社員に任意同行要請|給与・初動対応を3ステップで解説

社員に任意同行要請|給与・初動対応を3ステップで解説 労務管理
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朝、出勤してきた社員を警察官が「少し話を聞かせてほしい」と連れていった——。そんな場面に突然直面したとき、会社として何をすべきか、その日の給与はどう処理すべきか、即座に判断できる経営者はほとんどいません。専任人事がいない中小企業では特に、「何から手をつければいいか分からない」という状態が続きやすく、初動の遅れがその後の労務トラブルにつながることもあります。この記事では、社員が任意同行を求められた際に会社が取るべき対応を、法的な整理から実務の手順まで順を追って解説します。

「任意同行」と「逮捕」は何が違うのか

任意同行と逮捕の最大の違いは「強制力の有無」です。任意同行は本人の同意を前提とした任意捜査であり、本人は断ることができます。一方、逮捕は令状(または現行犯)に基づく強制捜査であり、本人の意思に関わらず身柄が拘束されます。

法的な根拠の違い

任意同行の根拠は刑事訴訟法第198条の「任意捜査の原則」です。警察は原則として、強制力を使わずに事件の真相を調べることが求められており、任意同行はその一環として行われます。これに対して逮捕は刑事訴訟法第199条以降に規定された強制捜査であり、裁判官が発付した逮捕状が必要です(現行犯逮捕を除く)。

重要なのは、任意同行はあくまで「お願い」であり、本人は拒否することも、途中で帰ることも法律上は可能という点です。ただし実際には「断りにくい雰囲気」の中で行われることが多く、本人が自由意思で応じているように見えても、実質的には断れなかったケースもあります。

会社への通知義務はない

任意同行でも逮捕でも、警察が会社に連絡する義務はありません。「社員が突然いなくなった」「本人から連絡が来ない」という状態から会社が状況を把握しようとするケースは珍しくないのが実態です。

逮捕後は本人に弁護士や家族への連絡を求める権利がありますが、任意同行中は自由に連絡できる状態であることも多く、本人から連絡が来て初めて会社が状況を知る、というケースもあります。

「任意同行=容疑者」ではない

任意同行は参考人として事情を聞かれるケースも少なくありません。事件の目撃者や関係者として呼ばれることもあるため、「任意同行された=犯罪を犯した」と即断するのは誤りです。この点を見落として早期に懲戒処分を検討し始めると、後から事実と異なることが判明した際に会社側の対応が問題となりかねません。

その日の給与は発生するのか

任意同行中の時間は、原則として労働時間に該当しないため、その時間帯の給与は発生しません。ただし、前後に実際に働いた時間がある場合はその分の賃金は支払う必要があります。

「労働時間」の法的な定義

労働基準法第32条が定める労働時間の考え方は、最高裁判所の判決(三菱重工業長崎造船所事件・1994年)によって明確にされています。労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。

任意同行中、社員は警察署にいて会社の業務を行っておらず、会社の指揮命令下にはありません。そのため、任意同行中の時間は労働時間として扱う必要はないというのが法的な整理です。

現実的な給与処理の選択肢

実務上は、以下の方法から会社の状況に応じて選択することになります。

処理方法 適用できるケース 注意点
欠勤(無給)扱い 就業規則に欠勤規定がある場合 ノーワーク・ノーペイの原則に基づく。規定に従った運用が必要
有給休暇 本人から有給申請があった場合 会社側から強制することはできない
就業規則の特別規定に従う 「逮捕・任意同行に関する規定」がある場合 規定通りに処理し、記録を残す

就業規則に規定がない場合の対処

専任人事のいない中小企業では、就業規則に「任意同行」や「逮捕」に関する規定がないケースが大半です。この場合、恣意的な処理(「なんとなく有給にした」「特に記録しなかった」)は後日の労働トラブルの温床になります。

処理方針を決めたら、「いつ・どのような判断をしたか・その根拠は何か」を文書で記録しておくことが重要です。これは後から本人や外部から処理の妥当性を問われた際の根拠になります。

