復職時の拠点異動、会社に受け入れ義務はある?

復職時の拠点異動、会社に受け入れ義務はある? 休職・復職対応
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「本人から『復職は別の支店でお願いしたい』と言われた。受け入れなければいけないのか、断ってもいいのか……」——対応の正解がわからないまま、判断を先送りにしていませんか。拠点異動を伴う復職は、受け入れ義務の有無から、断り方、安全配慮義務の引き継ぎまで、複数の論点が絡み合います。この記事では、法的な根拠を軸に、専任人事がいない会社でも実践できる判断基準と手順を整理します。

拠点異動を伴う復職に「受け入れ義務」はあるのか

結論から言えば、本人が別拠点への復職を希望しても、会社にその受け入れを義務づける法律は原則として存在しません。ただし、拒否の仕方によっては安全配慮義務違反やハラスメントのリスクが生じるため、「義務はないから断ればよい」と単純に割り切れない場面もあります。

復職先は「元の職場」が原則

厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職先は原則として休職前の職場・職務とすることを基本としています。本人の希望があったとしても、会社が別拠点での受け入れを義務として負うわけではありません。復職支援の制度設計上も、まず元の職場への復帰可否を検討することが出発点です。

「義務はない」が「理由なき拒否はリスク」

受け入れ義務がないことと、どんな理由でも拒否していいこととは別の話です。たとえば「元の上司との関係がトラブルの一因だった」「通院先が元拠点周辺にはない」など、本人の症状回復や安全配慮に直結する事情がある場合に、合理的な検討なく拒否し続けると、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)と判断されるリスクがあります。拒否するならば、その根拠を整理しておくことが不可欠です。

障害者雇用における「合理的配慮」との関係

本人が障害者手帳を持っている場合や、精神疾患・発達障害が背景にある場合、「合理的配慮義務(障害者雇用促進法第36条の3・第36条の4)があるから拠点異動も受け入れなければならない」と誤解されがちです。しかし、拠点異動そのものは合理的配慮の典型例ではなく、あくまで会社が検討すべき選択肢のひとつです。また、配慮を行うことで事業主に「過重な負担」が生じる場合は、提供義務の対象外となります。「障害者手帳があるから即座に受け入れ義務がある」とはなりません。

拠点異動を断る際の判断基準と手順

受け入れが難しいと判断した場合、感情的な対応や口頭だけのやり取りは後のトラブルを招きます。医師の意見を根拠に、記録を残しながら丁寧に対応することが基本です

断る前に確認すべきこと

まず、主治医または産業医の意見を確認します。「新拠点への異動が回復に資するか」「元拠点復帰が症状上の妨げとなるか」を医学的見地から判断してもらうことが、会社の判断の根拠になります。次に、新拠点の受け入れ体制を具体的に確認します。上司の理解度、業務量、通院環境、フォロー体制が整っていない場合は、受け入れること自体が本人にとっても不利益になりえます。

判断に迷ったら、外部の産業保健専門家に相談することも有効です。医学的側面と職場環境の両面から意見をもらえるため、会社としての判断がより堅牢になります。

断る際に整理すべき「業務上・体制上の理由」

拒否の根拠として整理しておきたい主な観点は以下のとおりです。

観点 確認内容の例
医学的根拠 主治医・産業医が元拠点復帰を推奨しているか
体制上の問題 新拠点に受け入れ可能な上司・業務量・フォロー体制があるか
業務上の必要性 本人のスキル・職種が新拠点で活用できるか
過重な負担 受け入れにより新拠点の業務運営に支障が生じるか

これらを文書で整理したうえで、本人との面談を設定します。口頭だけで終わらせず、「いつ・何を・どのような理由で伝えたか」を面談記録として残してください。

断った後に代替措置を提示する

拒否するだけで終わると、本人との関係が悪化しやすく、後に「不当な扱いを受けた」という主張の材料になりかねません。元拠点での短時間勤務、テレワーク併用、業務内容の一時的な調整など、代替となる配慮を具体的に提示することが重要です。「受け入れられない理由」と「代わりにできること」をセットで伝えるのが基本です。

