懲戒解雇に取締役会決議は必要?手続き漏れの3大リスクと対処法

懲戒解雇に取締役会決議は必要?手続き漏れの3大リスクと対処法 コンプライアンス
Photo by Breakingpic on Pexels

「問題のある社員を懲戒解雇した。でも、後から取締役会の決議が必要だったと聞いて不安になった」——そう感じた経営者の方は、少なくありません。特に専任人事がいない中小企業では、緊急を要する場面で「まず解雇ありき」で動いてしまい、手続き面の確認が後回しになりがちです。懲戒解雇に取締役会決議は本当に必要なのか、手続きに漏れがあった場合にどんなリスクがあるのか、そして今からできることは何か。この記事では、会社法と労働法の両面から整理します。

取締役会決議が必要かどうかは「自社の機関設計」で決まる

結論から言うと、懲戒解雇に取締役会決議が必要かどうかは、自社が「取締役会設置会社」か「取締役会非設置会社」かによって異なります。どちらであるかは定款と登記事項証明書を確認しなければわかりません。

取締役会設置会社と非設置会社の違い

会社法上、取締役会を設置するかどうかは会社が自由に選択できます。20〜50名規模の中小企業では、取締役会を設置していない会社(非設置会社)も珍しくありません。取締役会非設置会社の場合、業務執行は代表取締役が単独で決定できるため(会社法348条)、懲戒解雇の判断に取締役会決議は不要です。

一方、取締役会設置会社の場合は、会社法362条4項が「重要な業務執行の決定」を取締役会の権限としています。従業員の懲戒解雇がこの「重要な業務執行」に該当するかどうかが、実務上の論点になります。

「重要な業務執行」に該当するかどうかの判断基準

一般的な従業員の懲戒解雇が、ただちに「重要な業務執行」とみなされるわけではありません。ただし、以下のようなケースでは「重要」と判断される可能性が高まります。

  • 管理職・役員に準ずる立場の従業員の解雇
  • 高額の退職金・解決金の支払いを伴う場合
  • 会社の事業運営・対外的信用に大きく影響する案件

逆に、一般従業員の解雇であれば、代表取締役への権限委任(会社法362条4項ただし書・同5項)が定款や取締役会規程で定められていれば、単独で決定できます。まずは自社の定款と取締役会規程を確認し、どこまで代表取締役に権限が委任されているかを把握することが出発点です。

自社の機関設計を確認する方法

確認すべき書類は次の2点です。法務局で取得できる登記事項証明書に「取締役会設置会社」の記載があれば設置会社、なければ非設置会社です。定款には取締役会の権限範囲や代表取締役への委任事項が記載されています。この2点を確認しないまま「うちは大丈夫」と判断するのは、後になって大きなリスクを抱える原因になります。

機関設計 根拠条文 懲戒解雇の決議要否
取締役会設置会社 会社法362条 重要な業務執行に該当する場合は決議が必要(定款・規程による委任があれば代表取締役が単独決定可)
取締役会非設置会社 会社法348条 代表取締役が単独で決定可能、決議不要

取締役会決議を欠いた場合の法的効果

取締役会決議を欠いた懲戒解雇が直ちに「無効」になるわけではありません。しかし、手続き的瑕疵として労働法上の「解雇権濫用」判断に影響するリスクがあります。

会社内部と従業員との関係は別に考える

会社法上の問題(対内的効果)と、従業員との雇用関係の問題(対外的効果)は切り分けて考える必要があります。取締役会決議を欠いた行為は、会社内部では取締役の善管注意義務違反や責任問題につながる可能性があります。しかし、解雇された従業員との関係においては、決議の欠缺だけで解雇が自動的に無効になるわけではありません。

労働法上の「解雇権濫用」への影響

労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効」と定めています。取締役会決議の欠缺は、この「社会通念上相当か否か」の判断材料のひとつとして取り上げられることがあります。つまり、決議がなかったこと単体では無効にならなくても、他の手続き上の問題と合わさることで、解雇全体が無効と判断されるリスクが高まります。

