メンタル不調かもと感じたら会社から切り出す面談の言葉

メンタル不調かもと感じたら会社から切り出す面談の言葉 メンタルヘルス対応
Photo by RDNE Stock project on Pexels

「最近、あの社員の様子がおかしい。でも、何と声をかければいいのかわからない」——中小企業の経営者や人事担当者から、こうした声をよく耳にします。確証がないまま踏み込むのが怖い、プライバシーに触れてハラスメントと言われたら困る、でも放置していていいのかとも思う。その迷いの間に、状況は静かに悪化していきます。この記事では、メンタル不調が疑われる従業員に会社側から安全に声をかけるための言葉の選び方と、面談の進め方を具体的にお伝えします。

「声をかけること」はリスクではなく義務である

会社側からメンタルの話題を切り出すことは、ハラスメントではありません。むしろ、気づいているのに何もしないことが法的リスクになります。

安全配慮義務とは何か

労働契約法第5条は、使用者が「労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をしなければならない」と定めています。これを安全配慮義務といいます。メンタルヘルスも「身体等の安全」に含まれると解釈されており、異変のサインを把握していながら放置した場合、後の訴訟・損害賠償において使用者の責任が問われた判例は複数存在します。声をかけることではなく、気づいて何もしないことがリスクなのです。

「予見可能性」という裁判所の判断基準

メンタル不調に関連した安全配慮義務違反の裁判例では、「会社がその不調を予見できたかどうか」が重要な判断軸になります。欠勤が続いていた、ミスが増えていた、面談の記録があった——こうした事実は、会社が誠実に対応しようとしていた証拠として機能します。逆にいえば、異変を把握していたにもかかわらず何も記録も対話もしていなかった場合、「予見できたのに放置した」と判断されるリスクが高まります。声をかけて記録を残すこと自体が、会社を守る行為でもあります。

ハラスメントになる行為・ならない行為の境界線

「メンタルのことを聞く=プライバシー侵害」という誤解は非常に多いです。確かに、診断名・治療内容・通院歴などは個人情報保護法第2条第3項が定める「要配慮個人情報」にあたり、本人の同意なく収集・利用することは制限されます。しかし「業務上のパフォーマンスや体調の変化について確認する」ことは、使用者として当然行える範囲内です。「最近、体の調子はどうですか」「業務で困っていることはありますか」という問いかけはハラスメントではありません。境界線は、診断を強要したり、病名を詮索したり、回答を強制することにあります。

面談を設定する前の準備

唐突に呼び出すのではなく、観察・記録・名目の整理という三つの準備を整えてから面談に臨むことで、担当者の不安も本人の警戒感も和らぎます。

「変化のサイン」を具体的に記録する

「なんとなく元気がない」という印象だけで面談を設定すると、本人に「なぜ呼ばれたのか」が伝わらず、かえって不安を高めることがあります。面談の前に、気になった出来事を具体的に書き出しておきましょう。たとえば「先月から週に1〜2回、始業後に連絡なく遅刻が発生している」「提出物のミスが明らかに増え、以前は自分で気づいていたが最近は指摘しても反応が薄い」「ランチを一人で取るようになり、挨拶の声が小さくなった」など、日付と具体的な事実として残すことが大切です。この記録は、面談後も含めて保管しておくと、万一の際の対応記録になります。

面談を設定する「名目」の作り方

定期的な1on1が制度化されていない中小企業では、「突然呼び出す理由」が見当たらず、躊躇する担当者が多くいます。しかし名目は「業務の状況確認」で十分です。「最近の業務の進捗を確認したい」「業務負荷や困りごとを聞かせてほしい」という切り出し方は、どの従業員にも違和感なく使えます。特定の人だけに声をかけることへの気まずさがある場合は、「今月は全員と短く話す機会を作ろうと思っている」という形にすると、本人への心理的な負担を減らせます。

場所・時間・同席者の設定

面談の環境は、話しやすさに直結します。他の社員の目が届かない個室や会議室を選び、30分程度の時間を確保してください。上司と一対一が基本ですが、小規模企業では「経営者と二人きり」になることも多く、本人が萎縮しやすい場合があります。その場合は、本人と近い立場の担当者(信頼関係のある先輩社員など)を同席させることも選択肢です。ただし、人事情報の取り扱いには配慮し、同席者の範囲は最小限にとどめてください。

