採用面接の録音・録画に候補者の同意は必要?

採用面接の録音・録画に候補者の同意は必要? 採用・定着
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「面接をZoomで録画しているけど、候補者にちゃんと伝えていない……これって大丈夫?」採用管理を効率化したい企業にとって、録音・録画は便利なツールです。しかし、何も整備しないまま運用していると、後から候補者とのトラブルや個人情報保護法上の問題に発展するリスクがあります。この記事では、採用面接の録音・録画に関する法的な考え方、候補者への同意取得の実務、そして社内ルールの整備方法をわかりやすく解説します。

録音・録画データは「個人情報」にあたる

採用面接の録音・録画データは、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。この前提を正しく理解することが、適切な運用の出発点です。

個人情報保護法が適用される理由

個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)第2条第1項は、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」を個人情報と定義しています。採用面接の音声・映像は、候補者の顔・声・氏名・発言内容を含むため、特定の個人を識別できる情報です。したがって、録音・録画データは個人情報として取り扱う義務が生じます。

なお、個人情報取扱事業者(個人情報データベース等を事業に利用する者)に該当する企業は、規模の大小にかかわらずこの法律の対象になります。20~50名規模の中小企業であっても例外ではありません。

利用目的の通知・公表が義務づけられている

個人情報保護法第21条は、個人情報を取得する際に「利用目的を本人に通知・公表するか、あらかじめ公表しなければならない」と定めています。採用面接での録音・録画も例外ではなく、「何のために録音・録画するのか」を候補者に知らせることが法的な義務です。また、取得したデータは利用目的の範囲内でのみ使用できます(同法第18条)。「評価記録のために取得した録音データを、後から社内研修の素材やAI学習に転用する」といった場合は、別途同意が必要になる可能性が高いため注意してください。

無断録音・録画の法的リスク

候補者の同意なしに録音・録画した場合、刑事罰が直ちに適用される場面は限定的ですが、民事上の損害賠償リスクやプライバシー権侵害の問題は現実に存在します。

民事上の不法行為リスク

民法第709条は、「故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、損害賠償責任を負う」と定めています。候補者が「無断で録音・録画された」と感じた場合、プライバシー権の侵害として損害賠償請求を起こす可能性があります。実際にそのような請求に至らなくても、SNSや口コミサイトを通じた採用ブランドへのダメージは中小企業にとって深刻な問題です。

迷惑防止条例・盗撮禁止法との関係

都道府県の迷惑防止条例や、2023年に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び被害者の支援に関する法律(撮影罪)」は、主に性的目的の盗撮を対象としており、採用面接の録画への直接適用は状況によって解釈が異なります。ただし、こうした法制度の整備が進む中で「無断録画は法的にグレー」という認識を持ち、適切な同意取得を行うことが企業リスクの最小化につながります。

データを第三者に提供した場合の複合リスク

録音・録画データを候補者に不利益な形で第三者に開示・共有した場合、個人情報保護法違反に加え、名誉毀損やプライバシー侵害の複合的なリスクが発生します。「同業他社に候補者の面接映像を見せた」「転職エージェントに録音を共有した」といった行為は、重大な法的問題につながるため、社内ルールで明確に禁止しておく必要があります。

候補者への同意取得、正しいやり方とは

録音・録画を行う場合は、「応募時の利用目的の公表」と「面接冒頭での口頭告知」を組み合わせる方法が実務上の推奨です。採用選考を進める上で、候補者への透明な情報開示は法的義務であると同時に、企業の信頼構築にもつながります。

同意取得の方法と比較

以下に主な同意取得方法を整理します。それぞれのメリットと注意点を踏まえ、自社に合った方法を選んでください。

方法 メリット 注意点
書面(同意書) 証拠力が高い 候補者に心理的負担を与える可能性がある
電子フォーム(応募時) 効率的・記録に残る 読まずにチェックされるリスクがある
口頭(面接冒頭) 自然なコミュニケーション 証拠が残らず「同意していない」と言われるリスクがある
組み合わせ(推奨) 応募時の公表と面接冒頭告知で記録を補完できる 社内で手順を統一しておく必要がある