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拠点異動を認めた場合の安全配慮義務の引き継ぎ

異動を認めた場合、安全配慮義務(労働契約法第5条)は会社全体が負い続けます。新拠点の上司が「何も知らなかった」では、義務を果たしたことにはなりません。情報の引き継ぎを確実に行うことが不可欠です。

引き継ぎに必要な情報と本人同意の取り方

新拠点に引き継ぐべき情報としては、主治医の意見書、産業医の就業意見書、本人との配慮事項の合意内容、復職支援プランが挙げられます。ただし、医療情報は個人の機微情報であり、本人の同意なく第三者(新拠点の上司等)に開示するとプライバシー侵害のリスクがあります。「誰に・何を・どこまで共有するか」を本人と事前に確認し、合意した内容を書面で残してください。

「知らなかった」では免責されない理由

安全配慮義務は、本人の同意や希望とは独立して会社に課される義務です。「本人が拠点異動を希望したから認めた。再発しても会社は責任を負わない」という考え方は法的に通りません。「本人が望んだ」という事実は考慮要素のひとつにはなりますが、免責事由にはならないことを押さえておいてください。新拠点で受け入れ体制を整えずに異動を認めた結果、再休職が起きた場合、会社が義務を果たしていないと判断されるリスクがあります。

復職支援プランの作り直しが必要

拠点・職場環境・上司が変われば、元々作成した復職支援プランは実態と乖離します。異動と同時にプランを修正または作り直す手順が必要です。新しい上司との面談を通じて、配慮事項・業務内容・フォローのタイミングを改めて確認し、プランに反映させてください。

会社の規模・体制別の対応ポイント

専任人事や産業医の有無によって、実際に取れる対応は異なります。自社の状況に当てはめて、現実的な対処を考えることが大切です。

産業医がいる場合(従業員50名以上が目安)

従業員50名以上の事業場では産業医の選任が義務づけられています(労働安全衛生法第13条)。産業医がいる場合は、復職判断・拠点異動の可否・就業上の配慮事項について産業医の意見書を取得することが基本です。これが会社の判断の医学的根拠となり、後のトラブル時の記録にもなります。

産業医がいない場合(従業員50名未満が多い)

産業医がいない場合は、主治医の意見書をもとに判断することになります。ただし、主治医は本人の治療を担う立場であり、職場環境に関する情報が限られていることも多いです。可能であれば、外部の産業保健サービス(地域産業保健センターやスポット産業医サービス等)を活用し、職場への影響も考慮した意見を得ることを検討してください。

就業規則に復職・異動のルールがない場合

就業規則に復職手続きや異動の要件が明記されていない場合、判断基準が曖昧になりがちです。今後のためにも、「復職先は原則として元の職場とする」「異動を伴う復職は会社が別途判断する」といった規定を設けることが望ましいです。現在対応中のケースについては、上記の法的根拠(厚生労働省の手引き・労働契約法第5条)をもとに判断を整理してください。

対応を誤りやすい「落とし穴」と回避策

拠点異動を伴う復職では、善意や配慮のつもりが後のリスクになるケースが少なくありません。典型的な落とし穴を確認しておきましょう。

「本人が希望したから受け入れた」は免責にならない

繰り返しになりますが、本人の希望に応じて異動を認めた場合でも、安全配慮義務は消えません。受け入れ拠点の体制(上司の理解・業務量・通院しやすい環境)を事前に確認せずに認めた場合、会社が義務を果たしていないと判断されうる点に注意が必要です。

「断ることへの罪悪感」から準備なく受け入れてしまう

「断ったら差別になるのでは」「感情的になったらどうしよう」という不安から、準備不足のまま異動を認めてしまうケースがあります。しかし、受け入れ体制のない状態での異動は、本人の回復にとっても不利益になりえます。丁寧に対話しながら「今の体制ではまだ受け入れが難しい」という事実を根拠とともに伝えることは、本人への誠実な対応でもあります。