実際に使える面談の言葉と流れ

面談の冒頭でいきなり「体調が悪そうに見える」と伝えるのではなく、まず「話せる場を作ること」を目的として会話を始めるのが基本姿勢です。

最初の声かけ——入り口のフレーズ

面談の場に座ったら、まず「今日は業務のことや、困っていることを少し聞かせてもらいたいと思って」と目的を伝えましょう。その後、業務上の状況(担当業務の進捗、業務量の感覚など)を軽く確認したうえで、次のようなフレーズに自然につなげます。

  • 「最近、少し疲れているように見えることがあって、心配しています。何か困っていることはありますか?」
  • 「体の調子や睡眠など、日常的に気になることはありますか?」
  • 「仕事以外のことも含めて、何か気になっていることがあれば聞かせてもらえると」

大切なのは、「心配している」という事実を伝えることです。詰問口調や「最近ミスが多いが何かあるのか」という業績批判からスタートすると、本人は防御的になり、本音を話せなくなります。

「大丈夫です」と言われたときの次の言葉

メンタル不調を抱えている人の多くは、「大丈夫ではないのに大丈夫と言う」という行動をとります。これは意図的な嘘ではなく、心理的な防衛反応です。一度「大丈夫です」と返ってきたときに「そうですか、よかったです」と終わらせてしまうのが、最も多い失敗パターンです。代わりに次のように返してみてください。

  • 「そう言ってもらえると少し安心しますが、正直しんどくなったときは早めに教えてほしいです。こちらからも定期的に声をかけさせてください」
  • 「何かあれば相談してほしいということは伝えておきたかったので、今日は話す機会を作りました」

一回の面談で「問題の有無を確定させる」必要はありません。面談はゴールではなく、継続的に関与するための入り口です。「また話しましょう」という着地点を作ることが、次の機会につながります。

受診を勧める場面での言葉

本人が「眠れていない」「食欲がない」「気力がわかない」といった具体的な症状を話してくれた場合は、受診を勧めるステップに進みます。「診断を下すこと」は医師の役割ですが、「受診を勧めること」は会社の安全配慮の範囲内であり、厚生労働省のガイドラインでも事業者が取り組むべき対応として明示されています。「一度、内科や心療内科に相談してみることも選択肢の一つです。体のことは専門家に聞いてみるのが一番なので」という形で、命令ではなく「提案」として伝えましょう。

面談後にやるべきこと

面談は終わりではなく始まりです。その後の記録・フォローアップ・社内連携の三点を整えることで、支援の継続性が生まれます。

記録を残す

面談を行ったら、その日のうちに記録を残してください。記録すべき内容は、面談の日時・場所・同席者・本人の発言の概要・会社側の対応(勧奨した内容・次回面談の予定など)です。診断名や医療情報は記録しないでください(要配慮個人情報にあたります)。この記録は、後に問題が発生した際に「会社が誠実に対応しようとしていた」ことを示す根拠になります。

定期的なフォローアップを設計する

一回の面談で状況が改善することは稀です。「また2週間後に少し話しましょう」と本人に伝えておき、短いインターバルで声をかけ続ける仕組みを作ってください。これは制度というより「上司や担当者が習慣として行う」ことが実態上多いです。頻度としては、状況が気になる段階では2週間〜1か月に一度の接点を意識するとよいでしょう。

社内外の連携を確認する

20〜50名規模の企業では、産業医の選任義務(労働安全衛生法第13条:50名以上が義務)がなく、専門職への相談ルートが社内に存在しないケースがほとんどです。下記を参考に、自社の状況に合わせて対応方針を整理しておくことをお勧めします。

社内リソースの状況 推奨する対応
産業医・保健師がいる(50名以上) 産業医への情報共有・面談依頼を検討する
産業医がいない(50名未満) 地域産業保健センター(無料相談)の活用、または外部EAPサービスの導入を検討する
就業規則に休職規定がある 休職移行の条件・手続きを事前に確認しておく
就業規則に休職規定がない 早急に専門家(社労士等)と整備を進める

やってはいけない言葉と行動

善意から出た言葉がかえって状況を悪化させることがあります。面談では次の言動を避けてください。

追い詰める言葉・態度

「みんな同じ環境で働いているのに、なぜあなただけ」「気持ちの問題ではないか」「それくらいで参っていたら社会人として困る」——こうした発言は、たとえ励まそうとした意図であっても、当事者を深く傷つけます。また、パワーハラスメントと認定されるリスクもあります。面談の場では「あなたの状況を理解したい」という姿勢を一貫して保つことが大原則です。