会社が取るべき初動対応

初動対応で最も大切なのは「推測で動かないこと」と「記録を残すこと」の二点です。まず事実確認を行い、確認できた情報だけをもとに対応を進めてください。

事実確認と記録の開始

まず最初に行うべきは、「何が起きているのか」を確認し、分かった情報を時系列で記録することです。誰から・何時・どのような形で任意同行の事実を把握したかをメモしておきます。憶測や周囲からの又聞きをそのまま記録せず、確認が取れた事実のみを記載するよう心がけてください。

この記録は、後日に本人から異議が出た場合や、労働トラブルに発展した際の証拠になります。メールや社内チャットの履歴も保存しておきましょう。

本人への接触は控える

任意同行中は、本人が警察署にいる可能性が高く、会社から直接連絡を取るのは適切ではありません。次に行うべきは、本人または本人の家族・弁護士からの連絡を待つことです。会社から何度もメッセージを送ったり、警察署に問い合わせたりすることは避けてください。

本人が帰社した場合は、状況を確認する機会を設けてかまいませんが、尋問のような形にならないよう配慮が必要です。「任意同行の理由を話してほしい」と強要することは、プライバシーの観点からも問題になりえます。

職場内の情報管理と業務の引き継ぎ

周囲の社員が「何があったのか」を知りたがるのは自然なことですが、会社として開示できる情報は限られます。他の社員への説明は「本人が急用で離席中」「詳細は本人のプライバシーに関わるため話せない」程度に留めておくのが適切です。

一方で、業務上の引き継ぎは早急に確認が必要です。当日の商談対応・締め切り業務・顧客への連絡など、社員が担っていた業務の状況を把握し、必要に応じて他のメンバーに振り分けてください。

逮捕に切り替わった・長時間に及んだ場合の対応

任意同行が逮捕に切り替わった場合や、長時間にわたって社員が不在となった場合は、就業規則の懲戒規定を確認し、必要に応じて専門家への相談を行うタイミングです。この段階では、会社一人で判断しようとせず、社労士または弁護士に相談することを強く推奨します。

就業規則の「懲戒処分」規定を確認する

逮捕・起訴された社員に対して懲戒処分(出勤停止・降格・解雇など)を検討する際は、就業規則の懲戒事由に明記されているかどうかを必ず確認してください。就業規則に根拠のない懲戒処分は、不当解雇・不当処分として訴訟リスクが生じます。

  • 就業規則に「逮捕・起訴された場合の処分規定」がある → その規定に従って進める
  • 就業規則に規定がない → 独断で処分せず、社労士・弁護士に相談してから判断する
  • 従業員10人以上の会社は就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条)があるが、規定が不十分なケースも多い

社労士・弁護士のどちらに相談すべきか

「これは社労士案件か、弁護士案件か」という判断自体が難しいと感じる方は多いですが、大まかな目安は次の通りです。

社労士への相談が適している場面:給与処理・就業規則の解釈・欠勤扱いの妥当性・懲戒処分手続きの確認など、労務管理の範囲内の判断が中心の場合。

弁護士への相談が適している場面:解雇の検討・訴訟リスクの評価・本人から損害賠償請求が来ている場合・刑事事件の内容が業務と関連している場合など、法的判断が必要な場面。

迷ったときはまず社労士に状況を説明し、弁護士への相談が必要かどうかの判断を仰ぐのも一つの方法です。

本人が戻ってきたときの対応

任意同行で終わり、本人が帰社してきた場合は、必要以上に事情を詮索しないことが基本です。業務への復帰は通常通り対応し、給与処理については上記の方針に従って対応します。

ただし、任意同行の理由が業務に関連している(横領・情報漏洩など)場合は、社内調査が必要になることもあります。その場合も、感情的に対応せず、事実確認のプロセスを踏んで判断することが重要です。

今後のリスクを減らすために整備しておきたいこと

こうした事態への対応力は、日頃の就業規則の整備と専門家との連携によって大きく変わります。突然の事態が起きてから慌てて対応するよりも、事前に準備しておくことがリスク軽減につながります。

就業規則に「逮捕・任意同行に関する規定」を盛り込む

就業規則に以下のような規定を設けておくと、いざというときの処理根拠が明確になります。

  • 逮捕・勾留された場合の欠勤扱いの規定
  • 起訴・有罪判決となった場合の懲戒事由の明記
  • 任意同行中の時間の取り扱い(無給欠勤または有給休暇の選択など)
  • 業務に直接関連する犯罪行為が疑われる場合の社内調査手続き

