「また同じミスをされてしまった。でも強く言ったら再発するかもしれない——」。復職した社員への対応で、こんな板挟みを感じている管理職や兼務人事担当者は少なくありません。指導すればハラスメントになるのでは、放置すれば業務が回らない、そして何かあったとき会社は守られるのか。この記事では、復職後のミス多発場面における業務指導の許容ライン・記録の残し方・安全配慮義務違反にならないための判断基準を、実務に即して整理します。
「指導してはいけない」は誤解。復職者への業務指導が認められる根拠
復職者への通常の業務フィードバックは、安全配慮義務とは矛盾せず、むしろ適正な指導を行うことが会社の責任です。
安全配慮義務は「過保護」を求めていない
労働契約法第5条が定める安全配慮義務は、使用者が「労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務」です。ここでいう「配慮」とは合理的な措置を指しており、業務上の注意喚起や指導を禁じるものではありません。ミスを放置してチームの業務が滞り、本人が孤立する状況こそ、むしろ安全配慮義務の趣旨に反します。
ハラスメントと適正指導の分岐点
問題になるのは、厚生労働省が定めるパワーハラスメントの6類型(身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)に該当する行為です。具体的なミスを事実ベースで伝え、改善策を一緒に考える指導はこれに該当しません。「なんでこんなこともできないのか」という人格否定の発言や、チームの前での公開叱責が問題とされます。
復職可=完全回復ではないことを前提にする
主治医が発行する復職可能の診断書は、「一定の条件下で就労が可能」という意味であり、完全回復を意味しません。主治医はその職場の業務内容や職場環境を直接把握していないため、会社側が産業医意見・本人面談・業務実態を総合して判断する責任を持ちます。この前提を管理職が理解していないと、「治ったはずなのにミスが多い」という誤った期待値でプレッシャーをかけてしまいます。
指導と記録を同時に進める。記録の目的と残し方の基本
記録は本人を監視するためのツールではなく、会社と本人の両方を守るための実務文書です。記録がなければ、後から「そんな指導は受けていない」「適切なサポートがなかった」と言われたとき、会社側は何も立証できません。
記録に書くべき内容・書いてはいけない内容
面談記録・指導記録に記載すべき項目は、日時・場所・出席者・業務上のミスの具体的な内容・本人の発言・会社が行った対応措置(業務調整の内容・次回面談の日程など)です。一方で、「やる気がない」「態度が悪い」といった主観的評価は記録に残してはいけません。観察できる事実のみを記載することが、後のトラブル時に記録の信頼性を担保します。
面談記録の様式イメージ
専用ツールがなくても、以下の項目をWord・Excelで管理するだけで十分機能します。
| 記載項目 | 記載例 |
|---|---|
| 実施日時・場所 | 〇年〇月〇日 10:00〜10:30 会議室A |
| 出席者 | 本人・上長氏名 |
| 業務状況の確認 | 〇〇業務で入力ミスが3件(具体的な内容を記載) |
| 本人の発言・状態 | 「集中できていない」と本人から発言あり。表情は落ち着いていた |
| 会社の対応・合意事項 | 当面は〇〇業務を外し、〇〇業務に集中。2週間後に再確認 |
| 次回面談予定 | 〇年〇月〇日 |
面談の頻度はどのくらいが適切か
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、復職後フォローアップとして定期的な面談実施と記録保管を明示しています。目安として、復職直後は週1回程度、状態が安定してきたら隔週・月1回と段階的に間隔を空けていくのが実務的です。ミスが増えている時期は間隔を縮める判断も必要です。
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安全配慮義務違反にならないためのチェックポイント
安全配慮義務違反のリスクを下げるために必要なのは、「やるべきことをやった」という記録を積み上げることです。以下の項目を確認してください。
対応の有無を確認するチェックリスト
- 復職時に業務内容・量・目標を本人と書面で合意しているか
- 定期的な面談(頻度・内容)を記録しているか
- ミス発生時に原因確認と業務調整を行い、それを記録しているか
