副業社員の評価に悩んだら見直したい人事制度の整え方

人事制度

「副業を認めたいけれど、評価にどう反映すればいいのかわからない」——そんな悩みを抱えながら、場当たり的な対応を続けている経営者や兼務人事担当者は少なくありません。副業解禁は社員のモチベーション向上や採用力強化につながる一方、制度が整っていないまま進めると不公平感や過重労働リスクが生まれます。この記事では、副業社員の人事評価・報酬・労務管理をどう整えるか、実務に即した考え方を解説します。

副業解禁で起きがちなトラブルとその背景

「なんとなく許可」が生む不公平感

副業を認める企業が増えた背景には、2018年に厚生労働省が改訂した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」があります。政府が副業推進の方向性を示したことで、大企業を中心に解禁の流れが加速しました。しかし中小企業では、「とりあえず禁止は時代遅れだから許可制にした」という企業も多く、制度の中身が追いついていないケースが目立ちます。

就業規則に「許可制」とだけ記載し、申請が来るたびに個別判断している状態では、「あの人はOKだったのに自分はNGだった」という不満が生まれます。副業をしている社員としていない社員の間で不公平感が広がり、チームの雰囲気が悪化した事例も実際に起きています。

副業スキルが「評価の外側」に置かれてしまう問題

副業で得た経験が本業に活きているのに、人事評価制度がそれを拾えていないケースもあります。たとえば、Webデザインを副業で始めた営業担当者が、社内の販促資料作成でも力を発揮するようになったとします。しかし評価制度に「副業スキルの反映基準」がなければ、その貢献は正当に評価されず、本人のモチベーション低下につながります。「副業してる人が得をする」でも「副業してるのに評価が変わらない」でも、どちらにも不満が生まれる——この矛盾を解消するのが制度設計の目的です。

まず押さえたい労働時間通算の基本ルール

労働基準法第38条が定める「通算義務」とは

副業を認めた場合、労働基準法第38条に基づき、本業と副業の労働時間を通算する義務が使用者に生じます。法定労働時間(週40時間・1日8時間)を超えた部分は割増賃金(25%以上)の支払い対象になります。原則として、後から労働契約を締結した会社——多くの場合は副業先——が割増賃金を負担することになっています。

ただし、副業がフリーランス(業務委託)契約であれば労働時間の通算は不要です。雇用契約か業務委託かによってルールが異なるため、副業の契約形態を申請時に確認する仕組みが必要です。

中小企業でできる現実的な管理のしかた

副業先の労働時間をリアルタイムで把握することは実務上ほぼ不可能です。厚生労働省も、完全な時間把握よりも「自己申告制度の整備」と「上限時間の設定」を現実的な対応として示しています。具体的には、副業申請時に「本業と副業を合わせた週の労働時間が〇時間以内であること」という上限を設け、月次または四半期ごとに自己申告書を提出させるフローを作る方法が有効です。

この申告書式とフローを整備しておくことは、労働契約法第5条が定める安全配慮義務の「履行証跡」にもなります。万一、副業社員がメンタル不調や体調不良で休職した際に「会社として確認の仕組みを持っていた」という事実が重要な意味を持ちます。

副業を類型化すると制度設計がシンプルになる

すべての副業を同じルールで扱わない

副業の許可・不許可の判断が属人的になる最大の原因は、副業の「種類」を整理せずに一律のルールを当てはめようとすることです。副業の内容は多岐にわたるため、まず類型化することから始めると制度設計がぐっとシンプルになります。代表的な分類は次の四つです。

  • スキルアップ型:本業と関連するスキル習得を目的とするもの(例:エンジニアがプログラミング講師として副業)
  • 収入補完型:本業と無関係な収入確保を目的とするもの(例:週末にデリバリー配達員)
  • 起業準備型:将来の独立・起業を見据えた活動(例:本業の傍らでコンサルティング受注)
  • 社会貢献型:NPOやボランティア活動など(例:地域の非営利団体での週末活動)