「診断を求める」行為

「病院に行って診断書を持ってきてほしい」と早期に求めることは、本人を追い詰める場合があります。受診を勧めることと、診断書の提出を求めることは別の話です。診断書の取得は、休職手続きなど会社として正式に対応が必要になった段階で、必要な範囲で依頼するものです。初回の面談でこれを求めるのは時期尚早です。

「聞いてしまったこと」を他の社員に話す

本人が話してくれた体調や悩みの内容は、対応に関わる必要最小限の人員だけで共有してください。「あの人、メンタルらしいよ」という形で職場内に広まると、当事者の職場復帰を困難にし、会社への信頼を損ないます。情報管理は、安全配慮と同じく会社の義務です。

まとめ

メンタル不調が疑われる従業員に会社から声をかけることは、ハラスメントではなく安全配慮義務の実践です。「気づいているのに何もしない」ことこそが、法的・人的なリスクを生みます。面談では「業務状況の確認」を入り口に、本人への関心と心配を率直に伝える言葉を選んでください。「大丈夫です」と言われても終わりにせず、定期的に接点を持ち続ける仕組みを作ることが重要です。面談後は記録を残し、就業規則や社外リソースの整備状況も確認しておきましょう。

ウェルセンス株式会社では、20〜50名規模の企業を対象に、メンタルヘルス対応・休職復職支援・人事労務の課題に関するご相談を承っています。「何から手をつけていいかわからない」という段階からでもお気軽にご連絡ください。専任人事がいない環境でも実践できる対応方法を、一緒に整理します。

よくある質問

Q. メンタルのことを会社から聞くのはプライバシーの侵害にあたりませんか?

A. 診断名・治療内容・通院歴などの医療情報は「要配慮個人情報」(個人情報保護法第2条第3項)にあたり、本人の同意なく収集することは制限されます。ただし「業務上の状況や体調の変化を確認する」行為は、安全配慮義務(労働契約法第5条)に基づく使用者の当然の行為であり、侵害にはあたりません。聞いてはいけないのは診断や治療の詳細であり、「最近つらそうに見える、困っていることはないか」という問いかけは問題ありません。

Q. 本人が「大丈夫」と言い張った場合、それ以上踏み込んでいいのですか?

A. 一回「大丈夫」と言われても、それで対応を終わりにする必要はありません。メンタル不調の当事者が「大丈夫ではないのに大丈夫と答える」のは非常に多いパターンです。「そう言ってもらえると安心しました。ただ、また気になることがあれば声をかけますね」と伝えて、定期的に接点を持ち続けてください。一回の面談で問題を解決しようとせず、継続的な関与の入り口として位置づけることが実務上の正しい設計です。

Q. 産業医がいない30名規模の会社ですが、誰が面談を担当すればいいですか?

A. 産業医の選任義務は50名以上の事業場に生じます(労働安全衛生法第13条)。50名未満の企業では、経営者・人事担当者・直属の上司が対応を担うケースが一般的です。複数名での対応が難しい場合でも、少なくとも「記録する人」と「面談する人」を分けると情報管理がしやすくなります。外部相談窓口としては、各都道府県の地域産業保健センター(無料)の活用や、外部EAPサービスの導入が選択肢になります。

Q. 面談の記録はどこまで残せばいいですか?何年保管すればいいですか?

A. 記録する内容は、面談の日時・場所・同席者・本人が話した内容の概要・会社の対応(勧奨した内容・次回予定など)です。診断名や治療の詳細は記録しないでください。保管期間について労働安全衛生法上の明確な規定はありませんが、労働基準法では労働者の名簿・賃金台帳等の保存期間は3年とされており、それに準じて3〜5年の保管を目安にする企業が多いです。社労士や顧問弁護士に確認しながら自社ルールを決めることをお勧めします。

Q. 面談をしたのに状況が悪化し、休職が必要になりそうです。次に何をすべきですか?

A. まず、就業規則に休職規定があるかを確認してください。規定がある場合は、休職の要件・期間・復職条件を本人に説明し、必要に応じて医師の意見書(診断書)の取得を依頼します。規定がない場合は早急に整備が必要です。休職中の給与・社会保険料の扱い・傷病手当金の案内なども会社として説明する義務があります。この段階では社労士や外部の専門家との連携が不可欠です。ウェルセンス株式会社でも休職・復職対応の支援を行っていますので、お気軽にご相談ください。

不調者対応を、人事だけで抱えない。精神科・心療内科の産業医が初動からサポート | ウェルセンス

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

不調者対応を、人事だけで抱えない。

メンタル不調者面談や休職・復職対応を、1件からスポットでご相談いただけます。

詳しく見る →

タイトルとURLをコピーしました