手続き漏れの3大リスク

取締役会決議の問題に加え、懲戒解雇の手続きには複数の落とし穴があります。特に中小企業で起きやすい「3大リスク」を整理します。

弁明の機会を与えなかったリスク

就業規則に「本人に弁明の機会を付与する」と定めている場合、この手続きを省略すると懲戒解雇が無効とされる可能性があります。最高裁の流れを汲む実務では、弁明機会の付与は手続き的正当性の核心と位置づけられており、フジ興産事件(最高裁平成15年10月10日判決)でも就業規則上の手続き遵守の重要性が示されています。「問題社員だから明らかに懲戒解雇が妥当」と感じていても、手続きを省略してよい理由にはなりません。

就業規則の懲戒規定が不十分なリスク

懲戒解雇が有効と認められるには、労働契約法15条および7条に基づき、就業規則に懲戒事由と懲戒解雇の根拠規定が明記されていること、かつその規則が従業員に周知されていることが必要です。「暗黙の了解で問題行為だとわかるはず」は通用しません。また、退職金の不支給も、就業規則に明確な規定がなければ認められないため、「懲戒解雇だから退職金はゼロ」という思い込みには注意が必要です。

離職票の処理ミスによる二次紛争リスク

懲戒解雇の場合、離職票の離職理由は「重責解雇」(コード4D)として処理する必要があります。誤ったコードで処理すると、元従業員が雇用保険の給付で不利益を被り、それが新たな紛争の火種になることがあります。ハローワークへの届出段階での記載ミスは、労働基準監督署への申告や労働審判につながるケースもあるため、社会保険労務士等と連携して正確に処理することが重要です。

懲戒解雇の手続きに不安がある場合は、実施前後を問わず専門家に相談することで、後の紛争リスクを大きく減らせます。

今から取れる事後的リスクヘッジ

すでに懲戒解雇を実施してしまった場合でも、今からできるリスク低減策はあります。重要なのは「何もしないでいること」が最もリスクを高めるという点です。

取締役会設置会社であれば追認決議を検討する

取締役会設置会社で決議なく解雇した場合、事後的に取締役会で「追認」の決議を行うことで内部的な手続き的瑕疵を補完できる場合があります。ただし、これはあくまで内部統制上の対応であり、労働法上の有効性を保証するものではありません。また、解雇後に時間が経過すればするほど、追認の実効性は限定的になります。早期に法律の専門家(弁護士)に相談し、追認の要否と効果を確認することをお勧めします。

元従業員からの申し立てに備えた証拠整理

元従業員が労働審判や民事訴訟に踏み切った場合、会社側が準備すべき証拠は多岐にわたります。具体的には、懲戒事由となった行為の記録(メール・始末書・上司の報告書など)、就業規則の周知記録、弁明機会を付与した事実を示す書類(面談記録・通知書など)が挙げられます。解雇後であっても、これらの資料を整理・保全しておくことが、万が一の紛争時の防御力を高めます。

今後の懲戒処分に向けた社内体制の整備

今回の懲戒解雇を教訓として、次の問題発生時に正しい手順を踏めるよう、就業規則の見直しと懲戒手続きのフロー整備を行うことが重要です。具体的には、懲戒委員会の設置・弁明機会付与の手順・退職金不支給の規定・取締役会決議の要否ルールを明文化しておくことで、次回以降のリスクを大幅に減らせます。

懲戒解雇の有効要件を整理する

取締役会の手続き問題とは別に、懲戒解雇そのものが有効であるためには、労働契約法上の要件をすべて満たす必要があります。このチェックリストを、自社の今回の対応に照らして確認してください。

労働契約法が求める4つの要件

労働契約法15条・7条に基づく懲戒解雇の有効要件は以下のとおりです。まず、就業規則に懲戒解雇の根拠となる規定と懲戒事由が明記されていること。次に、従業員の行為がその懲戒事由に実質的に該当すること。そして、処分として「相当性」があること——つまり懲戒解雇という重い処分が当該行為に対して重すぎないこと。最後に、就業規則が従業員に周知されていること(労働契約法7条)です。この4要件のうち1つでも欠けると、懲戒解雇は無効と判断されるリスクがあります。