類型ごとに「原則許可」「要審査」「原則禁止」の判断軸を就業規則に明記するだけで、申請対応が格段に楽になります。

競業リスクと秘密保持をどう線引きするか

特に「起業準備型」や「スキルアップ型」では、自社の競合になりうる副業や、業務上知り得た情報が漏洩するリスクに注意が必要です。就業規則の副業規定に「競業避止義務」「秘密保持義務」の条項を明文化し、副業申請書にも「自社の営業秘密・顧客情報を副業に利用しない」旨の確認欄を設けておくことで、トラブル発生時の対応がスムーズになります。

副業スキルを等級・評価に組み込む二つのアプローチ

インプット評価型とアウトプット評価型の違い

副業で得た経験を人事評価制度に反映させる方法は、大きく二つに分けられます。一つ目は「インプット評価型」で、副業で習得したスキルや取得した資格を等級要件として加算する方法です。たとえば「業務に関連するスキルを副業・外部活動で習得し、社内で活用実績がある場合は等級要件の一部として認める」といった基準を設けます。

二つ目は「アウトプット評価型」で、副業経験が本業の成果にどう貢献したかを人事評価に反映させる方法です。「副業で培ったプレゼンスキルにより、受注率が前年比15%向上した」のように、成果との因果関係で評価します。

中小企業にはアウトプット評価型が現実的

専任人事がいない中小企業では、インプット評価型は運用が複雑になりがちです。スキルの認定基準を細かく定義し、それを誰が評価するかという問題が生じるためです。一方、アウトプット評価型は「本業の成果で判断する」という既存の評価軸の延長で運用できるため、新たな仕組みを大幅に作り直す必要がありません。

実務的には、半期ごとの目標設定面談の場で「副業経験を本業にどう活かす予定か」を言語化させ、期末の人事評価時に「実際に成果につながったか」を確認するフローを加えるだけで対応可能です。制度を複雑にするよりも、既存のサイクルに副業視点を組み込むアプローチが中小企業には合っています。

報酬制度と就業規則をどう整えるか

副業収入を理由に本業給与を下げるのはNG

副業を認める際に「副業で稼いでいるから本業の給与は下げてもいいだろう」と考えることは、労働基準法・労働契約法の観点から許されません。本業の給与は、本業における職務・スキル・成果に対して支払われるものであり、副業収入の有無とは切り離して考える必要があります。

一方で、副業で習得したスキルが等級要件を満たし、等級が昇格した結果として報酬が改定されるのは問題ありません。「副業収入があるから給与を下げる」ではなく、「副業経験でスキルが上がり、等級が上がったから給与が上がる」という方向性であれば、制度として整合性があります。

就業規則の副業規定を実効性あるものにする

就業規則の副業規定を整備する際に最低限盛り込むべき項目は、許可申請の手続き・許可・不許可の判断基準・競業避止・秘密保持・労働時間の上限・申告義務・違反時の対応の七点です。「副業は許可制とする」の一文だけでは、判断する側も申請する側も困ります。

また、就業規則の改定だけでなく、副業申請書・自己申告書・許可通知書といった書式を一式セットで用意しておくと、実際の運用がスムーズになります。書式なしで口頭・メールだけで処理していると、後から「言った・言わない」のトラブルになりやすいためです。

外部副業人材を受け入れる場合の処遇整理

雇用か業務委託かを最初に明確にする

副業・兼業人材を外部から受け入れる場合、最初に「雇用契約か業務委託契約か」を明確にすることが不可欠です。この区別があいまいなまま進めると、実態として雇用に近い関係なのに業務委託として扱う「偽装請負」のリスクが生じます。指揮命令関係がある場合(業務の進め方・時間・場所を会社が指定する場合など)は、雇用契約として処理する必要があります。

処遇・等級づけの現実的な整理方法

外部副業人材を雇用契約で受け入れる場合、正社員の等級体系にそのまま乗せることが難しいケースが多いです。この場合、週の所定労働時間に応じた「短時間正社員」または「パートタイム社員」の区分を設けて対応する方法が現実的です。たとえば「週10〜15時間勤務・特定スキル職」という区分を就業規則に追加し、職務内容と報酬の対応関係を明文化します。