面接冒頭での告知フレーズの例

口頭告知は、候補者に過度な緊張感を与えない言い方が重要です。たとえば次のように伝えると自然です。

「本日の面接は、評価の精度を高めるために録音(または録画)をさせていただいております。記録は選考担当者のみが確認し、選考終了後○ヶ月以内に削除いたします。問題なければこのまま進めさせていただきますが、ご不明な点はお気軽にお申し付けください。」

このように「目的・アクセス範囲・保管期間・廃棄」の4点を簡潔に説明することで、候補者の不安を軽減しつつ同意の事実を記録として残しやすくなります。面接後に議事録や面接シートに「面接冒頭に録音・録画について告知済み」と記載しておくと、後からトラブルになった際の証拠として機能します。

「Zoomの録画通知で同意済み」は誤解

Zoomなどのビデオ会議ツールは、ホストが録画を開始すると参加者に通知が表示されます。これを「告知ができている」と考える担当者は少なくありませんが、通知が表示されるだけでは同意取得とはみなされません。通知の意味を候補者が正しく理解しているかは不明であり、録画データの利用目的・保管方法・廃棄時期については何も伝わっていないからです。Zoomを利用している場合でも、冒頭に口頭で上記の4点を説明することを徹底してください。

社内運用規程に盛り込むべき内容

録音・録画の運用を属人的な判断に任せていると、担当者によって対応がバラバラになり、後からトラブルが発生したときに収拾がつかなくなります。最低限、以下の事項を文書化しておくことが必要です。

規程に定めるべき項目

  • 録音・録画を行う目的と利用範囲(評価用途のみか、研修転用を含むかを明記)
  • 同意取得の手順・タイミング・使用する様式
  • データの保管場所・アクセス権限者の限定(採用担当者のみ等)
  • 保管期間と廃棄の基準(例:選考終了後3ヶ月以内に削除)
  • 外部への提供・共有の禁止事項
  • 違反が発生した場合の対応方針と報告ルート

保管期間については、明確な法的義務はありませんが、採用選考に関連するデータを長期間保持することは情報漏えいリスクを高めます。実務的には「不採用通知から3ヶ月以内」あるいは「採用選考終了から6ヶ月以内」を目安に廃棄ルールを設定している企業が多い傾向があります。

専任人事がいない企業でも整備できる現実的な進め方

専任人事がいない中小企業では、規程整備を後回しにしがちです。しかし、候補者からクレームや個人情報の開示請求が来てから対応しようとすると、対応に要する時間とコストは格段に増えます。まず「採用に関する個人情報の取り扱い方針」を1枚にまとめたドキュメントを作成し、面接冒頭での口頭告知フレーズを統一するところから始めると、最小限の工数で実効性のある対策が取れます。その後、応募フォームのプライバシーポリシーや同意フォームの整備へと段階的に拡充していくと現実的です。採用に関する法務や個人情報管理に不安がある場合は、専門家の支援を受けることも選択肢の一つです。

録音・録画データの適切な管理方法

取得した録音・録画データは、個人情報として適切に管理しなければなりません。保管・アクセス・廃棄の各段階でルールを設けることがトラブル防止の鍵です。

保管場所とアクセス権の設定

録音・録画ファイルは、クラウドストレージ(Google DriveやDropbox等)や社内サーバーに保管するケースが多いですが、フォルダのアクセス権限を「採用担当者のみ」に絞ることが基本です。全社員が閲覧できる共有フォルダに置くことは、情報漏えいリスクの観点から避けてください。また、クラウドサービスを利用する場合は、そのサービスの利用規約においてデータがどの国のサーバーに保存されるかを確認することも重要です(個人情報の国外移転に関する規制が関係することがあります)。

