「診断書が届いた。でも、次に何をすればいいのかわからない——」そんな状況に直面した経営者・人事担当者は少なくありません。精神疾患の診断書は、受け取った瞬間から会社の対応が問われます。放置すれば安全配慮義務違反、対応を誤れば後々のトラブルに発展するリスクも。この記事では、診断書受領から休職発令・就業制限・医療情報管理・復職条件の整理まで、専任人事がいない会社でも迷わず動ける実務フローをわかりやすく解説します。
診断書を受け取ったら、会社の「安全配慮義務」が始まる
安全配慮義務とは何か
労働契約法第5条は、使用者(会社)が「労働者の生命・身体・精神の健康を損なわないよう必要な配慮をする義務」を負うと定めています。これを安全配慮義務といいます。重要なのは、診断書を受け取った時点で会社は「従業員の状態を知っている」とみなされることです。
つまり、「診断書は受け取ったが、特に何もしていない」という状態が続くと、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクが生じます。「とりあえず様子を見よう」は、法的に見ると非常に危険な判断です。
診断書受領後に最初に確認すべきこと
診断書を受け取ったら、まず次の3点を確認してください。
1. 診断書の内容の確認
病名・就業制限の指示・休養期間を正確に読み取ります。「うつ病のため4週間の休養を要する」「残業禁止・業務軽減が必要」など、医師の指示が具体的に書かれているケースと、病名と休養期間だけのケースがあります。
2. 就業規則の休職規定の確認
休職制度は法律で定められた制度ではなく、就業規則に定めがあって初めて運用できます。規定がなければ、口頭での取り決めがトラブルの温床になります。
3. 対応の担当者を決める
専任人事がいない会社では、「誰がやるのか」が曖昧になりがちです。経営者・総務担当・直属上司の誰が窓口になるかを即座に決めましょう。
就業制限の指示をどこまで実施すべきか
診断書に書かれた就業制限の読み方
診断書には「残業禁止」「軽作業のみ」「在宅勤務推奨」など、就業制限の指示が記載されることがあります。これらの指示は、会社にとって法的拘束力があるわけではありませんが、合理的な理由なく無視すれば安全配慮義務違反に直結します。
たとえば「残業禁止」の指示を受けながら、恒常的に1日2〜3時間の残業をさせ続けた結果、症状が悪化して休職期間が長期化したケースでは、会社側に損害賠償責任が認められた裁判例も存在します。「忙しいから例外」は通用しないと理解してください。
「やりすぎ」も「やらなすぎ」も避けるための判断基準
就業制限の対応で悩ましいのは、「どこまで配慮すれば十分か」という基準が曖昧なことです。対応が手厚すぎても、本人の回復を妨げたり、他の従業員との不公平感を生むことがあります。
実務的には、診断書の内容を受けて、まず直属上司と経営者で「現在の業務内容のうち、何を外し・何を継続するか」を具体的にリスト化することが有効です。たとえば「顧客対応は外す、社内書類整理は継続、残業は一切なし」という形で文書化し、本人にも書面で伝えておくことがポイントです。
50名以上の企業では産業医への相談が義務ですが、50名未満でも地域の産業保健総合支援センター(産業保健センター)に無料で相談できます。専門家の意見を仰ぐことで、判断の根拠を持つことができます。
医療情報の管理と共有範囲のルール
病名は「要配慮個人情報」にあたる
個人情報保護法第2条第3項により、病名・診断内容・治療状況などの医療情報は「要配慮個人情報」として、通常の個人情報より厳格な管理が求められます。本人の同意なく第三者に開示することは、原則として禁止されています。
「上司に伝えなければ業務調整ができない」という現場の声は正当ですが、だからといって無断で共有すれば法的リスクが生じます。「誰に・何を・どこまで」伝えるかを本人に確認し、同意を得たうえで共有するというプロセスが不可欠です。
社内での情報共有ルールの作り方
診断書を受け取った際は、以下の流れで情報共有のルールを作ることを推奨します。
ステップ1:本人との面談
本人との面談を通じて「職場に伝えてよい内容の範囲」を確認します。たとえば「病名は伏せて、体調不良で休職することだけ伝えてほしい」という希望があれば、それを尊重します。
ステップ2:情報の共有範囲を限定
知る必要のある人(直属上司・業務引き継ぎ担当など)に限定し、「うつ病で休職中」といった情報が職場全体に広まらないよう管理します。
ステップ3:文書の厳格な保管
診断書の原本や写しは、施錠できるキャビネットやアクセス制限付きのフォルダで保管し、担当者以外が閲覧できない体制を整えましょう。
休職発令の手続きと給与・傷病手当金の案内
休職発令に必要な書類と手順
診断書の内容をもとに休職が必要と判断したら、休職命令書(または休職通知書)を会社から交付します。口頭だけで「じゃあ休んでください」と伝えるだけでは不十分です。書面で発令することで、休職開始日・休職期間・復職の条件・満了時の扱い(退職等)が明確になり、後のトラブルを防げます。
