「産業医との面談が終わったけど、記録ってどう管理すればいいんだろう?」——専任人事のいない会社では、こうした疑問を誰にも聞けないまま、とりあえず紙でファイリングしているだけ、というケースが少なくありません。しかし産業医面談記録の管理には法的な義務や守秘義務のルールが絡んでおり、知らずに放置しておくと思わぬトラブルにつながることがあります。この記事では、保管義務・管理主体・共有範囲・セキュリティ対策まで、実務に即してわかりやすく解説します。
産業医面談の記録、そもそも保管義務はある?
法律が定める保存期間の基本
結論からお伝えすると、産業医面談に関連する記録の多くには、法律上の保管義務があります。根拠となるのは労働安全衛生法です。たとえば長時間労働者への面接指導記録は同法第66条の8および施行規則第52条の6に基づき5年間の保存が義務づけられています。ストレスチェックの結果と面接指導記録も同様に、同法第66条の10・施行規則第52条の21により5年間の保存が必要です。健康診断の個人票も5年間(じん肺に関するものは最大40年)の保存義務があります。
「5年」がひとつの基準ですが、注意したいのは休職・復職に関する産業医意見書です。これらは法令上の明示的な保存期間が定められていない場合もありますが、実務上は5年以上の保管が推奨されています。
退職後の保管も忘れずに
保存義務は在職中だけではありません。民法の消滅時効(原則5年)を考慮すると、退職後も5年間は記録を保持しておくことが安全策とされています。つまり「在職中+退職後5年」が実務上の目安です。退職した従業員から数年後に労働トラブルが生じるケースもあるため、「退職したから捨てていい」とはなりません。管理ルールを整備するときは、退職者の記録の扱いも必ずセットで決めておきましょう。
記録は会社が持つべき?産業医が持つべき?
法令上の「保存義務者」は会社
産業医面談記録が「産業医が管理するもの」と思い込んでいる経営者・人事担当者は多いのですが、法令上の整理は異なります。労働安全衛生法において、健康診断や面接指導の記録を保存する義務を負うのは事業者(会社)です。産業医は会社に対して意見や判断を提供する立場にあり、記録の最終的な管理責任は会社側にあるのです。
産業医に「記録はこちらで管理します」と言われてそのままにしている場合、会社側の保管義務を果たせていない可能性があります。産業医が作成した意見書や面接指導記録については、必ず会社側にも写しを保管する体制を整えてください。
産業医が交代するときのリスク
専任産業医のいない中小企業では、産業医が変わるタイミングで記録の引き継ぎルールが決まっていないと、情報が散逸するリスクがあります。たとえばある社員のメンタルヘルス不調について、前任の産業医しか詳細を把握していないという状況は、復職支援の連続性を損なうだけでなく、万一訴訟になった際に証拠となる記録が手元にないという深刻な事態にもつながります。産業医との契約書や業務委託仕様書に、記録の引き継ぎ手続きを明記しておくことを強くお勧めします。
上司や経営者に、どこまで面談内容を共有できる?
守秘義務の根拠を理解する
産業医は医師として刑法第134条(秘密漏示罪)の守秘義務を負っています。また、健康情報は個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当するため、本人の同意なく第三者へ提供することは原則として禁じられています。「上司だから教えてもいいだろう」という感覚的な判断は、法的なリスクを伴います。
共有できる情報・できない情報の線引き
厚生労働省の指針に基づくと、職場内での情報共有は以下のように整理できます。
共有できる情報としては、就業上の措置(就業制限・労働時間短縮など)の必要性、業務上の配慮が必要な事項の具体的内容(例:残業禁止・出張制限・フレックス対応など)、復職の可否に関する判断などが挙げられます。
原則として共有できない情報には、診断名・病名(本人同意がない限り)、面談での本人の発言内容や詳細な症状、プライベートな背景や家族状況などが含まれます。
上司や経営者への報告は「この社員には現時点で残業免除の配慮が必要です」という業務遂行に必要な就業配慮事項の伝達に留めるのが原則です。「うつ病と診断された」「家庭環境に問題がある」といった情報を共有することは、たとえ善意であっても守秘義務違反となり得ます。
共有するときは本人への説明と同意を
やむを得ず就業配慮の内容を関係者と共有する場合は、事前に本人へ「上司にこういった配慮事項を伝えます」と説明し、可能であれば同意を取得することが理想です。本人が「知られたくない」と強く希望している場合は、産業医や人事が個別に対応方針を調整する形をとる必要があります。こうしたプロセスを丁寧に踏むことが、後のトラブル防止につながります。
紙・デジタル、どちらで管理すべき?セキュリティの実務ルール
紙管理の場合の最低限のルール
紙で保管する場合、「人事担当者のデスクの引き出しに入れているだけ」という状態は非常にリスクが高いです。健康情報を含む書類は鍵のかかるキャビネットに保管し、アクセスできる人物(人事担当者と経営者のみなど)を明確に定めてください。「誰でも開けられる状態」は、情報漏えいリスクだけでなく、個人情報保護法上の安全管理措置義務(同法第23条)に違反する可能性があります。
デジタル管理の場合に押さえるポイント
クラウドツールで管理する場合は、ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得しているサービスを選ぶことを推奨します。ファイルやフォルダへのアクセス権限は最小限の担当者に絞り、パスワードは定期的に変更する運用を設けましょう。また、誰がいつファイルを開いたか確認できる閲覧ログ機能があるツールを活用すると、情報管理の証跡が残り、内部統制上も有効です。
特に注意したいのは、健康情報を人事評価データと混在させないことです。個人情報保護委員会のガイドラインでも、健康情報と人事評価に関するデータは分離して管理することが推奨されています。同じフォルダに入れているだけでも、目的外利用のリスクが生じる場合があります。
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本人から「面談記録を見せてほしい」と言われたらどうする?
個人情報保護法上の「開示請求」への対応
従業員本人から「自分の面談記録を確認したい」と言われるケースがあります。個人情報保護法では、本人は自己の個人情報について開示を請求できる権利(同法第33条)を持っています。会社が保有している健康情報も、原則としてこの対象に含まれます。
ただし、開示の方法や範囲については一定のルールがあります。まず社内の個人情報取扱規程や情報管理規程に、開示請求への対応手続きを定めておくことが前提です。請求があった場合は、どの情報を開示できるか・できないかを整理し、対応窓口(通常は人事担当者)が適切に回答します。産業医が作成した意見書のうち、会社が保管しているものについては本人への開示対象となりますが、産業医自身が保持する診療記録の扱いは産業医との間で別途確認が必要です。
開示請求を想定した記録の整備を
開示請求への対応を円滑にするためにも、記録は「いつ・誰が・どのような内容で面談を行い・どのような意見が出たか」が明確にわかる形式で整理しておくことが重要です。記録が整備されていれば、本人への開示対応もスムーズになりますし、万一のトラブル時にも証拠として機能します。「記録をきちんと残すこと」は、従業員を守るためでもあり、会社を守るためでもあります。
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まとめ
産業医面談記録の管理は、「とりあえず保管しておけばいい」というものではありません。法令上の保存義務(原則5年)を満たすこと、保管主体は会社であること、共有できる情報の範囲を守秘義務に照らして判断すること、デジタル・紙いずれの場合もアクセス権限を絞ったセキュリティ体制を整えること——これらを体系的に整備しておくことが、従業員との信頼関係を守り、労務リスクを低減する基盤になります。
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よくある質問
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