廃棄のタイミングと方法

選考が終了した候補者のデータは、規程で定めた期間が経過したら速やかに削除します。クラウドストレージのファイルを削除した場合でも、ゴミ箱に残っていることがあるため、完全削除まで確認することが必要です。廃棄の記録(いつ、誰が、どのデータを削除したか)を簡単なログとして残しておくと、後から「データはどこに?」という問い合わせに対応しやすくなります。

まとめ

採用面接の録音・録画データは個人情報保護法上の「個人情報」に該当し、利用目的の通知・公表が法的義務となります。候補者への無断録音・録画は、刑事罰の適用が限定的であっても、民事上の不法行為(プライバシー権侵害)として損害賠償請求を受けるリスクがあります。実務上は「応募時のプライバシーポリシーによる利用目的の公表」と「面接冒頭での口頭告知(目的・アクセス範囲・保管期間・廃棄の4点説明)」を組み合わせることが推奨されます。また、社内運用規程には目的・同意手順・保管ルール・廃棄基準・外部提供禁止・違反時対応の6項目を最低限盛り込んでください。専任人事がいない企業でも、まず口頭告知フレーズの統一と取り扱い方針の文書化から着手することで、現実的にリスクを下げることができます。

採用面接の運用ルールが法的に適切か、あるいは個人情報管理の方針に不安がある場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。人事の専門知識がなくても対応できるよう、実務に即したアドバイスをご提供しています。

よくある質問

Q. 候補者に同意を求めたところ「録音・録画はやめてほしい」と断られました。断られた場合はどうすべきですか?

A. 候補者が録音・録画を拒否した場合は、その意思を尊重して録音・録画を行わないことが原則です。録音・録画への同意は選考参加の条件ではなく、あくまで任意であることを伝えてください。同意を選考通過の条件とすることは、候補者に不当な不利益を与えるおそれがあります。その場合は手書きやタイピングによるメモで評価記録を残す運用に切り替えてください。

Q. 候補者から「自分の面接録音を開示してほしい」と求められたら対応しなければなりませんか?

A. 個人情報保護法第33条に基づき、本人から保有個人データの開示請求があった場合、原則として開示しなければなりません。録音・録画データが保有個人データに該当する場合(6ヶ月以上保有し、開示・訂正・削除等ができる状態にあるもの)は開示義務が生じます。開示請求に備えて、データの保管状況と開示対応の手順をあらかじめ整備しておくことが重要です。なお、第三者の権利を害するおそれがある場合など、一定の例外はあります。

Q. 面接を録音・録画するメリットは何ですか?採用実務での活用方法を教えてください。

A. 主なメリットは、評価の属人化を防ぐことと、採用判断の根拠を後から確認できることです。複数の面接官が同じ録音・録画を参照して評価を比較することで、主観的なバイアスを軽減できます。また、採用後に「なぜこの人を選んだか」を振り返る際の資料にもなります。ただし活用は利用目的として告知した範囲内に限り、社内研修やAI学習への転用には別途同意が必要なため、用途を事前に明確にしておくことが重要です。

Q. 採用面接の録音・録画に関する規程は、就業規則とは別に作成する必要がありますか?

A. 就業規則とは別に「個人情報取扱規程」や「採用管理規程」として文書化することが一般的です。就業規則は在籍社員向けの規程であるため、候補者(社外の方)に関する情報管理のルールは別途定めることが適切です。専任人事がいない場合は、まず「採用に関する個人情報の取り扱い方針」を1~2ページのドキュメントとして作成するところから始め、段階的に整備する方法が現実的です。

Q. 面接の録音・録画データを採用管理システム(ATS)に保存することに問題はありますか?

A. 採用管理システム(ATS)に録音・録画データを保存すること自体は問題ありませんが、いくつかの点を確認してください。まず、そのATSが個人情報保護法に準拠したセキュリティ基準を満たしているかをベンダーに確認することが必要です。次に、ATSへのアクセス権限を採用担当者に限定する設定を行い、データの保管期間と廃棄機能が利用できるかを確認してください。また、候補者への利用目的の告知に「採用管理システムでの記録・管理」を含めておくことも忘れずに行ってください。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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