「副業OKにしたはいいけど、副業先の労働時間なんて把握できるわけがない……」——実務を担う方から、こういう声をよく聞きます。副業を解禁した会社が増える一方で、労働時間の「通算管理」という義務が自社にどこまでかかってくるのか、残業代の計算はどうなるのか、副業に関する制度をどう設計すればいいのか、整理できていないケースがほとんどです。この記事では、副業の労働時間通算に関する法的な基本ルールから、20〜50名規模の会社でも現実的に回せる運用方法まで、順を追って解説します。
副業の労働時間通算とは何か
副業の労働時間通算とは、自社と副業先の労働時間を合計して法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えていないか判定するルールです。複数の会社で働いていても、労働者ひとりが使える時間は1日24時間しかなく、健康を守るための規制は会社をまたいで適用される仕組みになっています。
根拠となる法律
労働基準法第38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。「事業場を異にする場合」とは、異なる会社で働く場合も含みます。副業先の時間が把握しにくくても、この義務が消えるわけではありません。
通算するのは「労働時間」だけ——契約形式ではなく実態で判断
通算の対象となるのは、雇用契約に基づく労働時間です。副業がフリーランスや業務委託という形であっても、実態として指揮命令を受け時間を拘束されているなら「労働者性あり」と判断されるケースがあります。そのため、契約形式だけを見て「業務委託だから通算不要」と判断するのは危険です。書類上の形式ではなく、実態で判断する意識を持っておくことが重要です。
法定労働時間を超えた場合の割増賃金は誰が払うのか
通算して法定労働時間を超えた部分(時間外労働)に対しては、割増賃金(原則1.25倍)の支払い義務が生じます。原則として、時間的に後から労働契約を締結した使用者が、その超過分を支払う義務を負います。
例えば、本業(自社)で先に契約し、後から副業先と契約した場合、副業先が時間外割増の支払い義務を負うのが原則です。逆に、自社が後から契約を結んだ場合は、自社が負担することになります。自社が契約締結の順番のどちら側にいるかによって、残業代負担の有無が変わってくる点を押さえておきましょう。
把握できない悩みへの現実的な答え:管理モデルの活用
副業先の実労働時間を毎月リアルタイムで把握するのは、中小企業では現実的ではありません。厚生労働省は2020年改定の副業・兼業ガイドラインで、こうした状況を想定した簡易的な運用方法(「労働時間の申告等に基づく管理方式」、通称「管理モデル」)を認めています。
管理モデルの仕組み
管理モデルでは、副業開始前に「自社での労働時間」と「副業先での労働時間」の上限をあらかじめ取り決め、その合計が法定労働時間の枠内に収まるよう設計します。例えば自社での所定労働時間が月160時間であれば、副業先での時間は月20時間以内、などと合意書に明記します。その上で社員が月次で副業先の実労働時間を自己申告し、合意の範囲内であることを確認する、という流れです。
申告制は「把握義務の現実的な限界」と「記録の重要性」をセットで考える
申告制は「社員の自己申告に依存する」という弱点があります。ただし、会社として「申告する仕組みを整えた」という事実は、安全配慮義務の履行を示す重要な根拠になります。何も整備しないまま放置するのとは、法的なリスクの大きさがまったく異なります。申告フォームを用意し、月1回の提出ルールを定め、異常値があれば面談するという流れを作るだけで、実務として「対応している」状態になるのです。
副業制度設計の具体的な進め方
副業を許可するには、就業規則・申請書類・月次申告のセットを整えることが最低限必要です。「副業可と言ったまま何も整備しない」状態は、トラブルが起きた際に会社に不利に働きます。
就業規則への明記
副業を認める場合、就業規則に許可制または届出制の根拠規定を設けます。あわせて、副業を禁止または制限できる条件(競合他社への従事、長時間による健康障害のおそれ、業務上の機密漏洩リスクなど)も明記しておくことが重要です。「副業可」とだけ記して細則がない状態では、個別対応に終始してしまい、判断のブレが生じます。
副業許可申請書の整備
副業を開始する際に社員に提出させる申請書には、最低限以下の項目を含めるようにしましょう。
- 副業先の企業名・業務内容
- 雇用形態(雇用契約か業務委託か)
- 所定労働時間・契約期間
- 月間の予定労働時間
これを受け取ることで、会社側は通算時間の試算ができ、健康リスクの初期判断が可能になります。また、副業先との上限合意書をこのタイミングで取り交わしておくと、後のトラブル防止に役立ちます。