- 不調のサインが見られたとき、産業医や外部専門家に相談しているか
- 就業規則・復職規程に段階的復帰の条件が明記されているか
- 上長一人に対応を集中させず、人事・経営者と情報共有しているか
従業員数による対応の分岐
産業医の選任義務は労働安全衛生法第13条により従業員50名以上の事業場に課されています。50名未満の企業では選任義務がないため、地域の産業保健総合支援センター(産保センター)の無料相談や、顧問契約できる外部産業医・EAPサービスを活用することが現実的な選択肢です。産業医がいない場合でも、主治医への情報提供同意書を本人から取得し、主治医と文書でやり取りする方法で専門的意見を記録に残すことができます。
判断に迷うときは、外部の専門家を巻き込む早期相談が、結果として最もリスクを軽減します。
就業規則が整備されていない場合のリスク
復職後の試し勤務・業務軽減期間・再休職の条件が就業規則に定められていないと、処遇変更の根拠を説明できず、本人とのトラブルに発展しやすくなります。規程の整備が追いついていない場合は、当座の対応として「復職支援計画書」を本人と合意のうえ作成し、双方が署名した文書として保管することで一定のリスクを軽減できます。
管理職が一人で抱えないための情報共有と役割分担
専任人事がいない中小企業では、上長が面談・記録・業務調整・本人フォローをすべて担い、管理職自身が疲弊するケースが頻発します。対応品質を維持するには、情報の共有と役割の分散が不可欠です。
経営者・人事担当者との情報連携
面談記録は上長のデスクにとどめず、経営者や兼務人事担当者と共有し、組織として状況を把握する体制を作ります。「本人のプライバシーがあるから共有しにくい」という意識もありますが、業務上の配慮に必要な範囲での情報共有は適法であり、むしろ共有しないことで対応の遅れや判断ミスが生じるリスクのほうが高まります。
「いつ通常業務に戻るのか」のゴール設定
業務軽減がいつまでも続くとチームへの負担が蓄積し、本人も「いつまで特別扱いされるのか」という不安を抱えます。復職時点で、「〇ヶ月後にこの業務ができる状態を目指す」という段階的なゴールを設定し、定期面談でその進捗を確認することが重要です。ゴールの設定は本人と合意したうえで復職支援計画書に明記し、状態によって柔軟に見直す運用が望ましいです。
管理職自身のSOSを見逃さない
復職者の対応を長期間一人で担う管理職が、精神的に追い詰められるケースがあります。管理職自身が「自分は大丈夫か」と振り返る機会を定期的に設け、経営者や人事担当者が上長の負担を把握する仕組みを作ることが、組織全体の健全性を保ちます。
産業医・外部専門家との連携で判断を一人で抱えない
復職後の対応で迷ったとき、「専門家に聞く」という選択肢を早めに使うことが、結果として最もリスクを下げます。
産業医がいない場合の代替手段
従業員50名未満で産業医がいない場合、各都道府県の産業保健総合支援センターでは、企業の産業保健相談を無料で受け付けています。また、地域の産業医に非常勤・スポット契約で相談する方法や、EAP(従業員支援プログラム)サービスを通じてカウンセラー・産業医の意見を得る方法も有効です。
主治医との連携で記録に専門的根拠を持たせる
本人の同意を書面で取得した上で主治医に情報提供を求めると、「現在の就労上の制限事項」「悪化サインとして注意すべき状態」などの情報を得られる場合があります。この情報を面談記録や業務調整の根拠として記録しておくことで、後から「なぜその判断をしたのか」を説明できる記録が残ります。
まとめ
復職後のミス多発場面で管理職が知っておくべきことを整理すると、まず「適正な業務指導は安全配慮義務と矛盾しない」という基本認識を持つことが出発点です。次に、面談・指導・業務調整を行うたびに事実ベースの記録を残すことが、会社と本人の両方を守ります。そして、産業医や外部の専門家を早めに巻き込み、判断を一人で抱え込まない体制を作ることが、長期的なリスク管理の核心です。
人事対応を一人で判断しきれない状況は、多くの成長企業が直面する課題です。「記録の残し方がわかりにくい」「どこまで指導していいか判断できない」「再休職を迎えようとしていてどう動けばいいかわからない」——そのような状況でお困りの場合は、ウェルセンス株式会社にご相談ください。復職支援・人事労務の実務に精通した専門家が、御社の規模・状況に合わせた具体的なサポートをご提案します。
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