従業員10人以上の会社には就業規則の作成・届出が義務付けられていますが(労働基準法第89条)、10人未満の会社も就業規則を整備しておくことで、トラブル時の対応根拠が明確になります。

社労士・弁護士との事前連携を作っておく

専任人事がいない会社では、突然のトラブルに対して「誰に相談すればいいか」が分からないことがそれ自体のリスクになります。平時から顧問社労士・弁護士との関係を持っておくことで、緊急時の初動が速くなります。

すでに顧問契約がある場合は、担当者の緊急連絡先を確認しておくだけでも対応速度が変わります。

突発的な人事対応では、判断を先送りにしたり独断で進めたりすることが、後々のトラブルの原因になります。不安な点や判断に迷う場合は、早期に専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

社員が任意同行を求められた場合、会社が押さえるべきポイントは大きく三つです。まず、任意同行と逮捕の違いを理解し、「任意同行=犯罪者」と即断しないこと。次に、任意同行中の時間は原則として労働時間に該当しないため給与は発生しませんが、処理方針を記録に残すこと。そして、推測で動かず事実確認を優先しながら、必要に応じて社労士・弁護士に相談することです。就業規則に規定がない場合や、逮捕・長期欠勤に発展した場合は特に、専門家への相談が不可欠です。

ウェルセンス株式会社では、専任人事がいない中小企業を対象に、このような突発的な人事労務対応から、就業規則の整備・メンタルヘルス対応まで幅広くサポートしています。「自社の状況で何をすべきか分からない」という段階からでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

よくある質問

Q. 社員が任意同行された日、タイムカードはどう処理すればいいですか?

A. 任意同行中の時間は労働時間に該当しないため、その時間帯は欠勤(無給)として処理するのが原則です。ただし、任意同行の前後に実際に勤務した時間がある場合は、その分の賃金は発生します。本人から有給休暇の申請があれば有給対応も可能ですが、会社側から強制することはできません。いずれの場合も、処理の根拠と判断内容を文書で記録しておいてください。

Q. 任意同行が逮捕に切り替わった場合、すぐに解雇できますか?

A. 逮捕されただけで即座に解雇することは、不当解雇のリスクが高く、慎重な判断が必要です。解雇を検討するには、就業規則に解雇事由として明記されていること、かつその事由に該当することが必須要件です。起訴・有罪判決の有無、業務との関連性、会社への損害の程度なども考慮要素になります。独断で判断せず、必ず社労士または弁護士に相談してから進めてください。

Q. 任意同行の事実を他の社員に伝えてもいいですか?

A. 原則として、詳細を周囲に開示することは避けるべきです。「本人が急用で離席している」程度の説明に留め、任意同行という事実自体も開示しないのが適切です。個人情報・プライバシーの保護の観点から、不必要な情報共有はトラブルの原因になります。業務上の引き継ぎが必要な場合は、理由を明かさず「不在対応」として処理してください。

Q. 就業規則に任意同行・逮捕に関する規定がありません。どうすればいいですか?

A. 規定がない場合、まずは今回の対応について処理方針と判断根拠を文書で記録しておくことが最優先です。その上で、今後のリスクを防ぐために就業規則への追記を検討してください。「逮捕・勾留時の欠勤扱い」「懲戒事由」「業務関連犯罪への対応手続き」などを明記しておくと、次回以降の対応根拠が整います。就業規則の見直しは社労士に依頼するのが確実です。

Q. 任意同行から帰社した社員に、理由を聞いてもいいですか?

A. 業務に関連する可能性がある場合は、状況確認のために穏やかに話し合いの場を設けることは可能です。ただし、強要や尋問のような形での聴取は避けてください。本人が「話したくない」という意向を示した場合は、プライバシーを尊重し、無理に聴取しないことが重要です。業務関連の可能性が高く事実確認が必要な場合は、弁護士・社労士に手続きの進め方を相談してから対応するのが安全です。

【監修】ウェルセンス株式会社
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