月次申告ルールの設定
副業許可後は、月1回、副業先での実労働時間を本人から自社に申告させる仕組みを作ります。フォームはシンプルで構いません。「副業先での今月の実労働時間:〇〇時間」と記載・提出させるだけでも、記録として機能します。申告値が上限合意を超えている場合は、上司または人事担当者から面談を実施するルールをセットにしておくと、健康管理の根拠として機能します。
従業員規模による義務の違い:20〜50名規模で押さえるべき分岐点
従業員数によって、会社に課せられる義務の範囲が変わります。特に49名以下の企業は、法定の健康管理体制が整いにくい分、自社での自発的な仕組み作りが重要になります。
| 論点 | 49名以下の企業 | 50名以上の企業 |
|---|---|---|
| 産業医の選任 | 義務なし(任意) | 選任義務あり |
| ストレスチェック | 努力義務 | 実施義務あり(年1回) |
| 副業者の健康管理 | 自社での申告制・面談で対応 | 産業医との連携も視野に |
| 就業規則の届出 | 10名以上は届出義務あり | 同左 |
49名以下の場合、産業医やストレスチェックという「公的な安全網」が機能しません。副業者の健康管理は、月次申告と定期的な1on1面談で早期にサインを拾う仕組みを自前で作るしかありません。「まだ副業している社員が1〜2人だから」と制度整備を先送りにしているうちに、体調不良や労務トラブルが起きると、就業規則に根拠がない分、会社の対応が後手に回ります。
🔗 社員のメンタル不調に、精神科・心療内科医によるスポット産業医サービス →
見落としがちな落とし穴と安全配慮義務
副業を認めた時点で、会社は社員に対する安全配慮義務(労働契約法第5条)の一部として、過重労働防止の責任を負います。「副業は本人の選択」では済まないケースがあるという認識が必要です。
「副業可=自己責任」は法的には通じない
「副業を許可した、あとは社員の自己管理」という認識は、法的には通用しません。安全配慮義務は、副業による過重労働が原因で社員が体調を崩した場合にも問われます。副業を許可している会社が「何も把握していなかった」という状態は、義務違反の根拠になりえます。申告書・合意書・月次確認という記録のセットが、会社が義務を果たした証拠になるのです。
業務委託・フリーランスの副業でも油断しない
副業の形が「業務委託」や「フリーランス」であっても、実態として指揮命令を受け、時間の自由がない働き方であれば、労働基準法上の「労働者」として扱われる可能性があります。この場合、労働時間の通算義務が生じます。形式だけで判断して管理を省略することは、後になって法令違反を問われるリスクがあります。雇用形態の名目だけでなく、実態を確認する姿勢が必要です。
本業・副業の合計が長時間になっているサインを見逃さない
申告上は問題なくても、本人の様子(遅刻・ミスの増加・元気のなさ)から過重労働を察知できることがあります。兼務担当者であっても、月1回の申告タイミングに合わせて短い面談を実施する習慣をつけると、早期介入のきっかけになります。「何かあれば言ってね」という姿勢より、「月1回必ず確認する」という仕組みのほうが、実際には機能します。
🔗 人事だけで抱えない。メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談 →
まとめ
副業の労働時間通算は、労働基準法第38条に基づく明確な法的義務です。副業先の時間をリアルタイムで把握するのは難しくても、厚生労働省の「管理モデル」を活用した申告制の仕組みを整えることで、中小企業でも現実的に対応できます。重要なのは、許可申請書・上限合意書・月次申告・確認面談というセットを整備し、「会社として管理する意思と仕組みがある」状態を作ることです。副業を認めた時点で安全配慮義務が生じるという認識を持ち、後回しにせず最低限の制度設計を進めることが、トラブル予防の第一歩になります。
副業制度の設計や就業規則の整備、社員の健康管理体制について「何から手をつければいいかわからない」という場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。20〜50名規模の企業特有の制約を踏まえた実務的なアドバイスが可能です。
よくある質問
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。
不調者対応を、人事だけで抱えない。
メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。