業務委託として受け入れる場合は、労務管理の必要はありませんが、成果物・納期・報酬の条件を業務委託契約書に明記し、著作権・秘密保持・再委託禁止の条項を忘れずに盛り込みます。「なんとなくお願いしている」状態が続くと、関係解消時にトラブルになるリスクが高まります。

まとめ

副業社員の人事評価に悩む根本には、「副業解禁だけ先行して、制度が追いついていない」という状況があります。就業規則の副業規定の整備、副業の類型化と許可基準の明確化、労働時間通算の管理フロー構築、評価・報酬への反映ルールの整理——この四つを順番に整えていくことで、不公平感とリスクの両方を減らすことができます。

ただし、制度設計と並行して見落とされやすいのが「副業解禁後の社員の健康管理」です。副業が過重労働につながり、メンタル不調や休職に至るケースは実際に起きています。制度を整えることとあわせて、社員の健康状態をモニタリングする仕組みを持つことが、持続可能な副業推進につながります。

ウェルセンス株式会社では、メンタルヘルス・休職復職支援・人事労務の視点から、副業制度の整備と運用に関するご相談を承っています。「就業規則をどう整えればいいか」「人事評価をどう設計するか」「労務管理のリスクをどう対応するか」——ご不安な点がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

よくある質問

Q. 副業を許可制にする場合、就業規則にどのような条文を追加すればよいですか?

A. 最低限、「副業・兼業を行う場合は事前に会社の許可を得ること」「許可申請の手続き(申請書の提出先・記載事項)」「許可しない場合の基準(競業行為・秘密漏洩リスク・本業に支障を来すおそれがある場合など)」「本業と副業を合わせた労働時間の上限と定期申告義務」「違反した場合の措置」の五項目を盛り込むことをお勧めします。条文だけでなく、申請書・申告書の書式もあわせて整備しておくと運用がスムーズです。

Q. 副業社員の労働時間をリアルタイムで把握することは難しいのですが、どうすれば安全配慮義務を果たせますか?

A. 完全なリアルタイム把握は現実的ではないため、厚生労働省も自己申告制度の整備を推奨しています。具体的には、副業申請時に「本業と副業の合計が週○時間以内」という上限を合意し、月次または四半期ごとに自己申告書を提出させるフローを設けることが有効です。この申告フローを整備・運用していた記録が、安全配慮義務を果たしていたことの証跡になります。また、申告内容に気になる点があった場合は、上長や人事が面談で確認するルールを設けておくと、より実効性が高まります。

Q. 副業をしている社員としていない社員の間で不公平感が出ないようにするにはどうすればいいですか?

A. 最も重要なのは「本業の成果で人事評価する」という軸を明確に社内に示すことです。副業の有無にかかわらず、本業でどのような成果を出したかで評価・報酬が決まるという原則を徹底することで、不公平感を抑えることができます。あわせて、副業で得たスキルが本業の成果につながった場合のみ評価に反映するというルールを明文化し、「副業をしているだけで得をする」仕組みにならないよう設計することがポイントです。

Q. 外部から副業・兼業人材を受け入れる場合、業務委託と雇用契約はどのように使い分ければよいですか?

A. 判断の基準は「指揮命令関係があるかどうか」です。業務の進め方・時間・場所を会社が細かく指定し、実質的に会社の指示のもとで働く関係であれば、雇用契約として処理する必要があります。一方、成果物や納期だけを指定し、業務の進め方は相手方に委ねる関係であれば、業務委託契約が適切です。「なんとなく業務委託にしている」という状態は偽装請負のリスクがあるため、受け入れ前に実態を確認し、契約形態を整えることが重要です。

Q. 副業解禁後に社員のメンタル不調が増えた場合、会社はどのような責任を問われますか?

A. 副業解禁後に過重労働が生じ、それが原因でメンタル不調や休職に至った場合、会社は労働契約法第5条の安全配慮義務違反を問われる可能性があります。「副業のことは社員の自己責任」という認識は法的には通りにくく、会社として把握・管理の仕組みを持っていたかどうかが重要な判断基準になります。副業解禁と同時に、定期的な健康状態の確認フローや、異変を早期に把握するためのモニタリング体制を整えることが、会社と社員の両方を守ることにつながります。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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