情報引き継ぎを「本人任せ」にしてしまう

「本人が新しい上司に説明するだろう」と思い込み、会社側が何も引き継ぎを行わないケースも見られます。情報共有の範囲を本人と事前に合意したうえで、会社として必要な情報を確実に新拠点に届ける責任は会社側にあります。本人任せにすることは安全配慮義務の観点から問題になりえます。

まとめ

復職時の拠点異動について、会社に受け入れを義務づける法律は原則ありません。ただし、合理的な理由なく拒否し続けたり、準備不足のまま受け入れたりすることは、安全配慮義務違反のリスクにつながります。断る場合は医師の意見・業務上の理由を根拠に記録を残し、代替措置を提示すること。認める場合は本人の同意を得たうえで情報を引き継ぎ、復職支援プランを作り直すことが必要です。「義務はないから断ればいい」でも「希望されたから受け入れればいい」でもなく、根拠と記録に基づいた丁寧な判断が求められます。

判断に迷ったときや対応の全体像を整理したいときは、人事担当者が一人で抱え込まず、専門家に相談することが解決への近道です。ウェルセンス株式会社では、法的判断の整理から本人対応まで、貴社の実情に合わせてサポートします。

よくある質問

Q. 本人が「元の職場に戻ると症状が悪化する」と主張しています。それでも元拠点への復職を命じていいですか?

A. 本人の主張だけで判断するのではなく、主治医または産業医に「元の職場への復帰が症状上の支障になるか」を確認することが先決です。医師が元拠点復帰に問題なしと判断した場合は、元拠点への復職を命じることは可能です。一方、医師が環境要因を指摘している場合は、元拠点での業務内容や配置の調整を検討したうえで判断することが望ましいです。

Q. 拠点異動を断った場合、本人が「差別だ」と主張してきたらどう対応すればいいですか?

A. 拒否の根拠(医師の意見・体制上の理由)と、代替措置の提示内容を文書で整理しておくことが最大の備えです。「感情ではなく事実と根拠に基づいて判断した」という記録があれば、差別との主張に対して客観的に説明できます。面談記録・意見書のコピー・代替措置の提案内容を必ず保存しておいてください。

Q. 新拠点の上司には、本人の病名や休職理由をどこまで伝えていいですか?

A. 病名など医療上の情報は機微な個人情報であり、本人の同意なく開示することはプライバシー侵害のリスクがあります。「誰に・何を・どこまで伝えるか」を本人と事前に確認し、合意した範囲でのみ共有してください。上司への共有は「配慮が必要な業務上の事項」にとどめ、病名の開示は本人の同意を得た場合のみとするのが基本的な考え方です。

Q. 就業規則に復職の手続きが明記されていません。それでも拠点異動を断ることはできますか?

A. 就業規則に規定がない場合でも、厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」や労働契約法第5条(安全配慮義務)を根拠に、合理的な理由があれば拒否は可能です。ただし、規定がないと後々の判断が曖昧になりやすいため、「復職先は原則として元の職場とする」といった規定を就業規則に追加することを今後の課題として検討することをお勧めします。

Q. 拠点異動を認めて復職したものの、新拠点で再び体調を崩しました。会社の責任になりますか?

A. 新拠点の受け入れ体制を事前に確認せず、情報引き継ぎも行わないまま異動を認めた場合、安全配慮義務を果たしていないと判断されるリスクがあります。一方、事前に医師の意見を確認し、体制を整え、復職支援プランを更新したうえで対応していた場合は、義務を果たしたと評価されやすくなります。「本人が希望した」という事実は考慮されますが、それだけでは免責にはなりません。

【監修】ウェルセンス株式会社
ウェルセンスは、メンタル不調者対応・休職復職支援に強い職場メンタルケアサービスです。産業医・保健師・心理士・社労士などの専門家ネットワークが、人事・管理職だけでは判断しづらいケースの初動対応、専門家連携、再発防止まで支援します。

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