給換算額が、同じ業務をしているパート・アルバイト社員の時給を下回るようなケースでは、均等待遇の観点から問題が生じる可能性があります。特に小規模な職場では、試用期間中の社員と既存のパート社員が同様の業務に従事するケースも少なくありません。業務内容・責任範囲を踏まえた賃金設定の合理性を確認しておきましょう。
まとめ
試用期間中の給与を本採用より低く設定することは、最低賃金を下回らないこと・採用時に書面で明示すること・不合理な格差でないことの3条件を満たせば合法です。差額の目安は本採用賃金の10〜20%程度が実務上の許容ラインとされていますが、法令上の明文規定はなく、合理的な理由の説明が常に求められます。また、2024年4月施行の省令改正により明示すべき事項が拡充されたため、旧テンプレートの見直しも必要です。有期雇用で試用期間を設ける場合は同一労働同一賃金の観点からの検討も欠かせません。
試用期間の設定や給与設定に迷ったときは、ウェルセンス株式会社へご相談ください。人事の専門的判断が必要な場合、専門家のサポートを受けることで、後のトラブルを大きく減らせます。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