休職期間の目安は就業規則の規定によりますが、勤続年数に応じて設定している企業が多く、たとえば「勤続3年未満は3か月、3年以上は6か月」といった形が一般的です。規定がない場合は、この機会に整備することを強くおすすめします。
傷病手当金の案内は会社の義務ではないが、必ず伝えるべき理由
私傷病(業務外の病気やけが)による休職中は、原則として給与は発生しません(無給)。ただし、健康保険から傷病手当金が支給されます。支給額は標準報酬日額の3分の2、最長1年6か月が支給上限です。たとえば月給30万円の従業員であれば、おおよそ月20万円程度が支給される計算になります。
傷病手当金の申請サポートは会社の法的義務ではありませんが、案内しなかったことで「知らなかった。会社が教えてくれなかった」とトラブルになるケースが実際に起きています。休職が決まった時点で、申請方法を書面で案内することが現実的なリスク管理です。また、休職中も社会保険料(健康保険・厚生年金)の本人負担分は発生するため、毎月の支払い方法(会社に振り込む・給与がある月に控除する等)についても事前に取り決めておきましょう。
復職条件の整理と主治医・産業医との連携
復職判断は「三者合意」が基本
復職の可否は、主治医の意見・産業医の判断・会社の受け入れ体制の三つが揃って初めて成立します。主治医が「復職可」と判断しても、それだけで復職を認めることは実務上リスクがあります。主治医は職場環境の詳細を知らずに診断書を書くケースが多く、「軽作業なら可」「時短勤務で復帰可」と書かれていても、実際の職場でその条件が満たせるかどうかは別問題です。
産業医がいる場合は、復職前に面談を実施し、就労可否と配慮事項を確認します。産業医がいない場合でも、主治医に「職場情報提供書」を渡し、実際の業務内容・勤務形態・職場環境を伝えたうえで診断書を書いてもらうと、より実態に即した判断が得られます。
復職条件を書面で明確にしておく
復職時には、口頭ではなく復職条件を記載した書面(復職合意書・就業条件変更通知書など)を作成し、会社と本人の双方が署名・押印する形を取ることを推奨します。記載すべき内容は、復職日・勤務形態(フルタイムか時短か)・業務内容の制限・残業の可否・試し出勤の有無・次回の状態確認時期などです。
復職後に再び症状が悪化するケースも少なくありません。「復職後3か月は1か月ごとに面談を行う」など、フォローアップの仕組みを書面に落とし込んでおくことが、長期的な定着に繋がります。
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就業規則の休職規定が整備されていない場合のリスク
規定がないと「口約束」が全てになる
常時10名以上の事業場には、就業規則の作成・届出が労働基準法第89条で義務付けられています。休職制度は法定事項ではありませんが、就業規則に定めがなければ、休職の取り扱いはすべて個別交渉・口頭での約束に依存することになります。これが後々「言った・言わない」のトラブルを生む最大の原因です。
「休職中も給料を出し続けた」「休職期間の上限を設けていなかったため、2年以上休職が続いている」「復職の条件を明確にしていなかったため、本人が『もう復職できる』と言い張った」——これらはすべて規定の未整備から生じた実例です。
今すぐ確認・整備すべき休職規定の5項目
休職規定には最低限、次の5つを盛り込む必要があります。
- 休職事由:私傷病・業務外の傷病の定義
- 休職期間の上限:勤続年数別に設定することが多い
- 休職中の賃金の扱い:無給・有給・一部支給など
- 復職の条件と手続き:誰がどう判断するか
- 休職期間満了時の扱い:自然退職・解雇予告など
これらが明記されていない場合、今すぐ見直しに着手することをおすすめします。診断書が届いてからでは、対応しながら規定を整備するという二重の負荷がかかります。
まとめ
従業員から精神疾患の診断書が届いたとき、会社に求められる対応は「休ませる」だけではありません。安全配慮義務に基づく就業制限の実施、要配慮個人情報としての医療情報の適切な管理、休職発令の書面化、傷病手当金の案内、そして復職条件の三者合意——これらを漏れなく、かつ正しい順序で進めることが、会社と従業員双方を守ることにつながります。
しかし、専任人事がいない環境でこれらをすべて自社だけで対応するのは、正直なところ簡単ではありません。「診断書を受け取ったがどう動けばいいかわからない」「就業規則の休職規定が整備できていない」「医療情報の管理ルールを作りたい」——そうしたお悩みを抱えていましたら、ウェルセンス株式会社にお気軽にご相談ください。診断書受領から復職復帰まで、専門家が貴社の状況に合わせた実務サポートをご提供します。
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