自社の状況でチェックすべきポイント

特に専任人事がいない企業では、就業規則を作成したまま放置しているケースも少なくありません。作成時から事業内容や組織が変わっていれば、懲戒事由の記載が現実の業務実態とズレている可能性もあります。また、就業規則を事業所内に掲示・配布していない場合、「周知」の要件を満たしていないとみなされる恐れがあります。今回の懲戒解雇の有効性を確認する意味でも、就業規則の現状を専門家と一緒に点検することを強くお勧めします。

人事判断は「正しい手続き」を踏むことで初めて後ろ盾になります。判断に迷ったら、1人で抱え込まず相談しましょう。

まとめ

懲戒解雇に取締役会決議が必要かどうかは、自社が取締役会設置会社かどうか、定款や規程で代表取締役への権限委任がされているかによって異なります。取締役会決議を欠いても解雇が自動的に無効になるわけではありませんが、弁明機会の不付与・就業規則の不備・離職票の処理ミスといった手続き上の問題が重なると、労働審判や訴訟で解雇無効と判断されるリスクが高まります。すでに解雇を実施した場合でも、証拠の整理・追認決議の検討・就業規則の見直しといった対応を取ることで、リスクを低減することは可能です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業の経営者・兼務人事担当者が直面する、こうした人事労務の複合的な課題に対応しています。「今回の対応が正しかったのか確認したい」「今後同じリスクを避けるために何をすればいいか知りたい」「別の法律的なアドバイスも含めて整理したい」という方は、まず一度ご相談ください。弁護士・社会保険労務士と連携しながら、御社の状況に合った実務的なアドバイスをお伝えします。

よくある質問

Q. うちは取締役が自分1人だけです。取締役会設置会社になるのでしょうか?

A. 取締役が1名の場合、取締役会は法律上設置できません(会社法331条5項)。そのため、取締役会非設置会社となり、代表取締役が単独で懲戒解雇を決定できます。ただし、念のため定款と登記事項証明書で「取締役会設置会社」の記載がないことを確認してください。

Q. 取締役会決議なしで懲戒解雇した場合、後から決議を取れば問題は解決しますか?

A. 取締役会設置会社であれば、事後的な追認決議によって内部的な手続き瑕疵を補完できる場合があります。ただし、追認が労働法上の解雇の有効性を保証するものではありません。元従業員との関係では、弁明機会の付与や就業規則の規定の有無といった別の要件が問われます。必ず弁護士に相談のうえ対応を決めてください。

Q. 懲戒解雇すれば退職金を払わなくて済くのでは?

A. 懲戒解雇であっても、就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を不支給とする」旨の規定がなければ、退職金の不支給は認められません。規定があっても、不支給が許容されるのは労働者の重大な背信行為がある場合に限定されることが多く、裁判所は一部支払いを命じるケースもあります。退職金の取り扱いは、必ず就業規則の規定を確認してから判断してください。

Q. 弁明の機会を与えなかった場合、懲戒解雇は必ず無効になりますか?

A. 就業規則に弁明機会の付与が定められている場合、これを省略すると手続き的瑕疵として懲戒解雇が無効とされるリスクが高くなります(フジ興産事件・最高裁平成15年10月10日判決参照)。一方、就業規則に定めがない場合でも、弁明の機会を与えないことが「社会通念上相当」でないと判断される場面はあります。いずれにしても、弁明機会の付与は必ず実施することをお勧めします。

Q. 懲戒解雇ではなく合意退職にした方がリスクは低いですか?

A. 本人が合意した形での退職(合意退職)であれば、解雇無効リスクは原則として生じません。ただし、合意の内容が強迫・詐欺に当たる場合や、十分な説明なしに署名させた場合は、後から合意の効力が争われる可能性があります。また、合意退職は離職票の離職理由コードも異なり、雇用保険の給付に影響します。懲戒解雇と合意退職のどちらが適切かは、個別の事情をもとに専門家と検討することをお勧めします。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

人事だけで抱えない。産業医にスポットで相談
タイトルとURLをコピーしました